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③事故物件

投稿再開します、お待たせしました。

③事故物件



フィオナは入学式1週間前に入寮することにした。

今日がその日だ。


早朝から宅配の物に荷物を馬車に運んでもらっている。

宅班員は2名で片方が年配の男性、もう一人は若者の男性だった。


「それではよろしくお願いします、私は先に寮に行って鍵を開けときます」

フィオナは宅配スタッフを労い、引っ越し荷物の入った馬車を見送った。


フィオナはトイレの紙や貴重品を詰めた木箱一つを抱えながら浮遊魔法を駆使して先にオリーブ館に向かった。




オリーブ館では館の掃除をしている寮長マキ・タネスがいた。


「マキ寮長、おはようございます」

フィオナが挨拶する。

「ああ、フィオナさん今日からでしたね、よろしくお願いします」

「はい、事前に伝えておいた通りこの後馬車が来ますので」

「わかりました、馬車が来たら手の空いている者がいたら荷下ろしに手伝うよう声をかけておきますね」

「わぁ、ありがとうございます」


そう言って寮長マキ・タネスはそそくさと仕事に戻ってしまった。

「……? ま、いっか」

妙な違和感を感じつつフィオナは2階の自室に向かった。



2階はやはり静かだった。

フィオナは何となく螺旋階段で3階まで上がってみた。

すると生活音が聞こえてくる。

窓から明るい光が射しこみ、玄関を開け放ち洗濯物を運んだり通路で雑談している寮生がいた。

「んー? 」


フィオナは2階におりて、ひとまず自分で持ってきた荷物を自室に下ろした。


玄関を開けっぱなしにして、全てのドアを開けメイン部屋のカーテンと掃き出し窓を全開にした。

外から日の光が射しこみ、冷たい風が室内に吹き込んだ。


そのままフィオナは風がよく通るように2階廊下の窓も全て開ける事にした。

窓を開けていく過程で(何故2階はこんなに静かなんだろう)と考えていた。

廊下の窓を開けると空気が流れて2階の重ぐるしい雰囲気が少しやわらいだ。

(少しはましになったな、昼間はここの窓あけっぱにしとこ)


廊下を歩いていると目の端に何か動くものをとらえた。

その方をフィオナは振り向いたが何もいない。

が、その方向、螺旋階段から見て右に曲がってすぐ右手の扉が目に留まる。

他の扉はフィオナと同じ金属製の装飾付きの扉なのに、ここだけ質素な木製の扉だった。


「この部屋なんだ? 」

フィオナはドアノブを捻ると、鍵がかかっておらず普通に扉は開いた。

途端。


ガラガラガラガシャーン!と、室内の物が崩れ落ち大きな音が鳴った。


「びっくりした」

どうやらこの部屋は物置の様だ。

寮生に貸し出すシーツや家具等、それから掃除用具などが雑多に置かれていた。

崩れ落ちたのは軽い箱に入っていたさもない雑貨だった。

フィオナは何か動物でも入り込んでるのか辺りを見回したが特に何もなかった。


その部屋にも窓があったので開けて、木の扉も開け放しておいた。

長い事使ってない様で物置のあちこちが埃っぽかったからだ

フィオナは落ちて散らばった雑貨を適当に箱に詰めて適当な場所に置いておいた。




そうしているとフィオナの荷物が到着した。

館のドアチャイムが鳴る前に馬車の音で気付いてオリーブ館正門前でフィオナは出迎えた。


「どうも、フィオナさん? 」

「はい私がフィオナです、配達ありがとうございます、部屋は2階でこの部屋番号です」

「わかりました! 」


宅配員はフィオナとやり取りをおえるともう一人の宅配員と連携してすばやく荷物を運び始める。

宅配員は重い木箱を担ぎながらもどんどん螺旋階段を駆け上がりフィオナの部屋へ荷物を運んで行った。


フィオナは部屋で木箱に貼っておいた紙を目印に部屋のあちこちへ運び直す。

「これはどこっすか? 」

宅配員がフィオナに尋ねる。

「あーそれは玄関横の脱衣所に置いといてください」


そんなやりとりをしてあっという間に荷下ろしは終わってしまった。



オリーブ館前でフィオナは引っ越し代金を払い、買っておいた菓子折りと飲料水を2つ宅配員の男性に渡した。

「ありがとうございました、これどうぞ」

「ああ、これはどうもです」

仕事がひと段落して和んだ空気になり、もう一人の若い宅配員が話し出した。

「いやー噂の2階って言っても割と普通でしたね、何も起こんなくて良かったです」

そういった若者を年配の男性はこづいた。

「お前! フィオナさんは今日からここに住むんだぞ! 失礼だろ! 」

聞き捨てならない宅配員の物言いにフィオナは訊ねた。


「どういうことですか? 2階にやっぱなんかあるんですか? 」

「い、いやあのその…」

「私は大丈夫なんでちゃんと教えて欲しいです、おふたりに悪いようにはしません」



宅配員はお互いの顔を見合し、年配の男性が頷いてからフィオナに話し始めた。

「事件があったんですよ、何年か前にここの2階で、その後は新聞とか読んだ方が正しい情報がのってると思います、大変失礼しました」



宅配員は謝罪し、「それではこれで」と馬車に乗って去っていった。


フィオナは素早く2階の自室に駆け上がる。

書類の入った木箱から寮長マキにもらった学内地図を確認する。

「近くの図書館はここだな、よし」

掃き出し窓と自室の玄関を閉めて学校敷地内にある図書館へ浮遊魔法で飛んで行った。




図書館の場所はすぐわかった。

魔法学校のどこからでも見える空に高く伸びた塔。

ファンタジーらしいゴシックな作りで魔法学校のランドマークである。

四角いおしゃれな建築物に突然円柱状の太い塔が建って上に伸び段階毎に細くなっていってる。


フィオナは(せっかくならコイフも連れてきたかったな)と思ったが、今日からオリーブ館に住むのだ、調べるなら早い方がいいと判断した。


図書館にも妨害魔法がかけられていて、フィオナは飛べずに大人しく正門から入った。


図書館にはかなり多くの人がいた。

説明によると学校部外者も利用して良いらしい。

子供連れの親子や老人が本を読んでいた。


建物内はかなり広い。

1、2階はふきぬけになっており、屋根を支える装飾付きの柱が点在している以外は1階から2階の本棚がずらっとみえた。


館内案内図によると新聞は1階の端にあるようだ。

他にもいろんな種類の本が置いてあるのがわかり、娯楽に飢えていたフィオナは後ろ髪を引かれる思いで新聞コーナーに向かった。



面出し書架には最近の記事が並んでいる。

(オリーブ館の記事ってどうやって調べればいいんだ? 何年度の新聞かもわからないぞ)

とフィオナは悩んだが、大学関連の記事が別でファイリングされている事に気付いた。


とりあえず最近の年度のファイリングを何冊か持って司書さんの元へ行く。

「あの、すいません」

「はいなにかお探しですか? 」

フィオナに司書さんが答える。

「あの、学生寮のオリーブ館2階で起こった記事を調べたいのですが、何年頃のものかわかりますか? 」

「オリーブ館……2階……」

司書さんは横にいる別の司書さんに聞いてみてなにやら会話をしている「あー、あれね」などの単語が聞こえてくる。


しばらくして司書さんが戻って来た。

「10年前の記事ですね、新聞コーナーにあるのですがお探ししましょうか? 」

「いえ、大丈夫です、この本の10年前のですよね? そこにあるなら解ります」

フィオナが持ってきた記事のファイリングされた本を司書さんに見せる。

「そうですね、それでもわからなければまた聞いてください」

「はい、ありがとうございます」



司書さんと別れて新聞コーナーに戻る。

10年前の記事を手に取りペラペラとページをめくった。



「あった、さ、惨劇……? 」

『オリーブ館の惨劇』と目立つ見出し。

内容はこうだ。



優秀と期待されていた魔法学校3年生(当時20代)の女生徒何某氏は、ある大嵐の日、当時暮らしていたオリーブ館2階の廊下にて魔法の練習中、魔法が暴発して死亡、爆散。

散乱した死体が廊下に飛び、2階廊下は酷い惨状であった。

事態を聞きつけて同館の学生が発見、死亡した学生は卒業間近で大変惜しまれた。



(な、なるほどなぁ……あの廊下にねぇ)

フィオナは自室に戻るのが嫌になった。



図書館で面白そうな本を読んで気分を切り替える。

世界の幻想生物辞典を本棚に戻した。

「はぁ……興味深かった」

でもやっぱり帰りたくない。

「……」




フィオナは図書館から出て、貴族寮へ飛んで行った。

「あいにくコイフさんはいらっしゃいませんね」

とパイン館の受付に無情に返された。




フィオナは城下町を意味も無く探索した。


家電量販店(の様な大型の魔道具屋)で自動洗濯乾燥機と野外用テント、バーベキューセットを購入してオリーブ館に配達をお願いした。

「ありがとうございます、配達は明日になりますね」

「今日じゃ駄目っすか? 」

「申し訳ありません……」


とぼとぼフィオナは店を出る。




何となく目に留まった可愛いカフェでケーキと珈琲を注文した。

屋外席が空いてたので町行く人を眺めながらケーキを楽しむ。


「あ、そうだ」

フィオナはイヤ-カフを起動して声をかける。

「もしもし、レギパパかヴェラママいるー? 」

「はいはーい、ちょっとまってねー」

レギアスの声となにやらガサゴソ音がする。


「はいおまちどーちょっと農作業してました」

レギアスが応対する。

「忙しい所ごめんね、ちょっと相談したい事があって……」

「えーなになに? 」

「私が住むことになった寮、昔学生がグロイ感じに死んだ所なんだって……多分内臓とか散らばってたと思う」

「なにそれ、危ない所ならやめといたら? 」

「いや学生が魔法の練習で暴発して死んだ所で、10年前の事だし危なくはないかな」

「そうなんだ、それで? 」

「……怖いじゃん! 」

「何が? 」


間を置いて

「何か、事件現場って気持ち悪いし、幽霊とか! 怖いじゃん⁉ 」

「あーそうなんだーうーん」

(なんだなんだ、なぜこんなに会話がかみ合わないのだ? )とフィオナは混乱した。


「心理的な問題は引っ越したら? としか、幽霊はどんなヒトによるかだけど危ない幽霊なら倒すか近寄らないかでしょ、それは寮関係の人に聞けばわかるだろうし、それで判断したら? 」

「ありがとう……ねぇ、幽霊って倒せるの? 」

「倒せるよ、魔体と精神の核で出来てるから物理魔法は効かないけど、魔力を練ってぶつけて損傷させれば殺せるよ」


この世界の人間は精神の核、それを纏う魔体、肉体で出来ている。

幽霊は肉体を失っても、どういうわけか魔体と精神の核のみで存在しているのだとレギアスは説明してくれた。



「精神の核を壊したらその幽霊の存在そのものが消えるから、次の転生は望めなくなるよ、可哀そうだけど悪さをするなら仕方ない時もあるよね……」

レギアスがしんみり説明した。

「な、なるほどね……ありがとう」

「解決しそうならいいけど」


そんなやりとりをしてフィオナは会話を終了した。



「あら、フィーたん、カフェでお楽しみ中? 」


声をかけてきたのはコイフだった。

ドレスではなく普段着の黄色いワンピースを着ている。

「コイフ――――――‼‼‼ 」

フィオナは大声でコイフに抱きよる!

「ぷわぁぁな、なな何なのよ⁉ 」

コイフはびっくりして鼻を鳴らす。

「じつはかくかくしかじかで……」



説明を終える。

「ふぁーそんな事が……⁉ 」

「そういうわけだから一緒にオリーブ館に付いて来て欲しいの! 」

「それは付いて行ってあげたいけど、今はお仕事中だからダメなのよ」

コイフはプロムナードで買い出しをしに来たのだ。

両手に薬草が入ったカゴや巾着を持っている。

「待つ! 待つから! 」

「わ、わかったなの……ところでお化けは居たなの? 」

「居ないで欲しい‼‼ 」

フィオナは泣き声を上げた。




フィオナはコイフにひっついてバイト先の『蔦薬局』までついて行き、仕事中は邪魔にならない近くで暇していた。




そして日が暮れてコイフが仕事を終える。

『蔦薬局』近くの地元民御用達の大衆食堂で一緒に夕飯をとった。


「味と匂いに癖があるけど結構おいしいね! これ」

「わたしも初めて食べたのよ、歯ごたえがプルプルコリコリ独特でスプーンですくって食べるの楽しいのよ」

謎の肉塊に野菜と米を詰めて蒸し焼きした料理が美味しかった。




食後フィオナはコイフに付き添ってもらってオリーブ館に帰る。


夕飯の時間なので1階に人が多い。

厨房で3人の料理人が料理を作り、トレーにのった料理をカウンターで寮生が受け取っている。

厨房内で配膳などを寮長マキが手伝っていた。


一区切りついた所でフィオナは寮長マキに時間を取ってもらった。

フィオナの様子から寮長マキも察したようで、

「食後に応接室で話しましょう」と言われた。




応接室を貸し切りにして、コイフとフィオナは時間を潰す。

しばらくして寮長マキがやってきた。

「お時間ありがとうございます、あの、10年前2階で亡くなった学生さんの事で聞きたい事あるんです」

キリっとフィオナが話を切り出した。

「ああ……やはりそうですよね、何かありましたか? 」

マキが顔を暗くする。

「何かというより……マキ寮長が知っている事をちゃんと教えて欲しいんです、私このままじゃあの部屋で枕を高くして眠れません! 」

「知っている事……ですか……」

「どんな事件があったのは知っています、問題は……」

フィオナが深刻な顔で口ごもる。


「……幽霊の事ですね」

マキが語り出した。

はい、言質とれた!


「あの子は優秀な学生さんでした、勉強熱心で……死後2階に幽霊が出るようになって、悪さはしませんから2階の部屋を変わらず募集していたのですが、事件の凄惨さもあいまってここ数年はすっかり2階に住みたい方はいませんでした」


そんな中何も知らないフィオナがやって来たと……。

「それ事前に言ってくれても良くないですか⁉ 」

フィオナが涙交じりで抗議する。

「おっしゃるとおりで……引っ越しするなら部屋の代金はお返しします」

寮長マキは恐縮する。


話は終わり、寮長マキは仕事に戻っていった。



寮長マキから話を聞けたものの、事態は変わっていない。

「むしろ言質取れた分悪化してる? でも悪さしないって言ってたし……」

「フィーたん、付き合ってあげたいけど、貴族寮はそろそろ門限なのよ、ちゃんと寮に戻らないと体裁も悪いなの」

コイフが申し訳なさそうに行ってくる。

「そ、そっか……お姫様だもんネ……」

「フィーたん……」

コイフとフィオナは軽くハグをして、コイフはパイン館に帰る。

「また明日くるなのよぉ~! 」

フワフワのお手手をパタパタ振って飛んで行った。

もう辺りは暗く空には星が瞬いてる。




フィオナは覚悟を決めて2階に上がる。

廊下は灯りがあるがなんだが薄暗い。


(くそっ! 異世界転生してなんでこんな事に悩まねばならんのだ! )

フィオナは内心毒づいた。



異世界転生だからである。

この世界にはレイスもワイトもリッチもいる。

幽霊は見えるもの。そういうもの。



廊下の窓は寮スタッフが閉めておいてくれたようだ。


(そうだ! 幽霊が入って来られない魔法って出来ないかな⁉ )

フィオナは有り余る魔力で1階螺旋階段から廊下、廊下から自室玄関、自室玄関から自室全てを魔力の結界で覆っていった。

(遺物、幽霊、悪意あるものを入れないイメージで……! )

結界をはりながら結界内部を浄化していく。



フィオナが活動する範囲に強力な結界を張り終えると、暗く張り詰めた空気が全く気にならなくなった。

(居心地よくなったかな)

はじめは緊張していたフィオナだが、結界を張り終わると次第にすっかりいつもの調子を取り戻した。

初めて泊まるとは思えない程、フィオナはオリーブ館の自室に馴染んだ。


そうして目にするのは荷ほどきの終わってない物だらけの部屋だった。



(購入しておいた寝具一式をベットフレームにセッティングしなくては)

まずマットレスを配置し、購入した除湿速乾魔法がかかってるベッドパッドをかける。

(これがないと湿気で布団がカビちゃうからね! )


その上から真っ白いボックスシーツ、敷パッドを敷いた。

掛け布団は厚手布団の上に羽毛布団のダブルで完全防寒である。

枕は大きくて長座布団に近い感じの物を購入しておいた。

これで寝がえりを打っても枕からはみでない。


フィオナは素早くシャワーを浴びてパジャマに着替え新品のベットに入った。

(ふっわふわの布団幸せだぁ、お休みなさい……)

そのころには幽霊騒ぎなど忘れて至福の中フィオナは眠りに落ちた。




フィオナは夢を見た。

(……さ、……さん)

(むー? )

誰かが呼んでいる気がする。

しかし声は遠く、フィオナは更に深く眠りに落ちた……。




翌朝である。

「フィーたんフィーたん」

朝早くにコイフがこつんこつんと掃き出し窓を叩いている。

「コイフ……? 」

フィオナは気付いてコイフを招き入れた。

外を見ると空はまだ暗い。


「フィーたんが心配で早く来たのよ」

「ああ、そっか……ありがとう」

フィオナは外着に着替えてコイフと共に学校敷地内のカフェテリアに行くことにした。




学生向けに営業しているカフェテリアは朝早くから営業していた。

運動着に着替えた学生が食事を摂っている。


コイフとフィオナは席についてメニュー表を一緒に眺める。

「けっこうきれいなとこなのよ」

「ね、これはリピもありですな」


店は天井が高くサンルームの様に天井と壁に大きなガラスが貼られている。

昼間に来たら陽光が差し込んで素敵なのだろう。

窓辺に吊るしたプランターから蔦科の植物が美しく伸びていた。


フィオナはポーチドエッグの乗ったオープンサンド、コイフはクロックムッシュのセットを注文した。

スープとサラダ、ドリンクが付いてきていい感じだ。

味は普通に美味しかった。

コイフはメニューにフレンチトーストがある事を確認して、「あるのよ! やっぱりあるんだわ! よかったのよ! 」と何故かはしゃいでいた。


それ以外ではコイフはフィオナに気を使っている様だった。

「とりあえず昨日は何もなかったよ、一応幽霊よけの結界をはっといた、もし私の様子がおかしくなったら教えてね」

「そうなったら無理矢理引っ越しさせるのよ……」

「引っ越しできなくもないけどお金はもったいないなぁ、それにもう学校敷地内の寮は埋まっちゃってるんだよね、学校外で家を借りて通いになっちゃうから、もうちょっと住み続けてみるよ」

「フィーたん……」

コイフが悲しそうにフィオナを見つめた。


「まぁ、何も起きないかもしれないし! 元気出してこ」

1日経ってフィオナは昨日よりは気が楽になっていた。

(そうそう、このまま何も起きなければ慣れちゃって普通に暮らせるかもだよね! )



しかしそれから毎晩、フィオナは何者かに声をかけられる夢を見続けるのであった……




「わあああ~ん! もう限界! 」

5日目にしてフィオナは叫んだ。

毎朝毎朝、しかも早めの時間にたたき起こされる不快感ときたら! 

コイフが心配そうにフィオナの手を握る。

「フィーたん、引っ越しする? 」

「……しない! 」

フィオナは避難したコイフの部屋で、コイフ手作りサンドイッチを食べながらジト目で言った。

「コイフお願い付いて来て! 」

コイフは深く頷く。

「任せるのよ! でも今日はバイトだから今夜なのよ! 」


……よりによって夜、フィオナとコイフは一緒にオリーブ館の2階に向かう約束をした。




オリーブ館、夕刻、1階には寮生が多くいた。

夕飯に向う者や談話室を利用する者。

夕飯を外食で済ませたコイフとフィオナはオリーブ館に到着した。


マキ寮長がコイフに入館許可証を出してくれる。

「コイフ、門限は大丈夫なの? 」

「今日は外泊届を出してきたのよ! さっきマキ寮長さんにも判子押してもらったから身の潔白は証明出来るのよ」

「やった! 助かる! 」


ふたりは螺旋階段を上り2階に上がる。



フィオナは2階にかけていた結界を解いた。今夜決着つけるのだ!

遮音魔法がかけられたかの様に一瞬で2階の音がしなくなる。

「おぉう……なんか変なのよ……」

コイフはびっくりして耳を洗ってしまう。

「耳がキーンってするのよ……」

「や、やっぱりこんなに静かなの変だよね……? 」

「変なのよ……」

フィオナは最悪、(買ったキャンプセットを使って庭で一泊しよう)と思った。

2階の階段を歩いて行く。



ふたりの目の端に何かの影がよぎった。

反射的にコイフとフィオナは振り返った。


女生徒がいた。


魔法学校の制服のローブを羽織った、長いウェーブ髪の女学生が立っている。

しかし何かがおかしい。



「……さん、お……さん、おじょう……さん」

女生徒の口が動く。

俯いたままの女生徒は、透けている。



フィオナとコイフは恐怖ですくみ上る。



「と お れ な い」


とだけいうと女生徒はフィオナとコイフの方に滑るように向かってきた。

絹を裂くような悲鳴を上げるフィオナとコイフ。

「「きゃーーーーーー‼‼ 」」


走ってもあっという間に元の場所だ。

「ふぃっ、ふぃふぃふぃ、ふぃー‼‼‼ 」

コイフがフィオナを守ろうと幽霊の前に立ちふさがった。

ギュっと目を瞑って、コイフは廊下に仁王立ちする。


「コイフっ! 」

フィオナは急いで魔力を練り上げる。

コイフと自分の仲を裂こうとする幽霊に恐怖と怒りを抱いて、フィオナは魔力を固めて研ぎ澄まし、鋭利なツルギを練り上げる。


フィオナは泣きそうになりながら魔力の剣を振り回す。

「ウワーーーーーーーーーーーーこっちくんなぁーーー‼‼‼ 」

(レギパパ! ヴェラママ! 私とコイフを守って! )

フィオナは幽霊の女生徒に向けて、剣をめちゃくちゃに振り回す。



すると追って来ていた霊が一歩分後ずさった。

(あ! 効いてる⁉ )

フィオナが一歩出ると、霊が一歩後ずさる。

フィオナがもう一歩出ると、霊が逃げた。

すかさずフィオナは幽霊の女生徒を追いかける。



「悪霊退散! 悪霊退散! 」

フィオナが叫びながら剣を振り回しながら幽霊の女生徒を追いかける。

幽霊の女生徒は悲鳴を上げて逃げる。

「けて……たす……たすけてぇ! 私何もしないわ! 消さないでぇ! 」

「はっきり喋れるじゃない! なに、毎晩毎晩人の安眠を妨げやがって! 」

フィオナが泣きながら激高する。

「違うもん違うもん! なにかにぶつかって入れないんだもん! 」

「は? 何言ってんの? 」

「毎晩あなたの結界にぶつかって部屋に入れないんだもん! 」

「はぁ~~~??? 私の部屋ですけどぉ~~~??? 」

「それじゃあ私、毎晩どこに居れば良いのよ~! 」

「知らないよそんなの! 私は怖いのとか嫌だから! 」

「いやー! たすけて! 悪い事とかしないから! 誓うから! 」


(殺すか? いや悪いことしないとか言ってるしでも幽霊信用ならないしコイフ怖がらしたし私も落ちつかないし…)

「助けて助けて助けて助けて‼‼ 」

「フィーたーん! 」


ぷちん


フィオナの何かが切れた。


「お前の存在が煩わしんだよ‼‼ 」


フィオナは幽霊に手をかざし、魔力で覆いつくす。

「え、え、何、何⁉ 体が、ち、縮む……! 」

フィオナの魔力に幽霊はぎゅーっと押しつぶされ小さくなっていく。

幽霊の女生徒の顔は恐怖で更に青ざめ、未知の感覚に怯えている。


フィオナはポケットから『あるもの』を取り出し、幽霊に投げつけた。

それは引っ越しで捨てそびれた『世界魔道具堂』のマスコットぬいぐるみ『セカイ君』だ。

熊とハムスターを足して2で割った見た目の手のひら大のぬいぐるみである。


ぬいぐるみは幽霊に当たると、空中で静止する。

バチバチと反発する音と共に青紫色に少し輝いた。

「ひぃぃいいいい‼‼ 」

幽霊は絶叫を告げ、その後急に静かになった。

ぽとりとその場にぬいぐるみが落ちた。



廊下は今までの静けさが嘘みたいに、1階や3階の生活音が聞こえだす。

重苦しい空気もなくなり、こんなに明るかったのかと思うくらい廊下は照明で照らされていた。



「わぁっ! フィーたん空気が変わったのよ、幽霊もいなくなったの……どうなったの? 」

コイフが聞く。


フィオナはおそるおそるぬいぐるみを魔力の剣でつついた。


『いや、やめて! やめて! 』

ぬいぐるみから念派で声が聞こえる。

さきほどの幽霊の声だ。


『え、なにこれ、体が小さくなったの? 何が起きたの ⁉ 体が動かないよぉ、怖いぃぃ……』


幽霊はぬいぐるみに閉じ込められてしまった。

「おいお前! 」

『ひぃ! 怖い人! な、何ですか⁉ 』

「お前が私達を怖がらせたんだろ⁉ 何度も私の夢に出てきて迷惑してるんだぞ! 」

『ええ、確かに毎晩お嬢さんに話しかけてましたけど、悪気はないんです! 結界があって道が通れなくなってたし、あと久しぶりに人とお話したかったんです! 』

「幽霊怖いんだぞ! 成仏しろよ! 」

『成仏なんてできたらしてますぅーーー! 』


その開き直った言い様にカチンときたフィオナは、セカイくんのぬいぐいるみをむんずと掴んで物置部屋に放り投げて扉を閉めた。




「はぁ、こいふーーー! 」

フィオナがコイフにぎゅーっと抱き着いてくる。

「ふぃーたん、怖かったのよ」

コイフはフィオナを受け止め、よしよしと頭を撫でた。

「うーなでなで気持ち良ー」

フィオナは涙を滲ませながらなでなでを享受した。






「えへへ、コイフと初めてのお泊りだね! わくわくするね! 」

フィオナは自室で機嫌よくコイフの分の掛け毛布をベットに用意している。

「敷布団一つしかないから、一緒のベットで良いよね⁉ 」

「良いなのよ、フィーたん大丈夫なの? 」


「いやーなんか怖すぎると怒りになるんだね、興奮しちゃってテンションがおかしいや」

「お疲れ様なのよ、でも幽霊どうしたのかしら…」

コイフは不安げに耳を後ろにペタンと伏せた。

「とりあえず今晩様子見で何ともなければ大丈夫だと思う! もしコイフに何かしたら本当許さないし! 」

フィオナは練りに練り切れ味を良くした魔力の剣を、ベットチェストにおいておく。

時間経過で効力が切れて霧散してしまうが、濃厚に魔力を練って作ってあるので数日は武器として十分活躍するだろう。


「ささ、コイフ一緒にお風呂入ろー♪ 」

コイフを連れて脱衣所に向かう。




フィオナはすぽぽんと服を脱いで洗濯籠に投げ入れた。

コイフは脱いだ服を傍の木制ハンガーにかける。

「フィーたん、わたしとお風呂はいると毛まみれになっちゃうのよ…」

「えー気にしないよ一緒に入ろうよ」

「わたしが気にするのよ」

コイフはぷぅと頬を膨らませた。

「えーじゃあお湯作るから拭き洗いする? 私のパジャマ貸すよー」

「そうさせてもらうのよ」


「コイフも下着、紐ショーツなんだ」

「故郷ではふんどしって呼んでたのよ、王都は下着の呼び名までお洒落なのよ」



浴室は広めに出来ていて、フィオナは浴室の備品に大きな桶があったのはこの為かと思いながら桶を洗い場に置いてお湯を貯めた。


フィオナは自分だけ軽く体を洗い、浴槽に浸かる。

「広いお風呂だからひとりだと少し寂しかったんだよね、コイフのお風呂場ももっと広かったよね」

「なのよ、貴族用の浴室だから従者が主人の体を磨くために広く作ってあるのよ」


コイフは洗い場で毛をとかし綺麗にし始める。

「あら、まだ熱してないじゃないなのよ」

コイフはそう言って浴室一角の岩の部分に魔法を発動させる。

すると岩は赤く加熱し始める。その傍に椅子を運んで座りながらコイフは岩にお湯をかけた。

じゅうう~と音が鳴り岩から蒸発した湯気がもくもくあがる。

「ふぅ~」と気持ちよさそうに声をあげながら、コイフは櫛で体中の毛をとかす。


「それ、そうやって使う物だったんだ」

フィオナは目を丸くした。浴室にあるそのほか謎の物はきっと他種族が使う浴槽道具なのだとフィオナは思った。

「兎人族はこうやって蒸気にあたって毛をとかして毛並みをよくするなのよ~」

コイフはご機嫌に言って、とかし終えると大桶に入りお湯に浸かった。

腰までつかる水位だがコイフの様子をみるにこれで良いらしい。

ぱちゃぱちゃと体にお湯をかけている。

「ふぅ~気持ちい~なのよ~」

ほかほか湯気の中、コイフは足や耳をご機嫌に揺らした。


「コイフ先に出てて、私もうちょっと体洗うから」

「わかったのよ」




入浴後、コイフは脱衣所に置いてあったフィオナの花柄のパジャマを借りて着た。

ヒト族用に作られているので袖が余り、ズボンは入らなかった。

「ヒト族の服は着れないなの…」

仕方なくパジャマの上だけ着て、余った袖は折りたたんで腕まくりをした。

姿見を確認する。

ワンピースパジャマだったので十分コイフの足を隠してくれている。

「ん、これで良いのよ」



後から浴室の扉が開いてフィオナが出てきた。

「コイフーみてみてー」

いつもの美しいく可憐なフィオナの声にコイフは振り返った。


そこには一糸まとわぬ姿の別の女の子がいた。

「じゃーん、これが私の真の姿だー! 」

声も喋り方もフィオナのそれなのでそこにいる少女がフィオナなのだとコイフはすぐ理解した。

まえから姿は変装魔法を使っているとは聞いていたし……しかし。


金髪の髪は紫色の光を照り返すように何重にも天使の輪を艶めかせ、蒼い瞳も同じように紫に光っている。手足も体のあらゆる部分も造形美が奇跡のように整っていて、爪も魔石の様な紫に輝いている。


コイフはフィオナの神秘的で美しく、命を賛歌しているようなこの少女にしばし釘付けになった。



「……」

「あーワンピースパジャマがあって良かったーコイフ可愛いよ! 」

フィオナは幸せそうにコイフに抱き着いた。

「うふふ、ふわふわさらさら…」

「……ほんとにハイエンドなのよ……やりすぎなのよ……」

しばらくして我を取り戻したコイフにフィオナは蹴られ、パジャマに着替えた後ミアの姿に戻った。



コイフとフィオナは部屋の照明を少しだけ暗くして一緒のベットで眠った。

「一緒に眠れるの嬉しい、学校卒業したら一緒に暮らそうね」

「それはとっても楽しそうなのよ、でもあの姿……見慣れるかしら……? 」

フィオナは幸せそうに言った。

コイフもニコニコと返した。


恐ろしい事は何も起きず2人は無事朝を迎える事が出来たのだった。




「ふぁーおはようなのフィーたん……」

早起きのコイフは起きて洗面所で顔を洗い、身だしなみを整えてドレスに着替える。

フィオナはまだすやすや眠っているから、コイフは1階の厨房を借りることにしたのだ。

部屋のドアを開けても幽霊はいなくてコイフは安心した。

持ってきた食材を抱えて階段を下りていく。

まだ誰もいない厨房で火をおこした。



「パンに、バター、卵……王都の卵は美味しいのは高いのよ、かといって安いと不味くってしょうがないし……燻製ベーコンとハム、あとは野菜をしっかり……ふむ! こんなものなのよ」

水に濡れないように、浸水防止の魔織布で作った手袋をして、野菜をしっかり『野菜用洗剤』で洗っていく。


なにしろこの世界、野菜は家畜など動物の糞で作った肥料で育てられているからしっかり洗わないと生では食べられないのだ。

『生活魔法』というキッチンメイドやコックさんが極める魔法があれば除菌も滅菌も思いのままらしい。

コイフが買ってきたのは生食用の野菜だ。

それでも一応『生活魔法』か洗剤で洗うのがこの世界の常識である。


とはいえコイフは『生活魔法』は使えないから地道に洗う。

綺麗になった野菜の外皮をむいて薄切りにし、バターを塗ったパンに挟んでいく。人参、キュウリ、レタスにトマト(だと思う野菜たち)にコイフ特製のハニーマスタードとマヨネーズをかけてからパンで挟む。


厚切りのベーコンは油を落とすように焼いて、しっかり焼き目を付けたらチーズと絡めてパンで挟む。


一番最初に作っておいた固ゆでのゆで卵を潰しながらレモン汁とコイフ特製のマヨネーズと玉ねぎ(とコイフが認識している野菜)のみじん切りを混ぜてタルタルソースを作る。


パンにバターを塗って、薄く切ったハムをレタスと一緒にパンにのせてから、上から半熟卵をそのまま二個乗せる。パンで挟んだ後、それを薄紙で包んで半分に切れば、まんまる半熟卵サンドの完成だ!

パセリ(パセリは間違いなくパセリだ)を添えて皿にのせて、トレーを調理場から拝借して、皿をトレーに乗せて魔法で浮かせながら運ぶ。

コイフが自力で運ぶより安全だからだ。




跳ねるように螺旋階段を上ると、フィオナの部屋から「ぎゃあああああああああ」という悲鳴が聞こえた。

コイフは急いでドアを開ける。

「どーしたのフィーたん! 」


フィオナがベッドの端に逃げていて、ベッドの足元にちょこんとぬいぐるみが落ちている。

「ひぃ! 」

コイフは後ずさった。

フィオナは何とかしてベッドサイドの剣を取ろうとしている。


『待ってー! 待ってお嬢さん! 違うの! お礼を言いに来たの! 』


その言葉にふたりは止まり、顔を見合わせた。

「お礼? 」

セカイくんのぬいぐるみは頷いた。

そう頷いたのである。



所謂『ぬい』的なシルエットで、太鼓を叩くゲームに出てきそうな俵状のそれは、フェルトで張り付けられた耳や手足をなんとか動かして座った。



『私に体を与えてくれてありがとう! 最初は動かなくって不安だったけど、そのうちに手足を動かせるようになって、実体のある物に触れられるようになったの! わずかだけど感触もあるわ! 体を得たおかげか漠然としていた意識が前より鮮明になったの! これでまた魔法の研究ができるわ! 』


セカイくんは女生徒の幽霊の声で楽しそうに話す。

『私は死んでから自室と二階の廊下……私の臓物が飛び散った所までしか移動できなくって退屈していたの、10年もよ⁉ でもこの体ならオリーブ館内をくまなく回れたし、本も読めたの! こんな感動無いわ! ありがとうお嬢さん! 』



ベッドの上で剣を構えたフィオナと、サンドイッチをサイドテーブルに置いたコイフはまたも目を合わせる。

「「呪いの人形作っちゃった……? 」なのよ……? 」



呪いの人形と呼ばれたセカイ君はのっそりと立ち上がり言った。

「私物置に住むわ! ドールハウスが欲しい! そこに住む限りは大人しくしているって約束するわ! あ、あと定期的に掃除と本の差し入れもお願い、散歩はみんながいない時間にするから寮長に話しを通して欲しいのよ! 」

呪いの人形は注文が多かった。


「……わかった、寮長のマキさんに話しておくけどまだ早朝だから物置に帰ってくれない? 」

『わかったわ! 本を読んで待ってるわね! 』

ぬいぐるみは俵型の体を生かしてころころ転がって部屋を出て行った。

「次からは勝手に部屋に入るなよ! 」

去り際にフィオナが声をかけた。

『わかったわー』と幽霊はお姉さんぶって去っていった。


「……フィーたん大丈夫? 」

「わかんない、たぶん大丈夫……それよりそれ何? 」

「朝ごはんのサンドイッチなのよ」

「食べよう! 」

フィオナは剣をベッドに置くと手早くドアを閉めて、冷蔵庫からコイフの好物の牛乳を取り出した。

「わぁ、あの牛乳なの! 」

「えへへ、塾で飲んでたのと同じブランドの牛乳だよ、好きだと思って」

「嬉しいのよ~‼ 」

ふたりはなんやかんやあったものの、久しぶりのお泊り会を満喫したのだった。




食後ふたりは1階に下りる、トレーを返す為とマキ寮長に話をする為だ。


マキ寮長は、朝はやはり忙しいらしく、在学生が学校に行く時間なら落ち着いて話せるというので、応接室をキープしてもらった。



「これに、彼女の魂が⁉ 」

直に触るのが怖いので紙箱に入れて持ってきたセカイくんはウゴウゴと動いてテーブルに下りた。

『マキ寮長! おひさしぶりです! 』

セカイくんがぺこりとお辞儀した。

「本当の様ですね……なんてこと」

マキ寮長は絶句している。

コイフとフィオナは昨晩の話をマキ寮長に伝えた。

「それでですね、この幽霊……先輩、物置に住ませてくれたら悪い事も人を怖がらせることもしないって言っててですね……。」

セカイくんは厚かましくも住居を要求し、娯楽に本も欲しいと騒ぎ立てた。


マキ寮長が突然ハンカチで、目頭を押さえる。

「寮長どうなさいましたの? 」

コイフがおろおろしながら聞いた。

「いえ、あの事故の時はショックでした、優秀な子でしたし、なにより不憫で……よかった、今は元気なのね……ドールハウスなら娘が小さい時に使っていたのがありますわ、物置部屋の不用品を片付けて広く使えるようにしましょうね」

マキ寮長は涙をぬぐってからセカイくんに話しかける、セカイくんも感動したように体を震わせる。


マキ寮長とセカイくんは握手をして、『オリーブ館の幽霊騒動』は一応の終結となった。




その後はフィオナとコイフも手伝って物置部屋の片づけと掃除をし、古いドールハウスをきれいにしてセカイくんの寝床として整え、不用品を処分したり別の階に移したりした。


セカイくんは見事、小窓からの眺めが良い一角を勝ち取ったのだった。


「本は定期的に新しい物を図書館で借りてきますね」

マキ寮長は嬉しそうに言う。

『マキ寮長、フィオナちゃん、コイフちゃんありがとう! 私どうにか第2の幽霊人生やっていけそうだよ! 』

セカイくんはご満悦そうに言った。


「約束だからね、怖い事も悪い事もしないって! 」

フィオナは釘をさす。

『私も昨日追いかけられて気付いたの、その気が無くても他人を怖がらせるのはだめだよね……お散歩も皆が学校に行ってる昼間だけにするよ! 』

セカイくんが言う。


「動くセカイくん人形なんて話になったらどうしましょうなのよ……」

コイフの心配そうな言葉にマキ寮長は微笑む。

「皆さんにはきちんと説明します、二階の物置小屋に住んでいる、寮の守り霊のお話をね」

と内緒話をするみたいに言ってふふふと笑ってから、話を続ける。


「幽霊会に申請して無害な社会霊と証明するのが良いと思います、そうすれば他の社会霊のように社会で働いて生きてる人と共存出来るようになりますから、今の彼女ならしっかり受け答えできますし審査に挑戦出来るはずです! 」

マキ寮長はセカイくんの手? を握って熱く語った。


「そんなのあるなのよ…」

コイフが素で呟いた。


意識のはっきりした幽霊たちの連盟会、それが幽霊会である。

彼らは生前知的生物であった者たちで構成されており、反悪霊活動をしたり幽霊の身で仕事に就いたりしている。

戦争で亡くなった幽霊が戦争資料館で当時の痛ましさをリアルタイムで教えてくれるのは有名なのだとマキ寮長は話してくれた。

コイフとフィオナは(ファンタジー! )と思った。


『良いですね! 私も幽霊会に申請します! それで社会に出て、また夢を叶えたい! 』

セカイくんはキラキラした目? でマキ寮長と積もる話をしている。

長くなりそうなのでコイフとフィオナはその場から立ち去った。


「なにはともあれこれで一件落着……なのかな? 」

「なのよー! 」

コイフとフィオナは目を合わせて笑った。

これでオリーブ館の事故物件の件は丸く収まった。



『そうだ! 恩人のフィオナちゃんの為ならなんでもやるから言ってね! 』

「ひぃぃ! 結構です! 」

フィオナに幽霊の舎弟が出来た事以外は。


投稿が開いてしまってすいません、法事があったりログインパスを無くしたり、ワクチンを打ったりなんやかんや忙しくしていました。

また今回から、毎週月曜日に投稿します。


アクセス解析? という機能を知りまして、予想以上に沢山の方に読んでいただいているのだと知り、とてもうれしく思いました。

これからもコイフとフィーをよろしくお願いします!

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