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間違いからの第2人生  作者: ふぅみき
17/40

17 執務室での脅迫

「……」


 せ、専属護衛騎士とは何ぞや。


 という所から懇切丁寧にお話をお伺いさせていただきたいけどそうもいかなそうだよね。王子さまの懇願するような視線が痛い。


「な、なぜ急にそのような話に…?」


 とりあえずそこからだろう。


「実を申しますと、我がヒグレリア国王宮騎士隊では今現在、女騎士が不足しているのです」


 ん?話とばなかった?


「カルレーナ王女には、この国に滞在していただく間、安らかに羽を休めるようなお気持ちでいていただきたいのです」


 う、うん。それは勿論。


「しかしながら王女は武骨な護衛を毛嫌いしていらっしゃるようで。では魔法使いのような威圧しない護衛を、といえばそれも過度なストレスになるようでして」


 ふう、と溜め息一つ零す宰相さま。ちょ、ちょい待て。


「け、毛嫌い?カルレーナ王女が?」


 訓練所であんなに楽しそうにデスマッチ観戦をしていらっしゃったあの子が?その後は具合悪そうにしてたけど…、あれは紅部隊員の惨状にああなっただけで、騎士を毛嫌いなんて。そんなことないはず…。


「はい。それはもう視界にいれると悲鳴をお上げになられるくらい。特に複数人の騎士達が集まるとそれはもうひどい怯えようで。ふるふると震えておられるのです」


 震える?いや、きゃあきゃあ言ってた記憶しかないけど。


「どなたかと入れ違いになっていたりするんじゃ…」


「はい?」


 ああ、ないですよねすみません、だから無表情でガンつけないで。


「いや、ならどのみち私が専属護衛騎士なんてのは無理な話じゃないですか?その、お、男…ですし…」


 う…っ。自分では認めてなかった分、改めて口にすると結構なダメージだ。


 だがこの間違えられている性別を利用して厄介な案件を回避できるなら、ぜひそうさせてもらおう。


「いえ、そのようなことはございません。訓練場に赴いた矢先、出会ったシャロン殿に不思議と恐怖を感じなかったそうでして。良ければ私の護衛をして頂きたいと、カルレーナ王女たってのご希望なのです」


 …まあ、私、女ですしね。恐怖感じられるような威圧出せませんしね。


「そ、それでも…婚約話を蹴れるくらいの大国の王女さまの護衛なんて、私には荷が重すぎます!」


 うん。これめっちゃ思ってた。前々から決めてた婚約話を別の人物に変えて早く婚姻させろなんて言うのは普通、国として失礼なことではないのかと。外聞も悪いだろうし。


 ではなぜ押し進めようとする根性があるのか?それは先ほどの、宰相さまに誤魔化された理由の他に、権力というものがあるからではないか。と。多分、カルレーナ国はヒグレリア国よりも大国なのだろうな、と見当をつけていたわけです。公爵家で当主代理してたころは領地運営に必死すぎて他国のことまで勉強してないし分かんないけど。


「いいえ?大国、などではありませんよ?」


「はい…?」


「武力も経済力も世界トップを走っている我がヒグレリア国のほうが上でございます。どちらかといいますと、カルレーナ国は弱小国でございますね」


 無表情で言い切った宰相さま。この方今、すごい勢いで隣国を罵倒した気がするんだけど。どれだけ鬱憤溜まってんだ。


「ではもう、あの理不尽な婚姻話も無視されて婚約話だけ聞いてればいいんじゃないですか?これ以上喚くならてめえの国潰すぞ的な圧力かけて、さっさと王女さまをヘコイルト国に帰してさしあげれば問題は解決じゃありませんか」


「ええ。そうしたいのは山々なのですが。どうにもあちら側にも、引けるような状況ではないくらい切羽詰まっているようでして。この度のカルレーナ王女のご訪問も、ヘコイルトが送りつけてきたのでございますよ」


 ヘコイルト国王、もう滅茶苦茶だな。大丈夫か。


「いや、だから無視して話を潰せばよろしいではありませんか」


 強いんでしょう?我が国は。


「些か困った歴史背景がありましてね。無下に扱うにはまだこちらのリスクが高すぎる。できれば友好国としての手は繋いだままがよいのです」


 だから無視する訳にもいかないと。しかし歴史的背景ときたか。これもう完璧な政治問題じゃない。なんでいち見習い騎士にここまで話すかなあ。


 まあでも、私の気持ちは最初っから決まってる。


「…それでも、申し訳ないのですが専属護衛騎士のお話はお断りさせて頂いてもよろしいでしょうか」


 いくら、この国に不慣れで騎士達が怖くて仕方が無い王女様のご希望だからって、面倒な匂いしかしないところへ飛び込むつもりはない。


 カルレーナ王女は可哀想だけど。妖精が苦しんでるのは胸が痛いけど。


 私には『紅部隊見習い騎士』という肩書きだけでお腹いっぱい面倒いっぱいですから。昇進なんてみじんも望んでいないし。


「そうですか…。残念です」


 と言いながらも無表情な宰相さま。全然残念そうじゃない。ま、私のかわりなんてすぐ見つかるからだろう。


 そう思っていたが、宰相の顔は無表情から更にその下、目からハイライトが消えて能面の様な表情に変わった。即座に考えを改める。なんか、すごく、嫌な予感がするぞと。


「本当に残念です。─────できればこのようならことはしたくなかった」


 …なにその悪徳代官みたいな台詞!


「こちらをご覧頂けますか?」


「え?」


 差し出されたのは、一枚の用紙。


「実は先日、面白い報告書があがりまして。王家の森に、何者かが侵入した痕跡があると」


「……」


 おっと、目眩がする。


 手元の紙には報告書、と記載されている。その下に羅列された文字からはなかなかスルーできない内容が。


「痕跡はあったようなのですが、誰、と断定できる証拠が何者かに消されているようでしてね。…非常に困っているのですよ」


 でしょうね!

 ああもうアリデライ部隊長何で人物特定の証拠は消すのに侵入した痕跡は消しといてくれないかな⁉︎アンポンタンすぎやしない⁉︎


 しかもこの事を私に言ってくるってことは。


「ですが、侵入者の見当はついているのです」


 クソ…!この宰相、私を脅すつもりか…!


「まだ報告書の段階ですから、見なかったことにもできるのですがねえ」


 淡々と、表情を崩さず、さも口惜しそうに言葉を並べる宰相様。


 さすが国を回す男だ。私に選択肢なんて無い。


「承知致しました!専属護衛の件、謹んで承ります…!勿論報告書だけでなく、痕跡も、消しておいてもらえますよね?タナレーン宰相?」


 軽く睨みつけながら手元の報告書を握りつぶす。


「それは保証致しかねます。これからのご活躍を、期待しておりますよ」


 今は見逃してやるけど、裏切った場合の手札は残しておく算段か。…ちくしょう。


「…承知致しました。差し当たって、専属護衛騎士とはどこまでが私の範囲となりましょうか」


 なるべく、悪態をつかないように笑顔を心がける。


「そうですね。とりあえずはカルレーナ王女がこの国に滞在なさっている間、王女の朝餉から夕餉まで、お側について下さるだけで結構です」


 なぁにが結構だ!毛根死滅しろ!美形だからってハゲないとか思うなよ!絶対将来ハゲるように呪ってやるからな!


「承知致しました」


「ええ。ではそのように。明日の朝餉からの予定ですので。カルレーナ王女へご挨拶に伺ってくださいね。では通達は以上です。もうご退出なさってよろしいですよ」


「はい。では失礼致します」


「あ、じゃっじゃあねお兄さん!」


「…失礼致します」


 はらわたが煮えくり返っていたので、王子からの挨拶の返事もぞんざいなものになってしまった。


 大人気なくてごめんなさい。


 扉のほうへ向かい、最後に一礼だけ行って部屋を出た。












「いっやあ上出来上出来!さすがだねタナレーン宰相殿!」


 見習い騎士が出て行った執務室内では、今まで黙り込んでいたヒグレリア国王陛下の形をした『何か』から弾けるような声が流れた。


「これで満足ですか。アリデライ紅部隊長」


 宰相殿と呼ばれた男は表情を崩さず平坦な声だけを発し、その隣の王子は完全に萎縮していた。


「うんうん、満足満足!君は案外役者向きかもしれないね?なかなかの名演技だったよ!」


「ご冗談を。全て貴方の命令どうりに動いたまでです。…約束は、お守り下さいね?」


「ああ、もちろんだよ。なんだっけ?君の弟の──────」


「確認は結構です。約束さえ、お守り頂ければ」


「ふふふ。固いねえ。もうちょっと柔らかあく生きたらどうだい?」


「善処いたします。早く元の姿に戻って頂けますか」


「はいはい。全く、この姿になるのも楽じゃないねえ」


 ‥‥楽に幻視を使われて堪るか。茶化すようなその男に軽い殺意を覚えながら前を見据えると、そこには国王陛下の姿はなく。いつも通りの紅部隊長が椅子の上で背伸びをしていた。


「じゃ、後は頼んだよ。僕はやらなきゃいけないことがたくさんあるからねえ。忙しいったらないよ」


 その言葉を言い終える頃には、椅子からの重みは既に引いていた。


「…ねえ、タナレーン。僕、割とあのお兄さんのこと、好きだよ。多分、悪い人じゃないと思うんだ」


 王子が言うお兄さん、とは一人しかいない。タナレーンが脅すように王女の護衛に着かせた、あのシャロンという少年のことだろう。それも全て、あの男の命令で、だが。


「…そうですね。決して悪い方ではないでしょう。おそらく王女のことはしっかり護衛していただけると思いますよ」


「うん。そうだといいな」


 少々あの少年が不憫とは思わなくもないが。あの悪魔に目をつけられたのが運の尽きだろう。


 怒りで静かに執務室から出て行った運の無い少年に哀れみを感じながら、タナレーン宰相は仕事に戻るため、本物の国王陛下を探すことにした。


タナレーン宰相さまも駒のひとつにすぎない事に気付いてない主人公。


宰相さまが本当にハゲたらどうするつもりなんでしょうか。笑。

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