第五十七話 不安事
ブレイクやノーザイのやり取りを見ていた階直たちは、ブレイクたちに何があったのかは知らない。そのため関を除いた、自分たち人外が彼らに危害を加える可能性がある、そう思われていると考えた。
「? なんかよく分からないけど、キミたちに危害を加えるつもりは一切ないよ。人外や人間関係なく、手伝ってくれる相手にそんな無礼な事するわけない」
階直は頭にハテナを浮かべるが、すぐにブレイクたちをしっかり見ながらそう答えた。
彼女の言葉に続いて、関や詩色も同じように心配しなくても良いと伝える。
「そもそも、人間の俺がこうして普通にいるんだから、それなりに信じていいですよ。二人はそんな野蛮な方達じゃないですし、争い事は好まないので」
「わしはわしの事が好きな奴が好きだからの。わしの事を嫌わんかったら、何もするつもりはないぞ」
関や詩色の声音から、それは本心から言っていることが分かる。
『カコデモニア』には人間を良く思わない人外が多い。しかしそもそもの話、そういう人外はわざわざこの『デルテの館』に来たりしないだろう。
コーネダリスや和凪たちのように、目の前の三人が人間に危害を加えるつもりがない、というのはブレイクたち全員が理解している。
「まぁ、そちらさんがどうこうと言うより、他の要因が心配なんだよな……」
棚部は小さな声でそう溢した。
階直たち本人が言うように、依頼をしてきた三人に対して、ブレイクたちはそこまで警戒はしていない。しかし棚部が言うように、階直たち三人は大丈夫でも、道中や町中で別の人外と何かが起こらないとも限らない。そこが心配になるのは、ブレイクも同意見だった。
棚部やブレイクが迷っている顔をしている中、広岡はソファーの肘置きに肘を置いたまま片手を上げた。
「ごめん、僕は今回パス。本当は行きたいんだけど……ちょっと無理そうだから、みんなで行ってきてよ」
そう言った広岡は少し顔色が悪く、顔も若干引き攣っている様に見えた。もしかすると体調が悪いのかもしれない。
そんな広岡を一瞥した棚部は、ブレイクや白金に自分も行けない事を伝える。
「俺もちょっと忙しくてな。今回の件、お前らだけでも大丈夫そうか?」
棚部と広岡が行けないのは少し不安ではあるが、別に敵陣に乗り込む訳でもなく、難しい問題を解きに行くとかでもないため、ブレイクとノーザイと白金は顔を見合わせてコンタクトを取った。
そして白金が代表して、親指を立ててウインクをしながら、棚部に大丈夫だと伝える。
「大丈夫やで。何かあればすぐに連絡するわ」
「それじゃあとりあえず、四人で行くってことでいい? あ、サフィナにも後でちゃんと聞くよ。その結果、四人から三人になるかもしれないけど」
ノーザイがそう言いながら、階直たちの方を見る。
サフィナと桜音姉妹は、コーネダリスたち三人外と一緒にリビングで待機している。そのため、サフィナにはまだ聞けていない。ブレイクは「後ですぐに聞きますので」とノーザイの後に付け加えた。
彼らの言葉に、棚部も階直たちを見ながら伝える。
「あぁ、多すぎても邪魔になりそうだしな。彼女たちが大丈夫なら、俺もそれでいいと思うが」
「問題ない。むしろ三~四人も来てくれるとは思わなかったから、正直ありがたいよ」
そう言って、階直は初めて微笑みを見せた。依頼主である彼女が良いと言うなら、とりあえずは問題ないだろう。
階直の隣で静かに座っていた詩色が、顎に手を当てながら、糸目のまま軽いドヤ顔で話し始めた。
「なら案内せねばなるまい。わしが案内してやろう」
「いやいや、ボクが案内するよ。論祢を先頭にすると日が暮れる」
意気揚々と言った詩色に、階直はペシッと軽く手を当てながら、彼の提案を一瞬で却下した。
そして、階直が出した提案の方に関が乗る。
「俺も綾美ちゃんに賛成ですね」
「二人して酷いぞ。わしが信用できんのか」
「だってキミ方向音痴じゃん。これまで何十回……いや、何百回道に迷ったか忘れたの?」
普段以上のジト目で階直は詩色を見る。方向音痴と言われた詩色は、いやいやと首を横に振って、不服そうな顔と声で階直と関の言った。
「わしが方向音痴なんじゃなくて、わしに合わせられない方角に問題がある」
「何を言ってるんですか?」
よく意味の分からない事を言う詩色に、関は意味が分からないという顔で彼にそう言った。そして階直も「は?」と言ってそうな顔をして、詩色にジト目を向けていた。
階直たち三人がそんなやり取りをしている間に、ブレイクはサフィナを呼んで来た。ブレイクは粗方の事情をサフィナに話す。
話を聞いたサフィナはほんの少し悩むが、すぐに笑みを浮かべながら承諾した。そしてブレイクに「ありがとう」と小さな声で伝えた。
そんな兄妹のやり取りを見ていたノーザイは二人の近くに来て、ブレイクに対して「良かったね」と笑顔で伝えた。ブレイクは少し視線を逸らしながらも、小さく「あぁ」という返事をノーザイへ返した。
そうしてブレイクとノーザイが話している間に、広岡がソファーから立ち上がってサフィナの元へ向かっていた。
「サフィナちゃん」
「はい、どうしました?」
「これ渡しとく。大丈夫とは思うけど念のためね」
そう言って広岡がサフィナへ渡したのは、実験場に行く時に百花にも渡していた、コーネダリスが作った簡易シールドが張れる魔法道具だった。
それを見たサフィナは目を何度か瞬きをして、広岡と魔法道具を交互に見ながら、これを渡してきた彼に思った事を聞いた。
「えっと……これはなんですか?」
「あれ、そう言えば知らないんだっけ……? じゃあ簡単に説明するよ」
広岡はサフィナに使い方を説明し始めた。
その様子をブレイクはじっと見ていた。やはり、いつもの広岡より元気がないように見える。それだけじゃなく、なんとなく違和感を感じるような……と思っていたら、広岡と視線がかち合う。
ブレイクは少し驚くが、広岡は人差し指を口に当てて、しーっというジェスチャーを取った。その時の彼の顔は、あまり見たことない、困ったような表情だった。
サフィナへの説明を終えた広岡は、棚部に何か一言伝えてすぐに「じゃあみんな気を付けてね」とだけ言って、そそくさと応接室から出て行った。
先程よりも顔色が悪かったので、やはり体調が優れなかったのかもしれない。
あの人、体調とか崩すんだな……とブレイクは少し思った。そしておそらく、広岡はそれを隠そうとしている。
出る前に棚部と何か話していたので、きっと棚部は気付いているし知っているのだろう。彼が付いているのなら、ブレイクがそこまで心配する必要はなさそうだ。
そして階直の家に行くための準備を終えたブレイクたちは、玄関の前で見送りをしてくれる棚部たち三人に顔を向ける。
「ほな行ってくるわ」
白金は徳札と高峰に手を振って言った。二人は互いに視線を合わせた後、少し微笑んで白金に言葉を送る。
「はい、行ってらっしゃい。気を付けてくださいね」
「何かあれば、その無線機で連絡してくれ」
二人はその言葉の後も、あーだのこーだのと言ってくる。
それらが心配からくるものであると、白金はちゃんと分かっている。だから白金は、はにかみながら笑って一言答える。
「も~、分かっとるって」
そんなやり取りをしている白金たちの横で、棚部はブレイクたち三人に話し掛ける。
サングラスで分かりにくいが、棚部がブレイクたちを心配しているのが伝わる。
「……大丈夫だとは思うが、一応気は緩めるなよ。どんな時でも油断はするな」
棚部にそう言われ、ブレイクとサフィナは強く返事をするが、ノーザイはいつもと変わらず「はーい」と軽い返事をした。
ブレイクたちは庭にある小さな噴水の近くで待たせている、階直たちの所へと向かった。




