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【連載版】クビになった元社畜、実家の裏山(S級ダンジョン)を草刈り機で掃除したら世界最強の配信者としてバズる  作者: 蜜柑 あめ


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10/13

第10話:近所の川で魚釣り(※そこは魔界の深淵でした)

「うーん、さすがにちょっと飽きてきたな……」




俺は、実家の縁側でお茶をすすりながら、庭を占拠している巨大な赤い物体を眺めてため息をついた。




昨日、俺が何気なく植えた『スイート・ルビー』の苗は、どういうわけか一晩で成層圏に届くほどの大樹(エルフの女王曰く、世界樹)に成長し、軽自動車サイズの巨大なトマトを無数に実らせてしまった。




エルフの女王や近衛騎士たちが、涙を流して「神の恵みだ!」と拝みながら収穫と消費を手伝ってくれているものの、元の量が量なだけに、まだまだ大量の巨大トマトが残っている。味は確かにフルーツのように甘くて極上の美味しさなのだが、三食連続でトマトサラダ、トマトジュース、トマトの丸かじり……と続けば、いくらなんでも味覚が別のものを求め始めるというものだ。




「よし。今夜の夕飯は、この巨大トマトを消費しつつ、味変もできるメニューにしよう。……そうだ、『アクアパッツァ』がいいな!」




トマトとニンニク、オリーブオイル、そして白身魚を一緒に煮込む、おしゃれで美味しいイタリア料理だ。これなら、大量のトマトをソースとして消費できるし、ご飯やパンにもよく合う。




「でも、白身魚か。スーパーまで買いに行くのは面倒だし……そうだ、近所の川で釣ってくるか!」




俺の実家から自転車で五分ほどの場所に、のどかな一之瀬川いちのせがわという一級河川が流れている。昔はよく、お爺ちゃんと一緒にフナやナマズを釣りに行ったものだ。




幸い、物置の奥に、俺が中学生の頃に百円ショップで買った『初心者用・ルアー釣りセット(一体型で五百円)』が眠っていたはずだ。あれなら手軽に夕飯のおかずをゲットできるだろう。




「女王さん! 俺、ちょっと夕飯のおかずを釣りに川まで行ってきます! ポチ、お前も散歩がてらついてくるか?」




俺が声をかけると、巨大トマトをかじって魔力を限界突破させていたエルフの女王が、ハッとして立ち上がった。




「そ、創造神様が自ら狩りに赴かれると!? なれば、この私もお供いたします! 近衛騎士たちは引き続き世界樹の守護(※トマトの収穫と片付け)にあたらせておきますので!」




「ウォォォン!(俺も行くぜ、ご主人様!)」




こうして俺は、片手に百均の釣り竿を持ち、もう片方の手でママチャリのハンドルを握りながら、銀色の巨大狼(神獣)と、金髪で神々しいオーラを放つエルフの美女を連れて、のどかな田舎道を川へと向かって走り出したのだった。




***




「……異常なし。魔界の深淵からの魔力反応は、依然としてS級クラスを保っている」




「ああ……。いつ中から『ヤツ』が出てきてもおかしくない。一瞬も気を抜くなよ」




一之瀬川の河川敷。そこには、物々しい雰囲気のバリケードが築かれ、重武装の探索者ギルド精鋭部隊や、ダンジョン管理庁の特殊部隊が何重にも包囲網を敷いていた。




数日前に全国規模で発生した『ダンジョン・エラプション』の影響により、こののどかな一之瀬川の川底は、恐るべきことに『魔界の深淵』と呼ばれる超高難易度の異界と直結してしまっていたのだ。川の水はドス黒く濁り、ブクブクと不気味な泡を立て、水面からは周囲の草木を枯らすほどの濃密な瘴気が立ち上っている。




万が一、深淵の底に潜む最悪のモンスターが地上へ這い出てくれば、この県はおろか、日本全体が水没する危機に瀕する。彼らは、その絶望的な事態を防ぐための『決死隊』だった。




そんな極限の緊張感に包まれた前線基地に……




「ちわーっす。ちょっと釣りさせてくださいねー」




チリン、チリィーン、という間の抜けた自転車のベルの音と共に、ジャージ姿の青年が、鼻歌交じりにバリケードの隙間をすり抜けて入ってきた。




「は……? え?」




決死隊の隊長が、あまりの非現実的な光景に目を瞬かせた。青年は、絶対に立ち入ってはならないはずの瘴気の立ち込める川岸にスタスタと近づき、何の躊躇いもなく自転車を停めた。その後ろには、なぜか絶世の美女エルフと、巨大なフェンリルがちょこんと座っている。




「お、おい! 君、そこは危険だ! 今すぐ離れ……」




隊長が慌てて制止の声を上げようとしたまさにその時、青年──ユウトは、川の水面を覗き込みながら、呑気に呟いた。




「うーん、昨日の夜は上流で雨でも降ったのかな? すっごい水が濁ってるな。でもまあ、濁りが入った方が魚の警戒心が薄れて釣れるって言うし、好条件かもな」




「そ、創造神様……」




エルフの女王が、ドス黒い川面を見て青ざめた顔で震え上がった。




「こ、この水脈からは、恐るべき邪悪な魔力……いや、世界を滅ぼすほどの『死の瘴気』を感じます……! これ以上近づくのは危険では……」




「大丈夫大丈夫。田舎の川なんて、たまにこういうドブ臭い時もあるんだよ。気にしない気にしない」




ユウトはエルフの女王の忠告を「田舎あるある」として軽く流すと、百均の釣り竿の先についている、安っぽいピンク色のプラスチック製ルアー疑似餌を、ポイッと川の中へと放り投げた。




チャポン。




その小さな水音が、これから起こる世界の終わりのような絶望の引き金になるとは、周囲の誰一人として予想していなかった。




***




一方、その頃──




一之瀬川の底にある異界と繋がった『魔界の深淵』の最深部。太陽の光すら届かない漆黒の海の中を、圧倒的な質量を持つ影が悠然と泳いでいた。




『フハハハハ……! ついに、忌々しい次元の壁が崩れ、この深淵が人間界と繋がったか!』




その正体は、体長百メートルを優に超える超巨大な海竜──S級災害指定モンスター『リヴァイアサン』である。全身を覆う瑠璃色の鱗は、最新鋭のミサイルすら弾き返すオリハルコン以上の硬度を持ち、その顎あぎとは原子力潜水艦をティッシュ箱のようにおもちゃにできるほどの噛合力を誇る。まさに、海に君臨する絶対的な破壊神だった。




『まずはあの小賢しい人間どもの街を、我のブレスが引き起こす《終焉の津波》で飲み込んでくれるわ! そして、我ら深淵の魔族の新たなる領土とするのだ!』




リヴァイアサンが周囲の海水を震わせて咆哮すると、無数の下級海棲モンスターたちが「オオォォォ!」「リヴァイアサン様、万歳!」と歓声を上げた。彼が地上への侵攻を開始しようと、巨大な尾ビレで水を蹴ろうとしたその時……




──ポチャン。




頭上の人間界に通じる穴から、何か小さな物体が沈んできた。それは、ピンク色のペラペラなプラスチックでできた、なんとも不格好な小魚の作り物だった。ちょんちょんと、不規則な動きでリヴァイアサンの目の前で踊るソレ。




『……なんだ、このゴミは?』




リヴァイアサンは、巨大な瞳を細めてそのルアーを睨みつけた。




『人間どもの供物か? 我がこのようなプラスチックの塊で満足するとでも思ったか! 我をコケにするのも大概にせよ! こんな不敬なゴミ、我が一瞬で噛み砕いてくれるわ!!』




激怒したリヴァイアサンは、世界を飲み込むほどの巨大な口を大きく開け、その百均のルアーに向かって渾身の力で噛み付いた。




パクッ。




***




地上──




「おっ! キタキタキタ! いきなりアタリだ!」




ユウトは、手元の竿先にグンッ!と重い感触が伝わった瞬間、嬉しそうな声を上げた。そして、両手でしっかりと竿を握りしめ、迷うことなく腰を入れて鋭くアワセ(針を魚の口に掛ける動作)を入れた。




ビシィィィィィィィィィィッ!!!!!




ユウトの『元社畜の限界突破オーラ』が、百均の釣り竿と、ペラペラの釣り糸、そしてプラスチックのルアーに一瞬にして伝播した。




その瞬間──




五百円の釣りセットは、世界の理すら書き換える『神話の宝具』へと変絶を遂げた。釣り糸は『絶対に切断不可能な神の鎖』に、ルアーの針は『空間と次元ごと対象を固定する絶対のフック』に。




「よし、乗った! おわっ、すげえ引きだ!」




ギィィィィィィィィィィィィッ!!!




百均の安っぽいプラスチックリールが、聞いたこともないような悲鳴を上げて逆回転し始めた。




***




「!?!?!?」




深淵の底で、リヴァイアサンは己の身に何が起きたのか理解できず、完全にパニックに陥っていた。噛み砕こうとしたはずのピンク色のゴミが、突然、絶対に破壊不可能な神の楔となって上顎に突き刺さり、己の巨体を強引に上へと、人間界へと引っ張り上げようとしているのだ。




「な、なんだこの糸は!? なぜ切れない!? 痛ぇぇぇぇっ!?」




リヴァイアサンは狂乱し、百メートルの巨体を捻って海底の岩盤に爪を立て、必死に抵抗した。彼の筋力は、大陸のプレートすら動かすほどの力を持っている。たかが一本の細い糸など、本来なら寝返りを打つだけで千切れるはずなのだ。




しかし──




ズザザザザザザザザッ!!!




海底の岩盤が豆腐のようにえぐれ、リヴァイアサンの巨体は抗うことすら許されず、ズルズルと水面に向かって引き上げられていく。




『ば、馬鹿な! 我が巨体が、こんな蜘蛛の糸のようなもので引き上げられるだと!? ふざけるな! 我は深淵の王だぞォォォォォッ!!』




どれだけもがいても、どれだけ魔力を爆発させても、その糸は微動だにしない。ただただ無慈悲に、圧倒的な暴力(物理)によって、リヴァイアサンは釣り上げられていった。




***




地上──




「おおー! すごい引きだ! ドラグが鳴ってるぜ! これは自己新記録かもしれない!」




ユウトは、悲鳴を上げる百均リールをゴリゴリと強引に巻きながら、無邪気な笑顔を浮かべていた。彼にとっては、「ちょっと元気のいい鯉かナマズがかかった」程度の感覚である。




「そ、創造神様!? い、今、川底から規格外の魔力反応が……! 世界を滅ぼすほどの邪竜の気配が急速に浮上してきています!」




エルフの女王が、川面から立ち上る尋常ではない瘴気の渦を見て、恐怖に腰を抜かした。背後にいる決死隊の探索者たちも、計測器の異常な数値を前に全員が絶望の表情を浮かべて後ずさっている。




「邪竜? なにそれ、外道(目的以外の魚)かな。まあ、白身魚ならアクアパッツァにできるからなんでもいいよ。そりゃあっ!!」




ユウトが最後の一巻きを力強く行った瞬間。




ドバアァァァァァァァァァァン!!!!!




黒く濁った一之瀬川の水面が、まるで海底火山が爆発したかのように吹き飛んだ。凄まじい水柱と共に、天を覆い隠すほどの巨大な影──体長百メートルの深淵の海竜リヴァイアサンが、空中に力ずくで引きずり出されたのだ。




「ヒィィィィッ!! リ、リヴァイアサンだァァァァ!!」




「お、終わった……! 日本は終わりだァァァァ!!」




決死隊の探索者たちが、武器を投げ捨てて泣き叫ぶ。空中に吊るし上げられたリヴァイアサンは、怒りと屈辱で目を真っ赤に血走らせ、釣り竿の持ち主であるユウトを見下ろした。




『おのれ下等な人間め! この深淵の王を釣り上げるとは万死に値する!! もはや微塵も残さぬ! 我の《終焉の──』




リヴァイアサンが、街一つを地図から消し飛ばす極大のブレスを吐き出そうと、大きく息を吸い込んだまさにその時、




「うわっ、でっか! しかもめっちゃ暴れるな。これじゃ針を外せないし、鮮度が落ちちゃうぞ。よし、タモ網の代わりに……」




ユウトは、自転車のカゴに入れておいた『百均の折りたたみ式虫取り網(子供用)』をスッと手に取った。そして、空中に浮かび上がり、今まさにブレスを吐こうとしている百メートルの海竜の脳天に向かって、その虫取り網の丸いプラスチックの枠の部分で、




スパーンッ!!!!!




と、まるでハエを叩き落とすかのように、軽やかなチョップ打撃を入れた。


ユウトのオーラを纏った百均の虫取り網は、その瞬間『神を屠る絶対の鈍器』と化していた。




ゴアァァァァァァァァァンッ!!!!!




という、隕石が衝突したかのような凄まじい轟音が河川敷に響き渡った。虫取り網の枠が脳天に直撃した瞬間、リヴァイアサンの強靭な頭蓋骨内部で、脳髄が激しくシェイクされた。




『……へ?』




ブレスを吐き出そうとしていたリヴァイアサンは、間抜けな声を漏らし、そのまま白目を剥いて完全に気絶した。いや、生命活動そのものが強制終了させられた。完全なる即死である。




ドスゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!




地響きと共に百メートルの海竜の巨体が、河川敷のグラウンドに力なく横たわった。




「よし、おとなしくなった。今のうちに血抜きして締めとくか」




ユウトは、ポケットから取り出した『百均の果物ナイフ(※名刀正宗クラスの切れ味)』を使い、リヴァイアサンの巨大なエラの隙間にサクッと切り込みを入れ、鮮度を保つための処置を施した。




「……」


「……」


「……」




エルフの女王と決死隊の探索者たちは、もはや悲鳴を上げることも言葉を発することもできず、ただただ口をパクパクとさせて眼前の光景を見つめていた。




人類を滅ぼすS級の海竜が百均のルアーで一本釣りされ、百均の虫取り網で脳天をカチ割られ、百均の果物ナイフで血抜きされている。




神話の崩壊と常識の終焉。彼らの心の中にある強さの概念が、完全にバグってしまった瞬間だった。




「いやー、大漁大漁! 女王さん、これ持って帰るの手伝ってくれる? さすがに自転車のカゴには乗らないや」




「は、ははぁーーーッ!! 直ちに!!」




我に返ったエルフの女王が、半泣きになりながら風の魔法を展開し、リヴァイアサンの巨体を浮遊させる。こうしてユウトは、夕飯の食材(※神話級の海竜)を見事に調達し、鼻歌交じりに実家へと帰っていったのだった。




***




数時間後。実家の庭──




(※リヴァイアサンは大きすぎるため、外のアウトドア用コンロを使って調理中)




「よし、完成! 『自家製トマトと近所で釣った白身魚の特大アクアパッツァ』だ!」




巨大な鉄板(元はドラゴンの鱗)の上で、オリーブオイルとニンニクの香ばしい匂いが立ち上っている。ざく切りにされた世界樹サイズの『スイート・ルビー』と、適当なハーブ、そして『深淵の海竜リヴァイアサンの極上白身肉』が、グツグツと美味しそうな音を立てて煮込まれていた。リヴァイアサンの肉は加熱されることで純白に輝き、トマトの酸味と魚介の濃厚な出汁が完璧に絡み合っている。




「さあ、みんな冷めないうちに食べて!」




俺が取り分けた皿を渡すと、エルフの女王や近衛騎士たちは、震える手でフォークを持ち、恐る恐るその料理を口に運んだ。




「「「…………!!!!!」」」




一口食べた瞬間、エルフたちの全身から、再び凄まじい光の柱が立ち上った。




「こ、これは……!! 世界樹の果実の生命力と、深淵の海竜の膨大な魔力が完璧に融合し、奇跡の霊薬スーパー・エリクサーとなっている!!」




「美味すぎる……! 魔力が、寿命が、限界を超えて上昇していくぅぅぅっ!!」




「ウォォォン!!(神の飯!! 最高だぜご主人様!!)」




エルフたちは号泣しながら皿を舐め回し、ポチも尻尾をちぎれんばかりに振ってガツガツと肉を貪っている。




「アハハ、そんなに美味しい? よかったよかった」




俺も一口食べてみる。フワフワでジューシーな白身魚の旨味に、トマトの爽やかな酸味が絶妙にマッチして、いくらでも食べられそうな美味しさだ。川魚特有の泥臭さなど微塵もなく、まるで高級レストランのメインディッシュのようである。




「やっぱり、自分で釣った魚は新鮮で美味しいなあ。明日もまた釣りに行こうかな」




夕焼け空の下、俺は美味しい夕飯を満喫しながらのんびりと呟いた。




外の世界では、「S級の海竜が一瞬で討伐された」「またあの農家がやりやがった」「日本政府が隠し持っている最終兵器なのでは?」と、世界中が大騒ぎになっていることなど、俺は知る由もない。




美味しいご飯と、マナーのいい手伝いの人たち(エルフ)、そして可愛いペット。俺の求めるスローライフは、今日も最高に平和で充実しているのだった。

次回、第11話「夏の風物詩、スイカ割り(※スイカじゃなくて魔王の卵でした)」


アクアパッツァでお腹いっぱいになったユウト。「よし、次はデザートにスイカ割りだ!」しかし、庭の畑で育っていたのは、スイカではなく、世界を滅ぼすと言われる『魔王の卵』だった!「なんか今年のスイカ、黒くて固いな。まあいいや、そりゃあっ!」木の棒一本で魔王の卵をカチ割る!? 驚愕のデザートタイム、どうぞお楽しみに!

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