42.古書店の「分別」:文字を殺して四度目の解雇
イーグルが次にトリトスを送り込んだのは、スラムから離れた区画にある、古めかしい古書店「知恵の泉」。
「今回は完璧だ、トリトス。『古代文字の解読』を、『歴史的文献の翻訳と目録作成』という、究極のホワイトスキルとして売り込んだ。
相手は本だ。本に精神攻撃も毒も効くはずがねぇ。頼むから、誰も、何も傷つけるなよ!」
トリトスは「分かった。知の集積を扱うのは我の趣味だ」と、いつになく真面目な顔で頷きました。
古書店「知恵の泉」は、店主の老人が一人で営む静かな店。
トリトスは、店主が長年手を付けられずにいた、埃まみれの古代文献の山を任された。
トリトスの「古代文字の解読」スキルは本物だった。
彼はこの世界の学者が数年かかっても解読できない異界の文字や、失われた言語のルーツを一瞬で理解した。
しかし、その圧倒的な解読スピードと知識は、彼の「分別」の思考を再び暴走させた。
トリトスは、解読を終えるたびに、その本の内容を「精鋭」か「雑兵」、あるいは「有害廃棄物」に分類し始めた。
ある日、店主がトリトスの作業を覗き込んだ。
トリトスは貴重な「中世哲学大全」のページの隅に、異界の文字で何かを書き込んでいた。
「トリトス君、一体何をしているんだね? その本は貴重な…」
トリトスは、店主に見向きもせず、淡々と言い放った。
「この本は『知識の有害廃棄物』だ。
内容は時代遅れで、論理は破綻し、読み手を誤った方向に導く。
我の『分別』により、その『概念』を無価値なものと定めた」
トリトスは、さらに恐ろしい行動に出た。
彼はその本を指でなぞると、書かれた文字が光を失い、消えていくという現象を起こした。
それは、文字の概念そのものを消し去る、魔王の異界魔法だった。
「この世で最も危険なものは、間違った知識だ。
我は、この本から『誤った知の魂』を分別し、処分した。これで棚の衛生が保たれる」
店主は腰を抜かした。
トリトスがその古書店の魂とも言える「文字」を、「概念の廃棄物」として処理している現場を見た。
トリトスは、再びBARプラチナのカウンターに座った。
イーグルはすでに疲労困憊の顔で、タバコの煙をゆっくりと吐き出した。
「…今回は、何をしたんだ」
「古書店の『有害な概念』だ。
我は、誤った知識が詰まった本を、数冊ほど文字ごと無価値化した。
店主は、なぜか大変動揺し、我に賃金を支払うことなく、すぐに店から立ち去れと言った」
ドスン!
イーグルは、カウンターから椅子ごと床にひっくり返った。
アリエルは、もはやグラスを落とす気力もなく、ぼんやりとトリトスを見ていた。
「な、な、な…文字を消しただと!? 本を?
お前、概念を殺すなよ! 本屋で! それはもう、『古書店の魔王』じゃねぇか! 何も傷つけないはずの『知』の現場で、お前は『無知』という名の死体を生み出したのか!」
イーグルは立ち上がり、残りのスキルリストを破り捨てたい衝動に駆られた。
「もう分かった。お前のスキルは、全て強すぎる。この世界のホワイトな基準には、お前の『分別』と『統率』と『知識』は、あまりにも『過剰』なんだ」
イーグルは、トリトスの名刺を手に取り、裏側を何度も見つめました。
そして、顔には諦めと、どこか楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「…魔王、お前のスキルは、『ホワイト』な場所じゃ、全て『ブラック』になる。
…なら、もう『ホワイト』を目指すのはやめだ」
イーグルは、タバコを深く吸い込み、紫色の魔王に紫煙を吹きかけた。
「……、もういっそアリエルがこいつを雇うのはどうだ?」
アリエルはグラスを拭く手を止め答えた。
「……クックッ、冗談キツいぜ。」
トリトスはアリエルを見つめると答える。
「我がバーテンダーか……。ありかもしれんな。」
アリエルは冷や汗をかきつつ、イーグルのグラスにバーボンを注ぐ。
アリエルはため息を付き答えた。
「アルバイトだぞ……!いいな、問題は起こすなよ!俺達の組織にも連絡しないとな……。視察に誰か来るかもしれん。」
トリトスは自分の状況を理解し話す。
「よかろう。我は今からアリエルの部下だ。
服は貴様と同じでいいだろう。」
トリトスは指を鳴らすと、トリトスの足元からツタが這い出て身体に巻き付く。
僅かな時間でツタは枯れると、トリトスはアリエルと同じバーテンダーの服装になっていた。
「店の床に穴あけるんじゃねぇ!」
アリエルは激怒し、トリトスに殴り掛かる。
トリトスはサッと躱し「まぁ、落ち着け」と言うと再び指を鳴らす。
いつの間にか床の穴は消えていた。




