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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第32章 逃げる者と追う者

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交易の町での滞在

 暗殺者に対してユウたち4人が色々と考えた結果、アドヴェントの町を出発した時点ではまだ気付かれていなかった可能性が高いという結論に達した。西端の街道を移動中にヴィアンが襲われなかったことからこの推測は確度が高いと全員が納得する。


 そうなると、最低でも最初の数日間あるいは滞在中ずっとヴィアンは安全である可能性が高い。そのため、ヴィアンの外出を認めることになる。ルパートなどは尚も良い顔はしていなかったが、何も言わなかった。


 こうしてレラの町の滞在が始まったわけだが、ヴィアンが最初に足を向けたのは町の外にある冒険者ギルド城外支所である。ここでどんな仕事があるのか尋ねたのだ。


 町の北門から外に出た4人は境界の街道を北上する。干物の街道が東へと分かれた後も周囲に貧民街が続いていた。そうして郊外になろうかという場所で石材を要所に使った木造の古めかしい建物を見つける。


 アドヴェントの町の建物と同じくらいの大きさであるレラの町の城外支所の中は閑散としていた。冒険者の数は少ない。


 ユウなどは懐かしいと思いながら室内を見回しているが、ヴィアンは周囲を気にすることなく受付カウンターの前に立つ。その背後でユウは受付係を見てかすかに記憶を刺激された。かつて一緒に商売人を懲らしめたあの神経質そうな職員だ。こちらには気付いていないようである。


「この町に来たばかりの冒険者なんだが、魔物を狩る仕事はこの辺にあるだろうか?」


「魔物? この辺にはいないぞ。境界の川の向こうに獣の森があるから、そこで獣を狩る仕事ならあるが」


「魔物はいないのか。で、獣の森に獣がいると」


「犬、狼、虎、熊、鹿、猿、猪、蛇なんかがいくらでも出てくる。こいつらを狩って解体場にある買取カウンターに持っていけば換金できるぞ」


「魔物狩りとそんなに変わらないように聞こえるな」


「ああ、やることは同じだな」


 やり取りを当人の背後で聞いているユウはその違いについて思い浮かべていた。問題は狩った後で、アドヴェントの町での魔物狩りでは討伐証明部位を切り取って持ち帰れば良かったが、獣の場合はまるごと持って帰る必要がある。そのため、そう多くの獣を狩れるわけではないし、大型になるとそもそも持って帰ることができない。ヴィアンがどの程度その違いについて知っているのか怪しかった。


 目の前のやり取りはまだ続く。


「では、隊商の護衛はどうなのだ? 一般的には傭兵が引き受けるものらしいが」


「基本的にない。西端の街道へ行く荷馬車なら冒険者が担当することがあるが、空きは少ないぞ」


「冒険者にはどんな一体仕事があるんだ?」


「森の近くの警邏任務に開拓村の警備、後は人足の仕事だな。配達なんてのもあるぞ」


「なんというか、地味だな」


「派手な仕事なんて早々ないよ。一体どんな仕事を期待しているんだ?」


「冒険者なのだから、もちろん冒険できるような仕事だろう。魔物を倒すというのもそうだが、どこかを探索するという仕事も魅力的だな」


「この辺りは西方辺境だから未開なのは確かだが、この町の場合は周辺がある程度開拓されてるからそういう仕事はないな。ここからだと、少し遠いがアドヴェントの町なんかがぴったりじゃないか?」


 先日まで滞在していた町を勧められたヴィアンは肩を落とした。レラの町では思うような仕事はできないことが判明してしまう。


 ようやく諦めがついたのか、ヴィアンは受付カウンターから離れた。その後を3人が続く。ロイド支店長が説明してくれたことと同じだった。


 横まで進み出たトリスタンがヴィアンに声をかける。


「どの町にでも冒険者ギルドはあるが、どこにも面白い仕事があるわけじゃないぞ。こういうことも珍しくないんだ」


「期待していただけに残念だ」


「それに、今の俺たちだとそんな仕事があっても引き受けられないだろう」


「確かにそうなのだが、興味を引く仕事があることを確認できるだけでも良かったのだ」


 しょんぼりとしたヴィアンが話す背後でユウは本当にそうだろうかと首を傾げた。夜明けの森でののめり込み具合から、望むような仕事があれば引き受けようとしたのではないかと疑う。なので、この場合は期待外れで正解だと考えた。


 冒険者ギルド城外支所を後にした4人はその後町の外周辺の貧民街をぐるりと巡った。足を踏み入れた場所はいずれもアドヴェントの町のものとそう変わりない。ユウなどは初めて訪れたときは故郷よりも大きいと感じた記憶があるのだが、故郷が内戦を経て大きくなったことを思い出した。


 そうして巡っていると四の刻の鐘が聞こえてくる。空腹を感じていたのは気のせいではなかったのだ。


 ここでユウは気になったことをヴィアンに尋ねる。


「この町だと川魚を食べられるんだけれど、ヴィアンは食べたことってある?」


「あるぞ。私の故郷は川沿いにあるからな。アドヴェントの町でも捕れるだろう」


「そうだった。それなら、焼き魚や魚のスープは食べたことがあるんだね」


「あれはあっさりとしていて旨いよな。私は好きだぞ」


「この町の東側に大魚の湖っていう大きな湖があるんだけれど、そこの魚のことは知っているかな? 普通よりも2倍以上大きいんだ」


「干物なら食べたことがある。大きいが、味は普通の大きさの魚と変わらなかったな」


 昼食の話をきっかけにしてユウとヴィアンは大魚の湖の魚について話し合った。大きさに関しては目を見張るが味は同じという点で意見が一致する。また、そんな魚が捕れる湖についてもどうなっているのか興味が尽きなかった。


 一旦町の中に戻って4人は歓楽街に足を踏み入れる。そこで適当な酒場に入って料理と酒を注文した。貧民街の安酒場よりかは旨いということを改めて知る。


「やはりエールの味からして違うな!」


「貧民街の駄目な安酒場なんて水でかなり薄めているからな」


 木製のジョッキをテーブルに置いたトリスタンがヴィアンに呼応した。貧民街でもある程度稼いでいる者たちが通うお高い店ならまだしも、安酒場は一部の例外を除いて総じて質が悪い。それに対して、町の中の店はギルドの規定があるため、どの店も一定水準以上の品質を保っているのだ。


 ユウもその辺りのことは知っていたが、長らく底辺の生活を続けていたせいで基準が安酒場になっていた。そのせいでこの話題への反応が遅れる。2人の話が続き、話が佳境に入ったところでひとつ尋ねたいことが頭に浮かんだ。会話が一段落すると口を開く。


「ヴィアン、アドヴェントの町にいたときに泥酔亭っていう安酒場に連れて行ったことがあるでしょ。あそこはどうだった?」


「あそこか。う~ん、可もなく不可もなくだったからなぁ、町の酒場と比べるとさすがに。ルパートはどうだ?」


「貧民街の安酒場の中では良い方だと思います。ただ、町の中と比べるのは酷だと思います」


「だそうだ。どうしたんだ、急に?」


「知り合いの店で僕はよく通っているから、みんなの評価はどうなのかなって思ったんだ。さすがに街の中の酒場に勝てるとは思っていなかったけれど」


「なるほどなぁ。気に入っている店のことはみんなにも気に入ってほしいからか。うん、わかるぞ、その気持ち!」


 なぜかヴィアンが強く同意してきたのでユウは戸惑った。過去に何かあったのだろうかと思ってルパートに目を向けたが、何も反応は返って来ずに終わる。もしかして、勢いだけで言っているのかもしれないと考え直した。


 食事が終わると次は4人で町の中を歩いて回る。商工房地区でも商売人の店舗が並ぶ地域だ。ここには町民が必要とする生活用品や嗜好品などが大体揃っていた。ちなみに、露店に関しては月に何度か中央広場で行われる(いち)で見ることができる。


 店舗が並ぶ地域は朝の開店直後以外は大抵人通りが多い。町の中の一般労働者を始め、官吏、使用人、行商人、主婦などが絶えず行き来している。雑談、商談、怒声、絶叫などがあちこちから聞こえてきた。


 そんな中をヴィアンが先頭になって歩く。周囲を見ているその表情は楽しげだ。途中でたまにルパートへ声をかける。


「交易の町というだけあって、大抵の物は揃っているな」


「西方辺境の奥にある町ですから中央の品は少ないですが、その代わり中央では珍しい品もあるようで」


「革製品や薬類なんかはさっき値段を聞いて驚いたぞ」


「中央まで持ち運ぶのに苦労するのでしょう」


「宝石類なんかも、このくらいの値段で仕入れられたら、もっと儲かるのだろうな」


「せいぜい中央に高く売りつけるしかないでしょう」


 周りの雰囲気に当てられたのか、ヴィアンとルパートも商売の話を始めたことにユウは気付いた。驚きはないが苦笑いをする。


 その日の昼は長居して商工房地区をずっと巡った。

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