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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
港町
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2

二人は集団に近付いたが、その中心にいる人物の正体に気付いた二人は、思わず顔を見合わせた。なぜなら、そこにいたのはクリス本人だったからだ。何故彼がここにいるのだろう。当の本人は一緒にいる男性と何かを話しており、何もおかしいことではないとでも言うような雰囲気だが…。

「…そういえば、お姉様が言っていました。お兄様は、その容貌の綺麗さと気さくな性格のために、パーティーでいつもご令嬢たちに囲まれていたと…」

ジゼルによると、彼の周りはいつも華やかなのだという。当時からクリスは人々の注目を集めていたということなのだろう。エリカはパーティーと言われてもあまり想像ができないのだが、ジゼルの呆れたような口調からすると、日常茶飯事だったのだと思う。レオもそれを聞いてその様子を想像していたその時だった。突然、ずっと隣にいる人物と話していたクリスがこちらを見た。エリカが驚いていると、クリスはその瞳をこちらに向け、目を見開いた。そうかと思うと人ごみを掻き分け、風のような速さでエリカの元へやって来た。周囲が一体何事かと驚いている中、クリスだけは瞳を輝かせ、エリカの両肩に手を置いた。そして、少し上ずった声で、

「なあ、お前、エリカだろう?そうだよな?!他人の空似とか夢とかじゃないよな?!」

そう問いかけてきた。その勢いに若干エリカは戸惑ったが、何とかその問いにうなずいた。

「ええ、そうですよ。お久しぶりです。…あの、でも、お話が中断して…」

話が中断してしまったが大丈夫なのか、とエリカは聞こうとしたが、最後までその言葉を言う前に、クリスが興奮気味にエリカの手を取って、安心したように笑う。

「良かった…!エトリセリアで大規模な戦が起こったって聞いて心配していたんだよ」

クリスは更に話を続けようとしたが、そこでエリカが心配そうに彼が話していた相手を見たので、ようやくその存在を思い出したようだった。そうしたことに慣れているのか、彼はただ苦笑しただけだった。

「クリス殿、この話についてはまた今度にいたしましょうか?急ぎの用ではありませんし」

「ああ、そうだな。せっかく時間を作ってくれたのに済まない。またよろしく頼む」

どうやら、その人は商人だったらしい。彼は微笑み、その場から去って行ってしまった。周りにいた女性たちもそれをきっかけに去って行った。気を遣ってくれたのだろう。エリカが少し申し訳なく思っていると、クリスは掴んでいた手をようやく離した。

「…今更だが、悪かったな。お前が天文台にいた時、何もしてやれなくて。ジゼルに何かあったらよろしく、って頼まれてはいたが、結局今回も…」

クリスはそう言ってエトリセリアの方角を見つめた。ここからはかなり遠いため、エトリセリアの風景を見ることはできない。だが、クリスはすぐそこに王城があるようなまなざしをそちらへ向けていた。まるで、もう二度と戻ることのできない日々を思い出しているかのように遠くを見つめている。その瞳には、懐かしさと寂しさ、そして悔しさが入り混じっている。きっと、反乱が起こった時に何もできなかったことを悔やんでいるのだろう。エリカは少しうつむいて首を振った。しばらくその場に感傷的な空気が流れたが、やがてクリスはその雰囲気を吹き飛ばすかのような明るい声で言った。

「さて、話したいことがたくさんあるし、俺もエトリセリアについて色々と聞きたいことがある。取りあえず俺の屋敷に戻るか。疲れていると思うが、もう少しだけ頑張ってくれ」

「分かりました。でも、一つだけ。レオさんも一緒にいいですか?私の命の恩人なんです」

エリカがレオを指し示すと、そこでようやくクリスの目がレオの方を向いた。どうやら、エリカと会えたことで頭が一杯で、彼に気付いていなかったようだ。レオは突然自分に注目が向いたことに驚いたようだったが、

「はじめまして。レオ・ログナートと申します。かつては、王城の騎士を務めておりました」

と淀みなく挨拶した。クリスはその名前を聞いて何かを思い出したらしく、はっとした。

「あ、思い出した!まだ俺がエトリセリアにいた頃、騎士団長から君の話を聞いたことがあったよ。彼は得意げに君のことについて話していた。若手の騎士の中で、最も剣の扱いが優れていると…。君がエリカをここまで連れて来てくれたのか…。ありがとう」

クリスはそう言って笑った。今度剣の打ち合いをしよう、と誘われたレオはかなり戸惑ったが、取りあえず、機会があったらその時に、と返事をした。クリスが非常に剣の扱いに優れているのは知っているので、実際に手合わせしたら勉強になりそうだ。そこまで話したところで、三人はようやく屋敷に向かって歩き出した。相変わらず人が多く、気を緩めたら迷子になりそうだが、ここでもレオが先ほどのように手を繋いでくれたため、人ごみにまだあまり慣れていないエリカでも何とかなりそうだった。

クリスが先頭に立ち、港町について色々と説明をしながら歩いていく。この場所はフレイア国の中でも有数の栄えた町で、人だけでなく物もたくさん集まってきている。だが、彼はしっかりと町全体や店を知り尽くしているようだ。逆に店や町の人々もクリスのことをよく知っているようで、先々で声をかけられている。クリスもその度に一言二言、衆人に声をかけたり手を振ったりしてそれに答えている。彼の快活な性格が、人々の注目と人気を集めていることを感じられた。クリスと民の間には、強い信頼があるのが確かに感じられる。

だが、そこでレオはとあることに気付いた。クリスが町人に話しかけられていないタイミングを見計らい尋ねた。

「クリス様、護衛は連れていらっしゃらないのですか?先ほどから、それらしき方がどこにも見当たりませんが…」

その言葉でエリカもようやく気付いた。エリカはずっと人里離れた天文台に一人でいたため、護衛が全くいない状況の方が普通だと思っていたが、本来の彼女の立場であれば、それはあり得ないことだ。身分が高ければ高いほど、暗殺だけでなく何かを要求するための手段として狙われやすい。しかし、今、クリスの周りにはそれらしき人が誰もいない。そもそも、先ほどたくさんの人だかりができていた時から護衛らしき影はなかった。確かに、今の状況は刺客からすれば狙いやすい状況だが…。エリカは思わず辺りを見渡したが、クリスは平然とその質問に答えた。

「それなら全く問題ない。俺の護衛たちは、離れたところから守ってくれてる。敵が近付くよりも、あいつらがそれを見つける方が早いんじゃないか?」

そう言ってクリスは近くの路地に目を向けた。エリカたちも釣られてそちらの方を見ると、屈強な男が一人の人物を捕まえているところだった。捕まった人物は暴れているが、捕まえている方は全く動じていない。捕まった人物は圧倒的に不利な状況のまま、どこかに連れ去られていった。どうやら、屈強な人物はクリスの護衛らしい。それを見て驚くエリカたちに、クリスは不敵に笑った。だから大丈夫なんだ、というような自信満々な表情である。ついでに、先ほどの護衛のことについても少しだけ教えてくれた。彼はクリスがエトリセリアから連れてきたそうで、元々は王城に勤める騎士だったという。どうしても彼にはついてきてほしい、と国王に直接頼み込んで、本人がそれを承諾したら、という条件でようやく許可をもらったのだという。

「まあ、そういうわけだから、こうして歩くのはもちろん、屋敷も安全だ。優秀な奴らが大勢いるからな」

クリスが最後にそう締めくくったのと同時に、三人は屋敷にたどり着いた。

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