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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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話し合いの難しさと今後の取り決め

 夜明けの森の中で奇妙な2人組と出会った翌朝、ユウとトリスタンはいつも通り目覚めた。二の刻の鐘が鳴り終わってから寝台を離れると外出の準備を整える。


 ただ、準備は進めているものの、今日1日どうするかはまだ未確定な部分が多い。ユウとトリスタンだけならば休暇にするか魔物狩りに行くか決められるが、コミニアヌスとアテリウスがこれからどうするか次第で1日の予定が大きく変わるからだ。


 2人が交代で裏庭へと向かったとき、少なくともコミニアヌスを見かけたのでまだ宿にいることはわかっていた。そこで、朝食を済ませると、日が昇る頃にコミニアヌスとアテリウスの部屋を訪れる。


 扉越しに許可を得たユウはトリスタンと共に室内に入った。大きな背嚢(はいのう)は床に置かれ、各種装備も机の上にまだある。


「おはよう2人とも。気分はどうかな」


「寝台が硬かった! 木の板だから仕方ないんだけれどね。それ以外は悪くないかな」


「寝るだけならこれで充分だとわかった」


 どちらも寝台の感想を返してきたことにユウは苦笑いをした。昨日の2人の様子からするとましな返答である。


 寝台に座っているコミニアヌスとアテリウスを見たユウは椅子に座った。トリスタンは木窓の前に立つ。


「昨日出会ってから一晩経ったけれど、とりあえず2人はこれで一息つけたと思う。様子を見ていると色々と言いたいことはあるみたいだけれど、まずはやっていけるかな。でも、もうひとつだけ大きな問題が残っていることは僕も覚えているよ」


「お金の問題だね! 換金する場所を教えてくれるんだったっけ」


「そうだよ。ただ、これは三の刻以降でないと駄目だからもう少しまってほしい」


「それは構わん。そちらの指示に従おう」


「ということは、これで昨日約束したことは果たせることになりそうだね。良かった」


 やるべきことについて理解しているコミニアヌスとアテリウスが賛意を示したことにユウはうなずいた。そうなると後は流れ作業である。


「それじゃもうひとつ質問なんだけれど、2人はこれからどうするの?」


「それなんだけれどね、実はアテリウスと昨日の夜に相談したんだ。それで、2人に頼みたいことがあるんだよ」


「どんなことかな?」


「僕たち、ここでしばらく滞在することになるんだけれど、その案内役として雇いたいんだ。もちろん報酬は支払うよ!」


 提案してきたコミニアヌスの勢いに虚を突かれたユウは少しの間固まった。それが解けるとトリスタンと顔を見合わせる。もうしばらく付き合ってほしいと願われるのではと考えていたが、予想外なことに仕事として依頼された。


 怪訝そうな顔をしたユウがコミニアヌスに問いかける。


「手持ちの資産を換金してお金が手に入ったら、後は何とかなるんじゃないの?」


「ここに滞在するのは、ちょっと色々と調べたいことがあるからなんだ。そのためには現地に詳しい人がいた方がいいでしょ?」


「そういうことなら僕たちの方もはっきりとさせたいことがあるよ。素性の知れない人と仕事をする気にはなれないから」


「どんなことを知りたいのかな?」


「2人は何者で、どこからやって来て、目的は何なのか。まずはこれを知りたいんだ」


 いくらか真面目な雰囲気となったユウが最も気になることを尋ねた。アドヴェントの町に周辺諸国が直接何かをしてくる可能性はあまりないとはいえ、先日の密輸組織のような件もある。進んで外国の手先となって何かしたいとはさすがに思わなかった。


 ただ、アテリウスはもちろん、散々しゃべり倒しているコミニアヌスでさえも自分たちのことはほぼ何も話していない。エールを飲んである程度酔っ払ってもそれは変わらなかった。本当に何もなければ酒の肴にもなりそうな話のネタを一切話さなかったことからも、訳ありではないかとユウなどは思う。


 だからこそ、この質問に対して返ってくる返事をユウは予想していたし、その返答も既に用意していた。ところが、その予想は半分当たり、半分外れる。


「悪いんだけれど、ちょっと事情があって僕たちの出自と来歴は明かせないんだ。本当なら最初に話しているべきだとは思うんだけれどね。でも、目的は話せるよ。それは、このモーテリア大陸西部の実地調査をすることなんだ。この地と現地の人々に危害を加えに来たわけではないよ。これは僕とアテリウスの名に誓って保証する」


「おい、勝手に人の名前を使うな」


「でもどうせどこかで誓わないといけないんだから、今まとめて誓ったら良いじゃないさ」


「せめて許可を取ってからにしろ。腐れ縁だからって何してもいいわけじゃないぞ」


「わかっているって」


 肝心な場面で言い合いをしているコミニアヌスとアテリウスの2人にユウは呆れた。同時にこれは本当に調査に来ただけなのではと思えてくる。これが相手に信じてもらうための芝居だとしたら大したものだが、昨日からのやり取りを見ていると素のようにしか思えない。


 そんな2人を見てユウが黙ると、今度はトリスタンがコミニアヌスに話しかける。


「ユウによると言葉の発音におかしい部分があるらしいが、それは別の言葉を母国語としているからか?」


「その通りだよ。でも、実際にどんな言語なのかは話せないんだ」


「出自や来歴に関係するからか」


「そういうことだよ。悪いね、話せないことばかりで」


 残念そうな表情を浮かべるコミニアヌスから返事を聞いたトリスタンが難しい顔をした。質問の根っこの部分は答えてもらえたが、具体的な回答はもらえていない。


 そのままトリスタンは更に質問を重ねる。


「俺たちに頼みたい案内役っていうのは具体的にどんなことなんだ?」


「仕事の内容は観光案内からその町のある程度細かいところまでを教えてほしいんだ。単に知識としてだけでなく、実際にその場に行って見せてくれるのが理想だね」


「報酬はどのくらいを考えているんだ?」


「うーん、それがね、こっちの通貨の価値がわからないから何とも言えないんだよね。例えば、銀貨1枚と言っても、僕とトリスタンだと間違いなく違う銀貨を思い浮かべているだろうし」


「そうだな」


 仕事の内容はともかく、報酬額がどのくらいなのかわからないのは割と困った問題だった。トリスタンの表情が渋いものに変わる。


 ユウとしては前回の仕事の雇い主とはまた別種の厄介さを嗅ぎ取っていた。この2人の正体が不明なままというのもそうだが、なぜ明かせないのかという理由も気になる。


 依頼を持ちかけられたユウとトリスタンが迷っていると、しばらく考えていたコミニアヌスが口を開いた。ユウに対して疑問を投げかける。


「そうだ、この後ユウに僕の資産、ああもう砂金でいいや。砂金を換金できる場所に案内してもらえるんだよね。それじゃ、その貨幣で支払えば良いんじゃないかな。ちなみに、金貨ってあるかな?」


「金貨、銀貨、銅貨、町の外だけなら鉄貨も通じるよ」


「それは良かった。それじゃ、金貨は1枚何マーグの重さで、金はどのくらい含まれているのかな?」


「金貨なら1枚7.5マーグで金は5マーグ含まれて、あれ? コミニアヌス、今マーグって言った? 重さの単位」


「言った。もしかして通じている? 1エノットは1000ゴリク、1ゴリクは1000マーグ、1マーグは1000ギリム?」


「うん、同じ」


「これは興味深いねぇ!」


 今まで差異ばかりが目立っていた背景で、初めて一致する事柄が現われたことにユウとコミニアヌスが興奮した。その後、長さの単位もなぜか同じであることが判明する。


 初めて自分の知るものが通じたことにユウは喜びを感じていた。些細なことであるが、相手にも理解できることがあるとわかるとなぜか親近感が湧いてくる。


「いやぁ、なんだか嬉しくなるねぇ! そうか、貨幣の相場はそのくらいなんだ。わかった、それじゃ、1人1日金貨1枚で雇おうじゃないか! 経費はこっち持ちでね!」


「コミニアヌス、いいのか?」


「大丈夫だって。どうせ全部提供資金なんだし。こういうときに使わないと」


 小声で制止するアテリウスに取り合わずにコミニアヌスはユウに条件を提示した。単なる案内役にしては破格の報酬だ。戦闘がないとは言い切れないが、聞いた限りでは護衛の仕事よりもずっと安全に思える。


「ユウ、どうする?」


「どうするって、悪い人たちじゃなさそうだしなぁ」


「あれ、報酬に使う金貨の価値ってわかっていると思うか?」


「砂金換算しているんだからその辺は大丈夫でしょ」


「それならいいんじゃないのか?」


 こちらも小声で相談したユウはトリスタンの後押しを得てコミニアヌスの依頼を引き受けることにした。ただし、ユウたちの判断でいつでも依頼を終了できるという条件を加える。


 こうして、ユウとトリスタンは新たな仕事を得た。

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― 新着の感想 ―
最近一日金貨1枚の仕事が続いて、ユウたちの金銭感覚麻痺してそう 試しに日本語で話しかけたら、異界諸言語?!とか反応ありそう
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