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三十九話 汐音への誕生日プレゼント①

汐音が作った手料理を食べて後片付けをした後、落ち着かない様子でソファとリビングの机の間を往復していると汐音が声をかけてきた。


「矢城君、今日は勉強するかしら」


一瞬、サプライズがばれたのかと思ったが、勉強をするかどうかの確認だった。

ここ、六日程、悠希は汐音から勉強を教えてもらっている。

何でも、さぼり癖のある悠希の成績を心配しているらしく、汐音の方から勉強を教えてあげましょうかと提案があったのだ。

当然、悠希としては断る理由もないので、汐音に数学と英語を教えてもらっているのだが、一つだけ問題があった。

汐音の距離が近いのだ。

一緒に勉強をするときには汐音が隣にこしかけるのだが、汐音が教えてくれるときには肩が時々、接触するくらいには距離が近かった。

汐音から漂う甘い香りに意識を持っていかれ、汐音を意識しないようにするということに集中力を持っていかれるくらいには距離が近く、汐音にドキドキさせられぱなしだった。

それでも、汐音の解説が分かりやすいおかげで勉強しないよりは格段にましなのだが。


「いや、今日は本が読みたいからいい」


どうせ汐音にプレゼントを渡した後は安心感で勉強などできないと思い、素っ気なく断ると心なしかシュンとした様子の汐音から「……そう」と残念そうな呟きが返ってきた。

プレゼントの事で頭がいっぱいだった悠希は汐音の浮かべた表情にはきづかなかったが。


心を落ち着けようとソファに腰かけ本を数ページめくったところで来客を知らせるチャイムが鳴った。

マンションロビーのドアを開けて一分ほどでもう一度、玄関口からチャイムが鳴る。

汐音はこんな時間に何が届いたんだろうと不思議そうにしていたが、特に何も聞いてこなかった。

玄関口でケーキを受け取り、そのついでに汐音のために買ったプレゼントが入った紙袋も寝室からリビングに運ぶ。


リビングに戻ると両手に荷物を抱えた悠希に何が入っているのかと汐音が不思議そうな表情を浮かべた。

荷物が何かは気になるが、まさか自分への贈り物だとはおもっていないらしい。


プレゼントを贈るための言葉などを軽く考えていたのだが、緊張で忘れてしまった。


「柏木、これ」


汐音の方にプレゼントとケーキを差し出すと、困惑したような表情を浮かべながらも汐音が二つを受け取った。


「えっと……」

「開けていいぞ」


困ったような表情を浮かべる汐音に袋の中身を空けるよう促すと、おずおずといった様子で汐音がケーキの入った袋からケーキ箱を取りだす。

ケーキ箱からホール型のチョコレートケーキが出てきて汐音が目を輝かせるのが分かった。

やはり汐音にはチョコレートケーキが正解だったらしい。


「矢城君、これ……」

「今日、柏木の誕生日なんだろ」


あくまで素っ気なく悠希が言うと、汐音が瞳を瞬かせた。

リビングの壁に掛けてあるカレンダーをみてようやく汐音は今日が自分の誕生日であることを認識したらしい。


「そっか……今日、私の誕生日なのね」


あまり実感がわかないのか汐音が小さく呟く。


「それじゃあ、こっちは何かしら?」


少し期待のこもったような目で汐音がこちらを見つめてくる。

汐音に喜んでもらえるようにと選んだとはいえ、悠希の中ではプレゼントはあくまでバースデイケーキのついでなのでそこまで期待したような目で見つめられても困るのだが。


「柏木へのプレゼントだ、ただ、あんまり期待するなよ」


そこまで、自分のセンスに自信があるわけではないため、一応くぎを刺しておく。


「開けてみてもいいかしら」

「ああ」


頷くと、汐音が紙袋からプレゼント用に包装された子袋を三つ取り出した。

大、中、小の三つのプレゼントが目の前で取り出されるのを見て、悠希は緊張感が高まるのを感じた。

こんなに異性にプレゼントを贈るのが恥ずかしいものだとは思わなかった。

世のカップルは皆、こんなに恥ずかしい思いをしてプレゼントを渡しているのだろうか。


どれから開けるか迷っていたようだが、汐音は小さい袋から開封することに決めたらしい。

するすると汐音が丁寧にリボンをほどくのを見守る。

中に入っているのは日焼け止めだ。

諒真におすすめされた消耗品を意識して選んだもので、これから夏に入るため、女性なら使うかなと思って購入した。

悠希は毎年、特に日焼け対策などしていないので、正直どれがいいかなどは分からなかったので、店員にお勧めを聞いてその中で汐音が好きそうなものを選んだ形になる。


「日焼け止め……?」

「これから日差しが強くなるから使いそうだと思って……使ってもらえるとありがたいんだが」


汐音の反応がいいのか悪いのか分からなかったので言い訳するように言葉を紡ぐ。


「大切に使わせてもらうわ」


汐音が満足そうに頷いたのを見て、ようやく悠希は一つ息を吐いた。

残るプレゼントは後二つ。

このドキドキを後二回も体験しないといけないらしい。


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