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第四十七話 それぞれの夜 その①

 夕方五時半。瀬川邸。

 妻祥子がパートに出て行き暫くすると、光男は突然暴れ出した。

 食器棚の皿を一山、床に叩き付けて壊した。

 廊下に出て、愛用のゴルフのクラブで壁を叩いた。

 リビングではソファーをひっくり返し、テーブルをゴルフクラブで何度も叩いた。

 しかし、それだけだった。

 自分でも思った以上に暴れていない事に気付いて、光男はそのまま、リビングのフロアの上に倒れ込んだ。

 眩暈も、耳鳴りもしない。

 こんなにショックな事があったのに、俺は何も変わらない。メニエール病も再発しない。暴れても何処かで手加減して暴れている。光男は何処かいつもと変わらない自分に苛立ちを感じた。


「ちくしょう。俺の家族を壊しやがって。俺の娘を奪いやがって。ちくしょう…」


 そう呟きながら、光男は目を閉じると、いつの間にか眠ってしまった。




 夜八時半。

 マンションの渡辺の部屋で行われた食事会も、お開きを迎えた。

 ゴミはみんなで手分けして、分別してビニールに入れ、テーブルの上も綺麗になった。

 料理は安藤の活躍でほぼ完食となった。

 そんな中、みんなが立ち上がり後片付け等している際中に渡辺が口を開いた。


「これから買い物の用事があるんだ。だから佐々木さんも安藤君も、ついでに車で家の側まで送るよ」


「こんな時間に何買うんです?」


 安藤が尋ねた。


「いや、俺のじゃない。美冬ちゃんのを、色々ね」


 渡辺は少し照れながら言った。


「今日は良いですよ。このまんまで。明日学校帰りにでも買い物するから」


「そういう訳にはいかない。君は女の子だ。その、色々用意しないといけない」


「用意って?」


 安藤が渡辺に更に尋ねる。


「下着とかじゃないの」


 それに舞がポツリと答える。


「はは、まあ、色々さ。パジャマとかも欲しいだろ」


 舞の言葉に渡辺は笑いながら照れ臭そうに言った。


「今日じゃなくてもいいのに」


 更に美冬が恥ずかしそうに小さな声で言う。

 舞はそんな美冬を見ては溜息をついて、そして再び口を開いた。


「買い物は、二人で行って下さい。私と安藤君は歩いて帰りますから。安藤君とも話たい事あるし」


「そうなの?」


 すぐさまニコニコして安藤が聞き返して来た。


「うん、まぁ」


 舞は受け流す様に答えた。


「なんだ、そういう事かい」


 渡辺は何か一人で納得した様に頷いた。



 午後九時を過ぎた頃、安藤と舞は帰路へと向けて歩いていた。

 マンションのあった国道沿いの道から、市道に入り、住宅の立ち並ぶ方へ向かって歩く。


「今頃二人で買い物か。ドンキでも行ったのかな? 良かったの? 佐々木さん」


 安藤が横を並んで歩く舞に向かって尋ねた。


「多分、渡辺さんは大丈夫。でもあの人、なんかオカシイ様な気もするの」


「俺もそう思った。動きが早いんだよな」


「動き?」


「うん。昨日の今日じゃん。昨日初めて会って、今日には瀬川さんのお父さんに会って話し済ませて、今日の夜にはみんなで食事会して。その日の夜から瀬川さんはお泊りで」


「ホントだ。良く考えたら凄い早い動き。なんでだろ?」


 舞は少し考え込む様な顔をして言った。


「多分人恋しさが爆発したんだろうな。それで一遍に関わりたくなった。瀬川さんの事は、元々狙ってたんじゃないのかな? 自分の娘の代わりにとか」


「そういう人には見えないけど」


「見えない人が色々やってる時代だろ。佐々木さんだって、俺に話あるとか、思わせぶった事言って。話ってこういう話だろ」


 少しつまらなそうな声の安藤。


「話があるってしか言ってないじゃん」


 それに対して舞は少し笑いながらそう答えた。


「美冬の事、話したかったんだ。美冬、渡辺さんの事どう思っているんだろうかとか、これから実際どうして行くんだろうとか。私、明日は泊まるつもりだけれど、現実問題、二~三日が精々。渡辺さんは確かに実の娘の代わりに美冬を家族にしたいのかも知れないし、それが美冬にとっては生きようと思える事なのかも知れないけど。ホントにそれでいいのかな? ねぇ上手くいくのかなぁ」


「やっぱり瀬川さんの話かよ」

 

 安藤は舞の話を聞きながら、聞こえない様に小さな声で呟いた。


「そう言えば安藤君。中学違うけれど、帰る方向は同じなの?」


「ああ、高校入学に合わせてウチ、引っ越して来たから。方向はこっちで良いんだ」


「ふーん。今まで気付かなかったけれど。案外家近かったりしてね」


 安藤は舞の話に、心此処に有らずだと思った。







つづく

いつも読んで頂いて、有難うございます。

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