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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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魔物が寄ってくる体質

 ほぼ1日かけたアドヴェントの町の調査は一旦終了した。コミニアヌスに散々引っ張り回されたユウ、トリスタン、そしてアテリウスは疲労の色が濃い。この中で最も体力がないはずのコミニアヌスが最も元気なのだから、その知的好奇心は並大抵ではなかった。


 最後に境界の川を見てコミニアヌスがはしゃいでいると、4人は町の中から響く鐘の音を耳にする。六の刻を迎えたのだ。


 相棒と顔を見合わせてからユウがコミニアヌスとアテリウスへと声をかける。


「2人とも、夕飯にしない?」


「俺は賛成だ。コミニアヌス、お前は?」


「良いんじゃないかな。ユウ、明日辺りに水浴びをしないかい? 実は、僕たちはしばらく体と服を洗っていないんでね、きれいにしたいんだ」


「構わないよ。アテリウスも水浴びと洗濯をする?」


「そうだな。俺もそろそろ体を洗いたい。服も可能なら洗濯をしたい」


「決まったね。そうだ、トリスタンも一緒に体と服を洗おう。前は洗っていないでしょ」


「うげっ、まぁこの時期ならまだいいか」


 若干嫌そうな顔をしたトリスタンは1人だけでは拒否できなかった。さっさと自分の気持ちを整理して渋々うなずく。


 水浴びの約束が決まったところで4人は夕飯のために安酒場へと向かった。ところが、前日と同じように安酒場『泥酔亭』に入ったところ、あいにく満席だと告げられて仕方なく外に出る。そこでユウはもうひとつの行きつけの店である酒場『昼間の飲兵衛亭』に足を向けた。幸い、ここはテーブル席がひとつだけ空いたところだったので滑り込む。


 やって来た給仕女に4人が注文すると全員がテーブル越しに向き直った。最初に口を開いたのはトリスタンである。


「いやぁ、さすがに飯時だな。まさか『泥酔亭』が満席だったとは」


「カウンター席なら空いていたみたいだけどね」


「ユウ、この店も手づかみで食べるのかい?」


「そうだよ。逆に手づかみでない食べ方なんて見たことないよ。どんな風に食べるの?」


「えぇ、それはもちろん、ナイフとフォーク、それにスプーンを使って食べるんだよ」


「そのフォークっていうのがわからないなぁ。調理場で使う道具でしょ?」


「さすがにあれほど大きくはないよ。ナイフやスプーンと同じ大きさの食器だから」


「うーん、刺して使うんだよね? 別に手づかみでも良いんじゃないの?」


 使うところを想像できないユウはコミニアヌスの説明に首をひねるばかりだった。手づかみで済ませられるのにわざわざ道具を使う理由がわからない。


 一方、ユウにうまく伝わらないことでコミニアヌスはつらそうな表情をしていた。思い悩んだ末にアテリウスへと顔を向ける。


「アテリウス、何とかフォークの素晴らしさを伝えられないかい?」


「お前に無理なら俺にできるわけないだろう。それに、使ってみないとわからないことだってある。またの機会にするんだな」


「もう、ということは、しばらく手づかみじゃないかぁ。あ、来た」


 困っているコミニアヌスに構うことなく給仕女たちが4人の料理と酒を次々とテーブルに置いていった。昨晩の食事で安酒場街の料理も食べられることがわかった2人だが、最初に手で食べ物を触るときは緊張した面持ちだ。


 そんな雇い主たちを尻目にユウとトリスタンはさっさと料理に手を出した。肉に、黒パンに、スープに、遠慮なく手を付ける。それを見ていたコミニアヌスとアテリウスも緩慢な動作で食べ始めた。


 しばらくは食事中心で時間が流れる。手の汚れがひどくなるにつれてコミニアヌスとアテリウスの2人も遠慮なく食べるようになった。


 料理の半分以上がなくなってくると手を動かす速度が遅くなってくる。それに反比例して言葉がテーブル上を飛び交うようになってきた。いくつかの話題を経た後、コミニアヌスがユウに新しい話題を振る。


「アドヴェントの町の冒険者は夜明けの森で魔物狩りをして生計を立てているって言っていたよね。ユウとトリスタンも普段はそうやって生活しているんだ」


「実を言うと、今の僕たちはほとんど夜明けの森に入っていないんだよ。最近はもっぱら冒険者ギルドの依頼を引き受けてあちこちの町に行っているんだ」


「意外だな。森の話に詳しかったから、てっきりいつも入っていると思っていたのに」


「僕は駆け出しの頃にずっと入っていたんだ。だから夜明けの森については知っているんだよ」


「なるほどね。ユウとトリスタンに出会う前にも何人かの冒険者に森の中で会ったけれど、みんな魔物狩りで生計を立てていると言っていたんだ。だから、2人もそうだとばかり思っていたよ」


「残念だったね」


「でも、だったら昨日森に入っていたのはどうしてなのかな?」


「冒険者ギルドからの依頼はいつもあるわけじゃないから、日銭がほしいときはたまに森へ入るんだ。だから、昨日出会ったのは偶然だよ」


「そっかぁ、偶然かぁ」


 ユウの説明を聞いたコミニアヌスが大きく息を吐き出した。エールを気に入ったのか、頻繁に木製のジョッキへと口を付けている。ただし、量はあまり減っていないようだ。


 その隣ではトリスタンがアテリウスと話をしている。


「なぁ、コミニアヌスっていつもあんな感じで調査をしているのか?」


「まぁ大体あんな感じだ」


「なんか調査をしている間はそれ以外のことがあんまり見えていないように見えるんだが」


「実際見えていないぞ。足元が疎かになって溝にはまるなんてのはまだ笑えるが、ごろつきなんかにも平気で喧嘩を売るような質問をするからな」


「本当に周りが見えなくなるのか。大変だな」


「ああ、大変だとも。しかも極めつけは今回だ。はぁ、どうして俺はこんな仕事を引き受けたのか」


「あーうん、大変だなぁ、お前も」


 しゃべるごとに元気をなくしていくアテリウスを見たトリスタンは慰めようとした。しかし、すっかり肩を落とした浅黒い肌の若者は容易に立ち直らない。


 その横でユウはコミニアヌスと話を続けている。


「そういえば、夜明けの森での魔物狩りって僕はよく見たことがないんだよね」


「森の奥に何日かいたんでしょ? しかもアテリウスは襲ってきた魔物を倒したとも言っていたし。だったら自分たちでやっていたことになると思うけれど」


「あー僕たちが魔物を倒したのは自衛のためなんだ。確かに端から見たら魔物狩りをしているように見えるだろうけれど、ここの地元の冒険者とは本質的に意味合いが違う。生活のためじゃないからね。僕が見たいのは生活のための魔物狩りなんだ」


「えっと、それも調査のため?」


「そうだよ。色々と記録に残すことは大切なことなんだ。研究することで新しい発見があるかもしれないし、今はわからなくても後世に伝えたら何かの役に立つかもしれないしね」


「へぇ、そうなんだ」


 木製のジョッキを握りしめたコミニアヌスが力強い目でユウを見つめた。何かに生きがいを感じている目だ。


 黙るユウにコミニアヌスが更に続ける。


「だから、僕は地元の冒険者の魔物狩りが見てみたいんだ。ということで、ユウ、明後日魔物狩りに連れて行ってほしい」


「え、僕?」


「最近も日銭稼ぎをしに森へと入っているんだろう? だったら充分に参考になるから」


「あー、僕は、どうだろう?」


「何か問題でもあるのかい?」


「前はともかく、今の僕はちょっと参考にならないかもしれないんだ。というのも、僕なんだか変な体質になったみたいで」


「変な体質?」


 首を傾げるコミニアヌスに対してユウは魔物を引き寄せる体質について説明した。いつそんな体質になったのかは不明で、夜明けの森に入るとなぜか魔物がユウを最優先に襲いかかってくるという体質だ。


 説明を聞いていたコミニアヌスは目を輝かせた。明らかに興味を引かれている。


「そんな体質は聞いたことがないな。特異体質なのは間違いない。しかも後天的にそんなことになるなんて。どこかに必ず原因があるはずだよ。しかし、まさかそんな興味深い体質だっただなんて!」


「嬉しそうだけれど、僕としてはいい迷惑なんだよ」


「それはそうだろう。しかし、原因は不明か。それがわからないと対処のしようがないね」


「だから今は日銭を稼ぐときだけ森の浅い場所に行ってすぐに帰って来るんだ」


「昨日は正にそのときだったわけだ」


「そうだね」


「1度どんな体質なのか確認させてくれないかな」


「え? 僕の体質を?」


「そう。可能性は低いけれど、何かわかるかもしれないから。もちろん興味本位というのはあるけれど、放っておくわけにもいかないだろう?」


「あーまぁ」


 興味深い現象を見たいという目を向けてくるコミニアヌスにユウは何とも言えない表情を向けた。興味本位なのは面白くないが、このまま進展なしというのも困る。


 最終的にユウは魔物狩りに行くことを承知した。

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― 新着の感想 ―
食器としてのフォークだけがわからないんですねー。 こちらの人にとっては調理器具なんですね。 私がトングやフライ返しで食べるんだよって言われても想像しにくい感じかな。
スープは日本式で食べてるのかな。食器無しだと相当きついような
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