第1話 困った体質、馴染めない人間《3》
「あのね…私、君が好きなの』
私は勇気を振り絞り、大好きな彼に気持ちを伝えた。
『へぇ…それで?』
『え…それで?って、ひどいよ!!』
なけなしの勇気も虚しく、彼はすっとぼけた事を言った。
『いや、だって…好きなのって言われても…俺、どうしたらいいんだよ…』
彼は目を伏せ、吐き捨てるように言った。
『……えへへ。ごめんね…私、君にさ…もう会えないと思った君にさ…また会えて、嬉しくって……運命じゃないのかなって………思っちゃったんだぁ…ほんとごめんね……ごめん、ごめんなさいっ!!』
私はとうとう堪えきれなくなった涙を流しながら、走って逃げてしまった。彼には本当に申し訳ないことしてしまったと思う。もう彼には二度と会えないのだ。私これで…やり残した事はないから…。」
「………さっきから何を言ってるのかしら?頭がおかしい…のは最初からね…大丈夫?」
「へ?なに?誰が頭おかしいんだよ」
普通気持ち悪がると思うわよ。本を読み出したかと思ったら、急に朗読し始めだすもの…おかしくなったと思うじゃない?
「君の悪い癖が出ているわよ」
「悪い癖?なにそれ」
え……自覚ないの………同じクラスの人大丈夫かな…って、人の心配する奴だったかしら私。日を重ねていくごとに、毎日ちょっとずつ…彼と関わっていく度に、変わっているような……そんな気がする。
「っていうかさ、いおちゃん」
「いおちゃんってなに…」
嫌そうな顔をして聞く。
「へ?春日『井桜』子でしょ?だから『いお』ちゃん」
手に持ったメモ帳にわざわざ書き出し説明しなくてもいいのに…というか、内心嫌じゃないのよ………でも、そんなこと知ったら調子にのるから、絶対に言うものかと、心に決めた。
「で、いおちゃんいおちゃん。運命って信じる?」
「ふぇ?うんめい?」
うっ…いおちゃん連呼されて思考回路がまともに動いてなかった。おかげで、声うらがえっちゃったじゃない……恥ずかしい。
「そうそう、運命。どう思う?」
「うーん…」
うわぁ…どうしよう。運命、ねぇ…なんて答えるべきなのかしら。
「運命なんてないわ。全ては必然のもとに成り立っていると思うのよ。だから、運命も偶然もないわ」
「へぇー…で、何の受け売り?」
あちゃー、バレた。まさか読んだのかしら?あの本…マイナーな本のはず……ま、いっか。
「これ…だけど?なにか?」
「………なんでもないっす、マジなんでもないっす!(口が裂けても、笑顔が怖いなんて言えない…)」
「で、運命についてだっけ?」
「うん、そうそう…どう思う?」
…やっぱりどうも思わない、そんなものないと思うもの……だって、私…自分が見たもの、体験した事しか信じないもの……って言って、信じる?今までそう言って、どれだけ気持ち悪がられたか…私は、今の関係性を少なからず気に入ってるのよ………だったら…
「信じる…かな?」
「嘘だね」
…!?
なんで…なんで、わかったのっ……!!
「っぷ…あっはははは!わかりやすっ!!」
「へ?え……え、え?」
嘘を見抜かれた上に、笑われて…え?うん?どゆこと?
「いおちゃんさぁ~、嘘つくとき絶対目をそらして髪の毛いじってるもん。嘘つくときの癖直した方がいいんじゃない?」
「なっ…!!」
なんですとぉおおおおお!?え…そんな癖が…まさか……はっ!?だからか!いつも嘘を見抜かるのって………。
思わず、机(部室に敷いてある畳の上にあるちゃぶ台)に突っ伏した。
あれ?私、なんで恥ずかしがってんだろ?ってか、赤くなってる気がする!!
「あわ、あわわ…あわわわわ……」
「おい…大丈夫か?」
さわ…
「ひっ!?」
触られた…触られちゃった…えへ、えへへへ…。
「み、見ない、で…?」
「大丈夫じゃねぇだろ、それ…」
ぴと…
「はう!?」
おでこに手が…あがががが……近い近い近い近い近い顔近いよ!?
「あう…しゃわらないれくらしゃい!」
「なんて?」
呂律が…思考回路も回って、な…い……。
ドサッ…………。
「え!?おい!大丈夫か…おい……いお、ちゃん………」
机から、畳の上へと倒れた。
体が熱い。
おかしいな。
そして…意識が途切れた。




