二話 濡れ衣
また続きました!
「待たせたな、セラ!起きろ!」
突如として聞き慣れた声が頭に響く。通信魔法独特の、ザラザラとした音と共に届いた父の声を聞き、意識を戦闘モードに切り替える。
透明魔法を解除した父は、レニを処刑しようとしていた兵士を剣で斬り払う。銀色の鋼に赤い装飾が施された鎧が上下に千切れた。
切り離された王国兵の身体が床に倒れた瞬間、私は素早く起き上がるとレニの方向に飛び出した。右手で剣を抜き、同時に頭の中で呪文を唱え、治癒魔法を発動する。
前方では父の手によって、王国兵たちが斬り倒され、倒れ伏していく。
ベリエ戦士団団長ゼンズ・ベリエ。元ラストワード共和国百人隊長であり、剣技だけでなく魔法にも精通したミスティックナイトである。軍を除隊後は自らの手で傭兵団を組織し、たった十年で業界内では知らない者がいない程の軍団に育て上げた。彼愛用のツーハンデッドソードによる斬撃は鎧を叩き潰し、容易に敵を両断する。
私はレニを回復させると、意識を失った彼と共に階段下へと退き、戦闘態勢をとった。次なる呪文を詠唱し、いつでも発動出来るように戦闘を注視する。
父の剣とモーニングスターがぶつかり合い、かん高い音をたてる。父は一人で四騎士を相手にしていた。迫り来る戦斧を掻い潜り、ブロードソードの斬撃を受け流す。フードの女や優男も攻撃しようとするが、躊躇したようにその手を止める。どうやら四騎士は連携することに慣れてないらしく、お互いの攻撃を警戒し、本来の実力を出せていないようだった。だが四対一では父の優勢も長くは続かないだろう。
騎士たちの隙を突き、父が衝撃波の呪文を唱える。並みの兵士なら吹き飛ばす程の威力がある呪文だが、流石は四騎士と呼ばれる強者、四人共よろめいただけですぐに態勢を立て直した。
だが、それで十分だった。魔法によって構築された半透明の壁が彼らと私たちを分断する。丁度、大広間の真ん中に出現したその壁によって父と騎士たちの戦闘は中断され、互いに睨み合うこととなった。
戦闘のピリピリとした雰囲気と共に、静寂が辺りを包む。お互いにフルプレートにも関わらず、聞こえるのは鎖帷子が揺れて鳴る微かな金属音のみ。互いに相手のどんな動作も見逃さないように神経を張り詰めていた。
「王国四騎士とお見受けするが。何故、俺たちを襲撃した?」
先に沈黙を破ったのは父の方だった。
「理由は分かっているだろうベリエ団長…!貴殿らはホワイトランディング村で虐殺を行った!反乱軍鎮圧の命を受けていたとはいえ、反乱とは全く関係ない市民を殺害するには立派な戦争犯罪だぞ!」
先程、カサンドラと呼ばれていた女騎士が口調を荒げる。
「ホワイトランディング?確かに我々は反乱鎮圧の為、いくつかの村には攻撃を仕掛けた。しかし、その村には行っていない。そもそもその村は反乱軍の拠点ではないだろう」
二年前。王国から直々に反乱鎮圧の依頼が舞い込み、私たち傭兵団は南部の都市群へ侵攻した。元々は王家の貿易方針に納得できない南部貴族と王家派の北部貴族の対立だったが、そこに北部で農民一揆が起こったことで事態は急展開した。意外にも一揆の勢力が急速に拡大し、王都まで迫った事によって南部貴族が呼応しクーデターを起こしたのだ。貴族たちが国外から最新の魔具を輸入し、私兵に配備させるだけでなく農民たちにも流したことによって王国軍は苦戦を強いられ、私たち傭兵や他国に助けを求める事になる。結局、農民たちは内部の対立で瓦解し、貴族たちは私たちの手によって半年程で鎮圧された。
私も父に同行し、いくつかの戦果も挙げた。
だから断言出来る。私たちは虐殺など行っていない。
確かに沢山の人を殺したがそれは依頼されていたからだ。何も関係ない村を襲い、市民を虐殺するはずがない。
「虐殺なんてしていないっ…!」
なるべく目立たないようにしていたが、身に覚えのない濡れ衣を着せられつい声を挙げてしまう。
「私たちは野盗まがいの傭兵団とは違う!依頼された通りに任務を遂行しただけで無関係な人に手は出していない!」
「セラ、そこら辺にしとけ」
父が私を制し、女騎士に尋ねる。
「そこまで私たちが犯人だと断定するからには何か証拠があるのだろう?聞かせてもらおうかカサンドラ殿」
「証拠?証拠だと…?貴様らに同行した王国軍第三大隊の全員が証言したんだ。ベリエの傭兵たちに脅され虐殺が行われる様を見ている事しか出来なかった、それでも抵抗したり上に報告しようとした者は殺された、とな!彼らに非はない。だが貴様らは…!裁判に掛けられ、然るべき裁きを受けなければならない!」
「カサンドラお姉様。これ以上、こんな嘘つきどもと無駄な会話をする必要はありません。裁判なぞに掛けずとも、今すぐこの私がいまいましい壁を破壊し、ゴミどもをお姉様のために消し去ってみせましょう!〈封印魔法・肥大する火球〉!」
フードの女が早口で話し始めたかと思ったら突然、聞いたこともない魔法を発動した。女騎士や他の二人が急いで止めようとするが、女魔術師は目を爛々と輝かせ詠唱を続ける。
父の顔に焦りの色が浮かび、魔法壁を強化し始めた。
出現した火球は見る見るうちに巨大化し、壁を覆い尽くした。ひびが入り始めている。
「封印魔法だと…!馬鹿なっ…!セラ、いいかよく聞け。レニと一緒に俺の部屋の隠し通路を使って城を脱出し、波止場に止まっているラストワードの国旗を掲げた船に乗るんだ。そこで待っている人間が今回の事情を説明してくれるはずだ。港は封鎖されている。気を付けろよ」
有無を言わさぬ口調で父が話す。こんな時は父の言う事を聞くのが一番だ。しかし……
「父さんはどうするの…?」
レニに肩を貸しながら父に向き直る。
「俺はこの壁で時間を稼ぐ。危なくなったら逃げるから心配するな。さあ、いけ!」
私はレニと共に父の部屋へと走り出した。
大広間から出る直前、父を振り返る。父は私を振り返り…微笑んだ。
魔法壁が破れ、炎の奔流が流れ込む。
そして私の父は消し飛んだ。
量的にはちょうど良いかな?




