28.22歳の誕生日を迎えて
さて、僕らの新しい商売である、レストラン&プラント小惑星パッケージを販売する商法は。
じりじりと、時流に乗り始めた。
そうなんだ、あの、農園と外食店の着いた資源小惑星のオーナーになって、半自給自足の地盤を持てると言う事は。
僕らの思っている以上に、客層の心を惹きつけるモノだったらしい。
考えてみれば、自分の手元足元で食料と料理の自給自足ができると言う事は、ある意味、惑星や星系単位の凶作時にも自分達の食べ物を確保できることにつながる。
まあ、それに。自立意識の高い人々には、自前でやれる領域が広いほど、自立に近づいていると言う事にもなる。
そういうわけで、僕らが始めたこの商法はなかなかの成果を上げ、僕らの富がさらに膨らみ始めた。
もちろん、二番煎じ三番煎じの形で、同じ商法を展開してくる競合他社もいたけど、そこは経験のアドバンテージがカバーしてくれて。僕らの『ユハナス宇宙商団』という会社は、ここら辺の星系の不動産や外食店、それに農耕の業界では一目置かれるようになっていたんだ。
そんなこんなで、忙しい毎日。そんなある日に、僕が22歳の誕生日を迎えると。
「普通の学生でしたら。ちょうど四年制大学を卒業する歳ですね、ユハナス様」
イデスちゃんがそう言ってから、今日は仕事は休日にしようと言い出して。
何やらキッチンで大がかりな料理を始めた。
「大学かぁ……。僕が普通に。ユヴェンハザ家の産まれじゃなかったら、そう言う道も歩んでいたかもなぁ……」
なにやら、僕の誕生祝いということで。マティアさんとルーニンさんは宇宙船内のテーブルルームに色紙で作った装飾を飾り付け。
シオンさんは近隣惑星から買ってきたというたっかいお酒の瓶をもって。もう開封して、ちょっと舐めながらテイスティングとか言っていて。
レウペウさんは、イデスちゃんと一緒に僕の誕生祝いの料理を作ってくれている。
「ターキーを焼きましたよ、七面鳥です。それから……、うふふ。後で見せますね、私の力作も出番を待っていますから♪」
イデスちゃんが、何かを含んだ言いぶりでそう言う。
「ニール君? 何やってるの?」
僕は、準備が整うまで待っていろと言われたので。床に座って何かをこねくり回しているニール君に聞いた。
「ドラゴン……。作ってるの」
ニール君はド真面目な表情で、何かをこねている。どうやら粘土のようだ。
「ドラゴン? 好きなの?」
「好きっていうか……。持っている役割が重いから……」
「役割って? ドラゴンって、空想上のモンスターだよね?」
「空想には必ず……。意味が」
ぽつぽつぎこちないながらも。何かいろいろ話してくれるニール君。
「ユハナスお兄ちゃん……。魔法……って、あると……思う?」
話が進むと、ニール君はそんな話を始めた。
「魔法、かぁ……。無くはないかもね。シオンさんだって、神聖術を使う事もあるから」
僕がそう答えると。ニール君は珍しくニコっと笑った。
「ユハナスさんは……。柔らかい人だから……」
ニール君はそう言って。僕にギュッと抱き着いてきた。
「大昔ね……。魔法が栄えた世界があったんだ……。でも、その世界は。人々の慢心で滅んじゃった……。でも、魔法は……。魔力の血は、途絶えていないんだ……」
「ん? なに、ニール君? それ何の話?」
「んーん。何でもないんだ……。言いたいだけだから、聞き流して。ユハナスお兄ちゃん……」
ニール君は、そういうと。口をぴったりと閉じて、何も言わなくなってしまった。
魔法、か。
いまの、科学の武器によって開拓されている宇宙で。
魔法が幅を利かせている星系はあるのかな?
僕はなぜか、その魔法の話をしていた時のニール君の瞳に、懐かしさのような想いを感じている自分に気が付いた。
だからといって、何かが変わるわけではないんだけどね。
……そう思っていたんだ、この時は。
* * *
「我らがユハナス宇宙商団長!! おったんじょーび、おっめでとぉー!!」
こういう時に真っ先に弾けるのは。
まあ間違いなくマティアさんで、彼女がクラッカーの号砲を引くと、残りのみんなもクラッカーを鳴らして僕の誕生日を祝ってくれた。
「おめでとう、ユハナス君。私たちも長いわねぇ。もう7年の付き合いよ?」
何というかシオンさんがそう言うけど。七年間の密度が濃すぎて、僕は長かったという感想は持っていなかったが。そうか……、僕が宇宙に一人で出て。もう七年かぁ。
「ユハナス。俺は君に感謝しているぞ。海賊という犯罪集団の中でしか生きられなかった俺を、真っ当な世界の住人にしてくれたのはユハナス、君だ。これからも、君の為なら俺は助力を惜しまん」
レウペウさんは、力むことなく和んだ様子で。そんな事を言ってくれた。
「ねえ~。ユハナス君~。わたし、最近楽しいよ~? 色んな小惑星で~ね~? 畑作りして、それが評価されて~。私みたいなどんくさいのが、みんなの役に立てているって~。すごく幸せなんだ~。ぐすっ」
あらら。昔は父親に酷使されて、毎日のように無能無能と罵られていたというルーニンさんが。正当な評価を受けている今が、夢のようだと少し涙ぐんでいる。
「ユハナス様。皆が、自分で生きるための力をしっかりとつけてきていますし、それをまとめている貴方も、統率力という力、魅力という力。そう言ったものの成長を遂げています。これから先も良い感じでやっていきましょう。そう、決して、人として生きていて、不幸にはならないように」
イデスちゃんがそんな事を言った。
そうだね、人として不幸な人間が。人を幸せにできるわけがない。
不幸な人を軽んじるわけではないけど、不幸な人を救い上げるには、救い手が幸せである必要がある。
僕の思う、お金と富はそう言うものだ。
飢えや病、心の貧困。そう言ったものに効くのは、何と言っても。即物的と呼ばれようが、食料であったり、医療であったり。更には、金銭を使うことによって手に入るいい環境なんだから。
僕は、富をまだ積むことにする。
しかし、それが貪る為であっては、とても格好が悪い。
いつか、いざという時。僕の力が必要とされたときに。
僕は金銭と富という力を使って、世を少し幸せにできる力を持っていたい。
今の僕には、大義も正義もないけど、それに近いものがあるとすれば。
みんなを幸せにできる力が欲しい。そう言う思いなんだ。
と、独り言ちていると、イデスちゃんが声を上げた。
「あ、忘れていました!! これを食べましょう!! 私が焼いた、苺ケーキです!! 大きなホールで作りましたから、皆さんいっぱい食べてくださいね!!」
そう言ってイデスちゃんが出してきた苺ケーキは、ホントに大きなサイズのホールケーキだった!!




