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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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実地調査したい場所

 命令されてユウが自伝を書くようになってから2週間以上が過ぎた。10月ももう終わりであり、新しい月を迎えようとしている。さすがにこれだけの時間があればユウの自伝執筆も順調でなかなかの進展を見せた。


 その間、ユウは日々の夕食の時間にコミニアヌスから自伝を読んだ感想を延々と伝えられ、次々と質問を繰り出される。全員の食事会というよりも、コミニアヌスの感想会および質疑応答時間といった様子だ。自伝を読んだ日に比べると日を経る毎にその反応は小さくなっていくものの、それでもユウを疲れさせるには充分だった。


 この日もいつも通りユウはコミニアヌスからの感想を聞かされ、質問攻めにあっていた。こうなるともう自伝を読んでもらって嬉しいという感想はない。ひたすら迷惑だ。しかし、報酬をもらっている以上は止めるわけにもいかなかった。


 すっかり弱っているユウを助けるのはほとんどがアテリウスだ。さすがに見かねたときには止めに入ってくれる。


「コミニアヌス、もうその辺にしておけ。ユウが飯を食う時間がないだろう」


「え? ああ、うん、そうだね。それじゃ、今日はこの辺にしておこうかな」


「お前も全然食べていないだろう。1日中動き回っているんだから食っておけ」


「わかっているって」


 アテリウスにたしなめられたコミニアヌスはしゃべるのを止めると食べ始めた。黙っているとおとなしそうに見えるのだから、口を開いたときの落差は大きい。


 そうやってコミニアヌスをおとなしくさせたアテリウスは物を食べている当人に話しかける。


「コミニアヌス、このアドヴェントの町を実地調査してもう2週間以上になるが、まだ他に調べるところはあるのか?」


「うーん、そうだねぇ。初めての実地調査だったから嬉しくて色々と回ったけれど、実は見たいところは大体見た感じなんだよね」


「だろうな。最初の頃は何にでも食い付いていたお前が、最近は調べる対象を探し回っていたくらいだ。さすがにもう見たい部分はほとんど残っていないだろうとは思っていた」


「トリスタンも僕に紹介できる場所はもうないんだよね?」


「俺は元々そんなにないぞ。後半はユウに代わってもらうこともあっただろう?」


「となると、この町もいよいよ終わりかぁ」


「そうしてもらえると嬉しいよ。何しろ、連日町の方々を回っているから、官憲や代行役人にそろそろ目を付けられ始めたんだ。いい加減にしないと、本当に捕まるぞ」


「それは困る。なら、アドヴェントの町の調査は今日で終わりにしよう!」


 やんわりと実地調査の終了を求められたコミニアヌスはその提案を受け入れた。既に調査結果に満足していたのか、嬉しそうに木製のジョッキを口に付ける。


 解放後は落ち着いて食事をしていたユウは3人の話を聞いていた。最初は口出しをするつもりはなかったが、気になることがあったのでコミニアヌスに尋ねてみる。


「コミニアヌス、この町の調査が終わったのなら、次はどうするの?」


「次は大陸西部の中央に行きたいんだよね。山の向こうの」


「西方辺境の別の町を調査するんじゃないの?」


「そこも興味あるんだけれどね、中央の方が優先順位が高いんだ」


 返答を聞いたユウはトリスタンと顔を見合わせた。未だに可能性を捨てていなかった中央の調査員という可能性がこれで消えた。西方辺境の周辺諸国とは古くから付き合いがあるのでこんな調査を改めてやる理由はない。そうなると、一体どこの誰が何のためにする調査なのかわからなくなった。


 振り出しに戻った感じのするコミニアヌスとアテリウスの正体に内心で頭を抱えつつもユウは更に質問を重ねる。


「そうなると、僕たちとは今日で契約終了ということになるのかな」


「あーそれは待って! できればこのまま案内役を続けてほしいんだ。あと自伝の執筆と」


「え? でも僕たち、中央のことなんてほとんど知らないよ?」


「僕やアテリウスよりは知っているだろう? その知識と経験を続けて活用したいんだ」


「引き続き契約するとして、中央のどこまでいくつもりなの? あんまり遠い所だとさすがに付き合いきれないよ」


「それはまた何も決めていないんだよねぇ。できれば色々回りたいんだけれども」


「だったら僕たちはこれまでだね。さすがに付き合いきれないよ」


「あーちょっと待って! 言っただけじゃないか! それなら逆に聞くけれど、どの辺りまでなら構わないんだい?」


 問い返されたユウは再びトリスタンと顔を見合わせた。具体的に考えていないのは2人と同じである。そもそもアドヴェントの町の外にまで出るつもりはなかったからだ。


 先にユウが声を上げる。


「トリスタン、どの辺りまでだったらあの2人に協力できる?」


「案内役としてということなら、この町以外は無理だぞ。ほぼ何も知らないからな。護衛としてなら、まぁ西方辺境の範囲内だったらいいかな」


「中央に行くのはなし?」


「それはお前に判断してもらおうか。リーダーだしな」


「うわ、ずるいな」


「はっはっは、下っ端に決定権はないんだぜ?」


 結局丸投げされたユウは渋い表情を浮かべた。特にこれと言って決めていなかったが、ずるずるとついて行って気付けば大陸の反対側というのは避けたい。


 そのことを念頭にユウは口を開く。


「コミニアヌス、チャレン王国内だったら行っても良いよ」


「チャレン王国、ああ、この辺りの地域を治めている国だね。西方辺境の辺りはトレジャー辺境伯が統治しているらしいけれど」


「そうだよ。王国中央も大陸西部の中央だから、コミニアヌスの要望も叶うでしょ」


「あーうん、まぁそうかなぁ」


「コミニアヌス、妥協も必要だぞ。俺もそんなに遠くへは行きたくない」


「アテリウス、背中から刺すような発言はやめてくれないかな」


「そうでもしないとお前は止まらないからな」


 さも当然のように横から口を挟んできたアテリウスにコミニアヌスが困ったという表情の顔を向けた。しかし、浅黒い肌の護衛は知らんぷりである。


 こうして、ユウとコミニアヌスとの契約は更新された。条件は今までと同じだ。微妙に納得していなさそうなコミニアヌス以外は3人とも笑顔だった。




 翌日、ユウたち4人は三の刻になると冒険者ギルド城外支所へと向かった。冒険者であるユウとトリスタンが情報を得るならばまず最初に寄るべき場所だ。


 夜明けの森へと向かう冒険者の流れが落ち着いた路地や道を通って城外支所の中に入る。屋内は相変わらず騒々しいが、コミニアヌスとアテリウスにとってはそれ以上に悪臭の方が気になるようだ。どちらも顔をしかめている。


 そんな2人を連れてユウは受付カウンターでも行列のできていない場所へと向かった。以前と変わらず頬杖を付いた受付係がぼんやりと虚空を見つめている。もちろんユウが目の前に立っても知らんぷりだ。そして、ユウも構わず声をかける。


「レセップさん、お久しぶりです」


「おう、本当に久しぶりだな。生きてて何よりだ」


「今日はちょっと聞きたいことがあるんです。チャレン王国の中央に行くまでの道のりなんですけれど、今はどうなっていますか?」


「お前、中央にでも用があるのか」


「僕の後ろの2人がそちらへ行こうとしているらしいんですが、ちょっと手を尽くしてもよくわからないということだったんで、僕がここに聞きに来たんです」


 コミニアヌスとアテリウスの2人との関係をできるだけぼかしてユウはレセップに説明した。冒険者ギルドを介さずに直接依頼を引き受けていることがまず良い顔をされない上に、そもそもこの2人は素性が怪しすぎる。とてもきちんと説明できたものではないのだ。そのため、困った人たちを助けるという形で話を進めているのである。


「お人好しだなぁ、お前」


「たまに言われますね」


「まぁ、教えてやるのは構わんか。最初に結論から言っておくぞ。行くな、今は危ない」


「そうなんですか?」


「そうなんだよ。ここから中央に行くなら辺境の街道を使うことになるが、今はこの辺がきな臭いんだ」


 レセップの端的な話を聞いたユウは振り向いた。コミニアヌスとアテリウスも言葉は理解できたらしく若干難しい顔をしている。


 西方辺境から大陸西部中央へ向かう経路は3つあるが、アドヴェントの町から最短となると辺境の街道を使うことになる。それ以外は西方辺境の北の端と南の端に経路がそれぞれあるが、いずれも遠すぎた。


 特に大陸西部中央に興味のないユウとトリスタンであれば残念でしたということで終わりだ。諦めるか、それとも問題がなくなるまで待つかすれば良い。しかし、コミニアヌスとアテリウスの2人はどうだろうか。


 いきなり困った状況に陥ったユウはため息をつく。どうにも自分の力では何ともしようがない状態に思えてならなかった。

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― 新着の感想 ―
行くなって言うくらいだからだいぶ危険なんでしょうねえ。
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