勉強合宿開始
東京都文京区
警視庁は自転車ナビライン(自転車専用道路)の試験的導入を始めました。
旧来、自転車は横断歩道を走っていましたが、これからは車道沿いを走ることになるそうです。
さて、どんどんペースを上げていきますね。
いやべつに、更新頻度を増やすとかじゃなくて、物語りをさくさく進めていきます。
黽勉勉励合宿――当日。
あらかじめHRで決めた席順でバスに乗り込み、生徒一行は宿舎へとむかった。
始めはわいわいと騒がしかった車内も、時間が経つにつれておさまってきた。
みんな眠ってしまったのだ。
そしていつのまにか、バスは山奥にあるひとつの建物の前で停車した。
そこは『青少年自然の家』だった。
「いやー。長い旅だったねー、四十川ちゃん。お尻が痛くなっちゃった」
小鳥遊はバスからでて、四十川にいった。
「だよねー。なんでわざわざはるばるこんな遠方まで来なきゃなんないのか」
「そんな暇があるんなら、授業してくれって思わない?」
「それはないわー、小鳥遊。授業なんて消えてくれって感じ……」
「はは。でもたまには、こういうのも気分転換にいいんじゃないかな」
一尺八寸は後ろから話しかけた。
「うわっ!ビビったー!お主、気配を消しておったな……」
「えー、なにそれー。ショックー」
と、
一尺八寸は凹んだ。
どうでもいいが、凹むとは漢字なのだろうか?
どうやっても記号にしかみえない。
「ちなみにオイルショックはトイレットペーパーがなくなる現象なんだっけ?」
「うん、親がそういってた」
「電気ショックは?」
「ピカチュウの初期の技」
「タイムショックは?」
「クイズ番組」
「エレキショックは?」
「たぶん、ファイナルファンタジーとか……そんなとこ」
「アベノミクスは?」
「えっ?……なにそれ、初めて聞いた」
「そうなの?じつは私も知らない」
四十川も一尺八寸も知らなかった。
となると、
小鳥遊は知っているかもしれない。
「あのさ、歴史上の偉人じゃない?」
知らなかった。
まったく知らなかった。
「うーんと、歴史上の人物はあり得ないとして……。たぶん経済政策じゃないかな?」
一尺八寸は教師の号令にしたがい、整列をしながらひそひそいった。
「円高の是正とかだっけ?」
興奮で声がおおきくなった四十川に、
「静かにっ!私語をつつしみなさい!」
七五三担任が怒鳴った。
「では、パンフレットを参考にして、各自、各々の部屋に荷物を置いて、大広間に戻ってきてください」
こうして一同は解散した。
午前中は移動と授業だけ。午後は昼食をとってから、また授業だったので、とくにおもしろいシーンはない。
合宿とはいっても勉強合宿なのだから、あたりまえだ。
よって、夕方の自由時間以降を描写することになる。
「なあ、おい。月見里もさ、女子の部屋に行かないか?」
と、
同じ部屋の班員に誘われた。
月見里はちょうど、ふとんを敷き終わったところだったので、
「ああ……わかった。なんか行きたいとは思わねーけど、でもそれで空気読めないやつみたいな扱いされんのも嫌だから、まあいっしょに行くか」
承諾した。
「にしても、お前……。あはは、リアルドラえもんかよ」
その男子は笑いながら月見里のふとんを指さした。
そこは押し入れのなかだった。
一尺八寸には部屋にむらがる男子どもが、とてもうっとうしかった。
たしかにお約束のイベントではある。
それは仕方がないさ。大名の監視をするひと(大目付)みたいに大目にみようではないか。
しかし――
「だれもみにこない。だれも彼もうちらをみに来ない! ちやほやされてるやつらはべつにいいけど、のけものにされてるやつらの気持ちを考えて」
四十川が口火を切ると、
「そうだそうだ、ヘタレ男子高校生め! 華の女子高生の個室にお忍びで忍びこんでみやがれ! ……的な感じだよねー」
「わかるわかるー」
一尺八寸も同意した。
「おっじゃましまーす。いくところがないからここに来ちゃったよ!」
月見里の班員がいうと、
「すみません。こういう恒例のイベントなんですよ」
月見里は頭をさげた。
「な……なーにいってんのよ。アレだよ。私たちはぜーんぜん待ってなかったんだからね」
四十川は強気になり、
「そうよそうよ。いきなり不法侵入しやがって」
小鳥遊はノリがよく、
「ごめんね、なんかそういうサービスショットを用意できなくて……」
一尺八寸はストイックだった。
「真面目か!」
四十川がツッコんだところで、
「で、なに? なんか用?」
「い……いえ。なんでもないです。これにて失礼します」
狼狽する月見里をよそに、
「とくに用はないんだけどさ、まあそういうお約束だから、嫌々来てやっただけだ」
と、班員はいった。
「よくいうわ……こっちだって来てもらっていい迷惑よ」
やれやれと肩をすくめる四十川に、
「まあまあ、せっかく来てもらったんだしさ。おもてなしをしようよ」
一尺八寸はお菓子の入ったビニール袋を持ってきていった。
「おお、お菓子。お菓子だぞ、小鳥遊」
「そっ……そうだね、四十川ちゃん。なんか子どもみたい」
そんなふたりをさしおいて、
「いやー、一尺八寸さん。とてもありがたいんですけど、もうすこしで夕飯じゃないですか。じつはおれら男子全員で、どのくらい『おかわり』ができるか、競ってるんですよ。なので悪いですが、深夜パーティーでもするときに食べてくださ……」
「いやいや、コイツのいうことは気にしなくていいからさ。要は夕食にさしつかえるほど食べなければいいって話だし」
班員の断りを、月見里が遮り、
「どんなのがある?」と訊いた。
「えーっとねー」
一尺八寸は袋からお菓子を取りだしながら、
「ポテトチップスのうす塩味、板チョコのミルク味、じゃがりこのじゃがバター味、おばあちゃんのぽたぽた焼き、アンパンマンの揚げせんべい、ハッピーターンのハッピーパウダー200%増量中、かっぱえびせんの梅味(冬季限定版)、たけのこの里、暴君ハバネロ……」
あんたの袋は四次元ポケットか、と四十川にいわれながら一尺八寸は最後の商品名を口にした。
「つぎでラストだね。えーと、ブタメン」
「ねえねえ、月見里くん。ラーメン、つけ麺……」
四十川が挑発すると、
「ぼくブタメン! って、だーれがじゃあ」
月見里はキレた。
その他記号っぽい漢字または記号っぽい文字
卞、宀→(べん)、屮→(てつ)、彡→(さん)、巛→(せん)、丶→(ちゅ)、冫→(ひょう)、丿→(へつ)、亅→(けつ)、凵→(かん)、冂、匸→(けい)、匚、勹→(ほう)、儿→(じん)、廾→(きょう)、弋→(よく)、艸→(そう)、虍→(こ)




