ブ男VS偽令嬢!
こないだベネットとエリザベスのイラストを試しに描いてみましたが、己の画力の無さに嘆きました。
「ふふふ……さすがは女史と呼ばれてることだけのことはある。このアタシの変装を見破るとはねん」
「……アタシ?」
紳士は部屋のお立ち台まで跳び上がり、一瞬で変装を解いた。
そこには。
ピンク色の忍者がよくする装束を着た……。
くノ一……ではなく。
アオヒゲ・タラコクチビル・ケツアゴの三拍子そろったブ男オカマが立っていた。
「アタシはジョーカーズ十三部隊の一人、《スピリットドレイン》の使い手、メルカトルちゃんよぉん! あら? アタシの美貌にうっとりしちゃってるのかしらん? やだわん!」
そうではない。どうしてジョーカーズにはこんな痛い子しかいないのかと、唖然としているのだ。
「あ、現れやがったなジョーカーズ! 女史、もう演技は終わりだ! やっちまえ、ベネット! あれ? ウィッカムは?」
「あら、いつの間に……どうしたんでしょう……?」
ウィッカムの姿はなかった。
しかしベネットはお構いなしに、
「《ポインター!》」
と、矢印を放った。すると、
「《スピリットドレイン》! ちゅ♡」
ブ男メルカトルが放った投げキッスが、ふわふわ浮く赤い唇の幻影になり、矢印に刺さった。
「うっ……!?」
ベネットは膝から崩れ落ち、倒れた。
「こン……の!」
「ベネットさん!」
エリザベスはベネットを介抱し、治癒しようとした。しかし、彼女の能力では、どうやらまだ通用しないようだった。
「そんな……わたし、こんな時なのに役にたたないなんて……」
エリザベスは涙を浮かべたが、ダーシーは彼女の肩に手を置いて、
「いまはしょげてる場合じゃない。俺たちはギフテッドだが、エンプティに近い能無し。それでも、コリンズ女史のために何ができるか考えよう」
エリザベスは涙を拭って、立ち上がった。
メルカトルは、
「ああ~ん、いいわあ~♡ イケメンの霊体は絶品よねぇ。アタシ、女が大っ嫌いなの。だからソーネチカとかいうブ女なんて、殺してやりたかったけど、イヴたちの女憲兵に取り囲まれたから、霊体だけ奪って逃げていったわ」
「お前がソーネチカ様を!」
ロージャは激しく怒った。
「そこの金髪女。アタシと決闘なさい。あんたら、可愛いプライムちゃんを行方不明にしたそうじゃない。イライザ様がお怒りよ。あんたはどんな女より一番気に食わないわん。殺してあげるわよん♪」
女史は怒り震えたが、口角を上げてどこか勝ち誇った笑みを浮かべ、
「上等よ。あんたを殺せば、あんたの霊体は持ち主に全部戻るんでしょう?」
「あら、呑み込みが早いわねん。ま、お決まりのパターンだしねん♪ いいわ。こちらもふさわしい変装とふさわしい口調にもどしてあげる。デベロッパ忍術・変身!」
ドロンと煙を立ち上らせ、メルカトルは変装した。
煙の中から、甲冑を身にまとった身長の高い男が現れた。顔は仮面に隠れて分からない。手には剣を持っている。
「コリンズ女史、あなた、腕っぷしがお強いんでしょう? これをお受け取りください!」
そう言ってロージャは壁に飾ってあった上等な剣を放り投げ、女史は受け取った。
「あなたに女史と言われると、少々臭いですわ」
二人はほほ笑み合い、コリンズ女史は剣を構えた。
「来なさい」
「いいだろう」
メルカトルはオカマ口調をやめていた。低い声が甲冑の中でくぐもり、威圧感を出していた。
他の客が逃げ帰り、ダーシーたち三人と、ロージャと、怯えている側近たちのなか、静寂の時間が流れる。
最初に踏み込んできたのは、メルカトル。太刀筋を弾く、コリンズ女史。女史が反撃に出ると、メルカトルは屈み、女史のわき腹を突こうとした。が、女史は反応して、後ろに跳躍して距離をとって交わした。それからお互い剣のぶつかり合いで、互いの持久力を消耗させていった。
二人は剣を構え、肩で息をした。
「女のくせにやるではないか」
「動きづらいのよねこのドレス。まあハンデだと思ってちょうだいな」
「笑止!」
メルカトルは跳び上がり、女史を切り倒そうとした。だが女史は、
「《オーラ》!」
と叫び、全身の力を増大させて、メルカトルの剣を払いのけて彼を弾き飛ばした。
しかし。
「デベロッパ忍術・変わり身の術!」
メルカトルは叫び、弾き飛んだのは藁だった。
「女史! 危ない!」
その次の瞬間には、元のピンク装束のブ男メルカトルが、女史の背に回って、剣を首元にあてがい、女史はそれに人間離れした反射速度で反応し、腕力で抑えていた。
「うふふ……いいかげん観念なさいん。あなたは《オーラ》で強化してるつもりだけれど、こちらも《スピリットドレイン》で着々とあなたの体力を奪っているのよん。さあ、楽しくなってきたわん。首の皮をぎちぎちに切って血をにじませ、そこからじわりじわりと痛みを伴って首を切り落としてあげるわん♡」
不敵な笑みを浮かべるメルカトル。
「コリンズ女史!」
「来ないで!」
ロージャが剣を持って迫って来た。
「ロージャ様。いえ、ロージャさん。あなたと一緒に公園を散歩したり、チェスをしたり、テラスで談笑したりするのは、本当に楽しかったですわ。ソーネチカさんのためとはいえ、だましたことは謝るわ。本当に、ごめんなさいね」
「ちょっとお待ちください……。あなたを失ったら……私はもう誰も愛する人がこの世からいなくなる……」
「本物のソーネチカ嬢がいるじゃない、あんな素敵な館に。結婚だけじゃないですわ。人を愛するというのは。彼女に寄り添ってあげて。彼女の愛は届かなくとも、あなたの愛はきっと届くわ……ってちょっと待って、あなた、私のことがお好きに?」
「あ……いえ……そんなつもりでは……言葉の……あやで……」
女史はふふっと笑い、
「それじゃあ、死ぬわけにはいかないわね」
そう言って女史は。
メルカトルの方に向き直り、彼の大きなタラコクチビルにキスをした。
メルカトルは青ざめて、女史を突き飛ばした。
「なっ……おえっ……ぺっぺっ……なにすんの!? あたしは女が大っ嫌いって言ったでしょ……」
次の瞬間には、コリンズ女史の剣が、メルカトルの胸を貫いていた。
「どうしたの? 変わり身の術はおしまい?」
「ぐ……この女……冥途で待ってるわよん……!」
メルカトルに刺さった剣を引き抜くと、そこから血がどくどくあふれ出し、メルカトルは失血死した。油断したせいで、変わり身の術を使い損ねたようだ。
「コリンズさあん!」
エリザベスは泣きながらコリンズ女史に抱き付いた。
「もう、あなたって子は、ホント可愛いんだから……」
ロージャは顔を真っ赤にし、
「その……あなたのご健闘に、感謝いたします」
女史はエリザベスを離し、ロージャの元に歩み寄って、
そっと背伸びし、口元にキスした。
ロージャはいっそう顔を真っ赤にした。
女史はくすりと笑い、
「罪作りなひと。でも私も、キスはこれで三回目ね。一回目は初めて交際したひと、そして二回目は、この帳消しにしたい男。三回目は、とっても素敵なあなたよ」
あはは、と、照れくさそうにロージャはあたまを掻いた。
「おーい」
駆けつけてきたのは。ウィッカムと。
「ソーネチカ様!?」
「ロージャ様!」
ソーネチカがドレスを纏い、ロージャの前に来て、飛びつき、二人は感激しながらダンスを踊った。ウィッカムは、こうなることを見越して、ソーネチカを車に乗せて連れて来たのであった。
「息をふきかえしたのですね!」
「ええ……でもわたくし、ちっとも辛くありませんでしたわ。だって、ずっとあなた様のお姿が、夢に出て来たのですから。そう。夢の中のあなたと、わたくし、何度もダンスをしていたのです」
「まったく。こちらの心配を返してくださいよ」
二人はほほ笑みあっていたが、側近たちは、
「これはどういうことか最初から全部説明してください!」
と、寄ってたかってダーシーに詰問した。ポルフィーリィは彼らをなだめるのに必死だった。
そうして、ダーシーはロージャに、国王に国中のイヴをシェルターに匿わせる条約を締結させた。しかし、子育てに忙しい者、どうしても愛する夫から離れたくない者は強制しない、という条件付きで。その結果、総勢21名のイヴがシェルターに住むことを同意した。ダーシーが、シェルターでの豪勢な生活っぷりを説明をしたら、ほとんどの女性が飛びついたのである。
別れの場は、タランティーノ邸で行われた。
ダーシー達はスーツ姿、ベネットとエリザベスは私服に戻った。
ロージャとソーネチカ嬢が、タランティーノ邸の玄関に立ち、物寂しそうにしていた。
二人の婚約は正式に成立し、ソーネチカはロージャの妻となることが決まった。
「本当に、行かれるのですね……」
「ソーネチカ。私たちは貴族だ。出国リストに名前が載っているから、いつでも二人で飛びにいけるよ」
ロージャはソーネチカに敬語を使わなかった。まるで幼少期の彼らに戻ったようだ。
「ええ。お二人とも、いつでもわが社にいらしてください」
ダーシーは二人と握手した。
ソーネチカもシェルターに入ることを検討したようだが、ダーシーの方から拒否した。ソーネチカが出ていってしまうと、お見合いがパーになり、タランティーノ家のポルフィーリィとソーニャは路頭に迷うし、なによりもソーネチカはロージャを愛している。引き離すわけにはいくまい。
「二人とも、お幸せに」
「女史、あなたもきっと素敵な男性に巡り合えますように」
「女史?」
ソーネチカが問うと、ロージャは青ざめて、
「い、いえ、深い意味はありません」
コリンズ女史はくすくす笑って、
「私、もう当面は男の人には頼らず、キャリアウーマンとして生きていくつもりですので」
「そうですか」
女史も、二人と握手し、
「それでは、お世話になりました。私たちはこれで」
ダーシーは深々とお辞儀をし、去って行った。
航空機の中では、男どもは眠っていた。そんななか、コリンズ女史はなにかをにやにや眺めていた。
「何を見ているんですか?」
女史は顔を真っ赤にして、
「な、なんでもないわよ。エリザベスちゃんも寝なさい」
「はい。おやすみなさい」
女史はそれを閉じた。が、もう一度開いた。
女史が持っていたのは、ウィッカムに用意させたカメラに写っている、ロージャの写真であった。タキシードを着たロージャに、その隣に、椅子に座っている金髪の美女。
「はてさて、これはソーネチカ嬢かいなか……」
そう満足げに呟き、彼女も眠りについた。
第二章 完