13 国王陛下とご対面
「いません!」
「「「………」」」
しぃいいいん、と静まりかえる食堂内。
おっと、やってしまった。つい条件反射で。わーお周りからの視線が刺さるわ刺さる。
「なにあほなこと言ってんすかシャロン。さっさと行ってきてくださいっす」
隣からかかるショドウェイ先輩の無慈悲なお言葉。だっだって先輩!嫌な予感しかしないんですよ!休憩中の見習い騎士を、わざわざ五人の別の騎士隊員が呼びにくるってあり得ないでしょう!?
必死に目で訴えかけるのにショドウェイ先輩は見て見ぬフリ。くっそ、面倒事だと分かって言ってやがんなこの先輩!
「でもおかしいわねえ。碧の奴らが紅に関わりたがることって、滅多にないことよねえ?」
ん、碧?
「だからこそのあの人数じゃねえか。見習い騎士引っ張るのにぞろぞろとしたおでましで。クソガキごときに相当ビビってやがんだろ」
「なぁるほどねえ。そして万が一にも同行してくれなかった場合は増援も呼ぶ姿勢ってわけ。通信用の魔法生まで連れちゃって」
「ま、頑張って下さいっすシャロン。何かあったらトンズラしてくるんすよ」
「そうね。シャロンくんなら大丈夫」
「さっさと行けクソ坊主」
血も涙もないなこの先輩方は!明らか面白がって言ってる!
行こうか行くまいかしぶっていると、食堂の入り口から流れてくる急かした大声。
「国王陛下がお呼びだ!早く出て来い!」
一瞬ざわっとなる食堂内。
こっ国王陛下ぁ!?な、なんでそんなお偉いさんから呼び出しなんか!一年半勤めてた公爵業務でだって、お会いした事がない天上人なのに!
「…っ!はい!今行きます!」
国王陛下さまじゃ仕方がない。半ばヤケクソで返事をするとテーブルから楽しそうな声が聞こえた。
「おっ諦めたかクソガキ」
「まあ、碧騎士隊の奴らじゃトップ以外はなんもできやしないわよ。安心なさいな」
「一応気をつけて行ってくるんすよ」
はいはい。分かってましたよ。誰も一緒に来てくれることなんてないって。ショドウェイ先輩の棒読みの応援も笑って受け流しますよっと。
料理長から貰ったぶよぶよのフルーツ(仮)を隣の食器に叩きつけ、調理場のカウンターにお盆を返すとクァルレイ料理長から「打ち首にならねえようにな!」というお言葉を頂いた。…やめえい!縁起でもない!
半泣きになりながら碧騎士隊の方達のほうへ走る。
「…シャロン見習い騎士で間違いないか」
「はい。あの、どういったお呼び出しで…?」
「先ほど言った通りだ。それ以上のことは国王陛下直々にお話下さるので失礼のないように」
「はい。もちろんです」
首と胴体は繋げたままにしておきたいからね!
「よし。ついて来い」
ほっ、と吐き出された息は聞こえないことにしておこう碧騎士さま。威厳って大事だもんね。
静寂が広がる王宮の廊下を五人の碧騎士隊と一人の魔法生に見張られながら歩く。なんて落ち着かないんだろう。これまわりから見たら犯罪者っぽくないか?いや、まわりも誰も通りかかりやしないんだけれども。
「あの、碧騎士隊の方だと伺ったのですが、この王宮には一体どれだけの騎士隊があるのでしょうか?」
見習い騎士らしく下から下から話しかける。この疑問はずっと前から思ってた事だが、この虚しさを打ち破るくらいの話題にはもってこいだろう。
「……知らないのか?」
おや。もしかして知っていて当たり前のことですか?…あ、そっか。自分の職場のことくらい下調べしておくのが普通か。やらかした。
「…すみません。最近紅部隊に入隊したばかりでして、この王宮内のことについて何も知らないんです」
できれば教えて欲しいな。うるうる。
「そうか。お前もアリデライに無理矢理入れられたクチか。…かわいそうに」
あれれ。なんだかアリデライ部隊長と親し気な感じですね。まさかお偉いさんですか?そんでなんで強制入隊のことを知ってるの?「お前も」ってことはまさか私以外の被害者が?
シャロンの疑問を察した男は、言葉を続ける。
「ああ。俺は一応アリデライのやつとは幼馴染だ。碧騎士隊の隊長をやってるデュノセント・フール・ハルト。…ちなみにあいつをとめられたことは一度としてない」
ほう、アリデライ部隊長と幼馴染で碧騎士隊長と。まさかレンちゃんが言ってた『トップ以外は』ってこの人のことじゃあるまいな…?
「シャロンと申します!お手柔らかにお願いします!」
「「「何を?」」」
ですよね。当然の反応です。まわりの碧騎士さま方は案外ノリがよろしいようで。
「いえ、なんでもありません。それで、どうして無理矢理入隊させられたことをご存知で…?」
「ああ。それは──────っと、そろそろ国王陛下の執務室だ。気を引き締めろ」
「はっはい」
うぅ。緊張するなあ。存外早く着いてしまった。
仰々しい扉の前に立ち二回ノックをして「碧騎士隊隊長デュノセントです。紅部隊見習い騎士シャロンを連れて参りました」と中へ声を掛けた碧騎士隊長。「入れ」というお言葉がかかると「失礼いたします」と断り扉を開けた。
そう、そうなんだよ。これが正しい上司のお部屋の入り方なんだよアリデライ部隊長!この場に部隊長を連れ来てじっくりと見せつけてやりたいと思ったのは私だけじゃないと思う。
デュノセント隊長に続いてお辞儀をしながら「失礼いたします」と口にし部屋に入る。
目に入ったのは、真ん中に心地の良さそうな大きな椅子に座っている御仁。白ひげがちょびっと生えているのが印象的だ。おそらくこのお方が国王陛下だろう。
その右隣に佇んでいるのは、若い美形の男性。長い髪を横に流すようにまとめてあるその姿は秘書っぽいけどここにいるってことは、官僚かなんかだろうなあ。そんで左隣にいるのは…あれ?なんか見覚えがあるぞって…うっわあ。お姫様と午前中にデスマッチ観戦をしていらっしゃった王子様ではございませんか。
まじか。そういう感じか。王子様を発見していたのにご報告しなかったから打ち首か!どういう感じだこの野郎!私は関係ないかんな!ショドウェイ先輩が笑って見逃せって言ったから!だから…!
シャロンは深く息を吐き、言葉がかかるのを待つ。
「そちか、紅に新しく入ったという…」
「はい。紅部隊見習い騎士のシャロンと申します」
「陛下、説明はわたくしが」
挨拶をかましたら右隣の美形が割って入ってきた。さもありなん。国王陛下さまが下々の騎士なんかに直接話しかけたら尊厳に関わるのだろう。
「初めまして、シャロン殿。わたしはヒグレリア国の宰相を仰せつかっております。タナレーンでございます。今回お呼びいたしましたのは、折り入ってご相談したい事がございまして」
ほうほう。宰相さまでいらっしゃいましたか。
… 嫌なフラグがたったと思ったのは、この王宮に来てかなりのカウント数になるんじゃないかな。 だがあえてもう一度。
嫌な予感しかしない!!




