第97話 四大超怪異”支配”
―――ムーノとラナが駆けつける、一週間前。
―――アズルーズ異能学園・旧校舎.......
旧校舎の内部。
学園長の不審な動きを確認した寒熱のレイは、講師としての役目を氷で造った分身に肩代わりさせ、本体は単独で旧校舎へと潜入していた。
◆◆◇
ん~......学園長を追ってきたわけだけど、ずいぶんと無警戒だねぇ~。
罠はおろか、ここには人間の気配すら感じない......誘い込まれたか?
こういうのは経験上、引き返すべきかな......?
でもなぁ、僕の身代わりがバレた気配もないし......
しかし、その時......
「ご安心ください。誰もいませんよ? 人間は......ね?」
「......!?」
......隠匿しているはずの僕が、見えている?
振り向いた先に立っていたのは、全身を人の腕で幾重にも包み込んだような異形の怪物だった。
やや細身の肉体の各所には口が付いており、その中心にある顔には四つの目が妖しく輝いている。
「隠れているのは分かっていますよ。大人しく出てくれば楽に殺してあげましょう~。」
「いやぁー。バレバレだったか~。」
「あら?随分美形だことね?」
「それはどーも。麗しきマダム。」
――人の言語を、ここまで流暢に操る怪異......少なくとも伯爵級以上。
けれど僕の本能は告げている。あれは段違いだと、退怪術士を引退しろ、と......
根拠はない。ないけれど、分かる。
これは伯爵級なんてチンケな怪異じゃない......
焔氷神律が、経験したことのないほど強く共振している。
この感じだと皇帝級......その中でも、かなり上位に位置する怪異か?
単独、集団を問わず。
人類という種が、未だ”朔月のムーノ”を除いて討伐できていない絶対存在――
「あら、マダムなんて嬉しいお世辞ですこと。」
「それで?マダムのような最上位怪異が、ここに何しにきたのかな?お茶しにきたわけでもないよね~?」
「ここに来た理由?そんなもの......決まっています。」
「あっは~聞かせて聞かせて。」
次の瞬間......
マダムから、凄まじい敵意が僕に向けて噴き出した。
「あなたを捕らえに来たにきまっています。」
「おしゃべりは嫌い......みたいさね?マダム。」
これは殺気じゃない。
......ってことは、殺しに来たわけではない?
*う~ん......どちらにしたって、皇帝級相手なら単独での討伐は現実的じゃぁないね*。
「わたくしを討伐することを諦めてよろしくて?」
「!?......心が読めちゃうの?」
「申し遅れました。わたくし、神にお仕えする四大超怪異が一柱にして”支配の怪異アルコン”。以後お見知りおきを。」
「四大......超怪異?」
聞いたことがない......四大超怪異って何だ?
凄まじい気配を垂れ流しているけれど、そもそも僕には皇帝級との接触経験がない。
比較のしようがないなぁ......
ただ、最上位を名乗った以上、皇帝級すらさらに上回る怪異である可能性は濃厚~。
「こぉれは生き延びて......ハ二ー達に情報持って帰んなきゃね~ん?」
「あら?恋人がいらっしゃるのですか?」
「いいや?僕にとっては......あまねく全ての女性が恋人さ!!」
「ほ.....?」
僕は瞬時に、周囲一帯を呑み込む強大な冷気を解き放ち、旧校舎そのものをまるごと凍結させた。
”焔氷神律”。極限の高温と絶対の低温を併せ持つ、環境操作系異能でも最強と名高い異能。
優に現代兵器を上回る絶対温度の変化が、確実に支配の怪異へ直撃する......
しかし......
「......凍ってないね?」
「ふふふ。わたくしは支配の怪異。空間の支配が可能です。そこにさえ”在れば”大気もその限りではありません。」
「勝ち目は......無いっていいたいのかな?」
「えぇ。もとよりあなたとの相性で、わたくしがこの任についています。」
空間の温度を支配する権能が、僕の干渉より上だと言いたいわけか......
でも、それならどうして彼女は僕を即殺しないんだろうね~。
......これは匂うね。
「......滅却業火。」
「だから無駄だと言っているでしょうに......」
怪異の周囲を囲うように噴き上がった劫炎は、一瞬にしてかき消された。
超怪異は呆れたような顔をこちらへ向ける。
だが、寒熱のレイに絶望の色はない。
それどころか、何かを確信したような表情すら浮かべていた。
「マダム~怖い顔して。ほんとは僕が欲しいんだね~?」
「......」
「さっき授業をしてきた生徒、みんな魂を抜かれたみたいな顔だ。つまりマダムは人を洗脳できるわけさ?」
「さ~て?わたくしは何のことだか存じ上げ......」
そんなアルコンに、
レイはにやりと笑って挑発を重ねる。
「なるほど、ただの洗脳ではない......と。僕の神律がそう囁いている。」
「あなたの異能にそんな性能は......」
「あれっれ~。マダム、腕はどうしたの~~~???」
「な!?」
アルコンは、ようやく異変に気付いた。
だが、もう遅い......アルコンの腕は、僕の業火に包まれていた。
「あっはは~。どうやら支配権自体に上下関係は無さそうだね♡」
「空間の支配は解除していないはずですのに......」
「そんなの意味ないさ。僕の異能は思ったその場所に、直で作用するからね。」
「......どうやら慈愛の心を以て、あの方の元に連れていくことは叶わぬようです。」
その一瞬、放たれた殺気だけで理解した。
......絶対に勝てない、と。
そもそも戦いとして成立するかどうかすら分からない。
それほどまでに、実力差がある。
「あは......これは。」
「......この対価は高く付きますよ。」
けれど、そんなことはこの仕事をしていれば日常茶飯事だ。
ここでポーカーフェイスを貫く程度のことは、僕にとって難しくもない。
「やっと余裕な顔がなくなったね......醜悪なマダム?」
「今謝るのならまだ楽に......」
「そのママ活はいくら払えばいいのかな~。」
「そうですね......ではこの足をいただき”ました”。」
マダムの持つ見覚えのある足と、言葉の過去形に違和感を覚えた。
直後、反射的に自分の足へ視線を落とす。
......そこで初めて、僕は自分が左足だけで立っていることを認識した。
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
遂に降臨した二体目の超怪異。
支配を司る四大超怪異の戦いが遂に幕を開ける!?
圧倒的実力差によって片足を奪われた、レイの結末は?
5月1日18:10更新の次回......支配の超怪異アルコンに、レイの異能共振が炸裂する!?
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