89.BAR【プラチナ】:魔力の共鳴と結界破壊
ブラックボックスの街を支える電源と情報系統が集中するBAR【プラチナ】の奥の部屋。
トリトスは瞑想するように座り、カウンターに置かれた水に指先を浸していた。
その瞳は閉ざされているが、顔には微かに紫色の鱗が浮かび上がり、魔力の解放が始まっていることを示す。
「…ローズ、地下の魔力ノイズの波長を。」
トリトスは低く、静かな声で指示した。
ローズは隣のテーブルで、複数のモニターと電子機器を操作していた。
薄緑のロングヘアーが、モニターの青い光を反射している。
「解析完了。ノイズの波長は、三次元的な障壁ではなく、次元の狭間を一時的に固定する結界よ。
物理的な破壊は困難、魔力でしか崩せない。」
ローズは即座に情報を伝えた。
「イーグルたちの突入ルートの真上に、最も強力な防御結界が確認できる。彼らが気づいていない可能性が高いわ。」
「防御結界ではない。あれは、『次元の壁』を薄くするための錨だ。異界の存在を恒久的にこの世界へ呼び込もうとしている。」
トリトスは答えた。彼の指先から、水へと紫色の魔力が流れ込み、グラスの中の水が微かに波打ち始めた。
トリトスは自身の魔力を、街のシステムに流れる微弱な魔力的なエネルギーと共鳴させ始めた。
これはアリエルが「調律師」として管理するシステムだからこそ可能な芸当だった。
カウンターで静かにグラスを磨いていたアリエルが、顔を上げた。
「トリトス、無理をするな。街のシステムを媒介すれば、反動が大きい。
最悪、このBARの防御システムが暴走する。」
アリエルの声には、いつになく心配が滲んでいた。
「構わぬ。世界の安寧は、我の最も重い『ツケ』。今ここで次元の歪みを放置すれば、未来のツケは無限大となる。」
トリトスは一気に魔力を解放した。
ガツン!
BAR【プラチナ】全体が激しく揺れた。
壁に飾られた酒瓶がガタガタと音を立て、天井のジャズのスピーカーからノイズ音が混じる。
トリトスの顔には鱗が広がり、緑色の瞳が激しく光を放った。
「システムが…一時的に制御を外れる!アリエル、外部からの攻撃に備えて!」
ローズが叫ぶ。
「任せろ!」アリエルは即座にカウンター下のパネルを操作し、BARの外壁に広域警戒センサーと魔力鎮静化の結界を展開した。
そして、トリトスの放った純粋な魔力の奔流は、街の地下システムを伝って、旧市庁舎の最深部へと達した。
旧市庁舎の地下通路。イーグルとハンターは、硬質のコウモリ型眷属の群れをライフルと聖銀のショットガンで薙ぎ倒していた。
「チッ、キリがねぇ!弾薬が持たねぇぞ!」
イーグルはライフルを乱射しながら叫ぶ。
その時、二人の上を覆うように存在していた、重苦しい空気と魔力の圧が、一瞬で霧散した。
ゴオオオオオ!!
目に見えない巨大な力が、地下の天井を突き抜けていったかのような轟音と、それに伴う魔力の残響が辺りを満たした。
ハンターは目を見開き、信じられない様子で天井を見上げた。
「な、何だ…結界が…消えただと?」
イーグルはライフルを構えたまま、口元を吊り上げた。
「チッ、流石は魔王様。最高の援護射撃だ。」
防御結界が破壊されたことで、通路の奥で魔力を濃縮していたグレイパレスの魔術師たちが動揺している気配を、二人は感じ取った。
「今だ、ハンター!道は開いたぞ!」
イーグルはスタンガンを捨て、ライフルをオートで連射しながら、一気に通路の奥へ突入した。
その脇を、ハンターが聖銀のショットガンを構え、トリトスへの不信を一時的に棚上げして追走する。
通路の奥には、ローブを纏った数人のバンパイア魔術師たちが、巨大な祭壇を取り囲んでいた。
祭壇の中央には、紫色の光を放つ古の力が封じられているであろう四角いキューブが浮遊し、その下には次元の壁に開いた小さな亀裂が見える。
魔術師たちは防御結界の崩壊に驚き、イーグルたちへの対処が遅れた。
「システムを掌握する前に、科学の暴力で黙らせる!」
イーグルはライフルを捨て、コートから取り出した最後のハイテク装備、EMPグレネードを祭壇の中央に向かって投擲した。
閃光と、全てを麻痺させる電子パルス!
祭壇、魔術師、そして四角いキューブが一瞬でEMPの衝撃にさらされた。




