四十話 汐音への誕生日プレゼント②
次に汐音が選んだのは中の大きさのプレゼントだった。
先程と同じようにリボンをほどくと紺の生地に白色の水玉が描かれた衣服が姿を現す。
正確には衣服ではなく、エプロンなのだが。
「これは?」
説明を求めるように汐音の綺麗な黒い瞳がこちらを見る。
プレゼント一つ一つに選んだ理由を述べないといけないらしい。
「見ての通りエプロンだ、柏木にはいつも料理を作ってもらってるから、それを着て毎日、料理を作ってほしいと思って選んだ」
まるでプロポーズしているような発言に気恥ずかしくなったが、汐音は少し嬉しそうにエプロンを抱きしめて大きく頷いた。
早速、着てみようと思ったらしく、エプロンを装着してくるりとその場で一回転する。
「似合ってるかしら?」
「……ああ、似合ってると思う」
思わず、こんな嫁がいたらいいなと思うくらいには似合っている。
いつもの凛とした表情ではなく年相応の幼さが表れたような笑顔も影響しているのだろう。
しばらく、着心地を確認した後、ようやく汐音はエプロンを脱いだ。
汐音の反応を見る限り、このプレゼントは評価が高いのではないだろうか。
後、残るプレゼントは一つ。
悠希の中ではこれが一番汐音からの評価が分かれると思っている。
選ぶのに一番時間をかけたので悠希としては喜んでほしいのだが。
そんなことを考えているうちに――。
丁寧に袋の中身を取り出した汐音がぱちぱちと目を瞬き中から現れたそれと目を合わせているのが眼に入った。
気に入ってくれたのだろうかと汐音の表情を伺うが、じっと見つめあっているだけで、表情からは何も読み取れない。
もしかして気に入らなかっただろうかと不安に思って、汐音の顔を見つめていると、少し顔を上げた汐音と目があった。
「もしかして、気に入らなかったか?柏木に似てると思って買ってきたんだが」
「この猫さんが私に……?」
汐音が言った通り汐音の手の中には猫のぬいぐるみがあった。
以前、汐音が携帯のメッセージで送ってきたスタンプに似た黒猫のぬいぐるみ。
浮かべている表情は気持ちよさそうな寝顔だが、目の垂れ具合が汐音が屈託なく笑った時の表情に近くて悠希はこのぬいぐるみを購入することを決めた。
因みにこのぬいぐるみはクッションとしても使えるらしく、抱き心地と手触りは抜群に良い。
汐音が枕を欲しいと言っていたのでそれも考慮に入れて買ってきたのだ。
正直、汐音がそこらの可愛い物が好きな女の子と同じかと言われると同じとは言い切れないので、ぬいぐるみを気に入ってくれるかは一か八かなところがある。
「目元とか柏木に似てると思ったんだが……」
黒猫のぬいぐるみを選んだ理由を一応説明すると、まじまじともう一度ぬいぐるみと目を合わせて汐音が細い腕でギュッと胸に黒猫を抱いた。
汐音が浮かべたあどけない笑顔と絶対に離さないとでもいうように強く抱きしめた汐音の態度から、黒猫のぬいぐるみを汐音が気に入ってくれたことが分かって、悠希は安堵の溜息を吐いた。
あどけない笑顔を浮かべた汐音の表情はぬいぐるみの浮かべた表情に似ていて、悠希は自然と頬が緩むのを感じた。
黒猫のぬいぐるみを優しく抱き留めて慈愛のこもったように頭を撫でている汐音の様子は見ていて微笑ましい。
なんというか見ていて癒される。
汐音が天使のように整った美貌を持っているのもそうだが、一番の理由は普段汐音が見せないような穏やかで柔和な笑みだろう。
目じりをへにゃりと曲げて愛おしそうに黒猫を愛でる汐音の姿はこれまで見た中でも一二を争うくらいに幻想的で可愛らしくてたまらず、悠希は目を逸らした。
天使様の油断したような笑みに癒されるのは確かだが、刺激も強すぎるということを改めて悠希は認識した。
しばらく、抱き心地を確かめるように何度か角度を変えて黒猫を抱きしめていた汐音がハッとしたように表情を正した。
悠希が近くにいるということを思い出したらしい。
表情を正そうとはしたのだろうが、普段の汐音からは考えられないような痴態を見せてしまったことで、汐音の顔は色濃く紅潮していた。
「う~~~~」
子猫のような可愛らしい唸り声を汐音があげる。
「み、見たわよね」
見たか見ていないかと言われると当然、見た。
プレゼントを喜んでくれるかなと思っていた相手が嬉しそうにプレゼントとじゃれあいだしたらそれは見る以外の選択肢はないだろう。
ここで見ていないと言っても説得力の欠片もないので悠希は正直に認めることにした。
「まあ、見たな、柏木がその黒猫とじゃれつくところも、抱き心地を確かめるのも、後その黒猫を撫でるのも」
「く、詳しく言わなくてもいいわ」
拗ねたように汐音が視線をぷいっと逸らした。
少しからかいすぎてしまったらしい。
「でも、気に入ってくれたみたいで良かった」
そう言って悠希が微笑むと汐音が恥ずかしそうに口を尖らせた。
「べ、別にそこまででもないのだけど」
「なら、その黒猫、俺が貰ってもいいのか?」
「それはダメ‼」
意地を張る汐音が可愛らしくてつい、いじるような言葉が口から洩れてしまう。
悠希の発言を受けた汐音は黒猫を悠希から守るようにギュウッと強く抱きしめている。
汐音が子猫を守る母猫に見えて悠希は微笑ましい気持ちになる。
「この子、大切にするわ」
「……そうしてくれると俺も嬉しい」
自分に誓いを立てるようにそう言って、へにゃりと年相応のあどけない笑顔を浮かべた汐音は見つめている悠希が悶絶するくらいには可愛らしかった。
思わず、汐音を撫でたくなった衝動を必死に抑える。
あくまで、汐音を撫でるのは本人がそれを望んだ時だけ。
それを破ってしまえば、ところ構わず、汐音を抱きしめたり撫でたりしてしまいそうで、悠希は自分の欲望を行動に起こすまいと心を落ち着けることに意識を集中した。
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