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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第32章 逃げる者と追う者

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珍しい組み合わせ

 魔物を引き寄せる体質だったことが判明したユウは以後再び宿の部屋に引きこもった。拗ねたわけではなく、自伝を書くためである。


 それにしてもとユウは首を傾げた。一体いつの間にそんな体質になったのだろうかと過去を振り返ってみる。魔物が溢れた場合はともかく、そうでなければどこであっても魔物から集中的に襲われた記憶はなかった。帰郷の旅の途中で突っ切った西方辺境の他の場所でも狙われた覚えはない。


 旅に出る前は皆と同じように夜明けの森へと入れていたのだ。なので旅の途中で何かしらあったはずなのだが、それに思い当たる節がない。ただ、もし自分に何か会った場合、ほぼ必ずトリスタンも同じ目に遭うはずなのだが、今回の実験で2人の間に差異があった。つまり、これが手がかりになるのかもしれない。


 ペンを持ったまま手を止めたユウは考え込もうとする。自分がいてトリスタンがいない場合で何かあったときのことを。


 そのとき、町の中から四の刻を知らせる鐘が聞こえてきた。今が昼時なのを思い出したユウは強い空腹を思い出す。


「う~ん、食べに行くかなぁ」


 椅子から立ち上がったユウは大きく背伸びをした。そして、鍵を手に部屋を出る。直前まで考えていたことがぼんやりとした。


 宿を出たユウは宿屋街の路地を北に進んで貧者の道へと出ると安酒場街へと足を向ける。昼食を求める人々でどこも人が溢れていた。


 昼間は大抵だと酒場『昼間の飲兵衛亭』へとユウは向かう。知り合いと出会うのを期待してだ。今回はその期待が叶えられる。


 店内に入ったユウは賑わっている様子を目の当たりにした。出遅れた自覚はあるので驚きはない。空いているカウンター席へと向かいながらテーブル席へと目を向ける。すると、ひとつのテーブル席に注目した。トリスタン、テリー、マイルズともう1人の青年が同席しているのだ。珍しい組み合わせだ。


 せっかくなので同席するべくユウは近づく。そして、それにしてもと首を傾げた。席に座るもう1人の青年は見たことがあるように思える。名前が出そうで出てこない。


 更に近づいたユウはテリーに気付かれる。


「やぁ、ユウも今から昼飯かい?」


「そうだよ。今来たところなんだけれど、座っていいかな?」


「もちろんいいよ」


「ユウじゃないっすか! 久しぶりっす!」


「ああ、ウォルトだった! やっと思い出せたよ! 名前が出てこなかったんだよね」


「ひどいっす!」


 楽しげに笑いながら返答してきたウォルトにユウが笑顔を向けた。ちょうど通りがかった給仕女に注文をすると席に座る。


「それにしても、これってどういう集まりなの?」


「大した理由はないんだよ。オレとマイルズがここに来たら、ばったりとウォルトと出くわしてね。それで席に着いたら今度はトリスタンが通りかかったんだよ」


「偶然に偶然が重なったわけなんだ」


「そういうこと」


 アルフの生活互助集団繋がりで緑の盾(グリーンシールド)のブラッドがテリーにウォルトを紹介したことはユウも前から知っていた。トリスタンも以前ローマンがいた席でユウ自身が紹介している。ただ、この面子で集まるところは今まで見たことがなかったのでとても新鮮なのだ。


 給仕女が料理と酒を持ってきたのでユウはそれに手を出す。エール、肉、黒パン、スープの順だ。


 そんなユウにトリスタンが話しかける。


「ここで待っていたら今日は絶対に会えるってウォルトに言っていたんだよ」


「僕は最近部屋にいるからね」


「ユウって自分のことを書いてるんすよね?」


「そうだよ。町から出て大陸一周をしたときのことをね」


「リーダーのブラッドから聞いたことあるんすけど、直接聞きたいっす!」


 話をねだられたユウはウォルトに大まかな話を聞かせた。テリーとマイルズは既に知っている話なので落ち着いている。


「すごいっす! 大冒険じゃないっすか! すごいっすね!」


「ありがとう。この話を羊皮紙にまとめているんだ」


「へぇ、そうなんすか。オレ、字は読めないからわかんないっすねぇ」


「しっかし、何度聞いても感心するよなぁ、お前の話は。よく生きてるって感じだ」


 木製のジョッキを片手にマイルズが横から感想を告げてきた。その言葉にユウもうなずく。同じ事をしてもう1度生き延びられるかと問われると首を横に振るくらいは大変だったのだ。


 スープに浸した黒パンを飲み込んだユウが今度はウォルトに尋ねる。


「ウォルトの方は最近どんな感じなの?」


「オレっすか? 魔物の間引き期間でガッツリ稼いで今は懐があったかいっす。ただ、そろそろ武器や防具を新しく買い替えたいんで、今はそのカネを貯めてるところっすよ」


「かなり使い込んでいるんだ」


「というより、今のは駆け出しの頃に買ったやつっすから、もっといいのがほしいんっすよ。ブーツもそろそろ替えないといけないし、カネはいくらあっても足りないっす」


「あーそれは大変だね」


「そうなんっすよ。あ! それより、オレもうすぐ銅級になれそうなんっすよ!」


「え? そうなんだ。ああ、もう冒険者になって6年か7年くらい?」


「そうっす! やっとギルドに認めてもらえたんっすよ! これでみんなと同じっす!」


 嬉しそうに報告するウォルトを見て周囲のユウたちはにっこりと微笑んだ。これだけ純粋に昇級を喜んでいる者も珍しい。心が洗われるようだった。


 そんなとき、木製のジョッキを空にしたマイルズが給仕女に替わりを注文した後、ユウに顔を向ける。


「さっきトリスタンから聞いたんだが、魔物がやたらと寄ってくる原因ってお前にあったんだってな」


「うっ、そうなんだよ。あそこまで露骨に突撃されると僕も認めざるを得ないんだ」


「俺が避けると素通りしてお前に一直線だったもんな。さすがにあれには驚いたぞ」


「どうして僕なんだろう」


「ユウってそんなに魔物に好かれてるんすか?」


「例外なく僕を殺そうとするから好かれているんじゃなくて、殺したいほど嫌われているんじゃないかな」


「あーそっちっすっかぁ。探す手間が省けるって思ったんすけど、甘いっすかね?」


「夜中だと眠れないくらい頻繁に襲われても平気だったら良いんじゃないかな」


「ダメっすね。せめて仮眠したいっす」


 実際のところを聞いたウォルトが首を横に振った。さすがに延々と途切れることなく襲われるのは無理らしい。


 しばらく話を聞いていたテリーが今度は口を開く。


「ユウとトリスタンは最近何をしてるんだい? 前は代行役人の依頼を引き受けていたみたいだけれど」


「最近は、赤字の仕事をしていたよね、トリスタン」


「あ、ああ。そうだな」


「何か気になる言い方だね。聞かせてよ」


 新しい話題を切り出したテリーに続いてマイルズとウォルトも興味ありげな目を向けてきた。さすがに気になるようだ。


 ユウはトリスタンとわずかに顔を見合わせてから3人へと目を向ける。


「夜明けの森で魔物狩りができない僕たちはしばらくレセップさんに依頼を回してもらっていたんだけれども、そのときはちょうど仕事がなかったから休みにしていたんだ」


 話の前提から切り出したユウは先日あったことを語り始めた。知り合いの八百屋の娘から赤字確定の依頼を受けたこと、謎の行商人風の男が話しかけてきたこと、貧民街のチンピラが娘の兄を監禁していたこと、その兄を助け出してチンピラと行商人風の男を代行役人に突き出したことなどだ。しかし、これでまだ半分である。更にはトリスタンが数日間も帰って来なかったことを機に町の中を探し回ったこともしゃべった。


 次はトリスタンが語る。娼婦の願いでその兄の護衛に就いたら官憲に投獄されたこと、ユウが貴族を動かして助けてくれたこと、娼婦の兄と対立していた行商人との論戦とその事情、そして最後にその娼婦の兄の末路などだ。


 すべてを聞き終えたテリーが最初に口を開く。


「アビーの件はまぁ断りにくいだろうね。行きつけの酒場でエラが働いてるし。でも、そのジョッシュっていう行商人は、うーん」


「そうっすね。でも、トリスタンの報酬はちょっと羨ましいと思ったっす。赤字云々は抜きにして」


「冒険者ギルド抜きの依頼ってのはやっぱり色々と怖いな。普段は言いたいことが山とあるが、こういう話を聞くとギルドがあって良かったと思う」


 三者三様の感想を口にしたのを聞いたユウとトリスタンは苦笑いした。もうしばらくは引き受けたくないと強く感じている。


「でも、みんなのところって魔物狩り以外の仕事を引き受けることってあるの?」


「ないね」


「ないっすね」


「オレら魔物狩り専門だもんなぁ」


 首を傾げて問いかけたユウに対して、テリー、ウォルト、マイルズの3人はすぐに言葉を返した。いずれもユウの想像通りだ。


 珍しい組み合わせの5人はこうして食事を楽しむ。その宴は昼下がりまで続いた。

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