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43.規格外のバーテンダー

トリトスは、バーテンダーの服装に変身した直後から、アリエルが教えるカクテルレシピを即座にマスターした。

彼の「知識」スキルは、材料の産地、蒸留方法、熟成年数といった膨大な情報を一瞬で把握し、

「分別」スキルは、それらの要素を「最高の組み合わせ」へと分類・統合し始めました。

「アリエルよ、貴様のレシピは『雑兵』級だ」

トリトスは、マティーニを作っているアリエルに、何の悪気もなく言い放った。

「はぁ? 雑兵だと? 何言ってんだ、お客さんから評判のレシピだぞ!」

アリエルは苛立ちを露わにした。

トリトスは、グラスを指でなぞりながら淡々と説明した。

「このジンは『統率』が取れていない。

ジュニパーベリーの概念が、その他のスパイスを支配しきれておらず、『求心力』に欠ける。

この組み合わせでは、グラスの中で『内乱』が起きている。

我の分別によれば、『精鋭』のジンは他に存在する」

トリトスはカウンターの奥から一本の古めかしいジンを取り出した。

それはアリエルが「高すぎて開けられない」と仕舞い込んでいた、ヴィンテージのジン。

「これを、氷温まで冷却したグラスに注ぐ。そして、ドライベルモットは『概念』だけを抽出して、この空間に『配置』する」

トリトスが指を鳴らすと、ベルモットのボトルは開いていないにも関わらず、その香りの微粒子だけがグラスの周囲を周回し、ジンと接触しました。

それは、カクテルの「概念」そのものを具現化した、「完璧な一杯」だった。


その夜、BARプラチナに疲れたサラリーマン風の男性客が入ってきた。

彼はいつものように「バーボンをロックで」と注文した。

アリエルはバーボンを注ごうとするが、トリトスが遮る。

「待て。貴様は『精鋭』ではない」

客はギョッとしてトリトスを見上げた。

イーグルもアリエルも青ざめた。また解雇か、と。

「おい、トリトス! 何してんだ!」アリエルが小声で怒鳴った。

トリトスは客の目を見つめ、静かに言った。

「貴様の疲労は、単なる肉体的なものではない。『魂の砂漠化』が起きている。

貴様の魂が求めているのは、バーボンという『統率者』ではなく、『癒しという概念』だ。

我が『知識』によれば、貴様に必要なのはこれだ」

トリトスは棚から、ハーブと柑橘系のリキュールを取り出し、透明な水で割った。

そのリキュールは、飲む者を穏やかな眠りに誘う、と古文書に記されていた「古代の癒しの酒」。


客は恐る恐るそれを一口飲む。

次の瞬間、彼の目から涙が溢れ出した。

「あ、ああ…身体中の毒が抜けていくようだ…。なぜ、私の求めるものが分かったのだ…」

トリトスは無表情に答えた。

「我は、貴様を『癒しを求める精鋭』として分別した。

その対価だ。『有害な魂の疲労』を処分して、棚の衛生を保て」

客は感激のあまり、通常料金の数倍のチップを置いて帰った。

イーグルはカウンターの椅子から崩れ落ち、アリエルは顔を引きつらせたままトリトスを睨みつけた。

「な、な、な…なんだ、あれは!?

魔法のバーテンダーか!?」

「魔王の『知識』と『分別』は、ホワイトな現場ではブラックになるが、ブラックな現場…つまり『夜の世界』では、『神』になるのかもしれんぞ、アリエル」

イーグルは震える声で言った。


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