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間違いからの第2人生  作者: ふぅみき
12/40

12 初めての王宮食堂

 全騎士が腹の中の猛獣を押さえつけて並ぶ長蛇の列。訓練や任務からから戻った者達が、漂ってくる香りに頬を緩ませ食堂内を行き交う。


 そうです。私、二日ぶりのご飯です。


「おや、おめえか。昨日入ったキチガイ部隊の新兵ってえのは?」


 ほお。紅部隊は別名キチガイ部隊というらしい。すごい、その通りだ。願わくばもう少し早く教えて欲しかった。


 調理場と食堂とを隔てるカウンターから身を乗り出して話しかけてきたのは、調理場のコックさん。くるくると跳ねた深緑の髪を押さえつけるようにして被ったコック帽と目元に走るしわからは興味深々の様子が窺い知れる。茶目っ気あふれるその姿は、おじさんというよりはおじいさまって感じだな。若い頃はさぞかしご令嬢方の目を奪ったに違いない。


 シャロンは手に持ったトレーを少し揺らせて答える。


「そうですね。普通の騎士部隊への移動を切望している見習い騎士のシャロンと申します。移動願いってどこに出せば受け取って貰えますかね?」


「はは、そうかそうか。おめえさんは噂よりはまともらしいな。俺はここの料理長をしてるクァルレイン・ロイ・カーソルだ。ほれ、デザートやろう」


 こちらへ投げられるフルーツ。フルーツ?なにこれ初めて見た。なにこの茶色のぶにょぶにょの物体。どうやって食べるんだろう。


 まじまじと手元の果実を眺めながらクァルレイン料理長に問いかける。


「噂ってなんですか?その口ぶりだと嫌な予感しかしないですね。先に言っておきますが私は平々凡々な普通の見習い騎士ですよ」


 うん。私ほどまともなのはいないってデスマッチで確信したからな。


 あのデスマッチの終結は優勝者アリデライ部隊長という当たり前の決着に終わった。幸い死者は出なかったけど、何故か怪我人も出なかった。頚椎折れてた人も片腕消えてた人もお腹に剣がぶっ刺さってた人もみんな口を揃えて「こんなの怪我の内に入んないって」と言うもんだから、紅部隊員の頭のおかしさがよく分かる。私あそこで五年間も絶対生きていけない。無理だわ。どうやったらあの部隊員達は死ぬの。


 それから王子様とお姫様はお昼時だからそろそろお帰りと言うと「また来ますね」と笑顔で戻って行った。お姫様は満面の笑みで「ご馳走様でした」と仰られていたが、おそらくあんなエグいとこを見せられて混乱されていたのだろう。心なしか顔が赤かった気がする。


「じゃあ、あれだなあ。王家の森に侵入して捕まって、黒騎士隊の尋問受けた時にロイドの椅子爆破させて、牢屋に入った時にも魔法が使えないはずの手枷で魔力を駆使して結界ぶち破りかけたあげく、紅部隊のデスマッチとやらで禁術を使って部隊長を止めたってえのは。全部デマってことだな!」


「………」


  だらだらだら。


 流れ出る汗が止まらない。あれ、変だな。この噂を聞く限り確かに私が頭のおかしい子に聞こえる。


「ま、まあ!噂ですしね!事実とは限りません!よね!!」


「がはは!だよなあ見習い。全く、噂ってえのはこれだから困るんだよなあ?………なあ?」


 あっかんバレとる。なんでや。なんでついさっきのデスマッチまで筒抜けなんや。


「まあ、あれだよ。ここは食堂だからよ。騎士隊の唯一の憩いの場と言っても過言じゃねえ。日々いろんなハナシが耳に入ってきやがる」


「…実に心臓に悪い場所ですね。私には一生憩いの場とは呼べそうにありません」


 王宮内のことは全部耳に入ってくるってかちくしょう。


「がはは!ま、せいぜい平々凡々を貫いてくれや。俺は期待してるぜ?紅の唯一の普通の部隊員って聞こえてくるのをな」


「…ありがとうございます」


「おう。悪かったな引き止めて。そろそろ紅の奴らの視線が痛いんで行って来い」


「はい。失礼しますねクァルレイン料理長」



 見知らぬ果実(仮)と渡された食事をトレーに乗せて、キチガイ部隊員とその部隊長が座っているテーブルを目指す。この食堂は人で溢れかえっているのに、そのまわりのテーブルだけ人がいないのは気のせいだと信じたい。


「遅いよシャロン。クァルレイと何話してたの?」


「そうっすよ。みんなもうペコペコっす」


「早く座れくそ坊主。時間がねえんだ」


「やあねえ。これだからむさ苦しい男どもは。みんな揃ってから食事を始めるのは当たり前って言ってるでしょ。急かしてあげないの」


「すっすみません」

 

 どうやら、待っていてくれたらしい。


「あれ?そういえば、黒騎士隊のあの隊員はどこへ?」


 なんか足りないなあと思ったらここへ来るまでいたはずの黒騎士隊のやつだ。椅子に座って食事をとりながら隣にいるショドウェイ先輩に話しかける。


「あぁ、あの黒の見習い騎士なら隊のほうへ戻ったっす。シャロンのとこへまた機会があれば伺いに行くとか言ってたっすけど」


 え、なんで。


「そういえば、あの子も見習い騎士だったのねえ。もしかして黒の期待の新人ってあの子のことかしら?」


 目の前の男性?…ごほん、女性がスプーンを持って喋る。危機察知能力って、大事。


「多分そうっすねえ。超魔法使った直後に禁術使おうとするぐらいは魔力があったみたいっすから。黒の奴らが自慢するのも無理はないっすね」


 ショドウェイ先輩が答弁をしていると、おと…女の人!の隣で疑問を口にするおそらく知り合いの男性。


「ああ?んなこと言ったらうちの新入りはどうなんだ。黒の奴と比較になんねえ規模の禁術だったぞ。…おい、てめえ、紅の新入りだったんならさっさとそう言えや。情報収集なんて面倒なことしちまったじゃねえか」


 ーーー情報収集ってなにを収集したんだ。まさか私が女ってことはバレてなかろうな?


「そんなあなたはやっぱり昨夜の隣の囚人さんですか。なるほど、だから王宮内の情報筒抜けで黒騎士隊の面々と顔見知りの口ぶりだったんですねえ」


「そうよお。この馬鹿ったらいろんなとこで物を壊してくるものだからいっつも黒の奴らに捕まっちゃっててねえ。よく一緒にいるロイドのおじいさんを目の敵にしてるの。この間だって宿舎の半分を壊してくれやがったんだから」


  は!?まさか一番可愛い年頃の乙女が牢屋で寝る羽目になった原因はこいつか!


「うるっせえな。おい、クソガキ、俺はノデル・ライト・シャインだ。覚えとけ」


「はぁ…シャロンです。よろしくお願いしなくてもいいので私のまわりの物は壊さないで下さい」


 ノデルさんはたて髪を揺らしながら一気に苦い顔をした。髪と同じ色の赤い髭がなんとも好きになれそうにないのは私だけか。


「あははっ!言うわねえシャロンくん!あたしはナイトレン・ヨルム・ドウジライよ。レンちゃんって、呼んでね?」


  ナイトレンが男の名前だからですか?

 なんて無駄口はもちろんたたきません。まだ死にたくないです。レンちゃんは女の人です。はい。決しておかまなんかじゃ…げふんげふん。入隊する時女はいないって部隊長に聞いた気がするけど…げふんげふん。


「はい。レンちゃんは綺麗な女性、ですね」


「あら!分かるう!?そうよそうよお!お肌のお手入れなんか毎朝気を使ってるんだから!」


 なるほどおひげですね。


「おい、気を付けろよクソガキ。こいつに食われるぞ」


 ーーーん?


「いやあねえ!シャロンくんは同じ部隊員なんだから極力手を出さないようにするわよ!」


「そのツラで両刀とかまじ吐き気がするぜ」


「あ、あああの、レンちゃんは…」


「あたしは綺麗な物が好きなの!もちろん、綺麗な顔ってだけじゃなくて綺麗な性根の人とかも!そこに性別の差なんて気にしないわ!」


 いやそこはしよう!?


 いけない、男に見られてるけど女だから大丈夫だわとか高を括ってたらダメじゃん!りょ、両刀…⁉︎性根は腐ってる自負あるけど、ええ…?


「いいかげんにして下さいっす。食事中っすよ?」


 咎めるショドウェイ先輩の声。

 たしかに、食事中にする話ではない。


「ってあれ?そういえばアリデライ部隊長は…?」


「ああ、部隊長なら気にしないで大丈夫っす。いつものことっすから」

 

「そうよシャロンくん。あの人に団体行動を求めるのは無駄なの」


「いつも三十分以上隣にいる試しがねえ」


 なるほど。あの人が唐突に消えるのは暗黙の了解ってことか。しかし、椅子を引いた音もしなかったな。


「そんなことよりシャロン。早く食べて下さいっす。お昼休憩、もう終わるっすよ?」


「えっ。もうそんな時間ですか!」


 慌てて皿の中の物を流し込む。お喋りに夢中になっていたら結構経ってたみたいだ。まわりを見渡すと食堂内のほとんどの騎士隊の人たちは居なくなっていて、三人とも既に食べ終えていた。私、かなり遅いみたいだ。


「あぁ、そんな急いで食って、喉に詰めないよう気を付けるんすよシャロン」


「ふぁい」


「なんっていうか…。あんたも甘くなったわねえショドウェイ」


「ああ。すっかり丸くなった」


「…は?なんのことっすか?」


 口一杯に食べ物を頬張っている中飛び交う先輩方の話し声。レンちゃんはすっごいニヤニヤ顏。ノデルも赤い髭をさすりながらニヤニヤが止まらないって感じだ。


「あの『紅の絶対零度』って呼ばれてたあんたがねえ。気味の悪いうすら笑顔しか浮かべなかったあんたが、後輩ができた途端その表情を崩して甘々な心配までするなんて。誰が考えたかしら」


 絶対零度って。厨二じゃんぷぷぷ。


「全くだなあ。おい、クソガキ。食われるかもしれねえ心配をすべきはてめえの隣にいるやつかもしんねえな」


「んぐっ!」


の、喉詰まった!


「ああ!大丈夫すかシャロン!ちょっ、ノデルが変なこと言うからっすよ!」


 ショドウェイ先輩がくれた飲み水で必死に食べ物を飲み流す。な、なにを言うかあの囚人!


「間違ってねえと思うがなあ」


「思うわねえ」


 ニヤニヤ。ニヤニヤ。


 くっそ。誰かあのニヤニヤ二人組の顔面に皿叩きつけてくれないかな。超腹立つ。


「そんなこと言ったらアリデライ部隊長のが酷いっすよ!あの人の以前との変わりっぷりは異常っす!」


「ああ…。部隊長ねえ…」


「ああ、あの人なあ…」


「そうっす。部隊長っすよ…」


 なぜか三人とも遠い目を始めた。どうした急に。…しかしこうして見ると、三人とも、大変よろしい顔をお持ちなんだよなあ。なんというか、世の女性方に喜ばれるようなお顔だ。ショドウェイ先輩は優しいお兄さんって感じで女の子とかに受けそうだし、レンちゃんは綺麗な部類でマダムとかに受けそうだし、ノデルはがっしりしてて野性味あるけど顔はいいから危険な駆け引きがしたいお年頃の女子に受けそうだ。


 ふぅむ。中身は残念なのにあ。ショドウェイ先輩は置いといて。


 最後の一口を食べ終えると「ご馳走様でした」を言って椅子から立ち上がろうとした、その直後。


「シャロン見習い騎士はいるか!」


 騒々しい叫び声が食堂の入り口から聞こえてきた。




 

すみません、昨日諸事情により投稿できませんでした!


なのにお気に入り登録が350件になっていて嬉しくてソファから転げ落ちてしまいました!ニマニマ!


これからもどうぞよろしくお願いいたします!

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