第二章 魔人の住処続き1
これは、聞いて良い話か悪い話か分からない展開かも知れないのでアデルは話題を変えようとしたが、基本酔っ払いは話し出したら止まらない。そもそもそのネタを振ってしまったことが悪い。
ナカータさん「その人は私の同期で、こんな人間は他にはいないだろうくらいのいい奴でした。」
ナカータさんは新人研修でその人物に出会った。その人物は男性で8歳年下、名前はイリヤンさん。彼はナカータさんの隣の席だった。
新人研修講師「それでは試験を突破し、新たな仲間となった皆さんにそれぞれ自己紹介をしていただきたいと思います。では私から見て左側の席の方からお願いします。」
新人研修会場には12人の新人がいた。縦一列に三人、横の列には四人座っていた。ナカータさんとイリヤンさんは一番後ろの席でイリヤンさんは新人研修講師から見て一番左側に座っていたのですぐに順番が回ってきた。
イリヤンさん「雇用福祉課に配属となりました、イリヤンです。私は幼いころに両親が交通事故で他界し、祖母に育てられました。金銭的な事情もあり早めの就職となりましたが、祖母はいつも私に人様のお役に立てるような優しく立派な人間になれと言っていました。私は育ての親である祖母に恩返しをすることも含めて、ここで人様のお役に立てるように尽力していきたいと考えております。そして早く結婚して幸せな家庭も持ち、祖母に安心してもらいたいと思っています。皆さんどうぞよろしくお願いします。」
新人研修講師「いいですね、私も早く結婚したいです。では次の方どうぞ。」
という具合に淡々と自己紹介は進んだ。そしてナカータさんの番が回ってきた。
ナカータさん「初めまして。私は労働状況調査課に配属されました、ナカータと申します。ここに来る前は法学を専門に学び、円満な社会の在り方についての研究をしておりました。私もこれまでの知識を生かしてイリヤンさんのように、人様や国のお役に立てるように頑張りたいと思います。皆さんよろしくお願いします。」
そうして自己紹介が終わると、担当講師が一人ずつ座っている席を回り、菓子箱に入った半分に折られた紙をくじ引きのように引かせた。紙を開くとそこには数字が書いてあり、同じ番号の者同士が四人一組に分かれるようになっていた。そしてそのグループでチームビルディングが行われた。ナカータさんとイリヤンさんは同じグループになった。
新人研修講師「それでは四人一組のチームで今からゲームをしていただきます。一番最初にミッションクリアしたチームには真ん中にゲーマーと、書かれたメダルが授与されます。貰って嬉しいものではないかもしれませんが、皆さん頑張ってください。」
それは、単純なゲームではあるものの難しいゲームで、グループ内の個々の知識や経験コミュニケーション能力などが問われる内容であった。ナカータさんとイリヤンさんのチームは全員、{これはいけるぞ!勝利間違いなし!}と勢いよく思ったが最下位だった。
その後は翌日からのスケジュールについての補足の案内があり、その日は終わった。
ナカータさんが帰りの支度をしているとイリヤンさんが声をかけてきた。
イリヤンさん「ナカータさん、今日これから一緒に飯食いに行きませんか?」
ナカータさん「いいですね!行きましょう。」
そこへ、チームビルディングで同じグループになったモブ男とモブ太も割り込んできた。
モブ男「お、イリヤンさんたち飯行くんですか?俺らもチーム仲間として一緒に混ぜてもらってもいいですかね?」
モブ太「そうそう、人数多いほうが楽しいっすよね!」
こうしてイリヤンさんとナカータさんとモブ男とモブ太の四人は居酒屋肉何番で食事をすることになった。
イリヤンさん「皆さん、今日はほんとお疲れ様です!男だけですが、楽しみましょう‼乾杯!」
ナカータさん、モブ男、モブ太「うぇーい!」
四人はそれぞれ研修の話題で盛り上がった。
ナカータさん「いやあ、でもイリヤンさんの自己紹介、私はかっこいいと思いましたよ。若いのにしっかりしてるなって。」
モブ太「そういえば研修の先生も結婚したいって言ってましたよね、独身なんすかね?結構年食ってそうですけど。」
コラ!モブ太、先生のことは放っておいておあげなさい、とナカータさんは思った、
モブ男「そうそうあの人、髪の毛もそろそろヤバイ感じでしたよね」
モブ太「後頭部周辺の髪の毛がだいぶ少なくて地肌見えてましたよね。」
もうやめてあげて!とナカータさんは思ったので話題を少し変えて振ってみた。
ナカータさん「お二人は結婚願望とかってないんですか?」
モブ太「そりゃあ、ないって言ったらウソですけど、おれ、モテないし、諦めてる。。」
モブ男「女子って、かっこいい男以外全部キモイとか言ってくるじゃないですか。おれなんかいつもキモ!ですよ?頑張ってもキモ!ですからね。かっこいい奴が髭を生やしていても素敵ってなるけど俺なんかが髭を生やすと汚い、ですからね。」
ナカータさん「そういうことですと、私もキモ、ですね。」
イリヤンさん「自分もキモ、ですね。キモ、にカンパーイ!」
ナカータさん・モブ男・モブ太「キモ~。」
こうして研修一日目は穏やかに終わった。
翌日からは一週間かけてコンプライアンスと書類審査と手続きについての一連の流れや、それに付随する事務処理、などを学んだ。一週間の座学は眠気との戦いだった。これに打ち勝てた新人は未だ一人もいない。ナカータさんは舟を漕いでいるうちに椅子ごと横に倒れ、イリヤンさんは上を向きすぎて首を痛め、モブ太は机にドンっと大きな音を立てて額をぶつけた。時折、研修講師が「眠くなりますよね、大丈夫ですか?」と声をかけてきた。勿論、大丈夫な人はいなかった。
眠気という苦痛に耐え一週間の研修を無事終えたのち、新人達は全体朝礼で挨拶をしたあとそれぞれの所属に就いた。
ナカータさん達四人は最初のうちはみんなでランチをしていたが、配属されて一か月もたたないうちにバラバラになった。それぞれの部署はどこも最低の人件費で運営しているため万年人手不足だった。毎日大量に提出される書類の審査や窓口に押し寄せる一般客の対応など、休憩をとる時間もないほどであった。そんなある日、ナカータさんは久々イリヤンさんと同じ時間に偶然、休憩が取れた。
ナカータさん「イリヤンさん、毎日同じところに努めている割にお互いお会いする機会がなかったですね!久しぶり~。」
イリヤンさんは少しほっとしたような表情をしてナカータさんを見た。
イリヤンさん「ナカータさん、おつです!飯、どうです?」
ナカータさん「いいですね、行きましょう!」
二人は近所の食堂に入った。
ナカータさん「イリヤンさんは、もう仕事慣れましたか?私はまだまだですけど。」
イリヤンさん「同じです。申請書とか書く欄が多いから見落としとかも結構多くて、コンプライアンス上の問題はないか照らし合わせるとあれは通せてもこれは通したらダメ、みたいなのが多くて毎日目が回りそうです。そこへお客さんも受けなくちゃならないから未処理がたまる一方ですよ。」
ナカータさん「こんなに大変だとは入る前は全然思わなかったですよね。」
イリヤンさん「ほんとです。未処理が多いから毎日残業になるじゃないですか、最近うちのお婆さんの具合が悪くて早く帰ってあげたいけどそれができない。」
ナカータさん「おばあさん、調子が悪いんですか?」
イリヤンさん「もうすぐ90歳になるので自然なことかもしれませんが、足腰がだいぶ弱ってしまって何かに捕まらないと起き上がることも歩くことも難しくなってきてます。今はまだ一人で何とかやれてるんですけど。」
ナカータさん「それはたいへんですね。」
イリヤンさん「ナカータさんは未処理の仕事大丈夫ですか?自分はもう戻らないとなんですが。」
ナカータさん「私も沢山あるので戻ります。」
その後もたまにお昼休みが被ると、二人はいろいろな話をした。
配属されて三か月後のある日、臨時の全体朝礼が行われた。モブ男が就労相談に来ていた女性に対してストーカー行為をして捕まり、懲戒免職処分になったのだ。そのことを注意喚起も含めて所長から通達された。
職員一同に衝撃が走った。
所長「皆さんは役所の人間です。国民の皆さんから疑われるような行為はたとえプライベートの時間であったとしても絶対にしないでください。ましてや犯罪行為など絶対にありえません、あってはならない。」
そのような衝撃的な事件があってまだ舌の根も乾いていないようなある日、ナカータさん、イリヤンさんはモブ太に誘われてランチをした。何かソワソワしていて落ち着かない様子のモブ太に、イリヤンさんが訪ねた。
イリヤンさん「どうしたの?なんかあった?」
モブ太「実は俺、借金があってそれで脅されて、虚偽の申請書通しちゃったんだ。」
再び、ナカ-タさんとイリヤンさんにモブ男の時と同様の稲妻を浴びるような衝撃が走った。
ナカータさん「マジで?ええっ?借金ってなに?どういうこと?どうすんの?」
モブ太「俺・・バカラで大設けしてこんなところいつでも辞めてやるって思って、ギャンブルに手を出したら止まらなくなって、気が付いたら借金が大変なことになってて、店から借金の代わりに虚偽の就労申告書の申請書を通すように脅されて、それで。。。おれ、もうすぐ捕まるかも。」
イリヤンさん「モブ太さん、まず課長に相談しようよ。一緒に行ってやるから。」
その直後、食堂に私服の警察官が2人と制服の警察官が二人ほどやってきてモブ太を連行していった。
「モブ太さんですね?就労の申請書の件なんですけど、ここではなく別のところでお話聞かせてもらいたいんですが、一緒に来てもらってもいいですか?」
モブ太は言われえるままに静かに立ち上がった。
ナカータさんとイリヤンさんの二人は只、顔を赤くして俯きしょんぼり縮まったモブ太の背中を見送ることしかできなった。言葉も出なかった。
同期が二人消えていった。
その後も二人はたまに時間があうと短い時間のランチを共にした。
イリヤンさん「実は今日すごく怒っているお客さんが来て、いきなり怒鳴り始めたんですけど、なんで怒っているのかもわからないのでひとしきりお客さんが落ち着くまで話を聞いていたら、最後に聞いてくれてありがとう、済まなかった。」って言って帰って行ったんです。よくわからないけど、何かお客さんの役に立てたのかな、と思って複雑な感じでしたけど少し嬉しかったです。」
ナカータさん「私もお客さんが言っていることがさっぱりわからなくて首をかしげていたら、お客さんブチ切れちゃってお前!やる気あんのか!ってすごく怒鳴られてしまいました。怒鳴るだけ怒鳴って怒って帰っちゃいましたけど。もうちょっと私に知識があればあんな風にはならなかったのかな・・・。」
イリヤンさん「それ、あります。よく分からない自分たちが受けるよりも、よくわかっている人が受けてくれたほうがお客さんにとっては都合がいいし話もすぐ済むはずなのに、絶対に受けてくれないから自分たちがやるしかないんですよね。」
ナカータさん「そうですよね。それに自分たちは残業しても先輩たちは定時で帰ってしまうし。」
イリヤンさん「そう!それ!本当は先輩がやらばきゃダメなんだけど、パートさんたちの上げてくる申請書類の承認印、実は自分が押してるんです。」
ナカータさん「承認印!私のところはパートさんではなく私が先輩に押してもらうようになってるんですけど、あれ、早いこと押してくれないとその後の作業が先に進まないんですよね。最近ちょっとイラっときてます。」
イリヤンさん「パートさんたちはまだお子さんが小さかったりするから早く帰れるようにしてあげないと、ダメじゃないですか。俺のところも最近は近所の親戚の人とかがおばあさんを見に来てくれるんでこうして仕事もできてますけど、誰かの面倒を見ながらの仕事って想像以上に大変なんですよね。家に帰ったら限られた時間の中で家族を優先して家事をこなしていくわけですから、もう、大変です。それに書類の停滞はお客さんの迷惑にもなるし」
ナカータさん「うちのパートさんたちも時間になったら走って出ていきますからね。きっと帰ってからも時間との戦いで大変なのでしょうね。」
イリヤンさん「子供ってお金がかかるみたいですよ。俺は結婚できれば奥さんには子供が大きくなるまで家にいてもらって家事に専念できるようにしてあげたいけど、給料が安いからちょっと最近は考えちゃってます。今から貯金?してある程度ためてからそういったことは考えたほうがいいのかなとか思いますが、貯金できるほどお給料でないですし。」
イリヤンさんは即結婚タイプなのだろうか?とナカータさんは思った。
ナカータさん「イリヤンさん、優しいですね。いい夫ってやつになれそう。でも最近は夫婦両方でお子さんの面倒を見るという風に変わってきているみたいですし、どっちかが家庭に縛られなくてもいい、とも思いますが。」
イリヤンさん「パートさんたちの話ではそんなことないみたいですよ。それができる旦那さんならいいけど、できる旦那さんは少ないそうです。たしかに俺も仕事と家事の両方はできないですね。」
イリヤンさんは寂しげに言葉を続けた。
イリヤンさん「モブ男は別として、モブ太は仕事がこんなんじゃなかったら捕まることはなかったのかな。」
ナカータさん「・・かもしれませんね。でも、そのせいだけではないと思いますよ。」
イリヤンさん「戻りますか。」
このランチの後、二人の時間が合うことはなくなった。その日から半年後、ナカータさんは役場と組合の間にある中庭で大勢の人に囲まれているイリヤンさんを見かけた。
大木の下、首にちぎれたロープを巻いたまま頭から血を流し横たわっているイリヤンさんを。
ナカータさん「!!」
ナカータさんは前身から血が下がるのを感じた。目の前が眩んだ。重い足を何とか前に出しイリヤンさんに近づく。途中で誰かが「チッ!またかよ。」と言ったのが聞こえた。
ナカータさん「な、な、な、な、」ナカータさんはショックと怒りで口からは「な」しか音が出なかった。
ヒデミさん「イリヤンさん、お亡くなりに?」
ナカータさん「いえ、紐がすぐに切れて下に落ちるときに、ご自身で用意した木の椅子に後頭部をぶつけて、まだ生きておられるのですが意識が戻らず、今は病院で寝たきりです。もうかれこれ7年経ちます。」
アデルさん「チッていった奴、捕まえてちゃんと謝罪とかさせました?」
ナカータさん「私も謝れって言ってやりたかったんですけど、声は出ない、足はヨロヨロで小石に躓いて転んでしまいました。」
ヒデミさん「ショックを受けるとそうなりますよ。多分ですけど。」
ナカータさん「でも、私ではなくイリヤンさんの部署のパートさんとかイリヤンさんを知るパートさんたちが私の後ろから出てきてその人に総攻撃してました。あんたたちのせいじゃない!何よ『ちっ』て!全部あんたたちのせいじゃない!そうだそうだ、やっちまえという具合にちって言った人とそのお仲間をガンガン攻めてました。」
ヒデミさん「さすが女子たち!」
アデル「イリヤンさん、目覚めたときに後遺症とかないといいですね。」
ナカータさん「はい。彼が目覚めたら同期としてもう一度彼の苦労話を聞いてやりたくて、そのために私は今の職場で、待っていてあげたいんです。だから辞めたいけど辞めません。」
ヒデミさん「なんか、それが実現するといいですね!」
アデル「でもなぜまたかよって言ってたんですか?」
ナカータさん「それが、私もその時までは知らなかったのですが、その木、実はいわくつきの木で何人かその木でお亡くなりになっていて、私たちが入る数日前にもどなたかお亡くなりになっていたそうです。」
アデル「!!早急に伐採したほうがいいんじゃないですか?次が出る前に」
ナカータさん「実は最初の方がお亡くなりの直後に木を伐採しようとしたシルバ-さんがいたそうなんですが、木を切ろうとした途端心不全でお亡くなりになりまして。で、そこから一週間たたないうちに新たに一人その木で縊死された方がいて、で、気味悪がった当時の所長が自ら切ろうとして木に近づいた時に、後ろから来た来所者に背中を一突きにされて亡くなったんです・・・。その木は役場とうちの建物が建つ前からそこに生えているらしくて、なんでも地ならしの時に大工さんが邪魔だからっていうので切ろうとしたら、横に積み上げていたレンガが突然崩れ落ちてきてその下敷きになってお亡くなりになり、その後でまたその木を切ろうとした大工さんが突然死で亡くなられて、残された大工さんたちは怖がってその木は残して今の建物を建てたそうです。」
ここまで言われるとなんか嘘っぽい気がするアデルとヒデミさんだった。
その時だった。
[グルルルル・・]
地面が揺れるような低いうなり声が近くでした。しかもそれはナカータさんの背後から少しづつ近づいてきた。。
アデルはその生き物を目で捕らえた。その生き物は、
アデル「!野獣豚!!」
アデルは学生時代のことを思い出した。野獣豚について研究している学生がいて話を聞いたことがあった。
アデル「その骨標本、何の生き物です?」
野獣豚研究学生「これ?野獣豚。」
アデル「野獣豚って確かレッドデータブックの絶滅危惧種?」
野獣豚研究学生「そう。この牙と顎を見て。」
アデル「牙は小さいギザギザがありますね。」
野獣豚研究学生「うん。この牙と顎の力で軽く噛んだだけでも骨まで切り取ることができる。」
その野獣豚がナカータさんの後ろに!
二人の顔が凍り付いているのを見てナカータさんは後ろを振り返った。
そして野獣豚と目が合った。野獣豚が少しだけ頭を下げ戦闘態勢に入った。
三人は野獣豚を刺激しないように静かに立ち上がった、そしてアデルは火のついた棒を、ヒデミさんは剣を構えた。ナカータさんは足を、すぐに逃げられるようにスタンバイした。
そしてついに野獣豚がナカータさん目掛けて突進してきた!
アデルは咄嗟に斜め前にいたヒデミさんの二の腕をつかんで後ろに引き寄せた。そしてナカータさんと野獣豚に進路を譲ったというかさっと除けた。
すさまじい速さで一人と一匹は森の入り口方面に走り去った。
アデルは叫んだ。
アデル「ナカータさん!さっと横にズレて止まって!!」
だがその呼びかけは空しくナカータさんの悲鳴とともに遠くへ消えていった。
ヒデミさん「ナカータさん、大丈夫でしょうか?」
アデル「恐らくどこかで転んで踏まれて少し怪我をする程度でしょうね。」
ヒデミさん「アデルさんはあの豚の生態をご存じなんですか。」
アデル「学生時代私は物理学選考でしたが生物学選考の人たちとも量子力学の講義で一緒になることがあってその時に野獣豚を研究している人から教えてもらいました。」
ヒデミさん「素敵・・・。」
アデル「野獣豚は走り出したら頭突きしか出来ないので突き飛ばされて怪我をするか踏まれるかの2択です。どちらも重くて骨折ですかね。一番まずいのはにじり寄ってきて嚙まれることです。これは体を切断されてしまうので死に至る致命傷を負わされます。一番いいのは走り出したら止まれないので横にさっと除けて、野獣豚とは違う方向に走って距離を開けることですね。もしくは高いところに上る。野獣豚は視力がほとんどないのでさっと横にズレれば気づきません。今すぐは危険なのでもう少ししたらナカータさんの様子を見に行きましょう。」
ヒデミさん「アデルさん、ナカータさんならきっと無事ですよ。そんなことよりここにいては私たちも危険なのでは?野獣豚が戻ってくるかも。荷物をまとめて先を急ぎましょう!」
アデルは、ヒデミさんはナカータさんのこと気に入っていたのでは?と思ったが、確かにのんびりしていてはせっかくの食料も尽きてしまうかもしれないので、先を急ぐことにした。
片付けはすぐに出来た。ナカータさんはまたしてもバッグを置いていった。アデルはヒデミさんと相談してナカータさんが帰るのに必要なお金を残し後は使わせていただくことにした。
直売所の品物は食材以外もすべて購入した。そしてナカータさんのバッグを空の直売所の棚におきその場を後にした。
「ナカータさんありがとう、気を付けてお帰りください。」というメッセージを無料テッシュの広告のその裏面にメモ書きで残して。
同じころ、イリヤンさんの病室では、看護師さんが二人で巡回に来ていた。
床ずれにならないように傾けていた体を元に戻し、そろそろ次の部屋へ移動しようとした時、イリヤンさんが一言呟いた。
イリヤンさん「おばあちゃん・・・」
一人の看護師さんが慌ててイリヤンさんに話しかけた。
「イリヤンさん、大丈夫ですか?」
もう一人の看護師さんはダッシュで医師を呼びに行った。
程なくして医師と呼びに行った看護師さんが病室に駆け込んできた。
このお話は次回から枝分かれします。魔人の住処の続きと、新たに続編としてプリンセス?ナカータ(BL)とブラックエクソシスト・イリヤンが始まります。書き上げてある怪文書を何とか読めるまでに修正するのと、本業との兼ね合いで次回投稿まで時間を要することがございます。