第1話 困った体質、馴染めない人間《1》
「ねぇ、春日井さん…」
「なにかしら?」
私に話しかけてくる人なんて珍しいわね…。
「あの………いや、なんでもないです…」
次が移動教室の授業なのに、呼び止めたと思ったら何も言わずに去って行くとは…非常識ね。ほんと、ありえないわ。
そもそも、え…っと誰?だっけ…まぁいいや。
「……じぃー」
「…………」
「…じぃーーー」
「………………」
さっきのやからとは別の女の子。もちろん名前は知らない。くらすめいと?なのかな?
「…なに、かしら?」
「いや、何も?」
「そう……あなた、名前は?」
「ん?先に名乗るのが礼儀じゃない?」
「むっ……そうね、私は春日井桜子よ」
「うん!知ってるよ」
…不覚にも、いらっとしたわ~。流石にね、この私でもいらっとした。
そのイライラも込めて、
「そういうあなたは?」
「私はね…狐衣 詩だよ!よろしくね!!さくちゃん」
「へ?え、あぁ…よろしく…って、さくちゃんってなに?」
すっごい馴れ馴れしいんだけど…。
「じゃ、もう時間だから…」
「お!そうだね。一緒に行こっか」
「え!?え…っと、いくの?いっしょに…」
普段からあいつとしか過ごした事がないから、こういう時どうしたらいいのか分からない…。そのせいで、言葉がつっかえてしまった。
「行かないの?サボるの?」
「いや、行くわ…行くけど……」
「けど?」
「うぅ…行きます…」
「よし!行こう!!」
私は、こういった距離の近い人間が苦手だ。
いや、距離は近くてもいいのだ。
だけど、早すぎやしないだろうか…。
私自身、特に親しい仲の人間はいなかった。
煩わしかったのだ。めんどくさかったのだ。
だから…私は、彼女が嫌いなのだろう。
それに、彼女もいつか気づく。
私に近づけば、どうなるか…。
だったら…早くに手を打とう。
「ねぇ、どうして私に声をかけたのかしら」
「へ?あ、うん。1人で居たから、かな…」
「1人で居たから…ね、なぜ1人になったのか……あなた知ってる?」
「…知らない」
「じゃあ、関わらないで」
きっぱりと、言い切った。すると彼女は…
「いや」
「は?なんで!どうして!!」
「へ?だって…」
「…だって、なに?」
「だって…あなたと仲良くしたい。ただそれだけ」
「私は!そうは、思ってないの!!」
「……そう。友達には、なれないのね…」
ああ…もう!イライラする!!なんで!なんで!なんで!なんで!!こんなに私に絡むの!?
「そうなの!!ほっといて!」
私は耐えられなくなり、走って逃げた…けど、同じクラスなのよね……彼女。
走り去って行く間際、私が聞くことはなかった。
「…でも、ライバルにはなるね。絶対に」
狐衣も、教室へ…歩き始めた。
◇◆◇◆◇
はぁ…結局何にも変わってないじゃない、私。
この憎たらしい体質のせいで…!!
いや……それは、関係ないか…たぶん。
私自身、変わる気が…変える気なんてないんだから…。
◇◆◇◆◇
放課後…いつもの部室にて。
お互いに無言で、見つめ合っている…なんだこれ。
たぶん、君はぼーっとしているんだろうけどさ…なんか恥ずかしい。
私は、気をそらすために彼について考える事にした………この時点で、気がそれていないことに気づくのはもう少し後だった。
たしか…彼、君影創汰と出会ったのは4月、といっても終わりかけだったと思う…。
私が登校時間をまだ決めていなかった時だ。
なんとなく、8時に家を出て…そして、たまたま同じ時間に学校へ着いたんだったっけ?
その時、彼はまだ…私にとって特別ではなく、その他大勢の中の1人だった。初めの印象は、いわゆるイケメン(笑)とか、そんな感じだった。でも、やっぱり雰囲気で感じた。人を見る目が若干、普通の人とは違っていたように思う。ただ…それだけで、終わるはずだった。今までと大して変わることなく…。
だから、まさか再び会う事になるとは夢にも思わなかった。
再会の舞台は、この部室だった。
最初に話した言葉は今にも忘れない。
「…あ、居たんだ…誰?」
…今思い出しても、殴りたくなる。か弱い女子だから痛くないはず…。
「…話しかけないでくれるかしら」
「やだ」
あれ?このやりとり…今日もした。狐衣さんと。
私はなんて答えたんだっけ?
「やだ…って子どもみたい」
そう言って笑った。笑ったんだ…私。何でだろう…。
…彼女に悪い事した、のかしらね?した…んだと思う。謝る?それは、違う。私は…
どんどん思考の海へ呑まれていく…その中で、クリアに聞こえる私を呼ぶ声。
「おい…おーい…返事がない。ただのじぐぉ…」
「屍じゃないわ。あと大丈夫?生きてる?」
ゲッホ、ゲッホと咳き込む君…喉仏にチョップ入れたの私だけど…。
「生きてる…かろうじて生きてる…」
ひぃひぃ言ってる君を見て笑ってる私がここにいる。その私の手を掴んで、押し倒し謝れよと言う。無表情に近いので判断し辛いが…これは冗談の部類だ。押し倒した時点でほぼほぼ冗談だとわかった。
「はいはい、すまなかったわね………無事じゃ」
「そうだよ!喉、超いてぇ…」
私は、先ほど掴まれていた腕を見る。
やっぱり出ない。彼に触られても赤くならないし、かゆくもならない。人間嫌いの体質は彼には出ないのだ。だからこそ彼とはうまくやれてるわけで…。
「で?さっき、何考えてたの?」
「………」
言えない…絶対に彼には言えない…君の事考えてたなんて…いや、むしろ言って恥ずかしがらせよう!
「なんか言えない事でも考えてたのか?えっちぃ事とか」
「考えていないわよ、男子中学生じゃあるまいし…それに、ね。ずっと…君の事、考えてたんだぁ…」
若干、頬を赤くし、照れたように上目づかいで彼の様子をうかがった。すると
「そうか、俺の事だけ考えてたのか…ははっ、嬉しいな~」
…めちゃいらっとした。せっかくのネタをスルーされたのだ。誰だっていらっとするだろう。
「…嘘。えっちぃ事考えてた…」
「え!?ちょ、ちょ、え!?ちょ、え!?あ、あの~春日井さん?何をおっしゃているのですか?」
キターー(・∀・)ーーーーー!!そう、この反応を見たかったのだ。…代償に、私のイメージが崩壊したけど…彼、私がえっちぃ子だと思ったかな?
「嘘。誰がそんな事考えるのかしら?男子中学生君」
「は?誰が男子中学生じゃ!」
「図星なんでしょう?」
「ちげぇし!全然そんなこと考えてねぇし!!」
「え……病院、いく?」
「ガチの心配しないでくれ…なんか疲れた」
…彼も私とは少し違うけど、困った体質…というか、思考回路してるのよね…。