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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第31章 行商人の悲喜こもごも

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追及するべきこと

 ハンフリーに案内されてやって来たモートンの拠点で、ユウたちはハンフリーの苦しい事情を訴えられた。結局、商品の代金はそのままモートンに献金され、手元には銅貨1枚すら残っていないと告げられる。


 憔悴したハンフリーが立ち去るとジョッシュが騒ぎ始めた。商品の代金を諦めきれないことから官憲に頼ろうとするが、叶わず独力でモートンと立ち向かうことになる。


 これにより、官憲と代行役人の2人は落ち着きを取り戻し、本来の業務へと戻ることができた。多少乱れた衣服の襟を正した官憲は早速周囲の人々に話しかける。


「ここでリンジーという行商人がいるはずだが、今どこにいる?」


「リンジーですか? さぁ、どこでしょうね」


「隠し立てするのか?」


「いえ、滅相もございません。行商人は大抵外に出て商いをしていますから、はっきりとしたことはわからないのです」


「いつ戻ってくるのだ?」


「六の刻くらいには大抵戻って来ます。ただ、それぞれの商いがありますから、いつも同じ時間とは限りません」


 目の前のやり取りを聞いていたユウは内心で今がいつくらいか考えた。五の刻頃に庁舎へやってきて今まで色々としてきたので結構な時間が過ぎている。なので、今すぐ六の刻の鐘が鳴っても不思議ではないと思っていた。


 それは官憲も同じ考えだったらしい。体を反転させて告げてくる。


「六の刻頃までここで待つ。戻って来た行商人の中にリンジーがいるか確認するんだ」


「あの、ひとつ良いですか?」


「どうした、ユウ?」


「リンジーの顔って2人は知っているんですか? 僕は名前しか知らないんですけれど」


「お前、顔を知らないのか?」


「はい、捕まえたチンピラや行商人から名前を聞いただけです。顔の特徴もわかりません」


 ユウの返答を聞いた官憲が絶句した。代行役人も押し黙っている。沈黙が重苦しい。


 2人の様子を見て、ユウはなぜ自分が誘われたのかわかった。リンジーの顔を確認するためだったのだ。それを理解した途端、少しいたたまれなくなった。


 少し気まずそうにユウは代行役人へと顔を向ける。


「僕、城外支所で説明したとき、顔を見ていないって説明したと思うんですけれど」


「そういえばそうだったな」


「おい、お前、今更!? どうするつもりなんだ?」


「こうなると、ハンフリーを行かせたのはまずかったですねぇ」


 同じモートン一派の行商人だったハンフリーがいればすぐに確認できたのにとユウは悔やんだ。引き止めたところで協力してくれる保証はなかったものの、声だけでもかけるべきだったと顔を歪ませる。


 こうなると待つしかないと覚悟を決めた3人は建物の内側の隅で立った。


 モートンの拠点である建物への出入りは結構ある。行商人や人足、そしてたまに商売人もやって来た。誰もが室内の隅に立つ3人に目を見開き訝しむが声はかけてこない。


 やがて六の刻の鐘が聞こえてきた。それを境に出入りする人々の数が急速に減ってゆく。一般的にはこの頃に1日の仕事が終わるからだ。


 3人がそうしてひたすら待っていると、1人の男が官憲に近づいて来る。


「あの、そろそろ正門を閉じようと思うんですが」


「閉門の時間か」


「はい、そうです」


「ところで、今の時点でリンジーは帰ってきてるか?」


「リンジーですか? そういえば、まだですね」


「今日はいつも通り仕事でここを出かけていったんだよな?」


「はい、そうです。もうそろそろ帰ってきても。あ、今帰ってきましたね」


 申し訳なさそうに話をしていた男が途中で言葉を切って出入口へと顔を向けた。のんびりとした様子の男が荷物を抱えながら歩いている。


 男を押しのけた官憲がリンジーを追いかけた。それに代行役人が続く。男に礼を述べたユウが最後に歩き始めた。


 荷物を背負ったリンジーは気付いた様子もなく先へ進もうとする。そこへ官憲が速歩で近づいていった。後数歩というところで声をかける。


「リンジー、止まれ」


「え? か、官憲?」


「お前に用がある庁舎まで来てもらおう」


「な、なんで、オレが、ひっ!? お前は!」


 官憲に呼び止められて動揺していたリンジーはそれでも何とか会話ができていた。しかし、後からやって来た代行役人とユウを見てより一層激しく狼狽する。


「やっぱり官憲や代行役人は恐れられるんですね」


「それはまぁ、む? いや、あいつ、オレを見て恐れてるわけじゃなさそうだぞ?」


「え? それじゃ誰を、え? 僕?」


「なんでお前がここにいるんだ!?」


 自分が恐れられているとは夢にも思っていなかったユウは呆然とした。リンジーを落ち着かせた官憲が問い質すと、宿屋街でもう1人の行商人を追いかけていたところを偶然見かけたらしい。その様子を見て恐ろしくなったリンジーは慌てて町の中に戻ったという。


 まさか自分がそんな形で見られているとは思わなかったユウは絶句した。確かにあのときは派手に走り回ったが、その中にリンジーがいるとは考えもしなかったのだ。


 隣に立つ代行役人がにやにやと笑いながらユウを見る。


「何でもオレたちのせいにするのは良くないことだぞ」


「それはそうですが、えぇ」


 返す言葉が見つからないユウは途中で口を閉じた。それから小さなため息をつく。


 そんなユウと代行役人のやり取りを背にした官憲がリンジーの前に立った。そうしてゆっくりとしゃべる。


「いいか、お前はこれから庁舎に来てもらう。理由はわかるな?」


「え? いえ、オレは別に何もしていない、です」


「城外支所の解体場で、チンピラのリーダーのスティーブと行商人のドルフが仲良くしてる。お前と早く会いたいってみんな口を揃えていたぞ」


「そ、そんな人たちなんて、し、知りません」


「なら、実際に1度会ってみてくれ。そうすればすぐにわかるからな。ここで押し問答しても埒が開かないだろう?」


「そんな、なんで、別に、会わなくても」


「こっちの勘違いだったらすぐに解放する。間違いだからな。これは単なる事実確認だ。お前の主張が事実なら、何も怖くないはずだろう?」


 優しく諭すように官憲が説得するとリンジーはおとなしくなった。納得したというよりも諦めたという感じが強い。それでも、従順になったのならば官憲や代行役人にとってはどうでも良いことだった。


 これで、本当の意味で終わりなんだろうなとユウは感じた。この1週間ほどは実に忙しく、そして結構な出費を強いられた。しかし、それももう終わりだ。


 半ば放心状態のリンジーは官憲の誘導で身を翻し、建物の出入口へと体を向けた。すると、代行役人とユウの2人と向き合うことになる。


 最初はうなだれていたリンジーだったが、目の前にユウがいるとわかると悔しそうに顔を歪ませる。


「なんで、なんでお前がいるんだよ。あのチンピラたちを捕まえたり、ラッセルを追いかけ回したりしなきゃ、こんなことにならなかったのに」


「ラッセルって、ドルフのこと?」


「そんなことも知らないヤツに、オレは。ちくしょう。オレはただ、騙し取られたカネを取り戻したかっただけなんだ。返してくれたらそれで良かったのに」


「お金を騙し取った人を追いかけていたの?」


「そうだよ。オレもラッセルもあの嘘つき奉公人に騙されたんだ。そりゃぁそんなに大した額じゃなかったけれど、ラッセルのヤツがどうせならあいつの有り金をいただこうって言ってきて、それで」


「もしかして、麻の小袋に入っていたお金のこと?」


「どこに入ってたかまでは知らないよ。ただ、結構な額を持ってるはずだって」


「そんなに大金を持っていたら、そもそも人を騙そうとしないんじゃないかな。それに、騙してそれだけ稼いだんだったら、さっさとどこかに逃げているように思う」


 うつむくリンジーが聞きたい話はこういうものではないことくらい、ユウにもわかっていた。しかし、ユウからするとリンジーは紛れもない加害者だ。心情を察してやろうとは思えない。


「大体、モートンさんがいけないんだよ。いつも無理ばかり言って。たまに成功しても稼ぎはほとんど持っていっちゃうし。それで更に稼げって言われても、無理だよ」


「君は君で苦労していたんだと思う。普段だったら同情くらいはしただろうね。でも、今は何とも思わない。僕の知り合いを散々ひどい目に遭わせたんだから」


「ユウ、そろそろ行かせるぞ」


 代行役人が間に割って入ったことでユウとリンジーの会話は終わった。官憲がリンジーを連れて行く。


 その姿が見えなくなるまでぼんやりと眺めていたユウは代行役人に肩を叩かれた。ここが他人の建物内であることを思い出す。


 急に疲れを感じたユウは重い足取りで歩き始めた。先を行く代行役人の背中を見ながら前に進む。ついていくのがやっとだ。


 1日の終わりで騒がしい町の中、ユウはゆっくりと歩いていった。

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― 新着の感想 ―
六の鐘鳴った後にリンジー来てるから、町の門閉まっちゃってたりしない? というか、町の外暮らしなのを知ってる筈の代行役人が、六の刻限まで待つことに口出ししてないのも中々ひどいw
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