私と彼、いつもの
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「…寝みぃ…」
「眠いなら寝たら?」
「んじゃ、お言葉に甘えてそーする」
いつもの光景だ。私は、そんな“いつもの光景”を今日も見れた事に少し安心するとともに、やはり不安になってしまう。
「…寝れねぇんだけど」
「なんで?寝たらいいじゃん」
「お前の前で寝ると悪戯
いたずら
されるし…」
「だって、面白いんだもん。仕方ないよね?」
「ひでぇな…ま、いいや…ふぁあぁ…やっぱ、寝る」
「はいはい、じゃあ今日も悪戯させていただきますね?」
「…無駄だと思うけど一応言っとく。やめてくれ」
「たぶんね…」
はぁ…今日もこのやりとりも見れてよかった。
別に、平凡そのものでなんの変哲もない普通だけど、いつ、このささやかな私の幸せが終わりを迎えるかもしれない不安に襲われるのだ。そう、長くても、あと少しで終わってしまう…なら。
「…ん、んぅ……ばかやろう…いい、わけ…ねぇ……だろうが…………」
「!?………びっくりしたぁ…やめてよね……」
寝言で、驚かせられた仕返しに、手錠(玩具だけど…)をかけてやろう。
「…ふっふっふ…私を驚かせた罪は重いぞ…」
カバンから、手錠(玩具だけど…)をとりだし、彼の手にかける。
カシャリ…。
すっごい、チープな音がしたけど…まぁ、玩具だし。あたりまえか?
私が、悪戯して優越感に浸っていると、不意に部室の扉が開けられる。
「おい…お前らいつまで居るんだよ…」
そこにいたのは、せんせーだ。
そして、扉の音に反応して彼が起きてしまった。
「…?あ、せんせー、どうしたんですか?って、何これ…外れないんだけど」
「手錠だもの。この鍵でしか外せないんだよ?」
「…お前ら何やってんだ。さっさと帰れよー…」
「はーい、そのうち帰りま~す」
手をあげて、適当に答える私。
「最終までには帰れよ…あと、戸締まりよろしく」
せんせーは、返事を聞く前に出て行ってしまった。
「はーい、と…ねぇ、君…帰る?」
「その呼び方やめて」
手錠は…もういいのかな?
と、思った瞬間に両手をこちらに突き出し、はずせと…目で言っている。
仕方ない…放置だ。
「早くはずしてくんない?帰れないんだけど…」
「…仕方ないなぁ、いっつも君はそうなんだから…」
大半はお前のせいだけどな、っと言外で語っている人はほっといて、帰る準備をする。
「じゃあ、帰ろ~」
「はいはい、帰ろうか」
教室のドアを閉め、靴を履き替え、校門の外へとでる。
「んじゃ」
と、彼が手をあげたので、私は
「またね~」
と手をあげる。そして、左へと曲がり、彼と並ぶ。
「お前…こっちじゃないよな?」
「そうだよ?帰るには、右に行った方が早い」
「なんでこっちに来たん?」
「君といると楽しいから」
2人並んで歩いて帰る。これも、いつものことだ。
「一つ、聞いていいか?」
彼は私に問いかける。
「…その、だな…」
彼にしては珍しい…言いたいことはズバッと言ってしまう人なのに。
「…先に言っておくけどな、勘違いを今から言う。絶対に引くなよ?」
「うん…どうしたの?」
聞くんじゃなかった…彼の言ったことが、今日と明日の彼と私を…狂わせた。
「お前…俺のこと、好きなの?」
「へ…………は……はぅ…」
この日だけは違った。いつもなら、彼の望み通り思いっきり引くのに、今日は…顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。
「…あれ?あー…なんかごめん」
彼に謝られてしまった。
「…い、いやっ!!全然…全然大丈夫、だから…」
ダメダメである。まともじゃない…のは最初からか…。
「えっと…その……今日は、もう、帰る」
「え!ちょ、待って!!」
止めようとする彼を振り切り全力で、逃げ出してしまった。
なんとか家には着けたものの、道中の記憶が一切ない。彼がおかしな事を口走っただけなのに、なぜ…私が焦っているのだろう。
「ど、ど、ど、ど、どうしよう!!どうしよう…あぁー!!」
自分の部屋のベッドの上で枕に顔面を押さえつけながら思いっきり叫んだ。だからといって、問題が解決しないことに気づいてしまった自分が恨めしい。
「…なに青春しちゃってんだろ、私」
ふと、時間が気になり時計を見ると、もう9時だった。たった1人の少年のためにどうしてこんなにも悩んでしまったんだろうか…。
そう思っても、考えてしまうあたりそれだけ強烈なモノだったと言うことだ。
「明日どうしよう…」
とか、言ってたらいつの間にか朝になってて、学校に登校して、放課後…部室に来ている私はいつも通りだ。寝たら治った。睡眠は大切である。…だけど、私はよくても、彼はダメなようだ。
「……………………」
「……………………」
お互いに無言はきつい…。『いつも通り』を求めている私にとって、『いつも通り』ではないこの状況はひどく落ち着かない。なので…
「「…あのさっ!!…ッ!?」」
やってしまった。
「…どうぞ、先に言っていいよ」
やってしまったらしょがない。まさか、同じタイミングで同じ言葉を発するなんて思わなかった。なら、先に譲ってあげよう。
「昨日のこと、だけどさ…気にしないで、ください」
「…安心して、何とも思ってないから」
そう、言ってしまった。
「それはそれで、ひどくない!?」
言葉を間違えた…動揺しまくっている証拠だ。まさか…ねぇ。
「…うそ、ちょっとは意識するようになっちゃった」
「…………うん」
若干、恥ずかしくて目を反らしてしまった。
「うわっ…なにこの甘ったるい空気…換気しろ、換気」
そう言ってせんせーが入ってきた。
「せんせー…なんの用ですか?」
ジト目でにらんでしまった。
「用がなくちゃいけないのか?」
「…それもそうですね」
何ともいえないタイミングでせんせーが入ってきたのはいいのかな?わかんないや…。
「嫌いじゃないよ?」
「まだ続けるんだ!?…疑問形なのと、嫌いじゃない、っていう言い方が気になったけど…」
「君はどうなの?聞いたってことは、思い当たる節でもあったの?」
「俺は…わかんねーや、何となくだし…」
「お前ら、《せーしゅん》してんのかと思わせといて、してねぇのかよ…」
「そーみたいです、問題解決となりました」
「…だな、問題ないです。せんせー」
「…そーか、ちぇっ、おもしれーモンが始まりそうだったから来たのに意味なかったし…」
「教師してください、せんせーの職業は教師でしょが…」
「はいよ…んじゃ、教師らしく言っておいてやろう…間違いは早めに犯しとくもんだぞ」
よくわからないことをつぶやきながら、部室を出て行った。何を考えているんだ…せんせーは。
「…あー、馬鹿みてぇだな」
彼はそう言って、机に突っ伏した。
「そーだね、私たちには似合わないよ…ふぁあ…」
私も机に突っ伏した。顔が近いが気にしない。
「あんまり、無防備な姿を見せるんじゃないぞ。せんせーの言うとおり間違いを犯しそうになる」
「いいんじゃない?私、気にしないし」
「そーじゃなくてだな…」
珍しく今日は眠い。昨日何時に寝たか覚えてない。
「……………」
「…聞いてるか?って寝てんのかよ…」
彼は寝ている“ふり”をしている私に、
「いつものお返しだ」
と言って、唇を摘まんで…
カシャッ…
写真を撮ったようだ。
「…ん、んぅ…なに?」
このタイミングで起きたら、予想通り彼はびっくりした。
「うおっ!?ど、どした?」
「君の言う間違いとは、これかい?」
これとは、もちろん悪戯のお返しとやらだ。
「…ほれ、見てみろ」
彼が見せてきたのは、さっき撮った写真だ。
なに、これ…アヒル口になってる私。
「消しなさい…一刻も早く!!」
「…慌て方だろ!!そーかそーか、じゃあ永久保存確定だな」
「消せよー!!早く!!」
必死にスマホを奪おうとするが奪えない。
「…はぁ…はぁ…早く、消し…なさい」
「お前体力なさ過ぎだろ…あと、諦めろ」
「そうね…もう、いいわ…」
そう言って、いつもの席に着くとチャイムが鳴った。
「帰る?」
「帰る」
そそくさと、大して重くもないリュックを背負い、部室を出る。
そうして今日も、左へと曲がり、2人並んで帰る事にする。
「やっぱこっちなんだな…」
「だって、こっちの方が」
「「楽しいから!!」」
「だろ?」
「あたりまえじゃん」
私はそう言って、笑った。
彼もそれを聞いて笑った。
夕焼け空に笑い声が響いた。
願わくば、少しでも長くこんなくだらない日々が続きますように…。