↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の魔神  作者: サナギ雄也
第三章
37/42

第37話  いつかまた会える日まで

「――それでは、わたくしは大宝物庫(プレアデス)へ戻るべきなのでしょうか」

 メイドの少女、シャノンは一連の様子を見て、アルシエルへと振り向いた。


「ん、そうだな……宮殿内の隠し部屋を記した本だったか。彩斗、それはまだ必要か?」

「そうだと、思います。もしかするとベリアルの力を抑える手助けになる魔法具もあるかもしれませんし……」

「そうだな。シャノン、探して来い。頼んだぞ」


 礼をし、部屋を出かけたシャノンを見つめながら、ふとエルンストが言う。

「フレスベルグもよければ、千里眼で探すのを手伝ってほしいのである。そちらの方が早い」

『すでに結構な精神力使ってるんだけど。風の呪字(ルーン)も使ったし。だるーい』

「手伝ってくれたら、ワタシが手持ちの液体で、自慢の料理を作ってあげよう」

「ゲロマズ……。もうあんなの食べたくない。自分が食え」


 ウネウネだのムラムラだの、怪しげな草の料理のトラウマを持つフレスベルグは、厳しい。

 一同が笑い、アルシエルがシャノンを促した。

「そういうわけだ。さっき貸し与えた八体のガーゴイルで探索しろ」

「かしこまりました」

 深く礼をして、シャノンはその場を離れて行く。


 一同は再び弛緩して、床へと座り込む。

 ゆったりとした空気が流れていく。全員の表情から、安堵の気持ちが洩れていった。

 疲労感は皆の中にある。しかしそれ以上の達成感があった。全ては終わった。平穏は訪れたのだ。悲劇の根本たるベリアルの真相を暴き、転生体である彩斗が決意を表明した今、彼らを脅かすものなど何もない。


「あっ!」

 スララが声を上げた。

「お姉ちゃん、ゲームを完全に終了させないと~。まだ仮終了のままだよ」

「あ、しまった、そうだったな」

 慌ててアルシエルは立ち上がって、オーブの台座に寄ろうとする。


 二段階の手順のうち、終わらせたのは半分だけ。オーブに終了の宣言をしてから、そのままだ。フレスベルグに千里眼を使ってもらって大貴賓室を見てみれば、すでに歌や踊りも佳境を過ぎている。後は魔法陣に魔力を注ぎ完全にゲームを終了させ、全てのペアへ終了の宣言を行う義務が残っている。


「もう、お姉ちゃん、忘れたらダメだよ~」

「すまん。すっかり安心し切ってしまった。面目ない」

 姉妹のやり取りに思わずエルンストが微苦笑する。

「仕方あるまい。ずっと復讐にまみれ、つい先程は彩斗の正体も暴いたのである。気が抜けてしまうのは、当然だと言えよう」


「おっ、と……」

 アルシエルは少しよろけた。

「もう、お姉ちゃん、安心したからってダメだよ~。もう少しで転ぶところだったよ、ドジドジ~」


「……はは、そうみたいだな。すっかり気が緩んでしまった。……おや?」

 自分の足元を見て、アルシエルは首を傾げる。

「……なんだ? こんなところに石の欠片が? どこからだ。フレスベルグの風で入って来たのだろうか――」

 そのとき、スララの顔が青ざめた。


「お姉ちゃん! 違うよ! 足が、石化し始めてるっ!」

「な……に?」

 不吉な予感と共に目を凝らせば、アルシエルのつま先が、固く変化し始めている。


 冷気が立ち上るかのように、灰色の支配は彼女の親指の自由をまず奪い、五指を、甲を、くるぶしを永遠の硬直で侵し、なおも広がっていく。

 それだけではない。

「エルンストさんっ、足がっ!」

 白衣の青年の足までが石化する。つま先を起点とした灰色の侵食は甲の自由を奪っていく。足首が使えなくなった。感覚が死ぬ。寒気と共に怖気が這い上がり、視えない蛇に絡みつかれたかのように、灰色は進行する。


「な、なんであるか、これは。なぜワタシが石化する――」

「馬鹿な……こんな、こんなこと、あるはずがない……っ」

 駆け寄ろうとして石化の足で転びかけ、蒼白色のアルシエルが叫ぶ。

「ゲームの終了は宣言した。今は仮終了の段階だ! もう闘技も石化も行われない! なのに、なぜ、石化が進行するっ!?」

「――見て、オーブがっ!」

 スララの叫びの向こうを見て、全員が絶句する。

 台座の上のオーブが、ほのかな光を放っていただけの宝玉が、膨大な深紫色の光を放出し始めた。


「馬鹿な……」

 愕然と、アルシエルが声を震わせる。

「あれは、仮終了の解除の光……? こんな、あり得ない。私は終了を宣言した。止まれ! オーブよ、私はゲームの再開など望んでいないっ!」

 脛まで石化した状態で、アルシエルは台座まで駆け寄る。

 細く美麗な手から魔力が放出される。淡い光がオーブの球体表面に広がっていき、幾度の叫びが、必死の叫びが、「止まれっ!」と激しい嵐のように連呼されるが、オーブはますます光量を増し、直視することも難しくなる。


「どうなっている! 私の宣言に従えっ! オーブよっ! ――くそ、やむを得ん、破壊する!」

 アルシエルの首のダジウスの輝石が、猛然と輝き出す。オーブの光量に対抗するかのように爆発的な発光が乱舞する。

 烈火のリコリスが、長く太く伸びていく。

 空間ごと抉り取るようなアルシエルの斬撃が、オーブへと叩き付けられる。だがオーブから阻むかのように薄い壁が生み出され、烈火の爪が大音響と共に弾かれる。


「私の攻撃でも耐えるとは……」

 幾度も紅い軌跡を奔らせアルシエルは爪撃を叩きつける。火の粉が吹き荒れ、衝撃波が周囲を包み込む。

 だがオーブを囲う障壁は、ひびが入ることはあっても、砕け散るまでは至らない。一撃が加えられた直後に強烈な光を発し、再生し、損傷を補っていく。


 障壁の再生の速度とアルシエルの攻める速さは――ややアルシエルが上回っている。しかしその程度の差では状況を覆せない。オーブの表面を覆い尽くす深紫色の障壁は、アルシエルを嘲笑うかのように発光し、復元し、破壊を阻害し続ける。


「このままでは破壊の前に私が石化する……!」

「お姉ちゃんっ!」

「ゲヘナ――っ!」

 彩斗の右手から黒い火花が飛び出す。空間が漆黒の閃光に穿たれる。

 しかし離れた位置からの一撃は、オーブにまで届かず、バチバチと不協和音を奏でただけで消え去った。


「彩斗、手を障壁に密着させてゲヘナを使え! たとえ火花の状態だろうと、その力はベリアルの最強の一撃。私の炎では時間が掛かるが、それならばおそらく一撃で破壊できる。急げっ!」

「は、はいっ!」

 だが、部屋のあちこちで不吉な紅い光が瞬き、一同は硬直する。

 魔法陣が部屋の至る所に現れた。

 一瞬で十を超えるガーゴイルが出現する。

 冷たい四肢を細かく震わせ、宮殿の番人たる石の怪物は、咆哮した。


「宮殿の王(マスター)からノ命令を受諾。不穏分子は、排除すルっ!」

 六体のガーゴイルが、彩斗目掛けて体当たりをしてくる。

 即応してスララが、エルンストが、迎撃を試みるが一体が掻い潜って彩斗へ突進をくらわせる。


「ううああっ」

 遥か後方の壁にまで彩斗は叩き付けられる。苦痛が彼の体を走り抜ける。

 ガーゴイルたちは、アルシエルの阻害をするべく彼女へも殺到した。

「貴様ら、なぜ主に向かって牙を剥くか! 失せろ、私の邪魔をするな!」

「何ヲおかしなコトを言ってイル。我らのマスターはお前ではナイ。果てヨ」

「この、石の雑兵どもがっ! 燃え尽きよ!」

 怒声と共に烈火の分体がアルシエルの爪から生まれる。スララも応援にリコリスを振り回し援護する。


 姉妹のリコリスが乱舞し、烈火と触手の嵐が吹き荒れた。

 さらにはフレスベルグの風の弾丸が宙を貫き、幾度も放たれる。

『なんなのこいつら……っ、大貴賓室でも暴れて……っ、ああもう! うざいっ!』

「――敵を/穿て(ピア・デヒト)!」

 焦燥の声のフレスベルグと共にエルンストの言霊が力強く吐かれる。棄科学の支配下のままだったピースが雨あられとなってガーゴイルを打ち、弾き、吹き飛ばす。


 だがガーゴイルの出現は際限がない。部屋の魔法陣から墓場の死者のごとく現れては襲いかかり、叩き伏せられても薙ぎ払われても無尽蔵の軍勢は怒涛のごとく押し寄せる。

「く、ああっ!」

「彩斗! あ……っ」

 スララと彩斗がガーゴイルの群れに飲み込まれて見えなくなる。エルンストも間合いを詰められ顔を強打され吹き飛んだ。フレスベルグの風の弾丸が乱射されるがそれでも倍の勢いでガーゴイルが現れる。


 アルシエルは決断する。オーブの破壊は不可能だと判断する。


 このままでは石化が進んで終わり。石の像となったアルシエルでは置物以上の価値はない。動けるうちに皆を、希望を残さねば全ての未来が途絶える。


「私は――私は、今度こそスララを守る!」

 紅蓮の軌跡が舞い、長く太い猛火のリコリスが部屋中のガーゴイルを切り刻む。

大半のガーゴイルが戦闘不能になる。その隙をついて、アルシエルはスララを片手で回収し、彩斗、エルンストをも抱きかかえて部屋を脱出する。


 アルシエルの部屋へ。さらにその外へ。吐息が壁に反響し篝火の明かりがほのかにアルシエルの頬の汗を照らす中、ガーゴイルの怒号が響いていく。


「奴らを逃がすナっ! 追えっ!」

 アルシエルは部屋の外の階段を駆け下りる。薄闇と篝火と空の牢屋が並ぶ回廊の中、彼女は三人を抱えて必死に背後へ分体を放ちながら逃走する。

 すでに、体の石化は下腹部にまで到達していた。脚は使えないため分体の一部を下半身に巻きつかせ、即席の四脚として、半人半馬(ケンタウロス)のごとく駆け抜ける。


「いったい、どういうことだ、なぜゲームが再開される……? どうしてガーゴイルが襲ってくる……?」

 背後から大音響と共にガーゴイルの咆哮が響いてくる。螺旋の風が吹き、フレスベルグの声が響き、彼らを援護する。

『急いで。こっちでもそっちでも呪字(ルーン)を使ってるから、あんまり時間は稼げない』

 一際激しい風が、一同の脇を通り抜ける。フレスベルグの風の弾丸は破城槌のごとく太く荒々しい一撃となってガーゴイルを弾き飛ばす。


 汗と激しい息と焦燥感に苛まれながら、アルシエルが矢のように回廊を駆け抜ける。

「あ、お姉ちゃん、あれっ」

 抱えられたままのスララが、回廊の片隅を指さした。

 それは一冊の書物だ。豪奢な装飾と六つの翼を持つ蛇の紋章が描かれた分厚い本が、道中の獅子の石像のそばに落ちていた。

「……ベリアルの紋章だ」

 立ち止まり、乱れる息でアルシエルが言う。


「大宝物庫にあったものか……? シャノンは? ガーゴイルにやられたのか……?」

 六枚翼の蛇の本には、おびただしいほどの血がついている。状況的にシャノンのものである可能性が高い。だが視界にはあのメイドの少女の姿は見当たらなかった。


 抱かれたままスララが、リコリスを伸ばして、引き寄せてみる。本の中には、天空宮殿内の地図が記されていた。

「お姉ちゃん、これ、隠し部屋の書かれた本だよっ」

 黒のインクと羊皮紙と血の匂いが混じり、混沌とした香りが舞う。記された図は、宮殿の第一層、第二層、第三層全てを網羅し、なおかつ通常は入れない部屋をも記していた。


 アルシエルはその地図を見て即座に走る。皆を抱えたまま、地図に記された中で最も近い隠し部屋、回廊の途中で三つの絵画が飾られている一角へと急いだ。

「本に印が描いてあるよ~。説明書きもある。三つの絵画の真ん中を印通りになぞるんだって!」

 そのとき、抱えられた彩斗の脳裏に、針のような違和感があった。しかしアルシエルの切羽詰まった声、スララの地図の指示、背後から轟くガーゴイルの奇声とフレスベルグの風にもまれ、思考は霧のように四散する。


 風のように走り抜けようやくアルシエルは三つの絵画のある箇所まで到達する。

三つ眼の竜が描かれた壮麗な絵が並んでいる。一つは黒い炎を吐き、一つは石像を大量に従え、もう一つは光の円環を身にまとっている、巨大な絵画。

 姉の代わりに、本の指定通りにスララはリコリスを用い、真ん中の絵に印を描いた。

 なぞられた数秒後、重い音が鳴る。石像を従える竜の絵が中心から割れる。左右に開き、どこまで続くかわからぬ漆黒の道。


 ガーゴイルの怒号が聞こえてきた。あまり時間はない。足音は増えていく。アルシエルは三人を抱いて、現れた闇の中に飛び込んだ。

 篝火がずっと奥まで続いている。

 背後で絵画が元通りに閉まる音が聞こえた。直後、いくつもの足音が過ぎ去っていった。


「はあ……はあ……はあ……」

 荒い息でアルシエルは通路を走って行く。薄闇の中、篝火の明かりだけが頼りだった。


 這い上がる焦りと疲労の蛇。

 やがて――一同は白亜の空間へとたどり着いた。


「ここが……ベリアルの隠し部屋……」

 さほど広くもない部屋だ。直径は五メートルというほど。窓はなく、光源は天井の琥珀色の宝石のみ。そこから明かりが行き渡っている。調度品は、複数の鏡が置いてあるのみ。


 疲れた様子で、アルシエルは三人を床に降ろした。

 いや、それ以上抱きあげられなかったというのが正しい。彼女の体はほとんど石化しており、残るは肩から上だけだった。途中から分体を使い、三人を抱き上げていたが、その集中力も尽きた。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

 必死でスララが叫びを上げる。


 だがアルシエルもエルンストも、石化の症状は止まらない。それは紛れもなく闘技の敗北者に与えられる、残虐な懲罰だった。


「いったいどうして……もうベリアルはいないのに……彼は死んで生まれ変わったのに、誰がゲームを再開させたんだろう……」

 彩斗から呆然とした声が洩れる。アルシエルは残る時間に切羽詰まった様子で語った。

「私の命令も通じなかった。おそらくはベリアルも私も関係ない。第三の人物の意思が働いていると思われる」

 信じられないという表情で、皆が目を見開かせる。

 しかし次に冷静な口調で語りだしたのは、エルンストだ。


「そう……であるな。ワタシもそれしか考えられないのである。どこかで、誰かの意思が介入した。ワタシたちはそれに気づくことができず、ガーゴイルを、アルシエル・ゲーム自体を、何者かに乗っ取られたと判断するべきである」

「そ、そんな……っ」

 彩斗が顔を歪めて叫んだ。


「で、でも、誰が……!? どうして……? 残酷なゲームは終わりました。アルシエルさんの復讐は終わっていて、だからもうゲームを続ける意味はなくて、こんなことする意味がわからないです……っ」

「我々はそうだとしても、おそらくその『何者か』は別の意思があったのであろう。皆を天空宮殿に押し込み、ガーゴイルを操り、闘技を続けさせる……その歪んだ欲望だけは、確かである」


「そんな……それに、おかしいです。ゲームはアルシエルさんが支配していたはずです。乗っ取る……? そんなこと、できるんですか? そんな時間、あったとは思えない……。誰が、いったい、どうやって……」

 会話の最中にも石化は進行する。アルシエルが、エルンストが、肩すら冷たく変じて、残るは首から上だけとなる。


「私たちは、大きな勘違いをしていたらしい」

 アルシエルの言葉に、皆が目を向ける。


「本当に恐ろしいのは私ではない。ベリアルでもない。それすらも超越した、何者かだ。私たちはその存在に一切気付くことなく、疑念の欠片さえ湧くことなく、最悪の事態に追い込まれてしまった」

 悔しさに唇を噛み締めて、彼女は顔を歪める。


「その者はおそらく、ベリアルと同等以上の闇を孕んでいるのだろう。アルシエル・ゲームの非道さを知って、それでも続けさせるほどの冷酷かつ残忍な性質。すまない、スララ、彩斗……私は、お前たちにより辛い日々を送らせることになってしまった……」

 うなだれてアルシエルは涙をにじませる。白い床に、小さな雫がいくつもこぼれた。


「そんな、アルシエルさん、諦めないで。まだ手はあるはずです」

「そうだよ~、お姉ちゃんは魔神なんだよ。歴代の魔神の力を持ってるんだよ」

 涙はひっきりなしに溢れ続ける。アルシエルはそのまま、首を横に振った。


「私にはわかる。これはベリアルの魔法で施された石化だ。仮初めの魔神では防ぐことはできない。変えられるとしたら、それは……真の魔神であるベリアルでしかあり得ない」

 その場の全ての瞳が彩斗のもとへ集中する。だが彩斗が手をかざし、アルシエルとエルンストの石化を止めようと念じても、何も起こらない。

 正確には一瞬だけ、白い光が瞬き石化が遅滞した。だがその程度では、侵食は阻めない。


「アルシエルさん……エルンストさん……すみません。ボクには、石化を止めることは……」

「そんな顔をするな」

 俯きかける彼にアルシエルの叱咤が飛ぶ。


「私の方こそ最後まで責務が果たせず、身が裂かれる思いだ。体が火のように熱い。憎悪が我が身を焦がす――と言いたいが、体の感覚すらもはや私にはない」

 灰色の侵食は慈悲も何も与えず進んでいく。彼女の未来を、懺悔する暇すらも与えず、冷たい石像への道を進ませる。


「彩斗。スララ」

「――はい」

「うん……」


「ゲームの『簒奪者』を、見つけてくれ。そして打ち倒し、皆を解放してくれ。私は……愚かにも失敗した。ゲームの開催者でありながら、潜む闇に気づけなかった。その上で、頼みたい。愚かしいとは思っているが……お前たちしか、アルシエル・ゲームを終わらせられる者はいないのだ。アルシエル・ゲームは……乗っ取られた。いや、これはもう、アルシエル・ゲームとすら言えない。これはベリアルの遺産によって起こされるゲーム……新たなベリアル・ゲームと呼ぶべきもの。――ゲームの根本を造ったベリアルもいない、それを復活させた私もいない……それを引き継いだ何者かによる、目的もわからぬゲーム……」


「お姉ちゃん」

 ぐっと、スララは姉の石化した手を握る。

「わたし、負けないよ。絶対にお姉ちゃんを元に戻す。そんな、悪い誰かのいいようにはさせないからっ!」


 彩斗が毅然と声を張り上げる。

「ボクだって、そうです。ボクの未来には、スララだけじゃない、アルシエルさんやエルンストさんだって必要なんです。みんなで無事に乗り越えなければ、ゲームは終わったことになりません……っ」

 悲しい顔はいくらでもできる。不安な顔だってそう。けれど不安や悲壮に飲み込まれてしまったら、簒奪者の思うがまま。


 だから泣きたい気持ちも、心細さも封じ込め、彩斗とスララは気丈に顔を引き締める。


「彩斗、もう時間がないのである」

 エルンストの切羽詰まった声に、彩斗は振り向く。

「ワタシの後頭部の髪の中から、小さなガラス管を取り出してほしいのである」

「はい……っ」


 取り出すと、それは薄紫に輝く半透明の液体が入った器具だった。粘性は高く、少し傾けた程度では形を崩さない液体。

「それはいざというときのための予備の薬品である。その中身を、君のコンバットナイフにかけてくれ。そうすれば君のナイフは意思を持ち、自ら敵と戦ってくれるはずである」


 つまりは、彼が今まで使っていた自動攻撃武具(インテリジェンス・ウェポン)を生み出すための液体ということだ。

「それを使って、更なる闘技を乗り越えるのだ。フレスベルグとも協力してやってくれ。彼女は優秀である。千里眼と風の呪字(ルーン)は、必ず君たちの力になる。志半ばにしてワタシとアルシエルは離脱してしまうであるが……せめてこのくらいは、しておきたい」


 もう時間がない。石化は進む。冷酷に、確実に。

 彩斗とスララはそれぞれ、アルシエルとエルンストの手を握り締めた。


「いつか、必ず簒奪者を倒します。そうしたら、真っ先に石化も解きに来ます」

 彩斗が感情を堪えるように宣言すれば、

「お姉ちゃん、わたし、泣かないよ。次に泣くときは、お姉ちゃんを助けたときにする。だからそれまで、待っていて~。わたし、彩斗と一緒に、新しいベリアル・ゲームも終わらせるから。それまでわたしたちを、見守っていて」

 震え声で、スララは宣言する。

 石化しかける二人は、精一杯に頬を緩めた。


「負けるな、スララ。頼んだぞ、彩斗。全ての未来は、君達の手に――」


 口元まで石に覆われる。そう間もなく、二人は完全に石化してしまった。後には涙をこらえるスララと、その肩を支える彩斗だけが残される。


 ――ベリアル・ゲームは、止まらない、終わらない。

 創りだしたベリアルが死に、復活させたアルシエルが復讐を遂げても、なお、悪夢を振り撒き続いていく。


 彩斗は、硬く拳を握った。そこへ、スララがゆっくり手を添えていく。

 魔神の生まれ変わりである少年と、

 スライム少女の二人は、

 お互いに強く頷きを交わし、更なる戦いに、挑んでいく。

お読みいただき、ありがとうございました。

ひとまず、今回の話で彩斗とスララの物語は一つの区切りとなります。


物語の構成としては第一部に辺り、これからゲームがより熾烈になり、彩斗の活躍も増えます。

物語は全三部(もしくは四部完結)となっており、最終的な着地は考えているのですが、そこに至るプロットがまだ完成しておらず、現在は煮詰めている状態です。

なるべく早く次話を投稿したいと思うのですが、申し訳ありません、更新の再開は未定となっております。


なろうでの連載は初めてで、最初は色々勝手がわからず、そもそもバトルものは受けるのかどうかわからなかったのですが、ブックマークを頂き感動致しました。

未熟な部分も多々あると思うのですが、読んでいただいた方々、感想を下さった方々、本当にありがとうございましたm(_ _)m

貴重な意見、感想、評価など、二部以降の執筆に役立てていきたいと思っております。



※なお、本編中に書けなかったシーン、もしくは書いてから思いついたシーンがいくつかあるので、番外編として不定期ですが載せていきたいと思っております。

本編がシリアス気味なので、コメディチックと言いますか、少しはっちゃけた彩斗やスララを出せていけたらなと思っています。

(それと、闘技で戦った敵キャラのエピソードなども)


これまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

二部はさらに強くなっていく彩斗や、スララのとんでもスライム技を披露していく予定ですm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気に入った方は
ページ上部の『感想』や『お気に入り』、
または以下にクリックいただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。