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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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町を歩き回ろう!

 次の仕事をどうしようかと考え始めていたユウとトリスタンは新たな働き口を得た。コミニアヌスとアテリウスに対して町を案内するという仕事だ。それだけで1人1日金貨1枚、更には経費が雇い主持ちなので本来ならば笑いが止まらない依頼である。


 しかし、素性のはっきりとしない2人なのでどんな事情を抱えているのかまったくわからない。推測することも難しいことから、ユウはいつでも仕事を終了できる権利を条件として加えた。これで怪しいと思ったときにすぐ離脱できる。


 こうしてユウとトリスタンはアドヴェントの町を案内することになった。最初の仕事はコミニアヌスが持っている資産、砂金の換金である。


 宿の部屋で4人が集まって話をしていると鐘の音が鳴った。それを聞いたユウが立ち上がる。


「コミニアヌス、アテリウス、三の刻になったから行こうか」


「うん、行こう! そして、早く町の中を回るんだ!」


「ちなみに、手数料の1割が差し引かれるからそのつもりでね」


「まぁそれは仕方ないね。さすがに無料というわけにはいかないだろうし」


 話がまとまると4人は宿を出た。宿屋街から西端の街道に移り、町の南門に向かって北上する。ここの番兵たちとはすっかり顔見知りになったので尋問はすぐに終わった。ところが、コミニアヌスとアテリウスはまだアドヴェントの町で通用する貨幣を持っていないことに気付く。仕方なく、後で返してもらうことを条件にユウが2人の分を支払った。


 何かと金銭がかかる仕組みに閉口しつつもユウは町の中を歩く。最初は大通りを真北に進み、中央広場に出ると東へと曲がった。すると、中央広場の東側を占める商館が目に入る。外部からの商用関係者との会合や宿泊にも利用されている商人ギルドの建物だ。


 先程から挙動不審と言えるほど周囲を見ているコミニアヌスにユウが声をかける


「コミニアヌス、砂金はどのくらい交換するつもりでいるの? あるいは金貨換算でどのくらいのお金がほしいの?」


「う~ん、金貨換算で200枚くらいかなぁ」


「そんなに? 実地調査でそれだけ使うの?」


「大半は僕とアテリウスの滞在費と君たちの報酬および経費だよ。特に報酬。こっちは1日金貨2枚を支払うんだからね」


 支払う側の事情を聞かされたユウは大金を必要としている理由を知って納得した。これだけあっても3ヵ月もつか怪しいというのだから費用というのは恐ろしい。


 商館に入ったユウは係員に商人フランシスの紹介状を見せてから砂金を換金したいと告げる。最初は怪訝そうな表情をしていた係員も紹介状が本物だと知ると4人を丁重に扱った。相変わらず効果が大きい紹介状にユウは感心する。


 応接室のひとつに案内された4人はユウを中心にして待った。その間にコミニアヌスが必要となる量の砂金をユウの前のテーブルの上に置く。


 やがてやって来た担当者と挨拶を交わすと、ユウがテーブルの上に設置された天秤を使って相手の担当者と話を進めた。単純な砂金との交換、条件は一部の金貨を銀貨と銅貨で支払うという以外は特に何もない。単純な取り引きだ。


 砂金の量り間違えさえなければ短時間で終わる作業だった。手数料を差し引かれ、銀貨と銅貨の混じった貨幣を差し出されると4人で数える。枚数が合えば取り引き終了だ。


 複数の革袋に入れて席を立ったユウは部屋を出た。後から出てきたコミニアヌスとアテリウスにその袋をすぐに手渡す。


「さて、これでコミニアヌスは大金持ちになったわけだね」


「そうだね。使い道が決まってなければ笑いが止まらなかっただろうね」


「それで、これからどうする? どこを案内すれば良いかな?」


「せっかくだから町の中を案内してもらおうかな! さっきから目移りしちゃってもう!」


「アテリウス、案内しても良いんだよね?」


「構わない。あまりにも言うことを聞かないようだったら、俺が殴ってでも止めてやるぞ」


「ありがとう」


「待って、なんで2人とも僕に反抗的なんだ!」


「それで死にかけた方の身にもなってみろ」


「うっ、どれのことかなぁ」


 都合が悪くなったコミニアヌスがアテリウスから目を逸らした。つぶやいた言葉によるとやらかしたことが何回かあるらしい。


 その内容が気になるユウとトリスタンだったが、今は関係がないので口をつぐんだ。そして、商館から出ると早速仕事を始める。


 手始めに今いる中央広場についてユウが話し始めた。市場や布告など人が集まるための場所で周囲には町の中心施設ある。また、月に何度か(いち)が開催される場所でもあった。次いで、商館、ギルドホール、パオメラ教神殿群、庁舎と広場の周囲の建物について説明していく。


「なるほど、町の造りはそんなに変わらないわけだ。中央広場から大通りを通って行けば西回りに城へ着いて、東側は商売関連の施設が多数あるわけだね」


「コミニアヌス、記録しなくても良いの?」


「あー大丈夫だよ。頭で覚えておくから。宿に帰ってから全部記録するんだ」


「記憶力が良いんだ」


「そうだね。これのおかげでかなり助かっているよ」


 当然とばかりに返答したコミニアヌスをユウは驚きながら見つめた。物覚えの良さを羨む。ユウなら羊皮紙に記録しながら歩き回るところだ。


 以後は、商工房地区、倉庫街、貴人居住区の南端、住宅街、そして歓楽街を回った。大半はユウが案内して回ったが、唯一歓楽街だけはトリスタンが引き受ける。


 四の刻になるとトリスタンお勧めの酒場で昼食を食べた。いわゆる当たりの酒場だったわけだが、それで食べるときは手づかみである。これにはコミニアヌスとアテリウスも明らかに落胆していた。


 町の中の案内が一通り終わると次は町の外だ。南門から出ると、冒険者ギルド城外支所、宿屋街、市場、工房街、貧民の住宅街、安酒場街、安宿街を順に巡ってゆく。


 町の中でも独特の臭気はしていたが、やはり貧民街の方が強烈だ。解体場の死臭の次に漂ってくるとコミニアヌスとアテリウスは再び顔をしかめる。


 それでも、コミニアヌスは歩みを止めなかった。隣に立つアテリウスは何か言いたげだったがそちらは一切見ずにひたすら周囲へと目を向けて頻繁にユウへと質問をする。城外支所ではその業務内を聞き、宿屋街では客層について調べ、市場ではチャドのスープ屋のスープに首を傾げ、工房街では武器工房『炎と鉄』にてホレスとデリックに質問を浴びせかけ、貧民の住宅街ではその劣悪な環境を恐れて早々に退去し、安酒場街では昨晩食べた味を思い出し、安宿街では宿屋街との違いについて考察した。


 旺盛な好奇心に感心しつつも呆れるようになったユウは案内の後半には疲れる。案内役がこれほど大変だとは予想外だった。引き受けたことを後悔し始める。


 ようやく一段落着いたのは境界の街道にたどり着いたときだった。コミニアヌスが満足したからではなく、単にもう紹介する場所がなくなったからだ。


 街道の北側を眺めながらコミニアヌスが上機嫌で声を上げる。


「いや、本当に興味深い! これは来た甲斐があったよ! ね、アテリウス!」


「良かったな。もう満足したか?」


「今日はね。予備調査はこんなもので良いかな。本格的な調査は後日だよ」


「勘弁してくれ」


 一言も話していなかったはずのアテリウスも疲れているようだったが、ユウにはその理由はわからなかった。しかし、この町にやって来るまでに色々と苦労していそうなことは何となく想像できる。その点は同情した。


 そのアテリウスがユウに話しかける。


「そうだ、ひとつ俺からも尋ねたいことがあるんだ、ユウ」


「何かな?」


「宿に沐浴の施設はなく、貧民は沐浴しないとトリスタンが言っていたが、本当にそうなのか? 目の前に川があるが、あれは誰も使わないのか」


「夏なんかだと暑いから水浴びする人はいるし、そのついでに服を洗濯する人もいるよ」


「沐浴ではなく水浴びか。それと洗濯もほとんどしないのか」


「どうしてもしたいのならあの境界の川でしてきたら良いよ。僕もたまにするし」


「ユウもするのか。どのくらい入るんだ?」


「年に何回かかな。仕事をしているとなかなか入る機会がなくて」


「なん、だと」


「でも、先月の終わりに入ったばかりなんだ」


「アテリウス、ユウは水浴びと洗濯が趣味なんだ。だからこいつはかなりきれい好きな方だぞ」


 横合いからトリスタンが説明を付け加えた。それを聞いたアテリウスが目を見開く。何度かユウとトリスタンの顔に視線を往復させた。


 その隣では最初興奮していたコミニアヌスがユウとアテリウスの話を耳にして次第に神妙な顔つきになる。そして、ユウに冬はどうやって水浴びしているのかと質問をした。


 返答を聞いたコミニアヌスはアテリウスと顔を見合わせる。そのすぐ後、どちらも肩を落とした。

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