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39. ダレスの分別

BARプラチナでの依頼から数日後。

トリトスは「エメラルド・リサイクル」の現場に立っていた。

廃工場を買い取ったという現場は、悪臭と埃、そして常に機械の唸りが響く地獄のような場所だった。

現場責任者のダレスは噂に違わぬ巨体の男で、トリトスを見るなり鼻で笑った。

「テメェが、『優秀な人材』ってやつか?

ヒョロいな。せいぜい今日一日、ゴミに埋もれて泣き出さねぇようにな」

ダレスはトリトスを、最も過酷な「毒物・危険物分別ライン」に配置した。

そこは、人間が扱うには危険すぎる、文字通りブラックボックスの最も汚い部分を扱う場所だった。

トリトスは数時間、与えられた防護服を着て、指示通りにゴミを分別し続けた。

しかし、現場の雰囲気は劣悪だった。

作業員の士気は地に落ち、ダレスは少しでも動きが止まった人間を怒鳴りつけ、ひどい言葉を浴びせ続けた。

トリトスは冷静に観察した。

(これは統率ではない。これはただの恐怖による短期的な支配だ。

長期的なパフォーマンスの低下、離職率の高さ、そして何より、このダレスという個体こそが、この組織の最大の『毒』だ)

午後を過ぎ、トリトスが作業場で古びた腐食性の薬品の入った缶を見つけた時、事件は起こった。

「おい、トリトス! そのクソみたいな缶はそっちじゃねぇ! 鉄屑ラインだ! 目ぇついてんのか、この無能!」

ダレスがトリトスの背後に近づき、怒鳴りつけた。トリトスはゆっくりと振り返り、鋭い眼光でダレスを見た。

「ダレスよ。貴様は、我の『分別』の定義から外れる」

「あぁ? なんだテメェ、まだ口答えする余裕があんのか!」

ダレスはトリトスの胸倉を掴もうと巨大な手を伸ばした。

ズシャアッ!

その瞬間、トリトスは手に持っていた腐食性の缶を、ダレスの顔面目掛けて正確に投げつけた。

「分別完了。この組織の腐敗の原因は、貴様という『有害廃棄物』だ」

ダレスは悲鳴を上げる間もなく、強力な腐食性の液体を浴びて倒れ込んだ。

現場は騒然となり、トリトスは一切動じることなく、その場を離れた。

静かなBARプラチナ。アリエルは手に持ったグラスを丁寧に磨き、イーグルはカウンターでタバコを吹かしていた。

やがて、トリトスがふたたびBARの扉を開けた。

「魔王様、お帰り」

イーグルはカウンターに落ちたタバコの灰を払い、ニヤリと笑った。

「…で? 『エメラルド・リサイクル』での初仕事はどうだった?」

トリトスは席に座ると、平然とした様子で答えた。

「採用はされなかった。

腐敗した管理者ダレスを、現場の健康を害する『有害廃棄物』として処分したところ、すぐに連絡が来てな。クビだそうだ」

ガチャン!

アリエルが磨いていたグラスを、またしてもカウンターに落とした。

イーグルは笑いを堪えるように口元をひくつかせ、深い紫煙を吐き出した。

「ハッ! やりやがったか、テメェ。

俺は『一日生き残れれば』って言っただろうが! 『現場の責任者を消してこい』とは言ってねぇ!」

「残念だ。我の『統率と士気の維持』の経験から、彼は真っ先に排除すべき害悪だと判断したのだが。あの程度の分別も許されぬとは、この世界のホワイトな職場は難しいな」

トリトスは肩をすくめた。

イーグルは頭を掻き、笑いながら言った。

「わかった、わかったよ、魔王様。お前の『分別』は完璧だが、雇用契約の分別は最悪だ。二度と現場の人間を『廃棄物』として扱うな」

イーグルは、トリトスの残りのスキルリストを眺め、新しい戦略を立て直すことにしました。

「…次は、『魔法薬の調合』スキルを生かせる場所だ。

そっちは人命に関わるが、少なくとも現場責任者をゴミと間違えることはないだろ」

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