22.ブラックボックスの地図
ローズとミアが去った後、BARには再び静寂が訪れた。アリエルはグラスを磨く手を止め、イーグルに視線を向けた。
「……地図、見せてみろ」
イーグルはポケットから、ミアが持っていたボロボロの地図を取り出した。それは、ブラックボックスの地図に、奇妙なシンボルが描かれたものだった。
「……これ、どこかで見たことがあるな」
アリエルは地図を覗き込み、眉をひそめた。
「何だ?」
「このシンボルだ。俺の組織で管理している、ある廃工場の位置を示すシンボルに似ている」
イーグルは地図をアリエルに渡した。アリエルは地図を広げ、カウンターの照明にかざす。
「……宝の地図、か。まさかな」
「ああ、まさかだ。だが、このシンボルが意味するもの、そして、ミアがこれを手に入れた経緯。すべてが偶然とは思えない」
イーグルはグラスの中のバーボンを揺らしながら、静かにそう言った。
「その廃工場と、キラー曹長の件は、関係があるのか?」
「今のところは、何とも言えない。だが、もし関係があるとすれば、この地図は、キラー曹長を操っていた黒幕に辿り着くための、重要な手がかりになるかもしれない」
アリエルは地図をイーグルに返し、深くため息をついた。
「……俺は、ただのバーテンダーだ。そんな大層な話には関わりたくない」
「そう言うな。ミアを助けたのは、お前だ。それに、この地図を手に入れたのもミアだ」
イーグルは、アリエルの言葉を遮るようにそう言った。アリエルは、ただ静かにグラスを磨き続けている。
「……わかってるよ。だが、俺は、これ以上、誰かを巻き込みたくない」
アリエルは、そう呟くと、再びタバコに火をつけた。その煙が、BARの薄暗い照明に照らされ、ゆらゆらと揺らめく。その煙の向こうで、イーグルは静かにアリエルを見つめていた。
「……わかった。この地図の解析は、俺がする。だが、何かあったら、すぐに連絡してくれ」
イーグルはそう言うと、再びグラスの中のバーボンを飲み干した。アリエルは何も言わず、ただ静かに頷いた。
ミアがBARから去った後も、アリエルの心には、どこか落ち着かない気持ちが残っていた。ミアが持っていた地図、そして、そこに描かれたシンボル。アリエルは、この地図が、単なる宝の地図ではないことを、本能的に感じていた。
そして、その予感は、やがて現実となる。
その予感は、すぐに現実のものとなった。翌日の昼過ぎ、イーグルからアリエルの携帯に連絡が入った。
「地図の解析が終わった」
電話口のイーグルの声は、いつも以上に重々しかった。アリエルは、嫌な予感を覚えながら、グラスを磨く手を止めた。
「で、どうだった?」
「……やはり、ただの地図じゃなかった。あのシンボルは、キラー曹長が使用していた武器の製造工場を示していた」
アリエルは、驚きを隠せないまま、タバコをくわえた。
「……マジかよ」
「ああ、マジだ。そして、その工場は、表向きは閉鎖されていることになっている。だが、裏では、いまだに稼働しているようだ」
イーグルの言葉に、アリエルは深い溜息をついた。
「……まさか、キラー曹長の武器が、こんな形で繋がるとはな。で、どうするんだ?」
「……俺たちの組織で、その工場を潰す。そして、黒幕の尻尾を掴む。それが、今回の俺たちの任務だ」
イーグルの言葉に、アリエルは何も言えなかった。ミアが持ち込んだ地図が、まさか、こんな形で巨大な陰謀へと繋がっていくとは、誰も想像していなかっただろう。
「……わかった。だが、俺はあくまで、ただのバーテンダーだ。お前たちの任務には、関わらない」
アリエルは、そう言うと、電話を切った。




