青年紳士の正体
今後は読者様の負担を軽減すべく一話を短めに投稿します。
──フランス、パリ。
ステッキを持って新聞を読みながら歩く背の高い仮面を被った、あのホテルで女を抱いた青年紳士。
彼は表向きは貿易商をやっているのを装っている。
が、実を言えば。
「今度のターゲットは何にするか……。オークションで5億ユーロで落札されたアジア人画家の油絵……ほう。こいつは面白そうだ。落札者は地主か。どれ、酒場で情報を集めてみるか」
すると通りがかりの子どもたちが、
「あ、イジワール紳士だ!」
「イジワール紳士! チュロスちょうだい!」
イジワール紳士とよばれた青年は、にこやかにほほ笑み、ポケットの硬貨をとりだして子供たちに握らせた。
「金は魔法だ。欲しいものになんでも姿を変えてくれる。わかったらこれ持って、おもちゃでもチュロスでも買ってこい」
「イジワール紳士、ありがとう!」
彼の名はイジワール紳士。
こう見えて、実は世界でも有名な窃盗犯なのである。
ところがなぜか警察はそう簡単には手を出せない。
ただ一人、ボルボ警部を除いては。
──アメリカ、ワシントン州。
ICPOワシントン支部。
ボルボ警部はイジワール紳士逮捕の計画を練っていた。
たった一人、地図を広げて。
「コーヒーが冷めますよ」
そう声をかけたのは、彼の妻であり、警部補のシェリー。
「イジワールの野郎、今度はオークション品に手をつけようとしてるらしい。どうやら日本に来日するそうだ」
「情報が早いのですね」
「当然だ」
ボルボ警部は冷めたコーヒーを啜る。
彼の背中は大きく、がっちりした体型が目立つ。
「日本に行くのですか?」
「ああ。奴のいるところならどこにでも行くさ。お前はどうする?」
「私は仕事が残っていますので……」
「まるで俺が暇人のような言いかただが、まぁいい」
「実際暇人じゃないですか。イジワール紳士を逮捕しようなんて、無茶な案件ですもの」
「うるさいな。ま、せいぜい頑張ってコンビニ強盗でも捕まえることだな」
「ICPOに逮捕権はありませんよ」
ボルボ警部とイジワール紳士は、ほぼ同時に日本へと発った。
──日本、横浜。
朝比奈第一小学校。
「なぁなぁ? 今度裏山行かね?」
「いいわねぇ。竜一は?」
「まぁ、模試も無事に終わったし、一日だけならいいよ。母さん説得するから」
裏山には桃介たちの秘密基地がある。
秘密基地と言っても、大地主の家のことで、桃介は大地主の木林という老人と懇意で、テレビゲームなどをやらせてもらっている。全然秘密ではないのではあるが。
学校の帰り、桃介は大地主にスマホで電話した。すると大地主は、すごいものを手に入れた、と告げた。
電話を終えた桃介は、
「また変なもん手に入れたってよ」
「あのじいさん、お金持て余してるから、そういう趣味にいくらでも使っちゃうのよね。あたしだったら札束ばら撒いてボーイズバーでイケメンをはべらすわ」
「僕は……読書でもしようかな……あと勉強も」
「馬鹿野郎竜一! ゲームにポテチこそ小学生の模範じゃねぇか! やるぞ! 新作ゲーム!」
そうして、終末、三人は学校のフェンスを上り、私有地にこっそり入り、茂った木々の間を抜け、道に出た。
そこはだだっぴろい山麓がひろがっており、青葉の香りがする。
「何度来てもいいとこよねぇ」
小夜は伸びをする。
「おーい、よく来たのぅ」
「木林じいさん!」
山麓の邸宅に、木林家があった。




