表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/123

37.魔王、異世界で就職活動

欲望と金の街ブラックボックス。そんな街の郊外のスラムにあるBARプラチナ。バーテンダーのアリエルがグラスを磨き、カウンターにはイーグルがタバコを吸って入り浸っている。静かなBARには穏やかなJAZZが流れている。そんな穏やかな雰囲気を破る様に、BARの扉が開いた。

「いらっしゃい。」

アリエルがぶっきらぼうに言うと、扉を開けたのは一人の男性客だった。男性はカウンターに座るとイーグルに話しかけた。

「アンタがイーグルか? 依頼がある。我の就職先を見つけてほしい。」

男はそう言うと、顔面の皮膚を自分の手で勢いよく剥いだ。

「……、は?」

バリン!

イーグルは咥えていたタバコをカウンターに落とした。

アリエルも硬直したままグラスを落とした。

皮膚を剥いだ男性は、また別の顔を覗かせた。

紫色の肌に頭には角が2本、青色の髪をなびかせ目は緑色に光っている。

「我はこういうものだ。」

男性は持っていたカバンから名刺を出すと、イーグルとアリエルに差し出した。

「異界の魔王、トリトス」

イーグルが名刺を読むと、トリトスはこれまでの経緯を話し始めた。

「我は異界の魔王をやっているのだが、働いた事がない。

そこで、色々調べてみて『就職活動』なるものを見つけてな。

我の世界で就職して、万が一他の物に見つかったら気恥ずかしくてな……。

なので、世界を飛び越えこの地にやって来たのだが、いかんせん就職先が見つからずほとほと困っていたのだ。

そうしたら、『何でも屋』の情報を手に入れてな。ここに来た。」

イーグルは、名刺とその名刺を持ってきた男、いや、魔王トリトスの顔を交互に見た。

彼の口元がひくつく。

「…ちょ、待て。何でも屋ったって、魔王の就職先なんざ引き受けられるかって話だろが。

そもそもお前、さっきまで普通の男のフリしてたよな?

その皮、なんなんだ? マジもんの化けもんじゃねーか!」

イーグルはカウンターに落ちたタバコを踏みつけ、灰皿の横に転がった。

彼はトリトスの名刺を指先で弾いた。

「『異界の魔王』ね。フッ、冗談だろ。

ここはブラックボックスの郊外のスラムのBARだぜ。

どうせイカれた詐欺師か、クスリでキマったヤツのタワゴトだろ。」

アリエルは床に散らばったガラスの破片を呆然と見つめていたが、努めて冷静な声を出した。

「イーグル、相手が本物だろうと狂人だろうと、店の中で騒ぎを起こすな。

お客さん、あんたが本物の魔王だろうと、うちの店で顔面の皮を剥ぐのはやめてくれ……。

店の衛生管理に支障が出る。」

アリエルの言葉に、トリトスは「すまない」と一言、ぺたりと剥いだ皮膚をカバンに仕舞い込んだ。

「我は嘘は言っていない。

そして、働いたことがない。

そこが問題なのだ。就職活動というものを始めてみたものの、面接で『あなたのスキルは何ですか?』と聞かれ、『世界征服です』と答えても、誰も真面目に取り合ってくれなかった。」

トリトスは肩をすくめた。その仕草は意外にも人間的だった。

「お前、『何でも屋』って聞いたから来たんだろうが。

普通、何でも屋ってのは、消えた猫を探したりとか、厄介な借金取りから逃れる手伝いとか、そういうもんだ。

異界の魔王のキャリアチェンジは、ちょっと範疇外だ。」

イーグルはタバコの箱から一本取り出すと、火をつけた。

深く吸い込み、紫色の魔王に紫煙を吹きかける。

「金はどうする?依頼料は?魔王の世界の通貨なんざ、ここではただの古銭だぜ。」

トリトスは満面の笑みを浮かべた。

その角と緑色の目が、プラチナの薄暗い光の中で怪しく光る。

「それは心配ない。

ここに来る前に、我の世界では無価値だがこの世界では価値あるものをいくつか持ってきて、この街で換金した。

我の全財産だ。それを使って、我がこの世界で真っ当に働くための道を、探してほしい。

報酬は成功報酬とする。就職先が見つかり、我の初任給が出たら、その半額を支払おう。」

トリトスはカバンから、まるで宝石箱のようなものを出した。

中には、この世のものとは思えないほど輝く、奇妙な鉱石がいくつも入っていた。

「これで足りるか?」

イーグルは、その鉱石の輝きに目を細めた。

確かに、ブラックボックスのこの手の取引で、『価値があるがこの世界で無価値なもの』を『この世界の金』に変える手口は、この街では珍しくない。

それが魔王の財産だろうと、最終的に金になるなら、何でも屋としては関係ない。

「…はぁ、面白ぇ。

魔王様がホワイトな職業に就職、ね。

そいつは今年一番のジョークだ。

だが、この街はジョークが金になる。

いいぜ、乗ってやるよ。イーグルだ。よろしくな、トリトス。」

イーグルはカウンターに肘をつき、ニヤリと笑った。

「で、トリトスさんよ。魔王の『世界征服』スキル以外に、なんか『この世界で役に立つ』スキルはねぇのか? 履歴書に書く『特技』が必要だろ。」

トリトスは顎に手を置くと答えた。

「うむ……、『魔法』『配下の統率と士気の維持』

『交渉術』『錬金術』『魔法薬の調合』『古代文字の解読』などか……。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ