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同調された予知夢


★第12話目


 「ほへぇ~…」

と、妙な感嘆の声を、先程からいづみチャンは漏らしていた。

「洸一君って……強いんだ」


「ハッハッハ……まぁ、それほどでもあるんですよ」

腕を絡めているいづみチャンに向かって、俺は少しだけ胸を張りながら言う。

「しかしまぁ、これであのクソ野郎も、いづみチャンには近付かないだろうね」


「う、うん。でも……あ、あんまり心配掛けちゃダメだよ」

プゥ~と頬を膨らませ、いづみチャン。

「いきなり突っ込んで行くんだモン。……心臓が止まるかと思っちゃったよぅ」


「フッ……あの野郎はいづみチャンと俺様を馬鹿にしやがったからな」


「で、でも……」

彼女は何か言いたそうに、俺の顔をジッと見つめる。

もちろん、何を言いたいのかは良く分かっていた。

だから俺は笑顔で

「心配すんな。俺は……暴力は嫌いだ。だから今日みたいな事は二度としないよ」

と、安心させるようにそう言ってやる。

無論、相手が喧嘩を売ってきた場合は堂々と受けて立つけどね。


「それにしても、洸一君って何かスポーツでもしてたの?すっごい動きだったよ?」

小首を傾げながら俺を見上げる、いづみチャン。


「いや……別にこれといって、習った憶えはないんだが……」

言いながら俺は、先程の対戦を思い起こしていた。


あの時の動き……

あれは自分でも驚くほどスマートで無駄のない動きだった。

まるで日頃から練習を積み重ねたてきた動きが、自然に出てきたような感じ。

しかし俺はこの17年間、一度として格闘技等を習った覚えは無く、ましてや練習した事など記憶にはない。

それなのにどうして?

・・・

やはりこれは愛の奇跡だろうか?


うへぇ~……もしそうなら、俺はいづみチャンが信じれば空だって飛べちゃうかも知れないぞ?

そんな事を思いながら俺は独りニタニタと、己の秘められた才能と言うか、17年もの間隠してきた爪に満足していると、

「あ、ニャンコだ♪」

不意にいづみチャンが、塀の上を指差しながら声を上げた。

「うわぁ……汚い猫だねぇ」


って、いきなりな感想ですなッ!?

と心の中で突っ込みつつ、俺も塀の上に視線を走らすと、

「ナブゥゥゥ…」

やせ細った実にみすぼらしい黒猫が、俺の顔を見つめながら悲しい鳴き声を上げた。


「ぬ、ぬぅ……確かに、ばっちい猫だ」

思わずそう口から出るほど、その黒猫はいづみチャンの言う通り、汚かった。

もう、見るからに『生まれも育ちも野良』と言う匂いを山ほど発散していた。

体毛は垢でゴワゴワと固まり、こけた頬はまさに猫版樽山節孝。

憐れを誘うどころか、思わず見なかった事にしてスルーしてしまいそうになってしまう。


「ナ、ナブゥゥ」

その汚さの概念に敢えて挑戦しているような猫は、面倒臭そうに塀の上から飛び降りると、俺の目の前でもう一度くぐもった鳴き声を上げた。


「うわぁ……な、なんか怖いよぅ」

いづみチャンが苦笑しながらそう言う。


「う、うん」

俺も頷くが……

な、何故だろう?この汚ぇ猫に、少しだけ見覚えがあるような……


「ナブゥゥゥゥゥ」

そして黒猫はもう一度、まるで何かを訴えるように鳴くと、クルリと背を向け、塀の上に飛び上がりそのまま何処かへ行ってしまった。


「な、なんだったんだろうねぇ?」

と、いづみチャン。


「……さぁ?分かんねぇーけど……でも……」


「……でも?」


「あの哀愁漂う猫背が憐れだなぁ~と……ね」

それにあの瞳……

何か俺に伝えたい事でもあったのだろうか?

そんな事を想像してしまうような感じを受けたのは、ひょっとして俺だけなのだろうか?



「ハフゥ~……」

気だるい昂揚感に包まれた肉体を休めるが如く、俺はポスンっと自室のベッドに体を投げ出した。

いやはや、疲れたにゃあ……


――夕方……

俺はいづみチャンを伴なって、駅前をブラブラとしていると、バッタリと小山田達、馴染みの三人集と出くわしてしまった。

そこから半ば拉致されるように近場のファミレスへ連れ込まれ、色々と質問攻め。

ま、普段以上にベタベタと虫歯になるほどスィートな雰囲気だったから、これも致し方なし。

むしろ囃し立てられ、もう恥ずかしいやら嬉しいやら。

悪い気はしないものの、

「まさか……エッチしたとか?」

という小山田の一言に、いづみチャンはつい真赤になって頷くもんだから、さぁ大変。

鬼畜だの変態だの色欲の権化だの散々に言われるが……俺が何をしたと言うのだ?

ナニをしただけではないか。

しかも恋人同士なのだぞ?

あまつさえ、高校出たら結婚してやる、と一人勝手に決めちゃってるんだぞ?

もちろん、子供の名前だって既に心の中では決めちゃっているんだぞ?

男だったら「百太郎」で女の子だったら「メーテル」だ。

無論、意味は無い。

しかしまぁ、何だかんだ言って、みんな「良かったねぇ」とか言ってくれるし……

冷やかされても、悪い気はしないね。



……何時の間に眠ってしまったのだろうか?

俺は夢を見ている。

見ている、と進行形で言うのは、今、俺の目の前に俺がいるからだ。

不思議な感じだが、何故か俺はそれを当然と言った如く、冷静に見つめている。


俺は腰に剣を帯び、妙チクリンな衣裳を着て佇んでいた。

ここは一体どこだろう?

夕焼け空を背景に、小高い丘に立っている。

そしてその俺の横には、闇で染め上げたような黒髪に、山羊のような奇妙に折れ曲がった悪魔チックな銀の角を生やした、奇妙に光る赤い瞳をした女性が立っていた。

かなりの美人だ。

その美人の姉ちゃんが口を開く。

「どうするのじゃ、神代洸一。人の子よ」


「いやぁ~……どうするもこうするも……どうしようかのぅ」

俺はテヘヘヘ~と緊張感も無い笑顔で、ポリポリと頭を掻いていた。

我ながら見ていて非常に情け無い。


「プロセルピナの軍は3万を数える。……数では圧倒的に向こうが上じゃ」


「そりゃそうだが……ま、これも作戦だからな。半日持たせれば勝てるから……」


「ふっ……このままでは、一刻も持ちそうに無いがな」

自嘲気味に笑う黒髪の美女。

「しかし、これも我に定められた運命ならば従うしかないのじゃが……」


「大丈夫だって。何故ならヒーローは死なないからな」


「お主は死ぬ事はなかろうが……」


「心配すんな、グライアイ」

そう言って俺は、ガハハと笑いながらそのグライアイと呼びかけた女性の肩をポンポンと叩いていた。

「勝てないまでも、負けない事に徹すれば何とかなる筈だ」

そう言った瞬間、景色は目まぐるしく変り、

「起きなさい洸一ーーーーッ!!」

髪の長い女の子に、いきなり叩き起こされている俺の映像が飛び込んで来た。

そして更に景色は変わり、気がつくと俺の目の前には一人のこれまた美少女。

サイドの髪を可愛らしく編んでいる、実に清楚な感じが漂う美少女だが……何だろう、あの衣装は?

一言で形容すれば、魔女だ。

黒いとんがり帽子に黒いマントを羽織っている。

そして両の肩には、黒猫と何故か市松人形。

手には分厚い魔導書らしきものを抱えている。

彼女はその手にした古めかしい本を、俺に手渡そうと言うのか、スッと差し出してきた。

そして俺はそれを受け取り……瞬間、世界が終わった。


「……」

一体、どんな夢なんだこれは?



★11月9日(木)


今日はいづみチャンの学校の学園祭。

俺は中間テストの真っ最中ではあったが、そこはそれ、彼氏としての義務(笑)を果すべく、試験が終っても家には帰らず、一路梅女へと向かった。

しかしながら、俺は気が重かった。

テストは全くと言って良いほど、全滅気味。

よもやこれだけの敗北を味わうとは夢にも思わなかった。

いつもと同じように一夜漬けで挑んだものの、今回は完璧にヤマが外れた。

ってゆーか、勉強していない所を見計らったよう出題された。

まるで原野商法にでも引っ掛かったような気分だ。


うぅ~ん、困ったにゃあ……

このままでは確実に追試を受けなければならない。

いつもは、こんな筈じゃないのになぁ……


そう、いつもは誰かが教えてくれてたような……

スパルタ成分配合で勉強を見てくれていたような気がする。

それどころか、職員室に忍び込み、自分で自分のテストを盗み出して改竄すらしていたような……

無論、そんな事はしていない、と断言できる。

何故ならこの神代洸一は、人一倍犯罪行為を憎む正義の男だからだ。


「ま、過ぎちまった事はしゃーねぇーや。案ずるより生むが易しって言うしな」

案じてねぇーだろうが……と心の中の意見を無視しつつ、俺はそう独りごちるのだった。



「ぬぅ…」

伝統と格式を重んじる名門女子高、梅女の学園祭は、実にまぁ気品に満ち溢れていた。

学園祭と言うよりは文化祭。

もちろん「祭」という部分はかなり抜け落ちている。


こ、困ったなぁ……なんか、場違いのような……

俺はポリポリと頭を掻きながら、厳重な警戒態勢の正門をくぐり、いづみチャンと待ち合わせの場所へ向かってトボトボと歩いていた。

名門女子高ゆえ、入場するには特別パスが必要で、しかもそのパスは近親者にしか配られないレアアイテム。

実際、ネットオークション等で高値で取引されていると聞いた事があるし、嘘か誠か闇ルートでは偽造すらされているらしい。

もちろん俺のパスは、いづみチャンから貰った正真正銘の本物だ。


しかし、やたら視線が痛いんですけど……


チラリンと周りを見渡すと、そこは女の子ばかり。

好奇な視線で俺を見ては「ウフフ♪」と笑ったりして……

実に落ちつかない。


ま、男が珍しいだけだと思うが……

そんな感想を抱きながら、俺はブラブラと活気に満ち溢れるものの、どこか貴族的な感じのする出店を眺めつつ歩いていると、

「あ、洸一くぅ~ん♪」

待ち合わせ場所の校舎入り口前で、いづみチャンが俺の名を呼びながらブンブンと手を振っている姿が目に入った。


「よぅ……お待たせ」

小走りに彼女に駆け寄り、微笑みながらご挨拶。

「なんか……久し振りだね」

実のところ、結構ドキドキしていた。

たった4日会わなかっただけなのに、まるで運命の女の子と、苦難の末に巡り逢えたかのような感じ。

見慣れた筈の制服姿の彼女は、妙に色っぽいと言うか、限りなく俺に女を感じさせ、もしここが校内でなかったら「ごめんよぅ」とか言いながら押し倒してたに違いないだろう。

なんちゅうか……

冒険ネズミは尻尾を立てるが、俺は別の所を勃てちゃいそうだ。


「ひ、久し振りって……日曜日にずっと一緒だったじゃないの」

苦笑しながらポスポスと拳で俺の胸を小突くいづみチャン。

「毎日、電話だってしてるのにぃ…」


「そ、そりゃそうだが……なんちゅうか、実際に会ってないと、その……なぁ」


「……っもう」

何が「もう」なのか分からないが、いづみチャンはニコニコと微笑みながら俺の手を取り、

「今日は……夜まで一緒だから……」

と、囁くようにそう言った。


「そ、そうだな」

出来れば布団の中まで一緒にいたいのだが、さすがにそう我侭も言ってられない。

俺は心の中で、不満気な将軍に「お預けッ」と命令しながら、彼女の手をキュッと握り返す。

「さて、それでは梅女の学園祭を見物するとしますかぁ」


「う、うん。ブブイ~ンと、張り切って案内しちゃうモンね♪」











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