310.【それぞれの居場所】
翌朝、差し込む柔らかな陽光の中でアリスがゆっくりと身体を起こした。まだ顔色は万全ではないが、シルクから分け与えられた魔力のおかげか、その瞳にはいつもの躍動感が戻りつつある。
アリスは窓の外を見下ろした。そこには、泥水こそ引いたものの、無惨に崩れた家々と、今もなお黙々と巨大な石材を運ぶドラゴンの姿があった。
「街の復興……、時間かかりそうッスね……」
ぽつりと呟いたアリスの声は、どこか寂しげだった。隣で片腕を吊っているイーグルが、紫煙を細く吐き出す。
「……そうだな。全く、今回は『藍色の輝石』位しか金目の物は貰えなさそうだ。像も壊しちまったしな。手当てが済み次第、BARに戻るか……」
イーグルが腰を上げようとしたその時、ずっと俯いていたシルクが、意を決したように顔を上げた。
「あの……、イーグルさん。私は、ここに残って復興の手伝いをしていたいです。いいですか?」
アリスが驚いて目を丸くし、イーグルはタバコを咥えたまま動きを止めた。
「……ここに残るだと? お前の『記録』はどうするんだ」
「街が、人々が立ち直っていく姿も、きっと大切な記録になると思うんです。それに……私、何にもできない自分が嫌で……。せめてこの筆で、誰かの役に立ちたいんです」
シルクの瞳には、かつての頼りなさはなかった。その真っ直ぐな意志を受け止め、イーグルはフッと短く息を吐いた。
「それを決めるのは、お前自身だ。やりたい事、居場所が見つかるならそれに越した事はない。俺たちに止める権利はねぇよ」
「ありがとうございます……!」
シルクが深く頭を下げる横で、アリスがニヤニヤしながらイーグルの横腹を小突いた。
「ローズさんが怒りそうッスね。せっかく拾ってきた人材を置いてきたのか、って」
「あ……あぁ、まぁ、そうだな。あのインテリ女の小言を想像するだけで、肩の傷が痛みそうだ」
イーグルは苦々しく顔を歪めたが、その視線はどこか穏やかだった。
海風が吹き抜ける丘の上。BAR【プラチナ】の一行は、ここで一つの別れと、新たな出発を迎えることになった。
アリスはふと、イーグルにあの「名無しの妖精」のことを聞こうとした。自分達のために消えてしまった光の粒のことを。だが、言いかけて、静かに口をつぐんだ。イーグルのどこか遠くを見つめる瞳が、すべてを語っているような気がしたからだ。




