38.魔王のスキルを履歴書に
トリトスの異世界スキルを聞いたイーグルは、そのリストを指でなぞりながら、この世界の求人に当てはめられるか考えます。
「『魔法』に『錬金術』、『魔法薬の調合』ね。…まあ、ブラックボックスみたいな街じゃあ、そっち系の裏稼業や怪しい研究者なら引く手あまただろうが、『ホワイトな職業』ってのがお前の希望だろ? 正直、足洗った元締めとか、薬の売人崩れにしか見えねぇな。」
イーグルはそう言ってタバコの煙を天井に吐き出しました。
「『配下の統率と士気の維持』は? これはマネジメントってヤツだ。
会社で部下をまとめたり、チームのやる気を引き出すのは結構使えるスキルじゃねーか。
まあ、お前の場合、『配下』ってのが魔物だろーが、人間相手にも応用できるのか?」
トリトスは誇らしげに胸を張りました。
「無論だ。
恐怖で支配するだけでは、真の統率は成し得ない。配下の才能を見抜き、適切な配置を与え、彼らの『欲望』を満たす報酬を与えることで、彼らは自ら進んで世界征服の尖兵となった。
企業理念の浸透と、福利厚生には力を入れていたぞ。」
イーグルは目を見開いて、思わずカウンターを叩いた。
「なんだそれ! 超一流のコンサルタントか、ブラック企業の鬼社長みてぇなスキルじゃねーか!
履歴書にはそう書け。『組織におけるモチベーション管理と戦略的人材配置の経験、〇〇年』ってな!」
イーグルは、魔王の「交渉術」や「古代文字の解読」といったスキルもホワイトな職業に活かせる可能性を見出しつつ、まずは魔王をこの街の表社会の職場にねじ込むための戦略を立て始めます。
「わかった。お前の経歴はぶっ飛んでいるが、スキルを『翻訳』すれば使えないこともねぇ。
問題は、お前を雇う度胸のある企業がどこかってことだ。」
イーグルは、トリトスの名刺の裏にペンを走らせ、いくつか候補を挙げました。
高レベルセキュリティ会社: 「『魔法』を特異な防犯・護身術として売り込む。古代文字は、企業の秘密文書の解読にでも使うんだ。」
大手製薬・研究機関: 「『錬金術』と『魔法薬の調合』は、未確認物質の研究や新薬開発に化ける。ただし、あんまり変なもん作ったら即通報だがな。」
総合商社(海外戦略部門): 「『交渉術』と『統率力』は、海外の難関な取引先とのディールに。『世界征服の経験』を『困難な目標を必ず達成する強い意志』と言い換えろ。」
イーグルは、トリトスに一番最初に面接に行かせる企業の名前を告げます。
「手始めに、一番面接が楽そうなところからいくぞ。スラムの奥にある、あの『曰くつきの廃工場を買い取った、新しいゴミ処理・リサイクル企業』だ。
人手不足で、変な経歴のヤツでも雇うって噂だ。
まずはそこで、お前の『統率力』とやらを見せてもらおうか。」
トリトスは立ち上がり、角を揺らして微笑みました。
「ふむ、ゴミか。世界征服を前に、まずは世界のゴミを片付けろ、ということか。
よかろう。我のセカンドキャリアは、そこから始めるとしよう。」
「で、トリトスさんよ。まずは『現場』からだ」
イーグルは、カウンターに置いてあったくたびれた地図を広げ、スラムの北外れを指差しました。
「あそこの廃工場を買い取った『エメラルド・リサイクル』って会社がある。
この街のゴミを集めて、使えるもんと使えないもんに仕分けする、いわば『分別専門』の企業だ。
まともな人間はすぐに辞める、ブラックボックスでもトップクラスのブラックな職場だ。最初はブラック企業を経験させる。」
トリトスは興味深そうに地図を覗き込みました。
「ほう。『分別』か。我の配下にも、『雑兵』と『精鋭』の分別は怠らなかった。
適材適所は統率の基本だ。」
「そういうこった。面接はただの形だけ。
現場の責任者──『ダレス』と呼ばれているデカいオッサンに顔を見せれば採用されるだろう。
ただし、一日働いて生き残れればの話だがな。」




