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2/23

2:チート……もらえず

不定期更新ですが明日も投稿します!


 ……はじめての事態だな。

 五回目の転移、ここにきて俺は少し驚いていた。今回の転移はこれまでと違いすぎる状態のためだ。


 まず、現れた魔方陣。あんなのはじめてだ。これまでは気づいたら異世界へといっていた。歩いてて突然景色が変わる感じだ。にもかかわらずあの魔方陣は召喚の意味で使われているものだった。それに他の人と転移というのもはじめてだ。俺以外の転移者自体は初ではないが、同時というのははじめてだった。


 それに、恐らくこの感じだと現れるんじゃないだろうか、『やつ』が。そう思うとワクワクしてくる。


 「ね、ねぇ。なにここ」

 不安げな声の主が俺の袖を掴んでくる。

 登校中にも挨拶してきた青山雅だった。


 「灰峰、君は今の状態どう思う?」

 青山と一緒に現れたイケメンが聞いてくる。このイケメン君は赤城太陽といい、容姿は整い、かつ運動と勉強ができるハイスペック男子だった。一年ながら生徒会副会長を努めており、まぁ、ここまでの話でわかる通りひたすらもてる。いわばトップカーストの人間だ。

 

 青山繋がりで俺もそこそこ仲良かったりする。そこそこというのは俺なりの見栄だ。正確にいえば青山と一緒の時はそこそこ話すが正解である。


 「赤城、薄々察しているだろ」

 教室を覆った光る魔方陣に突然知らない空間。それも果ての見えない真っ白い空間といういかにもな場所なんだ。余程のアホでなければ察するだろう。異世界の知識がなくとも異常な事が起きてる位は察する。その証拠に混乱している者は少なく、これから起こるであろう事に恐怖や、不安を抱えているものが多い。



 「信じがたいが、こんなゲームみたいなことが」

 昨今のアニメブームやゲームブームはこういう時に話が早くて助かる。今のご時世異世界を知らない者など少数だろう。




 

 「あぁ、んだここは! どうなってやがる!」


 おっと、その少数がいたようだ。

 髪を金髪にそめ鼻と耳のピアスが鈍い光を放っている。いかにもな男は金城拓人。見た目通りの男だ。普段さぼりまくってる中で登校した日に転移とはついてない男でもある。


 「おい、健二おめーわかるか!」

 「ガハハ、俺もわかんねーよたくと」

 「あれじゃね、あれじゃね異世界的なやつじゃね」

 どうやら金城の仲間である、緑山と黄瀬の内、黄瀬の方は異世界を知ってるらしい。



 「異世界って、やっぱり……」

 「え、なにいってるの、そんなわけ」

 「じゃあ、この現象説明してくれよ!」


 黄瀬が異世界と口にしたためか、クラスメイト達もにわかに騒がしくなってくる。

 誰しももしやと思っていたことを黄瀬が口にした事で一気に伝播していったようだ。


 さぁ、ここまで状況判断は済んだぞ。そろそろでてきたらどうなんじゃないですかね。


 

 『皆さん落ち着いてください』


 騒がしくなっていた場に涼やかな声が響き渡る。

 

 「何の声だこれは……」

 頭に直接しみてくるような声に赤城が尋ねる。こういう時咄嗟に中心的な発言をするのは流石だと思う。


 『私はアリスフィア。皆さんのいうところの女神という者です』


 光が集まり人の形を創る。

 おお、すげぇ、流石神を名乗るだけあって無から人を構成していってる。あれ、難しいんだよな。



 現れたのは絶世の美女だった。

 神々しい光を発する美女に場が呑まれる。単純だが効果的な圧倒的な美貌を前に俺達は目の前の存在が本当に神なのではないかと教えられる。


 『皆さんがこの場にいるのは異世界へと渡ってもらうためなのです』

 そして、場が静まると女神はそのまま話始める。


 曰く、俺達がこれから向かうのはクリシェという世界らしい。

 定期的に魔王とやらに侵略されている世界で、これまた定期的に天から勇者が現れるらしい。んで、俺達が今回の勇者に選ばれた。選ばれた勇者は人間の国の一つに召喚される。


 なんという王道的な展開なのだろう。

 


 「しかし、女神様。僕達に魔王とやらと戦う力などありません」


 我等が赤城くんが誰もが疑問に思っていたことを女神に尋ねる。

 テンプレな質問に対する女神の答えもまた、テンプレだった。



 『大丈夫です。皆さんは次元を越える時魂に大きな負荷を与えています。私がその負荷を治すと皆さんの魂は一段階昇華し、それに相応しき力を得るのです。それはもうとてつもない大きな力です』

 ……という建前なのだろう。魂に負荷を与えただけで一段階昇華なんぞするわけがない。それならば俺はとっくのとうに神と同じ次元に上がっている。恐らく、神がするのは魂に対する干渉だ。言葉だけだと物騒だが簡単にいえばチートを与えるだけだ。

 魂に干渉しますなんていうと抵抗感が芽生えるし、それを防ぐ為の方便という所だろう。


 てか、チート!! 待ちにまったチートですよ。


 力を得れると知って興奮しているクラスメイトに混じり俺も興奮する。


 異世界へと渡って苦節五回目。やっと待ちにまったチートを頂ける。これまでの世界はあまりに厳しすぎた。見たこともない力が溢れる世界に俺は何を与えられることもなく過ごしていたんだ。それはもう、色々と苦労してきた。


 「女神様。皆と相談してきてもよろしいでしょうか、事態は個人で考えるには重すぎます」


 『よいでしょう。急な事です。思う存分話し合いなさい』


 赤城は真剣な顔つきで皆を集める。


 「皆、わかっていると思うが、俺達は異世界へと行くことになってしまった。そこでの身の振り方を今のうちに少し話しておきたい」


 「身の振り方?」

 赤城の言葉に女子がクエスチョンマークを浮かべている。


 「ああ、俺達はこれから王城へと召喚されるということだ。となればそこで色々なしがらみが増えてくるのは想像に難くない。例えば貴族なんかの権力争いに巻き込まれるなんて事もあるかもしれない。ただでさえ俺達が行くのは戦争のど真ん中かもしれないんだ。氣を引き締めていきたいと思う」

 赤城の言葉にクラスの受かれていた熱が一気に覚めていく。

 力を得れるという箇所のみに気をとられ、魔王が侵略してくる世界、戦争を行うという事実に改めて気づかされたようだ。



 転移する前からここまで暗い空気になる異世界転移ものがあっただろうか。

 状況を見てか赤城がフォローをいれはじめる。


 「ただ、女神様は俺達にも力があるといっていた。魔王なんてやらがいる世界においてもとてつもく大きな力と言っていた。そう簡単に死んでしまうという事もないはずだ。何より俺達は三十人以上いるんだ。皆で力を合わせれば大丈夫さ!!」


 これが、カリスマというものだろうか、赤城がいえば根拠のない発言でも本気で大丈夫な気がしてくる。


 クラスメイトの何人かは感化されて涙まで流してるよ。

 カリスマってすげぇんだね。

 


 「はぁ、何泣いてんだよテメーら。アホか、俺様がいるんだぞ? そこらのやつなんかにびびる必要なんてねーんだよ」

 おっと、意外な所に伏兵がいた。

 ざっくばらんなものいいの金城の言葉には今回ばかりは僅かな安心感がある。クラスメイト達も優しげな目を向けている。


 異世界転移前の雰囲気って凄いなと思ってたら暗くなっていた空気が暖かなものへと変わっていた。 

 

 「それじゃあ、俺達は異世界へ行こうとも周りに流されることなく、纏まろう!」


 「「「おーー!!」」」

 赤城の言葉にクラスメイト達が喝采をあげて賛同する。


 「ほぇ~、皆凄いね」

 輪を抜け出した青山が間の抜けた声をだしながらやってくる。


 「赤城とまぁ、金城の野郎も今回はお手柄だったな。気休めとはいえ転移前に心を纏めておくのはいいことだ」

 「……理桃も凄いね」

 「ん? 何がだ」

 「全然平気そうなんだもん」

 そういって青山を見てみると少し震えていた。


 「怖いのか?」

 「うん、ちょっちね。赤城がいってた通り戦争もあるし、戦争ってことは命のやり取りをするわけでしょ。そりゃ、怖いよ」


 場の雰囲気に流される事なくしっかりと戦争の意味を考えていたのか、いいことだ。


 「その恐怖は仕方ないだろ。お前が人間だってことだよ」

 「はは、何それ。それじゃあ平然そうなあんたは人間じゃないってことじゃん」

 「ばっか、俺だって怖いさ」

 二重の意味でこれは嘘だ。


 「まぁ、でも怖いけどさ。結局はなるようにしかならないんだよ。人生ってやつは」

 「何それ、オッサンみたい」

 そりゃ、精神年齢は大分年食ってるからね。



 『皆さん、話は纏まりましたか?』

 「はい、女神様。もう大丈夫です」

 『わかりました。それでは早速異世界へと皆さんをやりましょう』

 女神が掌を差し向けた方向に光の魔方陣が現れる。

 あれは、転送陣か。


 『あの円にお入りなさい。そうすれば異世界へと行けます』

 女神の言葉通りに俺達は陣の中に入る。

 全員入ると転送陣は一気に光輝いていく。


 間もなく転送されるという段階で俺は異変に気づく。


 ――――やばい、ポケットにスマホが入ってない。

 そういえば転移の直前には机に置きっぱになってた。

 身につけていたもの以外は全部向こうだ。


 しまった!


 光輝く魔方陣から飛び出す。


 「え、ちょっ、り――――」

 青山は驚愕の表情で叫ぶ途中に異世界へと転送されていった。



 『あの、貴方何故陣から飛び出たのです』

 「あれ、後からもう一度行けばよかったと思ってたんですけど、何か不味かったですか?」

 『あの陣は特別なものなのです。もう一度用意、それも個人の為だけに用意するのは難しいのですよ』


 「え……」

 確かに、あの魔方陣は転送だけでなく。同時に魂に干渉して力を与える魔方陣も組み込まれていた。


 え、嘘だろ……ということは……いやいやいやいやいや、嘘だろ?


 「まさか、俺チートなしなんですか?」

 『貴方何故それを!?』

 魔方陣を読み取ったかのような俺の発言に女神が驚いているがこっちだって驚いている。


 魂に干渉して力を与える魔方陣。確かにとてつもない難易度のものだ。俺は勿論できない芸当だ。ただ、女神なんだろ。まさか一回こっきりの事なんて予想出切るわけもない。

 まさか、ここまで楽しみにしてたチートが貰えないとは……。


 「くそぉぉぉ! 結局いつものやつかよぉぉ!!」


 五回目の異世界転移。


 チート貰えず……。

 

 

 


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