マジで?
目を覚ますとメディカルポッドの中だった。
内部コンソールを弄って見てみると過労と、脳への負荷が原因でぶっ倒れたらしい。
まだ点滴中と表示されているのでそのまま通信を開く。
「メリナ、アナスタシアだ。今起きた。三行で説明してくれ」
「アナさん倒れた後全員で睨み合い、連合の歓待到着して膠着状態終了、現在近場の惑星に着陸中です」
「なるほど、理解した」
つまり戦後処理、あるいは現場から俺達を遠ざけたかったわけだ。
あのアトランティクス、なにかあるな?
移動方向を変えればいいと言っていたのに、こっちが要求した装備をあっさり用意してきやがった。
殺してでも欲しい何かを持っていたと見るのがいい。
なにより軍の動きが早い。
あいつら近場で待機していたんだろうな。
俺達の心配ではなく、ドンパチに巻き込まれる肉塊の心配をしていたと見た方がいい。
なんでも疑ってかかるべきところだからな、宇宙は。
「先方への説明はデータを渡しておおよそ済んでいますが、最後の確認だけはお願いしますね」
「あぁ、それは任せろ。というかどうにもきな臭いから交渉になると思うぞ」
「交渉ですか?」
「そうだ、あー、回線越しでいいならこのまま交渉に移ってもいいと先方に連絡してみてくれ」
「はい……あの、今まで見たことない速度で返事が来たんですが」
やっぱりか。
向こうとしても立役者としての俺を保持しておきたいんだろう。
保護じゃないのがみそだ。
「回線開け」
「開きます。どうぞ」
「こちらホワイトロマノフ、アナスタシアだ。悪いね、こんな格好で」
「いえいえ、うちのメリナ女史がお世話になっておりますのでお気になさらず。今回もこのような仕事を受けていただいて、大満足の結果も残してくださいましたから」
モニターに映し出されたのはおっさんだった。
それ以外の表現方法がないというか、特徴が無さ過ぎて数秒すれば忘れそうなのが特徴。
雑踏にでも紛れ込まれたらすぐに存在を見失いかねない。
生身じゃねえな。
それにメリナの所在をサラッと宣言してきやがった。
あいつ今フリーだけど、国籍的にはそっちだからといういい分があるんだろう。
「先に言っておくがメリナは本人の許諾が取れれば所属をベルセルクにも変える事ができる。それを念頭に話をするべきだと思うがどうだ」
「えぇ、そりゃもちろんですはい」
うさんくせぇ……。
あれだ、セールスマンだ。
笑いながら腹の探り合いするタイプの。
「政治とか面倒な話は嫌いでね、さっさと本題に入ろう。あのアトランティクス、何を持ってやがった」
俺の言葉にピクリと反応してみせる。
わざとだ。
見せてもいい手札の一枚と言った所だろう。
「既に、お察しでは?」
お察しでないが?
「さてね、窓口とはいえ関係者本人の口から聞きたいものだ」
だがそれをおくびにも出さない。
政治をしているなぁという気分になるけど、交渉なんて大抵こういうものだ。
口と態度でする格闘技と言えばわかりやすいんだが、嫌いなんだよこういうの。
苦手じゃないけどさ。
「では回線を秘匿の物に変えても?」
「うちのクルーが聞けるなら」
よし、カードを切らせた。
このまま話を進めさせよう。
メリナにはアイコンタクトでノイマンを指名、これで盗聴の心配は無いし録音もできる。
「では……はい、切り替えました。という事でアトランティクスですが、あれは人工怪獣という類でしてね」
「ほう? つまりペットを宇宙に放流したら想像よりでかくなって帰ってきたから焦って駆除に動いた、ってわけじゃないんだな」
「えぇ、あれには外宇宙の探索をさせていました。その間に想定以上のエネルギーを吸収して肥大化した個体だと調査結果を受け取っています」
なるほど、地球で言うところのボイジャー、外宇宙探査船を人工的に作り出した宇宙怪獣にやらせてたわけだ。
……待てよ?
「で、実際宇宙怪獣の何割があんたらの作った奴なんだ?」
「正確な数字はお出しできませんが、半数は人工とだけ」
通りで宇宙怪獣の退治依頼がないと思ったよ。
こいつらが作って野に放ってた猟犬だったんだから。
残り半分を駆逐するため、今回みたいな外宇宙観測のため、あとは戦争のためとかろくでもない理由が基本だろう。
「あー、面倒なことになりそうだから詮索はしないさ。それであのデカい魚は何を持って帰ってきた」
「外宇宙に存在する複数の科学発展惑星を」
「続けて」
「その中で興味深いのが水の星、金の星、火の星、木の星、土の星と言った配列」
「おい、政治はやめろと言っただろ。地球が関わっているんだな。俺が以前、連合のコロニーでメリナと一緒に軟禁されてた時の記録の」
「失礼しました。その通りです」
正直ゾッとした。
けど表情に出さないように頑張った。
まぁ見抜かれたと思うけど……。
「見たところ外宇宙までの探査船。はっきり言ってしまえばあなたの船を用意できるほどの科学力があるとは見えませんね」
「そこまでわかるのか……あぁ、地球に縁はあるがこのボディはそこ出身じゃねえ」
「これまた政治的な言い回しですね」
「うるせ、意趣返しだ」
「ではそういう事にしておきます。それでどうでしょう、そちらの惑星探索を新たな依頼とすることでもう一稼ぎ」
「馬鹿言え、アトランティクスが探索するレベルの外宇宙だ。何十年かかるかわからねえし、金にならねえよ」
「ですが短期間で行き来する方法がないわけでもないでしょう?」
……ルディのことか。
確かにアロアニマの能力を使えばワープじみたこともできる。
ただ今回の依頼を受けるならマザーの力も借りた方が安全だ。
そのための対価となると……結構な金額になるぞ。
「却下だ、こっちの奥の手と秘蔵っ子を利用してようやく目途が立つってレベルの物をはした金で受ける事は出来ねえ。少なくとも今回の依頼料ですら前金の一割にも満たないし、準備金の1%程度でしかないんだ。そこを理解しろ」
「つまりそれだけの金額を積めば、動いていただけると?」
「考えてやるだけだ。そんで現実的なルートを捜したり、今後について模索したりする必要がある。金も必要だが時間だって必要だ。そんで出発すると仮定した場合さらに準備期間も金も山のように必要になってくる。わかるだろ、金鉱脈を掘るなら金と時間が馬鹿みたいにかかるって」
「それはもちろんです。そして我々が目をつけているのは木の星と呼ばれる惑星でして、地球とやらとの外交なんかは正直な所興味ありません。なんならアナスタシアさんがそちらで新たな星系国家を開いたとしても関与せず、しかし相互通商くらいは開いてもいいかと考えていますので」
木星……ヘリウム3だったか?
確かに資源惑星として考えるなら地球軌道の惑星はいいものを持っている。
反物質の有無はわからないが、あの太陽系が抱えている資源は目を見張るものがある。
まぁあくまで俺基準でという話になるが、逆に急速な発展には犠牲と面倒ごとがつきものだ。
それを押し付けるつもりかこいつ。
「政治は嫌いだと何度言わせる」
「ですが悪い話ではないと思いますよ。惑星の統治や国家運営は現地人に任せ、普段は傭兵業で稼げばいい。そして現地惑星で得られる金銭や資源は吸い上げ、更にこちらに戻る際にサンプルなどを用意していただければ相応の金額で買い取る事もできる。儲けを見れば美味しい話です」
「それは儲けだけを見た場合だ。労力と手間、そんで急速に発展する惑星には大抵宇宙怪獣が発生する。国家間の軋轢なんかも当然ある。それらを全部無視しているだろ」
「えぇ、ですからそういうのを纏めて先方に投げてしまえばいいと言っているのです」
「……なに?」
「端的に申し上げましょう。こちらはその地球という惑星に住む住民全員に行き渡り、更に研究サンプルとして余らせるほどのナノマシンを用意できる。モデルケースとして使える宇宙船も複数、操舵士としてアンドロイドも、こちらで使われている日用品や家電も、すべて用意できています」
「てめぇ……最初からそのつもりだったな?」
「はい、白状してしまえば名前が出た瞬間からアナスタシアさんにお話を持っていき、受けていただく事を考えていました」
「断る、と言ったら」
「その時は別の方にお声がけするだけです。ですが今回の立役者にこそ、この仕事はふさわしいかと」
「よく回る口だ」
舌打ちをして、頭の中でそろばんをはじく。
確かに儲けだけ見れば美味しいと言える。
準備とかそういうのは先方が全部やってくれるし、俺はそれに口出ししても問題ない立場を得られる。
マザーに対しての土産物を考える必要があるが、それだって適当に発注をかけてしまえばいい。
なんなら通商なんかはマザー経由、つまるところアルマを通してヘパイストス経由でやるのもありだ。
となってくると……俺がやるべきは地球での混乱への対処か。
流石に生まれ故郷が戦火にとなったら気分が悪い。
くそっ、その辺も織り込み済みか?
名を上げている傭兵を使う表向きの理由があって、裏じゃ現地の統制という別の目論見もある。
上手い情報をちらつかせたことで俺の精神は半分以上地球に関心を向けている。
こりゃ……王手だな。
「いいだろう。ただしこちらが用意してもらうものに対して一切口出ししない事、そしてヘパイストスの当主アルマを今回の一件に巻き込むこと。それが条件だ」
「かしこまりました。ではしばし連合中央惑星でバカンスをお楽しみください」
通信を終えて、ようやく点滴が終わっていたことに気付いた。
……キャパオーバーだな、寝よう。
「メリナ、悪いがしばらく寝る。過労が悪化した……」
「みたいですね。かなりの緊張状態です。まだしばらく手続きがあるのでゆっくりお休みください」
その言葉を聞いて、瞼を落とす。
あー……眠れるかな、これ。




