41.恐怖の「交渉術」:債権回収会社で三度目の解雇
イーグルは、トリトスの「交渉術」と「統率力」を活かせる職場として、最もタフで「死人が出ない」はずの業界を選んだ。
「いいか、トリトス。
次は『債権回収コンサルティング会社—ブルーストーン』だ。
お前の『交渉術』は、『困難なディールを達成する強い意志』として売り込んだ。
相手を威圧するのは得意だろうが、絶対に物理的な手出しはするな!」
トリトスは角を揺らし、
「分かった。言葉のみで、相手の『欲望』と『恐怖』を操ろう」と答えた。
トリトスは「ブルーストーン」社の特別交渉人として採用された。
最初の仕事は、手の込んだ言い訳と逃げ足の速さで有名な、悪質な債務者から金を回収すること。
ターゲットの債務者、キッドは、スラムの隠れ家でトリトスを迎えた。
キッドは、ベテランの取り立て屋を何人も追い返した実績があり、テーブルには契約書と共に、いかにも場慣れした余裕が漂っていた。
「で? あんたが新しい取立人か? 見たこともねぇ顔だな。
悪いが、今日は生憎持ち合わせがねぇんだ。
交渉はまた来週にしてくれねぇか?」
キッドがそう言ってタバコに火をつけようとした瞬間、トリトスは口を開いた。
彼の声は低いが、BARプラチナの薄暗い光の下とは比べ物にならないほど、重く響く。
「キッドよ。貴様の『欲望』は何だ?
我の世界では、配下の『欲望』を知るのが、交渉の第一歩だ」
「は? 欲望だと? 金が欲しいに決まってんだろ!」
キッドが嘲笑したとき、トリトスの目が緑色に鋭く光る。
「違う。貴様の真の欲望は『生存』だ。
貴様は我が来るのを恐れていた。
契約書にあるのは『支払い義務』ではない。貴様の『生贄リスト』だ」
トリトスは、一切物理的な接触をせず、ただその場に立ち、キッドの最も深い『恐怖』を言葉だけでえぐり出した。
「我は、貴様が『支払いから逃げ続ける未来』を、『死体』として見せよう。
貴様の家族がどうなるか、貴様自身がどう腐敗するか、貴様の魂が我の世界でどう『分別』されるか……。
さあ、貴様の『士気の維持』のために、今、何をすべきか」
トリトスは、人間相手に「世界征服の尖兵」を統率するのと同じ、絶対的な恐怖と支配の交渉術を使った。
キッドは、テーブルの上のタバコを落とし、顔面は蒼白になった。
彼は震えながら、隠し持っていた全財産をトリトスに差し出し、
「もう二度と返済を遅らせない、この世界のゴミでも何でもするから命だけは…」と泣き崩れた。
債務者のキッドはその日以来、トリトスが目の前にいる幻覚に苛まれ続け、精神を病んだ。
債務は完済されたものの、交渉相手を社会的に再起不能にするという結果は、流石に「ホワイトな職場」としては許容されなかった。
その夜、BARプラチナ。
「…三度目だ、魔王様」
イーグルはカウンターに頭を打ちつけながら、疲れた声で言いました。
「債務は完済したぞ。我の『交渉術』の成果だ」
「成果じゃねぇ! 相手を精神崩壊させたら、二度と客として使えねぇだろうが!
『ホワイトな交渉』ってのは、相手の気持ちを動かして金を払わせるもんだ!
『死後の分別』の恐怖で震えさせる交渉じゃねぇ!」
トリトスは納得がいかなかった。
「しかし、我は最も効率的かつ迅速に目的を達成した。配下…いや、債務者の『士気』は、我が去った後も永続的に維持されるだろう」
イーグルは、名刺の裏に書かれた最後のスキルを見ました。残るは、「古代文字の解読」だけ。
「もういい。わかった。
お前のスキルは全て、人間には強すぎる。
フィジカルも、ケミカルも、メンタルも、全部ダメだ。
残るは、死んだ文字だけだ。
これなら、流石に誰も殺さねぇだろ」
イーグルは、最後の望みを託すように、次の転職先を告げた。




