魔人の住処続き10
翌朝、アデルは寒さで目が覚めた。
アデル「う~ん、、寒い・・・」
上体をを起こして周囲を見ると他の皆はまだ寝ていた。
アデル「っつつつ・・頭痛い。飲みすぎた。。」
足元を見ると焚き火の火は消えいて、灰の中からは燻るような匂いと細い煙が1本上がっていた。アデルは上の方の灰を近くに置いてあった枝でグリグリ掘り起こすと一部が灰になりかけている黒い木炭が出てきた。それに猛烈に息を吹きかけて火を熾すと、お酒の入っていた空の木箱一つを燃料として焚火の中に入れた。ちょうど良い感じで火が付くと今度は近くに置いてある木の枝をその火を囲むように3本、斜めに立てかけた。火を熾しながら、アデルは男子たちが寝ている間に温泉に入った方が良いと思いついた。そして寝ているヒデミさんの肩を軽く叩きながらヒデミさんを起こした。
アデル「ヒデミさん、起きれそう?ですか?このままここで寝てたら風邪ひきますよ。男子たちが寝ている間に温泉入って温まっときましょう。」
ヒデミさんが目をこすりながら起きた。
ヒデミさん「あ、アデルさん、おはようございます。ここはどこですか?なんか、冷えますね・・・。」
ヒデミさんは少し寝ぼけているようだった。アデルは
「男子たちが寝ている間に温泉入りませんか?」
とだけ言った。
ヒデミさんがアデルと同じように周りを見回すと男子二人と野獣豚二匹がくっついて寝ていた。
二人はさっと準備をすると温泉へ直行した。朝の冷えた空気のおかげで、温泉の湯気が霧を作っていた。これならば寝ている二人の場所から裸は見えない。目隠しをしないで済むので楽だ。アデルはウイスキーの少し残っている瓶と、焚火でできた灰に水を混ぜて作った苛性ソーダ水もどきの入った瓶、ルークのボディオイルを持って温泉に入ろうとした。その時、
ヒデミさん「アデルさん、その瓶の中の白く濁った液体はなんですか?」
ヒデミさんはアデルが手に持っていたお酒の瓶を見てそういった。
アデル「ああこれ?残ってたウイスキーです。これにはちみつを入れてあるので溶かしながら温泉の熱でアルコールを飛ばしていきます。」
ヒデミさん「飲むんですか?」
アデル「いいえ、石鹸用です。」
そう聞いてヒデミさんはたいそう感心したように言った。
ヒデミさん「石鹸ってそうやって作るんですか~。」
アデル「この後アルコールが飛んだら、今浸かろうとしているこのぬるぬるした温泉と、ここにある焚火でできた灰を使って作った灰汁の上澄み液を少し入れて、さらに香水と勘違いしていたルークのボディオイルも入れて温めながら混ぜて型に流し込めば出来上がりです。」
そう言うとアデルはルークのボディオイルは近くの岩の上に乗せたままにして、瓶二本を持って温泉に入った。ヒデミさんも続くように温泉に入った。
ヒデミさん「アデルさんは本当に何でもご自身で作れてしまうんですね!」
ヒデミさんはそう言うと岩の上に乗せたままのルークのボディオイルを見て言った。
ヒデミさん「それにしても今どきの若い男子はスキンケアをちゃんとするんですね。」
アデル「温泉とかスパ銭好きとか言っているあたりから推測すると、健康オタクの気配もしますね。」
アデルの話にヒデミさんは頷きながら
ヒデミさん「お年寄りとかでそういう感じの方がいらっしゃいますよね。お散歩のあとに早朝割引料金を利用して更に20回入ると1回分が無料で入れるスタンプカードも押してもらって節約と健康の両方を満喫している方が。」
アデル「それ、うちの父がそうですね。」
会話が止まった。ヒデミさんが何か言おうとしたところで先にアデルが話し始めた。
アデル「それより石鹸ですが、間に合わせの材料で作っているので洗ったときにべたつく可能性がありますが、ないよりましってことで出来上がったら使ってみてください。」
アデルはヒデミさんからすると少し気まずい空気をお湯と一緒にさらっと流した。
アデル「石鹸うまくいくといいな。」
ルーク「お姉さんたち、抜け駆けはいけないなあ。」
霧の向こうでルークの声がした。
アデル「ルーク!ちょっと今出るからあっちで待っててもらえるかな?」
ルーク「無理。もう脱いできた。寒いから入る。」
シゲル「ほんと寒いよな。」
ヒデミさん「ちょっと!」
アデルとヒデミさんの意見は無視してルークとシゲルがまたしても乱入してきた。そして野獣豚も入ってきた。
野獣豚「クルルルゥ~♪」
野獣豚は気持ち良さそうに鳴き声を漏らした。アデルとヒデミさんは男子たちが入ったと思われる場所から遠いと思われる端へ移動した。
ルーク「別に湯気で見えないからいいじゃん。」
シゲル「ほんと目の前真っ白~。」
結局、四人と二匹でそれほど広くはない横に長い8畳ほどの大きさの温泉に浸かった。
ヒデミさん「その豚さん、ノミとか大丈夫なんですか?」
アデル「野獣豚は基礎体温が平均45度以上あって、皮脂腺からは皮膚を乾燥から守るための強力な酸と油が出ていて皮膚呼吸はあまりしていないため、呼吸に反応して吸血をする生き物は野獣豚を標的にすることがないです。また皮脂は解けた状態で厚い層を皮膚の上に形成するため、くっついたら最後、油が吸着して窒息死をさせます。そのため、ノミやダニは基本的にはいないです。きれい好きで温泉に入るときはアルカリ性の温泉に入り、中和と熱によって古い皮脂と酸を溶かす。間もなく豚さんの周りに油がたくさん浮いてきますよ。やっぱりこのお風呂はアルカリ性か。」
シゲル「アデルお姉さん色々と詳しいな。」
アデル「野獣豚のことは、野獣豚の研究にドはまりしている先輩から聞きました。で、野獣豚の皮脂は剥がれてもすぐにまた汗腺から分泌されるので、・・・そろそろ豚さんこっちおいで。」
野獣豚はルークの隣からアデルの側へ移った。アデルは隣に来た野獣豚の体を手でごしごしした。
ヒデミさん「アデルさん、豚さんを洗ってあげているのですか?」
アデル「そう。それと油の回収。ルークたちのほうでゴミとか埃のついた油を落としてきたはずなので、ここでマッサージして新たな皮脂の分泌を促します。良し浮いてきた。」
アデルはアルコール分を揮発させたウィスキーの瓶で野獣豚の皮脂と皮脂の混ざった温泉を素早く回収した。そして香り付け程度にルークのボディオイルを混ぜた。すると、
ルーク「あれ?なんか俺のボディオイルのにおいがする」
シゲル「ほんとだ。ルークのっぽい。ってかお前の体の匂いじゃないの?」
二人のやり取りにアデルはギクッとして額に汗が滲んだ。
アデル心の声「ヤバイ、気づかれたか?寝てたから勝手に持ってきちゃったけどバレると気まずいぞ、先に話すべきか?」
と、アデルは闇オーラを出しながら思った。
アデル「あ・・れ、これ、ルークのボディオイルか。なんでこんなところにあるのかな?ごめん、使っちゃった。えーと・・さてこれをよく攪拌させて、型に流し込んで固める。ヒデミさん、瓶の中で固まらないうちに型に入れてきますので先に出ますね。」
そう言うとアデルはそそくさと湯から上がった。
ヒデミさん「私も出ます。」
シゲル「ルーク、俺らも出るか。」
ヒデミさん「だめです!」
ルーク「なんで?」
アデル「二人は着替えたら呼びに来てあげるから待っててよ。豚さん脂をありがとう。」
野獣豚「ぐご」(訳:どういたしまして)
二人は温泉から上がると体が冷えないうちに素早く着替えて、アデルはルークのボディオイルを袋の中に戻した。そしてお酒の入っていた木箱をもう一つ探して、その中に瓶の中身を移した。そして二人を呼びに行った。
アデル「お待たせ、ごめんね。もう出てもらっても大丈夫。」
返事はない。まさかのぼせたか?と思ったが湯煙の中から二人の姿が現れたのでホッとした。が、
アデル「ルーク!!前隠そうよ!」
相変わらずルークは全開だった。
そして。
アデルたちは朝食の支度を始めた。今まではヒデミさんとケチってお米はお粥にしていたが、男子二人が普通の白いご飯がいいと駄々をこねるのでしぶしぶ圧力なべでご飯を炊いた。
ルーク「なにこれ!普通のご飯よりうまい。」
シゲル「うん。ほんとうまい。」
おかずは直売所で買った食材のあまりで、具沢山スープをこしらえた。
アデルたちはルークの持ってきたパンにチーズをのせて食べた。
食事が終わると四人は片づけをわちゃわちゃと済ませて7番目の曲がり角を目指した。地図の通りに道をまっすぐ進むと、大きな山の裂け目によって道は寸断されていた。裂け目のその先は上り坂になっていて森へと続いていた。
四人「あらまあ。」
地図が書かれてから数百年たっている。地形の変化はあってしかるべきことだ。その時野獣豚がアデルの手をつんつんした。
アデル「ん?」
アデルが野獣豚を見ると、野獣豚は裂け目に沿って左に歩き始めた。そして途中で止まり振り返るとアデルを見た。
アデル「もしかして、ついて来いってことかな?」
ヒデミさん「きっとそうですよ。豚さん道を知っているのかも。」
アデル「食料も残りが少ないから早めに魔人を探さなきゃならないよね。時間を無駄にはできないから豚さんを信じよう。」
その時だ。後方から男性の大きい声がした。
武装男A「若!アンダー!!」
四人が振り向くとそこには馬に乗った5人の武装男たちがいた。
シゲル「何しに来た?」
武装男A「ボスが帰れと」
ルーク「馬か。考えたな。」
武装男B「若が豚に乗ってきたんで、馬でも行けると思いました。」
ヒデミさん「みんなで危険な道を通りやすくしてきましたしね。」
ルーク「それよりさ、何か食べ物持ってきてる?あったらおいて帰って良いよ。」
武装男A「必ず連れ戻せと。何ならそちらのお姉さん方も一緒に。」
武装男Aがアデルたちを見た。ヒデミさんを見た眼はなるほど、と納得したような感じだったが、アデルを見た時の目は、え?この女の何がいいの?と疑問げな感じであった。
アデルはその目の動きに傷ついた。
ルーク「俺は帰らないぜ。」
武装男A「若~!」
シゲル「事が済んだらいったん帰るからそれまで入口で待機しとけば?」
ルーク「そうだ、インスタントラーメンをたくさん買っておいてよ。あと・・・米!!こっちのお姉さん、料理が最高なんだよ。」
武装男Aのアデルを見る目が変わった。その目はなるほど、胃袋ね、胃袋をつかまれたのか!と納得した目であった。
武装男A「仕方がありませんね。いつお戻りに?」
シゲル「そうだな、2,3週間くらいしたら戻る。」
武装男Aは武装男DとEに荷物を下ろさせた。Dの袋には果物とお菓子がたくさん入っていた。Eの袋には酒と食材が入っていた。
シゲル「あと、荷物運び用に馬1頭置いていってくれる?」
武装男Aが武装男Eを見た。
武装男E「わかりました。。」
武装男Eの馬が置いて行かれることになった。
武装男E「あの、差し出がましいかもしれませんが、アンダー達のお世話役で一緒に着いていってもよろしいでしょうか?」
武装男Eが申し出た。
シゲル「そういうの、今回は無しで。」
武装男Aが武装男Eに目で引け、と言った。
結局武装男Eは、Dの後ろに乗って帰っていった。
アデル「豚さん待ってるし、そろそろ行こうか?」
こうして旅のパーティーに馬が一頭加わった。
アデルたちは野獣豚のあとを7キロくらいついていった。すると、裂け目の幅が狭くなっているところがあった。四人と動物たちはそこから向こう岸へわたった。渡ったところは山の岩肌が所々に出ている高山苔の群生地だった。そこから地図上の道へと今度は裂け目の右側に進んだ。地図上の道に戻った時には時間は午後三時を回っていた。
アデル「もう少し七番目の曲がり角に近いところまで行って野営の準備しましょうか。なんか色々とたくさん差し入れをいただいたので、少しのんびり行けそうかな。」
そして4人と動物たちは七番目の曲がり角を目指した。
二時間ほど歩くと雪が降って来た。
ヒデミさん「アデルさん、雪が降ってきましたね。」
アデル「ですね。」
ルーク「なんか寒くなってきた気がする。」
四人は立ち止まると空を見た。うす暗くなった空から、雪がちらほらと花弁のように落ちてきた。
シゲル「森は目と鼻の先ってところだな。」
アデル「少し急いで森に入った方が雪を除けられるところがあるかも知れない。洞窟とか山小屋とかあればいいけど。」
4人と動物たちは急ぎ目に森へ入った。森の中へ入ると枯葉の上にはいつ積もったものかわからない雪が残っていた。降り初めに気が付いてからそんなに時間は経っていないがいつしか雪は本降りになっていた。。
シゲル「なんかこの辺は雪山への入り口みたいだね。」
アデル、ヒデミさん「なんかわかるかも~。」
ルーク「ところで・・・この中で雪山用の着替え持ってる人いる?」
アデル、ヒデミさん、シゲル「持ってない。」
全員沈黙。
少し間を開けてシゲルが開口一番、
シゲル「とりあえず、雪をしのげる場所、探そうか!」
と言った。
四人と動物たちは一旦地図上の道から外れて、雪をしのげる場所を探すことにした。
地図上の道から少し離れたところに、岩と岩の間の亀裂が縦に大きい洞窟があった。高さは優に10メートルは超えていた。この洞窟は穴の周りに草木は生えておらず、立ち姿勢のまますんなり中に入れた。中に入ると奥の方に明かりがついているのが見えた。
先頭を歩いていたシゲルが、
シゲル「あれ?奥に誰かいる?」
と言った。
四人と三匹は明かりの方へ近づいた。すると
「何しに来た。」
と、先に洞窟入りをしていた毛皮を着た大きいおじいさんが焚火をしながら声をかけてきた。その横には秋田犬と甲斐犬のミックスのような大きな茶色い犬が眠っていた。
シゲル「雪が降って来たんで、凌げるところはないかな~と探しに来たんですが、お邪魔でしたよね。すみませんあっちの方行きます。」
と、シゲルが言ったので全員入口の方に戻ろうとした。その時毛皮のおじいさんが
毛皮のおじいさん「待て!」
と緊張感の走った声で言った。犬の耳がピクピクピクと小刻みに動いた。何かを聞いているかのようだ。
毛皮のおじいさん「今入り口に戻ったら間違いなく死ぬぞ!」
四人「ええーっ!!」
そのおじいさんの言葉に4人と三匹にも緊張が走った。
アデル「し、死ぬってどういうことですか?」
この質問に毛皮のおじいさんの顔は険しくなり、その目の奥からは鈍い光が出た。
毛皮のおじいさん「オッソ・ベアーじゃ。」
四人「オッソ・ベアー?」
毛皮のおじいさん「そうじゃ。ふもとの村で老若男女赤子を問わずに100人以上食らっている人食い熊じゃ。わしはそいつを追ってここにたどり着いた。」
四人「ええーっ!!」
毛皮のおじいさん「もうすぐ奴はここへ戻る。わしはそいつをこれで仕留める!」
毛皮のおじいさんはそう言うと刃先の輝く刺身包丁二本を構えた。
アデル「2本の刺身包丁!もしかしてあなたは伝説の!」
ルーク「板前さん!」
アデル「いや、伝説のベア・ハンター。」
シゲル「伝説のベア・ハンター!?って、なにそれ?」
ヒデミさん「伝説の・・・なんか、聞いたことがあります。包丁二本のみで、熊と戦う愛犬家がいると。」
その時、隣で寝ていた犬の耳がピン!と立った。毛皮のおじいさんことベア・ハンターおじいさんは
ベア・ハンターおじいさん「来たな。」
と言った。
そしてベア・ハンターおじいさんは覚悟を決めたかのような表情で立ち上がり、羽織っていた毛皮を勢いよくガバッ!と脱いだ。隣で寝ていた犬も起きて大きなあくびをし、背中をクゥーンと言って伸ばすと全身をぶるぶると振るわせた。
ベア・ハンターおじいさん「行くぞ、サビテツ!!」
ベア・ハンターのおじいさんはそう言うと洞窟の入り口の方へ犬とともにすさまじい勢いで走っていった。四人がその勇姿を目で追うと、洞窟の入り口には大きなツキノワグマが、鮭を銜えて歩いていた!
ルーク「わー、なんか木彫りの熊みたい。」
アデル「お魚銜えた熊さんだ!!」
そして入り口付近ではベア・ハンターおじいさんに気付いた熊が、野郎やんのか上等だ状態で銜えていた鮭を地面に叩き付けて立ち上がった。見るとやつは5メートル超えの巨大な熊だ。
ベア・ハンターおじいさん「行くぞサビテツつ!!ドリル・トルネードッ!!!」
ベア・ハンターおじいさんはそう叫ぶと、包丁を持った両腕を垂直に上にあげ、体を後方にねじらせるように素早くジャンプした。フィギュアスケートの4回転半ジャンプよりも早いその姿は、高速回転するドリル状の竜巻になった。犬もおじいさんに続くように背面に体をねじらせながら素早くジャンプするとその姿は高速で動くドリル状の竜巻に変わった。そんなことはありえない!、だが彼らは高速回転でスピンしながら体当たりしようと熊を目掛けた。しかし熊はその姿に驚いてその場から逃走、ベア・ハンターおじいさんと犬はスピンした状態のまま、洞窟を出てはるか遠くまで熊を追っていった。そして消えた。
四人はぼーぜんと見送った。
シゲル「凄い、超人のような離れ業だ・・・。」
ヒデミさん「鮭、手に入りましたね!それと毛皮。」
ルーク「焚火、あったかい。。」
アデル「今日はここで、雪山攻略のため英気を養いますか。」
焚火の周りにはベア・ハンターおじいさんが持ち込んだと思われる防寒用の毛皮が数枚あった。布団用だろうか?そして、干し肉と一口サイズの黒いキューブ状の固形物があった。それからは血の匂いがした。
四人はベア・ハンターおじいさんと熊からの貢物をありがたく頂戴した。




