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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第32章 逃げる者と追う者

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貴族様からのご依頼(中)

 町の中の貴族に呼び出されたユウとトリスタンが邸宅に向かうと、そこには名前も正体も明かせない青年ヴィアンたちがいた。ワージントン男爵家当主マクシミリアンの言動からそれ以上の貴族だと2人は察する。


 依頼の概要はヴィアンの生活の支援と身辺の護衛ということだった。前者の説明は後回しということで、まずは後者の能力があるのかを試されることになる。更にトリスタンは出自が貴族であるのかどうかも確認されることになった。


 と、ここまで流れるように話が進んでいたが、2人はまだ根本的なことをヴィアンたちに伝えていない。自然とこのような形に話を持っていくというところがいかにも貴族らしいが、このまま流されるわけにはいかなかった。


 恐らくそういうことなんだろうなと思いながらユウは口を開く。


「ヴィアン様、ひとつ確認しておきたいことがあります」


「何だろうか?」


「このお話ですが、僕たちは断ることってできますか?」


「やはり何も話せないというのは気に入らないか」


「確かにまぁ、胡散臭いというのは確かにあるんですが、アーチボルト様がいらっしゃるのでそれはまだ我慢できます。でも、もっと深刻な問題があるんです」


「聞こうではないか」


「ヴィアン様たちは僕たちが採用するにふさわしいか試されますよね。力不足の者を採用しても困りますから」


「そうだな」


「僕たちも同じなんです。自分たちの実力以上の依頼を引き受けても失敗するか死んでしまうかのどちらかになるんで、そうならないように本来ならば依頼の内容を詳しく聞いてどうするか判断するんです。でも、今回はそれができないでしょう? 普通、そういう依頼は引き受けませんよ、誰も」


「充分な金を払えば引き受けるというわけではないのか」


「まずは生き残らないと、そもそもその報酬も手に入れられません」


「それはそうだ。冒険者は傭兵と違うというわけか」


「傭兵は絶対に死ぬような依頼でもお金次第で引き受けるんですか?」


「さすがに絶対死ぬという依頼は引き受けないが、大体渋っているときは金を上積みしてやれば最後にはうなずくな」


 雇う側の人間から聞いた傭兵の話をユウは興味深げに聞いた。自分たちとは判断の仕方が違って当然ではあるが、それでも危ないように思える。


「魔物の場合は人間の事情を一切考慮してくれませんし取り引きもできませんから、特に魔物討伐の依頼でしたら自分が生き残れるのかということを最初に考えます。報酬はその次ですね。割に合うかどうかを考えます」


「なるほどな。冒険者はそう考えるのか。しかし、傭兵の場合はその傭兵団の団長と話をして決めるのだが、あの者たちも自分の生死は考えているように見えるぞ?」


「ああ、わかったかもしれないです。冒険者の場合は多くても6人程度なんで、リーダーも含めて直接魔物と戦って死ぬ可能性が高いんですよ。でも、傭兵団の団長の場合は、普通だと部下の傭兵に戦わせて自分は基本的に直接戦わないですよね。その違いではありませんか?」


「一理あるな。確かに団長は自分が直接戦うわけではないから多少の危険も飲むのだろう。死ぬのは部下であって自分ではないからな。ただ、傭兵団は傭兵が何人いるかで報酬が決まるから、そういう意味での部下の生死には敏感なわけだ」


「部下としては入りたくないですね、傭兵団」


 ヴィアンに聞いた傭兵団を想像したユウは嫌そうな顔をした。今まで出会って入ったことのある傭兵団はいずれもそうではなかったように見えたのだが、それはどうなのだろうと内心で首を傾げる。できれば部下を大切にしていると思いたかった。


 話が一区切りすると、ヴィアンが快活に笑う。


「ユウ、お前と話していると面白いな! 普段見知ったものの別の側面が見えた。とても貧民とは思えん。トリスタン、冒険者とは大体こんな連中なのか?」


「こういう話をするという意味でしたらユウは特殊です。ですから、これを基準にしないでください」


「そうなのか。ふむ、それならますます頼みたくなったぞ」


 上機嫌になったヴィアンを見てユウは微妙な表情を浮かべた。興味深い知見を得られたという意味ではユウにとっても有意義だったが、だからといってヴィアンからの依頼を引き受ける理由にはならない。何かひとつでも検討できる話がほしいと願う。


「今の話で私も納得した。確かに自分の命をかける場面を金だけで決めることはできないな。では、ひとつ判断基準になることを教えよう」


「ヴィアン様」


「詳細を語るわけではない。こちらがあの2人を試すというのならば、あちらにも引き受けるかどうかを判断できるものを教えるべきだろう。彼らは私の家臣ではないのだ」


 背後に控えた3人のうち、先程ヴィアンに声をかけた青年が再び口を開いた。可能な限り情報を隠しておきたいのだろう。ただ、それ以前に不用意な言葉を発していることに気を付けるべきだとユウもトリスタンも思った。


 それに気付いていないらしい4人を見ていたユウはヴィアンに問われる。


「ではひとつ聞こう。2人は暗殺者に勝てるか?」


「暗殺者ですか」


「そうだ。それ以上は言えないが、暗殺者に勝てるかどうかを判断材料にしてほしい」


 依頼者からの質問を耳にしたユウとトリスタンは顔を見合わせた。自分の記憶を掘り起こす。しばらく黙った。


 難しい顔で考え込むユウに小声でトリスタンに話しかけられる。


「ユウ、お前、暗殺者と戦った経験はあるか?」


「ないよ。だから類似の経験から推測するしかない。森の中で野営したときがまず思い付くけれど」


「それが近そうだな。ああでも、どうせなら遺跡の中で野営したときの方がより近いぞ。広大な遺跡(ストラルインナル)なんかどうだ?」


「あったねぇ。それなら帰らずの森の遺跡もそうなるのかな」


「俺と出会う前か。でも、町で戦ったことはないんだよな」


 そのものの経験がない2人は類似する経験から判断しようとした。暗闇の中、いつ襲われるかわからない場所で野営するのと同じように町の宿で眠る。全然休める気がしなかった。精神を消耗し続ける様子が手に取るようにわかる。


「何やら面白そうな話をしているようだが、それは一旦置いておくとしよう。では、もうひとつ判断材料になるものを教えよう。それは報酬だ。日当金貨1枚だ。どちらにも」


「え? そんなに?」


「そうだ。つまり、毎日金貨が1枚ずつ手に入るわけだ」


 渋い表情をしている背後の3人をよそにヴィアンが追加の情報を与えた。確かに直接的な情報ではないが、難易度の参考にはなる。


「ユウ、これは」


「たぶん、この方に見合う難問なんだと思う」


「普通冒険者にこれだけ出すか? それに、暗殺者相手だったら普通は傭兵を雇うだろう」


「それで駄目だったんじゃないかな。それに、一番最初に言われたじゃない。非常に切羽詰まっていて、僕たちのような冒険者に助力を頼むしかないって」


「あぁ、そういうことかぁ」


 目の前の依頼者が結構追い詰められていることをユウとトリスタンは再認識した。それでよく生きているとも思ったが、その辺りの事情は話してもらえそうにないので今は考えない。


 小声で話しているうちにユウは普通なら即断る話だと感じた。何度か襲われてそれでもヴィアンは今も生きているが、少なくとも当人たちはもう次はないと考えている。そんな状態の依頼者を自分たちで守り切れるのかと問われると、正直なところ否だ。


 ただ、そこまで追い詰められた推定貴族の青年の護衛を断った場合、果たしてどうなるのかということがユウは気になった。仲介者のワージントン男爵の面子は潰れるのは間違いない。そうなれば縁は切れるだろう。


 そこまで考えてからユウは先日のことを思い出す。アーチボルトにトリスタンを助けてもらう手助けをしてもらったことだ。あのときは快く引き受けてもらえた。アーチボルトの命は別にかかっていなかったが、それでもトリスタンがどんな状態だったのかわからなかったので最悪の状況を考えていたのは確かである。


「トリスタン、この前アーチボルト様に助けてもらったことを思い出したんだ」


「俺も今思い出した。ああそうか、だからここにアーチボルト様がいらっしゃるのか」


「当主様が仲介者として僕たちを紹介するだけなら、出席される必要はないもんね」


「そうだよなぁ」


 2人でアーチボルトに目を向けると笑顔で小さくうなずかれるのを目にした。つまるところ、今その借りを返せと言われているわけだ。利子付きで。


 貴族を頼るということの恐ろしさをユウはこのとき実感した。タダより高いものはないとは良く言ったものである。実は最初から拒否権などなかったわけだ。


 ユウとトリスタンは揃って肩を落とす。その様子をヴィアンは嬉しそうに眺めていた。

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― 新着の感想 ―
遅いとはいえアーチボルト側の意図をきちんと読み取った点も普通の冒険者らしくない思考で、ヴィアン側には評価ポイントよね
915話にしてなろうっぽくなってきた!笑 わくわくにやにや それでもこれからも泥臭いのかどうか 毎日楽しませて貰っておりますm(_ _)m
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