表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人外だらけの世界に飛ばされた人間様御一行の記録  作者: 南野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/61

第六十一話 カメラ


 突然一枚の紙が燃える事態になったが、その紙以外は全て無事なため、階直かいじきは少しホッとした。


「他の本や日記は燃えなくて良かった……」

「……まぁとりあえず日記は見つかったので、あとは掃除だけですね」


階直かいじきの横で、せきそでまくりながらそう言った。せきのその姿を見ながら、白金しろがねが積まれた本たちを指差して疑問を投げる。


「日記だけやなくて、いっぱいある他の本とかも回収するんか?」


そんな白金しろがねの疑問に、階直かいじき詩色しいろを指差しながら答える。


「全部は回収しないよ。ボクと論祢ろんねで、回収するやつと捨てるやつで分けるよ」


 こうしてもう一つの依頼である掃除が始まった。

 掃除と言ってもどうせ取り壊すのだから、必要な物といらない物を分けていく作業がほとんどだ。七人で家の中にある物を、階直かいじき詩色しいろに選んでもらい分けていく。


 太陽の眩しく白い光が夕陽ゆうひの赤に変わる頃、ようやく全ての選別が終わった。

ブレイクたちは伸びをしたり座り込んだりと、思っていたよりみんな疲れていた。

 みんなと少し離れた所では、階直かいじきは回収した日記とアルバムの中身を確認しながら整理していた。そんな彼女にサフィナは近付く。

そして座っている階直かいじきの隣にしゃがみ、数冊積まれている日記とアルバムを見ながら話し掛けた。


「……私も最近日記を始めたんですけど、写真も一緒に載せれたらなって思ってるんです。やっぱりアルバムがあるのとないのでは、思い出の残り方って変わりますかね」


 サフィナの真剣に悩んでいる表情を見て、階直かいじきは一瞬だけ手を止めた。そしてすぐに手を動かしながら、少し落ち着いた優しい声音こわねで話し始める。


「そうだね、日記や写真に日々の記録を残しておくのは大事だよ。ボクはもうこの日記と写真しか母さんの記憶がないけど、これを見て母さんだけじゃなく、父さんも含めた二人を思い出すんだ。日記と写真の両方あることで、更に鮮明せんめいに思い出せる。ボクは二つあるに越したことはないと思うよ」


階直かいじきはサフィナに対してそう言いながら微笑んだ。

 サフィナに何があったのか階直かいじきは知らない。それでも、彼女が何かを抱えているのは分かる。きっと階直かいじきが考えている以上の、思いがサフィナにはあるのだろう。階直かいじきは深掘りする気はない。


「やっぱりそうですよね。……あの、階直かいじきさん。この町でカメラを売ってる所ってありますか?」


サフィナの質問を聞いた階直かいじきは、肩から下げていたかばんを漁り始めた。階直かいじきかばんの中から取り出したのはカメラだった。

そして、新品のように見えるカメラをサフィナに向けながらこう言った。


「カメラのお店はあるけど…………ボクのお下がりでよければ、カメラあげるよ」

「えっ! ……いいんですか?」

「興味あるんでしょ? なら使ってよ。それにまだ現役のカメラだから充分使えるよ。ただし、キミが撮りたいものを撮ったら、ボクにも見せて欲しい。人の写真を見るの、好きなんだ」


カメラを渡されて驚くサフィナに階直かいじきは、少しいたずらっ子の様な表情でカメラを指差しながらそう言った。

 階直かいじきの言葉を聞いたサフィナは目をキラキラさせながら、満面の笑みで彼女にお礼を言った。


「ええ、もちろんです! ありがとうございます。大切に使いますね」

「使いたい相手に使ってもらった方が、カメラも嬉しいよ」


階直かいじきはそう言って立ち上がり、それに合わせてサフィナもカメラを大事に抱えながら立ち上がる。二人はブレイクや詩色しいろたちがいる方へと戻ってくる。

 そんな二人を見た白金しろがねが一番最初にサフィナへ声を掛ける。


「なんやなんや、サフィナちゃんええもん貰ったなぁ」

「カメラ?」


白金しろがねの言葉を聞いたブレイクもサフィナたちの方へ近付いて、サフィナが持っているカメラに視線を向けた。

 サフィナは白金しろがねやブレイクたちに笑顔でこう返す。


「はい、日記だけじゃなく写真も撮れたらなって……そう思ってたんですけど、階直かいじきさんがカメラを譲ってくれたんです」


 そう嬉しそうに話すサフィナを見て、ブレイクはサフィナを連れて来て良かったと思った。

心の底から嬉しそうに笑うサフィナの笑顔が好きだった。妹には幸せに楽しく暮らして欲しいと、ブレイクは常日頃から願っている。今後どうなるか分からないけど、今はこの幸せを少しは享受きょうじゅしてもいいだろう。

 ブレイクはそう思いながら階直かいじきにお礼を言った。


「そうか……階直かいじきさん、ありがとうございます」

「ボクも写真をよく撮るんだ。だから家にまだいっぱいカメラがあってね、それもほぼ新品だから、使ってくれた方がありがたい。だからそんなにお礼を言わなくてもいいよ。ほら、キミたちのやかたに帰ろう。思ってたより遅くなったし、ボクたちがちゃんと送るよ」


階直かいじきはそう言って、やかたのある方面へとゆびす。

 その言葉に詩色しいろせきも肯定し、ブレイクたちを送ることになった。

そろそろ日が沈み掛けた頃、ブレイクたちは『デルテのやかた』に帰ってきた。そしてノーザイが誰よりも早く玄関の扉を開け、とある人物の名前を叫ぶ。


「たただいま~! ねぇ、百奈ももないる~? 手当てして! ていうかちょっとて欲しい!」


 ノーザイの大きな声に、呼ばれた百奈ももな以外にも棚部たなべ百花ももか徳札とくさね高峰たかみねも一階へと降りてきた。

 名前を呼ばれた百奈ももなはノーザイの左手をながら何があったのか聞いている。そしてその横ではブレイクたちや白金しろがねたちがアレコレと会話をしている。


 そんなみんなの様子を少し離れた所で見ていた棚部たなべだが、そんな棚部たなべの元までやって来た男がいた。

それは詩色しいろだった。彼は少し声を抑えながら棚部たなべに話しかける。


「ちょ~っとひとつ伝えておきたい事があっての」


 まさか詩色しいろが自分に用があるとは思わず、ワンテンポ遅れて棚部たなべは言葉を返す。

 

「……俺にか?」

「まぁ別に誰でも良いが、わしはアンタかあの銀髪さんに伝えた方がいいと思ったからの。だから今ここにいるアンタに伝える事にしたんじゃ」


自分か広岡ひろおかを指定した詩色しいろ棚部たなべは少し考えた。

 このやかたに来た時ではなく、依頼から戻ってきた後に伝えないといけない事。ありえるのは、依頼中に起きたら何かについて。

棚部たなべはノーザイと百奈ももなの会話を思い出す。突然持っていた紙が燃えて火傷を負った。可能性としてありえそうなのは火傷の話だが、それならわざわざ自分と広岡ひろおかのどちらかを指定する必要はない。それこそ百奈ももなとかでもいいはずだ。

 棚部たなべはそう思いながらも、ノーザイの火傷の件を上げた。


「……ノーザイが火傷を負っている事についてか?」


 棚部たなべの言葉を聞いた詩色しいろは糸目のままニッコリと笑い、そうそうそれそれ! と言いたそうな雰囲気ふんいきかもし出した。


「そうそう、それ関連の話じゃ。ノーザイさんが火傷したのは、何者かによる介入があったから。しかし、それが何者かは分からん。ひとつ言える事があるとすれば、それは人外という分類に収めていい相手ではないだろうという事。わしも直接見た訳じゃないからの、明確なことは言えん。ただ、恐ろしい気配を感じた。つまり忠告したかったという訳じゃ。気を付けるんじゃぞ。人間も人外も関係なく、かなわない相手というのはいるからな」


詩色しいろは音量を抑えた声だが、それでも聞き取りやすく淡々と話す。棚部たなべ詩色しいろから聞き逃すなよという圧を少しだけ感じた。

 棚部たなべ詩色しいろの話を聞きながら、嫌な想像が二つあった。どちらも面倒で困る。詩色しいろの言うように、とてつもない存在が相手でも困るし、棚部たなべの予想通りの相手が来てても困る。

 少しだけ間を開けた棚部たなべは、詩色しいろから少し視線をらしつつ話し始めた。


「…………そうか、忠告感謝する。だが、たぶん俺の予想が間違っていなければ……その何者かは敵ではないと思う……」

「心当たりがあるのか? ……なんじゃ、わしはアンタらの事が怖く思えてきたわ」


詩色しいろは両腕をクロスして両手で腕をつかみみながら、わざとらしく震える素振そぶりをした。

 しかし詩色しいろ棚部たなべたちの事を「こわ~」と思ったのは事実だ。屋根の上から恐怖と不気味さと不安を感じたのは本当で、それらを敵ではないかも知れないと言うのだ。それがどういう形で関係性があるのか分からない。仲間としてか、知り合いとしてか、はたまた信仰的な何かなのか、今の情報では詩色しいろには分からない。

 棚部たなべ詩色しいろが自分に対して何か思っているのは分かるが、少なくとも敵意ではない事は分かる。ただ、あまり良い印象を受けているようにも思えない。それを指摘するほど暇ではないし、今日会ったばかりの人外にそこまで強い信頼があるわけでもない。

棚部たなべは特に気にせず会話を続ける。


「あくまで予想だからな。もし間違っていたら、その相手は確実に敵だろう」

「ふむ……まぁ、わしは忠告したかっただけじゃからな。二人をこれ以上待たせるわけにはいかん。頼み事があればこちらからまたおもむかせて貰うな」

「ここはなんでも屋じゃないぞ」

「それでも、依頼は受けてくれるんじゃろ? それに、今日みたいに依頼を通して親睦しんぼくを深めた上で信頼を集めるのも、悪い手じゃないとわしは思うぞ」


 詩色しいろはそれだけ言うと、手をヒラヒラさせながら階直かいじきせきが居る方向へと歩いて行った。

 棚部たなべ詩色しいろの言った事を頭の中で反響させる。その手を考えなかった訳ではない。人間がこの世界でやっていくには、人外と関わって信頼を得るのが早いとは思っている。だが、今回みたいに全てが順調に進むとは限らない。

どう動くのが正解なのか、棚部たなべは未だに悩んでいるのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ