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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第32章 逃げる者と追う者

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再びやって来た隣町

 アドヴェントの町の町を出発して25日目、荷馬車2台の隊商は予定通り旅程を消化していた。はるか前方にはレラの町、その手前には広大な境界の川が見えている。


 既に何度か訪れている町なのでユウにとっては新鮮味はなくなりつつあった。しかし、長い旅の後に見る町は訪問者に安心感を与えてくれる。


 町に入るためにはまず手前の川を越えなければならないが、そのためには船着き場に続く行列に並ぶ必要があった。順番が回ってくるまで時間がかかるだろうが、並んでしまえば後は待つだけである。


「町はもう目の前だな」


「ここから川を渡るまでの待ち時間がまた長いんだけれどね」


「今回も町の中にあるフランシス商会のレラ支店に行くんだよな」


「前の支店長は嫌な人だったよね」


「でも、今の支店長は確かロイドさんだろう」


「暖かいご飯を出してほしいよね」


 前回の訪問時のことを思い出しながらユウは前支店長を揶揄した。もうああいう敵対的な扱われ方はご免だという表れである。


 たっぷり時間をかけて順番待ちをした後、ユウとトリスタンは隊商の荷馬車と共に境界の川を渡った。対岸に着くと手早く出発の準備を整えて荷馬車に乗り込み、船着き場から離れる。西端の街道はレラの町の西門まで続いていて南側は原っぱだが、北側は店が軒を連ねていた。そして、船着場と西門の中央辺りに小道が延びている。その狭い道は大体人で埋まっており、その両脇は飲食店が軒を連ねていた。


 西門へと近づいてゆく荷馬車の後ろからユウはその風景を眺めるが、それも西門から町の中へと入ると見えなくなる。代わりに移り変わる大通りの景色を眺めた。


 町の中の様子はアドヴェントの町とあまり変わらない。規模としては少し大きいのかもしれないが、言ってしまえばそれだけだ。


 やがて、中央広場と商館からある程度離れた所に立つ建物の前に荷馬車が停まる。目的地にたどり着いたことを知った2人は荷台から下りて先頭の荷馬車へと向かった。先にヴィアンとルパートがレジナルドと会っている。


「ユウ、報酬がもらえたぞ!」


「そうなの?」


「荷馬車を守ってもらったことには変わりないからな。これは純粋な護衛料だ」


 振り返ったヴィアンの叫びに驚いたユウがレジナルドへと顔を向けると小袋を渡された。銀貨10枚が入って入る。


「オレの仕事はここまでだ。何がどうなってんのか知らないが、頑張れよ」


 軽い調子で4人を励ましたレジナルドは再び御者台に乗り込むと荷馬車を動かした。そうしてフランシス商会の停車場へと荷馬車を移していく。


 それを見送った4人はレラ支店の建物の中に入った。建物の中には何人もの商売人や使用人が話をしたり荷物を持って動き回っている。


 たまたま近くを通りかかった使用人に声をかけたルパートは支店長への連絡を頼んだ。何か仕事をしていたはずの使用人は、割り込んで頼まれたことに嫌な顔ひとつみせずにうなずくと応接室へと案内してくれた。


 応接室へと入るとヴィアンは椅子に座り、他の3人はその背後に立つ。警護役なので何かあったときのためにすぐ反応できるような姿勢でいないといけない。


 立って待っている間、ユウは前回の待たされた時間を思い返した。嫌がらせで散々待たされたわけだが、それなら今回はどうなのかと考える。


 その答えはすぐに出た。応接室の扉が開き、暗い金髪に四角い顔の人物が入ってきたのだ。ユウとトリスタンの知る支店長ロイドである。


「ようこそお越しくださいました。私がこのレラ支店の支店長のロイドです」


「初めまして。故あって偽名にて失礼する。今は冒険者をしているヴィアンだ」


「アドヴェント支店のソロモン支店長から先に手紙でいくらか存じ上げております。何でも身の危険を避けるためにこちらへいらっしゃったとか」


「その通りだ。そのソロモン支店長からの書状を私も預かっているので読んでもらいたい」


 挨拶の後、ルパートが懐から書状を取り出してロイドに手渡した。手渡されたロイドは早速その書状を広げて読む。


 いくらかの時間が過ぎた後、ロイドはため息をついて書状をローテーブルに置いた。それからヴィアンへと顔を向ける。


「おおよそのことは理解しました。こちらで滞在なさる間は当支店をお使いください」


「ありがとう。そうさせてもらう。申し遅れたが、背後の3人はルパート、ユウ、トリスタンだ。ルパートは私の部下で、ユウとトリスタンはアドヴェントの町で雇った冒険者だ」


「ユウとトリスタンの2人については存じております。去年、このレラ支店の不正を(ただ)すのに協力してくれた者たちですから」


「確か、アイザックという人物に雇われていたと聞いているが」


「その通りです。恥ずかしながら、当時のレラ支店は腐敗がひどく、自分たちだけではどうにもできなかったのです」


 ここからロイド支店長の話が始まった。当時のひどい不正の横行、それを黙って見ているだけしかできなかった自分の不甲斐なさ、そこへ颯爽と現われたアイザックと冒険者2人、短期間の調査で的確に証拠を掴む手腕、そして厳しい追及と公正な裁きなどを語っていく。実に楽しげだ。


 話を聞いていたヴィアンが楽しげな様子で口を開く。


「雇った者たちがそう言った活躍をしていると聞いて、自分の選択が正しかったことを改めて強く感じたよ」


「ヴィアン様のお目が高かったからでしょう。結構なことでございます。ところで、ヴィアン様はこちらにどの程度滞在なさるおつもりですか?」


「10日ほどと考えている。こちらの都合もそうだが、2ヵ月以上離れていればさすがに追っ手も諦めるだろうと考えているのだ」


「承知いたしました。こちらもそのように考えておきましょう。もし延長なさるようでしたらご相談ください」


「世話になる。ところで、この町では冒険者の活動は盛んだろうか?」


「冒険者ですか? どのような活動をなさるのでしょう」


「アドヴェントの町だと夜明けの森という場所で魔物狩りをしていたのだが、この町の冒険者はそういった活動をしているのか知りたいのだ」


 冒険者の活動について突然問われたロイドは戸惑った表情を顔に浮かべた。それを見たユウはそういえばレラの町の冒険者について話をしていなかったことを思い出す。


「魔物狩りですか。この町の周辺に魔物はいないので、そういう活動をしている冒険者はいないはずです。そもそもの話、この町の貧民は大抵人足になるか周辺の開拓村に送り込まれるので冒険者になる者の数は少ないはずですから」


「なんと! ではこの町の冒険者は一体どんな活動をしているというのだ?」


「境界の川を越えた西側に赴いて獣を狩ったり、南辺境の森で活動をする他は、町周辺の畑を荒らす獣を狩ると聞いております」


「む、そうだったのか」


「私は商人ですので冒険者のことは詳しく存じ上げません。詳細をお知りになりたければ、冒険者ギルドへ足を運ばれてはいかがでしょうか。必要でしたら一筆ご用意しますが」


「いや、それにはおよばない。後で城外支所へ直接行って聞くことにする」


 目当てのものがないとわかったヴィアンの口調は明らかに暗くなっていた。すっかり冒険者の活動にのめり込んでいる様子にユウは内心で苦笑する。


 話し合いが終わると4人は客室へと案内された。そこへ自分たちの荷物を置くと思い思いに座って雑談を始める。


「思っていた以上にロイド支店長の感触は良かったな」


「ユウとトリスタンが前の仕事で良い関係を築けていたからでしょう。これについては非常に助かりましたな」


「まったくだ。2人の活躍譚が聞けるとは思わなかったぞ」


 話を振られたユウとトリスタンは苦笑いして受け流した。主に動いていたのは自分たちの雇用者なので持ち上げられてもむずがゆい。


 トリスタンが話題を変えようとする。


「それにしても、ヴィアンがロイド支店長に冒険者の活動について尋ねるとは思わなかったな。てっきり自分で直接城外支所に乗り込んで話を聞くと思っていたのに」


「どうせなら早く知りたかったのだ」


「その割には俺たちには聞かなかったよな。というか、ユウの自伝には書いてなかったのか?」


「書いてあったが、今は状況が変わっているかもしれないと思ったのだ」


 若干口を尖らせたヴィアンがトリスタンに答えた。そこへユウが口を挟む。


「それで、城外支所に行くってさっき言っていたけれど、町の外に出るの?」


「そのつもりだ。魔物狩りがなくても、ギルドが存在している以上は何かしらあるだろう」


「まぁ仕事はあると思うけれど、思うようなやつはあるかなぁ」


 過去の記憶を振り返ったユウは首を傾げた。ヴィアンががっかりする未来を想像する。


 それ以上は何も言わずにユウは期待に胸を膨らませるヴィアンを眺めた。

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