ウィッカムの陰謀と計略
今回の登場人物名は、フランソワーズ・サガンの「悲しみよこんにちは」から取ってます。あとところどころにTCGのデュエルマスターズネタが混じってます。
クローバーズの一員は、シェルターに向かった。
そこには総勢22名のイヴが匿われている。
「着いたぞ」
ダーシーはそう言うと、6人乗りの高級車から皆を降ろした。
一同が宮殿に入っていくと。
「「キャアアアアア!!」」
たくさんのイヴたちが、ベネット、ダーシー、ウィッカムを包んだ。
「勇ましいベネット様。どうか私と夜の一戦を交えてくださらない?」
「由緒ある資産家のダーシー様、私を妻として迎えてください!」
「知的なウィッカム様。また論文をお出しになったんですって? 尊敬いたしますわぁ」
美女たちに取り囲まれ、三人は鼻の下を伸ばした。
「いやぁ……すんません、俺婚約してるんで……でも今度ご一緒に食事でも……」
「こらこら、おやめください。しかし……結婚ですか。考えましょうかねぇ……」
「なんという好待遇、クローバーズでは考えられん! ここで生活するのも悪くなーい……か……な……」
殺気を感じて振り返った三人を待ち受けていたのは、指をパキポキ鳴らすコリンズ女史と、どこから持って来たか本当に分からないが熱湯の入った茶柱の立っているお茶を盆に大量に乗せニコニコほほ笑んでいるエリザベス。
「ここに住むなら、そうしたら? ただその前に、ちょっと痛い目にあってもらいたい気分なんですよね、ダーシーチェアマン」
「さてみなさんお茶にしましょうか。あっ、なんか私もこのあっつーいお茶を皆さんにぶっかけたいなーっていう感じなんですが……」
三人は顔面蒼白した。悪いことはできないものだ。
シェルターの悪夢から一週間後のことである。
四人はデスクに着き、めいめいの仕事をこなしていた。
そんななか。
「おはよう諸君。待たせて悪かったのであーる」
「珍しいなって話していたぞ、ウィッカム。お前が遅刻するなんて」
ウィッカムはふっふっふと笑い、なにやらチケットのようなものをちらつかせていた。
「なんだそれ」
火のついてないシガレットを咥えているベネットが尋ねる。
「これはスピカ王国のリゾート地の旅行券なのであーる。旅行会社の景品で手に入れたのであーる。燃油サーチャージ料含めてたったの一人200リリスで行けるのであーる。すごくいいところだーぞ。サンゴ礁の青い海、豊富な海の幸、水着の美しいイヴ、ロケーションのいいホテル、食べ放題、夜は満点の星空! どうだ、たまには慰安旅行もいいではないーか?」
「へーっ、気が利くじゃない」
「素敵ですね! ベネットさんと満点の星空かぁ……」
女性陣にも受けがよく、ウィッカムは満足げだった。
「しかし残念なお知らせ。このチケットは4枚しかないのであーる。なに、事務所には誰かしらいた方がいいだろーう。そういうわけで、四人で楽しんでいってもらえないだろーか」
「おいどうした、今日のウィッカム変だぞ。なんかいいことあったのか?」
「そうだ。いつもの強情のおめぇなら、イカサマのくじ引きでもやるつもりだぜ」
「おいおいベネット氏、ダーシー氏、なんという低評価! 私は深く傷ついた。なに、嫌ならいいのだぞ」
「そうは言ってねぇだろ。ありがたく頂戴するよ」
「しかし……なんか裏がありそうだな」
四人はチケットを受け取り、仕事に向かった。
旅行出発当日、四人はめったに見られない私服姿で登場した。
ダーシーは麦藁帽にアロハシャツ。完全に浮かれている。
コリンズ女史は大きく胸元が開いたVネックの袖なしのドレス。
エリザベスに至っては肩を大きく露出したノースリーブのへそ出しルック。
ベネットはというと、「私生活しづらっ!」と書かれた白いTシャツにデニムのパンツ。
「それじゃあ、申し訳ないけど、行ってくるわね」
「留守番頼むぞ。出かけるときは鍵を閉めるように」
「楽しい思いさせていただいてごめんなさいね。このご恩はいつか返します」
「あーあ、コーヒー自販機で買って飲むか」
四人はキャリーバックを引っ提げ、出かけていった。
四人がいなくなると、ウィッカムは高笑いをした。
「ふふふ……この私が、そんなにいい人なわけがなかろうて」
彼はスマホをタップし、電話をした。
「久しぶりだーなビングリー。お誘いいただいてありがとう」
『なに、礼はいらんよ。俺と君の仲じゃないか』
「いいな。お前は財宝をいただく。私は女をいただく。その取り決めで文句はないーな」
『つくづく思うんだが、その喋り方疲れねえのか?』
「何を、しつれいーな。私は好んでこの喋り方を心がけているのであーる」
『まあいいけどよ。そううまくいくかな。俺らの計画』
「弱音を吐くでなーい。こちとら同僚にかわいい娘がなびいたというので、嫉妬に駆られる毎日なのであーる」
『ベネットとエリザベスのことか。しょーがねーだろ、お前エンプティだし』
「エンプティは結婚してはいけないと言うのーか!?」
『そうは言ってねぇけどよ……』
「ともかく、空港で落ち合おう! 友よ、いざゆかん、夢のオーリリア帝国で、勝利を掴もうではないーか!」
そうして電話を切り、スーツ姿のまま、彼も事務所を後にした。
数分後。
事務所のドアが突然開かれた。
「うふふ。ベネット。慰安旅行とはいい度胸ね。しかしそんな余暇をぶち壊しにするのも一興。はせ参じたことを感謝……あれ?」
「あ、事務所に鍵をかけるのを忘れていたのであーる。でも電車に乗ってしばらく経ったし、面倒だから、放っておくのであーる。どうせ誰も来やしないに決まっているのであーる」
電車に乗っているウィッカムは、まさかイライザが事務所に乗り込んできたとはつゆ知らず。イライザはというと、すごく恥ずかしくなって、逃げるように帰っていったという。
ウィッカムはフリージア国際空港に降り立った。空港内の時計台のところに、小太りの眼鏡をかけた若者がいた。
「ウィッカム!」
「おお! わが友、ビングリーよ!」
二人は会うなり、シェイクハンドした。
喫茶店に入り、お互いの近況報告をした。
「本当に変わったな、ウィッカム。まさかあのベネットさんと一緒に働いているとは、信じられねぇぜ」
「あんな奴女好きで大したことないのであーる。お前も少し太ったーな」
「まあ、嫁さんができたからな」
「……帰るのであーる」
まてまて、とビングリーは立ち上がったウィッカムの腕をつかんだ。
「お前もこの冒険で所帯を持つんじゃなかったのか? というか、お前の狙っている女性は誰なんだ?」
「なーに、イヴというのは皆美しいし慈悲深い性格なので、私の好みのタイプなら誰でもいいのであーる。そうだな、性奴隷を助けて嫁にさせるのもいーな」
「ホント、根が腐ってるよな。そんで目立ちたがり。エンプティのくせに」
「お前だってエンプティではないーか。まあいい。CUBEは多く持ってきただろーな。あと強力な武器と役に立つ道具は。私はお前だけが頼りなのであーる」
「わーってるよ。CUBEは120個、このかばんの中に入ってるよ」
「はーっはっは! もうどんなギフテッドにも負ける気がしないのであーる! 我らは全能の神に等しいのであーる!」
「嬉しいこと言ってくれるが、俺の開発した道具なんだからな?」
そうして空港を後にし、二人は飛空艇に乗り、目的地のオーリリア帝国のエアポートに向かっていた。
「うーむ、非常に文明が進んでいるのであーる」
オーリリア帝国は地下に魔力が蓄積されており、それが原因で常夜の街になっている。世界観は近未来で、いくつもの飛空艇が、電光掲示板の広告を流しながら飛び交っている。ビルばかりが立ち並び、飛空艇から見下ろすオーリリア帝国の景色は、まさに百万ドルの夜景であった。街はいくつも自動車が飛び交い、事故でも起こしたら大変だとハラハラさせられる。
「あれがオーリリアハウスかーね」
「おそらく、そうだろう」
ウィッカムが指さした先には、巨大なガラス張りの建造物が立っている。オーリリアハウスというのは、ダジュールというオーリリア帝王が住んでいるという。
「そろそろつくぞ」
「うむ、それなら煙草をふかして夜景に浸るのであーる」
ウィッカムはくしゃみをしてから、鼻を拭って煙草に火をつけた。
──オーリリアハウス。
大きな毛むくじゃらの獣の巨人が、会議室を立ち去った。体長は5メートルあり、でっぷりと太っている。天井は高く設計してあるが、ドアを通るときは、巨人は身をかがめた。
「陛下、それで、我が企業への融資の件は」
眼鏡をかけた中年男性が巨人にこびへつらう。
そう、この巨人こそ、ダジュール帝王であった。
「そんなもん知るか。戦争になったらいくらでも融資してやる」
「ありがたきお言葉、光栄です……」
中年男性は怯えながらも、心の内では舌打ちしていた。
ダジュールは機嫌よさそうに寝室へ入って行った。
その寝室には、スタイル抜群の絶世の美女が、露出度の高いドレスを着てベッドに寝ていた。
「随分お早いお帰りですのね」
「お前と夜伽をするのがわしの楽しみだからな」
ダジュールは王女の傍により、彼女の額にキスした。大きな巨体でベッドがきしむ。
王女はどこか耐えているように、ダジュールのキスを受けた。
「さて、セシル、今日はどんなプレイを楽しもうかね」
「陛下。たまにはどうか、優しく抱いてくださらないでしょうか?」
「口答えする気か!」
そう言ってセシル王女をビンタし、乱暴に手錠をかけた。
「いや、やめて! お願いします、乱暴なのは怖いんです!」
「黙れ、いい子にしておれば痛い目には合わせん!」
強引にキスし、セシルのドレスに手をかけようとした、そのとき。
窓が割れ、何者かが入ってきた。
暗い部屋の中では、それはただの黒い影でしかなかった。
「何者だ!」
ダジュールは銃を取り出し、乱射した。が、黒い影は簡単によけた。
そして黒い影はあっという間にセシルの元に辿り着き、彼女を担ぎ上げた。
「貴様、王女をどうする気だ! うっ!」
影はダジュールの眉間に蹴りをくらわした。ダジュールはよろめき、骨とう品の並べられている棚に倒れた。大きな音がした。影はセシルを抱え、窓の外へ出て行った。
すぐに従者が駆けつけて来た。
「陛下、何事ですか!?」
「侵入者だ! セシルを奪って逃げていった! 追って捕えよ! そしたら直ちに処刑だ!」
「はっ!」
影は道路を時速数十キロメートルで駆け抜け、
「《ワイヤー》!」
ビルにワイヤーを放ち天井まで上った。
そして王女を降ろし、胸もとから取り出した針金で手錠の鍵を開け、外した。リュックからランタンと何かの石を取り出し、石をカチカチ言わせて火花を放ち、ランタンに火をつけた。
「あなた……なんてことを……自分のしていることが分からないのです……か……え……?」
セシルは影の方を見ると、目を丸くした。
その影の正体は。
取るに足らない、か細い腕をのぞかせた、少女だったからである。
「自己紹介が遅れたね。あたしは盗賊のエルザ。あんたの家の紋章を頂きにきた」
石が、ぎらりと輝いた。




