第99話 本来の支配者
―――アズルーズ異能学園・旧校舎。
―――”寒熱のレイ”と”支配の超怪異” 戦闘開始からわずか112秒後.......
戦いは、二分と続かなかった。
わずか112秒。その短すぎる時間の中で、両者の勝敗は決した。
人間は、”朔月のムーノ”という超例外を除けば、等しく怪異より劣る。
久しく忘れかけていた、そんな当たり前の絶望を僕は改めて突き付けられていた。
「ゴホッ......あっは~。」
「なんと哀れな。弱き命ですこと。」
「そりゃぁど~も。醜悪なマダム?」
「その軽口が苦痛で捻じ曲がる瞬間......楽しみでしかたありませんわ。」
こりゃ、肋骨は全部逝ってるね......。
肺の中に血が流れ込んで、まともに息をすることすら難しい。
そして、何より恐ろしいのは――
向こうが異能を封じる、あるいは抑制する何らかの能力を持っていることだ。
僕の”レンジハイヒール”の効力が、さっきから劇的に弱まっている。
それが何より動かしようのない証拠だ......。
異能への支配干渉......こいつは特にヤバい。
もし世界中の退怪術士の大半が異能を封じられるのなら、流石に上位勢がどれだけ踏ん張っても負け確だもんな。
「異能封じ......か。」
「ご名答。しかもわたくしの物は、数秒硬直させる安い代物でもありませんこと。」
「だろうね......この感じ。」
「時間制限も人数制限もございません。」
人数制限に関しての真偽は五分、といったところだろうな。
もし本当にそれが可能なら、こんな回りくどい手を踏む必要がない。
問題は、そこじゃない。
漆黒等級である僕の”レンジハイヒール”すら、その効力の大半を封じられている。
ただ異能共振した時に、黄金等級の焔氷神律が占める効果領域だけは、問題なく機能していた。
そこから推察するに......
恐らくこれは、最上位等級より下の異能を完全に封じる怪能と見た。
あまりにも反則じみた代物だね。
「四大ってことは......あと三人いるのかな?」
「えぇ。わたくしその中でも最弱ですのよ?絶望しまして?」
「いんや。興奮して漏らしそう♤」
「汚らしいことですわ......」
これより上が、怪異の神も含めてあと四人いるわけか......。
流石にベリーベリー鬼ヤバい!
これまでのムーンハニー頼りのやり方じゃ、もう限界じゃん!!
「勝ち目ないな......これ。」
「初めから勝ち目などありません。これだから人間は......」
「もしここで僕が逃げられなかったら......ね♡」
「無駄と言っているでしょうに。言語さえも理解できなく......」
そう言いかけた瞬間、超怪異は異形の膝を地面についた。
全身から体液が溢れ出し、それは地面へ触れると同時に燃え上がる。
だが、その膝が触れた箇所だけは逆だった。
そこだけが、体液とは正反対に大地を凍結させている。
「格下の異能なんて効かない。それがマダムの敗因さ♡」
「敗.....因?この程度すぐに回復を......」
「ゴホッ......焔律之第5章陽炎・幕の詩:芯炎」
「ぐっ!?.......ま、まさか!?」
異能共振によって編み上げられた焔律と氷律には、それぞれ十章のストーリーがある。
僕がイメージした炎と氷で描いた、神律の物語だ。
それは章ごと、詩ごとに異なる事象を引き起こす。
絶対に順番通りでなければ作用しない、なんてことはない。
けれど――
順番通りになぞり正確に刻みつけられれば、絶大なメリットがある。
「少しだろうけど動けないよ♡だって今、マダムの中身は炎だからね?」
「あ...ぁぁ......一体わたくしに何を!!」
「今のマダムは外皮が氷、内が炎なのさ。動くための筋肉も何もかも、全て炎に置き換わってる。」
「訳の分からぬことを......」
「それな~僕もよく分かんないんよ~。」
順にすべての章を当てれば、その章の幕之詩で対象に新たな”律”を刻むことができる。
当然、途中で逃げられればそれで終わりだ。
けれど、舐め腐って風景結界から逃げないおかげで助かった。
でも......普通なら五章まで届けば絶対に殺せるんだけどなぁ?
相手がクソ強い怪異だから、たぶん怪能ですぐに打ち消してくるんだろうな......
もし本当に倒すとなれば、十章まで順に通すか......
あるいは一発の禁章で削り切るか。まぁ、今の実力差じゃどっちにしろ不可能だけど。
――それでも、こいつは僕との相性が良すぎたね!
「あがっ......超怪異たる私がこんな、特異点でもない格下に!」
「普通に戦ったら惨敗だよ~♡舐めプしてなきゃ圧勝だったのにね♡」
「っ.....このわたくしを!!」
よし!!
奴の硬直が終わる前に、動ける程度には回復が間に合った!!
「ぐっdばっあ~い♡」
「待ちなさい!」
その場から逃亡しようとした――その時だった......
「......ッ!?」
とてつもない悪寒が、背筋をなぞった。
身の毛がよだつ、その感覚......明らかに格の違う気配がする。
気付けば僕は息を切らし、足を前に出すことさえ忘れていた。
「なん......だ?」
――馬の蹄の音が聞こえる......
――恐ろしく不気味な鳴き声と、冷え切った空気が流れ込んでくる。
――まだ姿すら見えていないのに、そこに絶対的な“死”の気配だけがあった。
「ヤバい.....これはやば......」
そう呟いている最中、僕は不可解な現象を目撃する。
「なっ!?」
――地面が、僕の方へ向かって起き上がってくるのだ。
「ゴハッ......」
違う......倒れたのは、僕の方だ。
思えば、もう体に力が入らない。
全身に、黒い杭のようなものが突き刺さっている......
姿を見ることはできない......けれど、感じる。
後ろにいる。
何か、とんでもない化け物が......
――別次元の怪異が背中側に存在している。
「なに......ものだ......」
【死の怪異にして四大超怪異が長、タナトスである。】
「死の......怪異だと......?」
【怪能・病毒】
「......!?」
刺さった杭から、何かウイルスのようなものが肉体へ侵入していくのが分かる。
毒物耐性まで付与される僕の異能を、易々と貫通してくる。
それは......もはや人類に抗う術などないと告げていた。
それでも......諦める気には到底なれず、僕は異能をフル稼働させる。
体内へ侵入する病毒へ必死に抵抗を試みた。
【愚かな......】
「タナトス様......いつから現界しておられたのですか?もし連絡を頂ければお迎えに......」
【よい。】
「......すぐにマキアとリモスにも伝達を。」
何を言っている......?
こんな化け物が、四体も集まって何をする気なんだ?
「なにを......するつもりだ......」
【全ては我らが神......その現界のために。】
その瞬間......
僕の意識は電源を強制的に落とされたように、唐突に立ち消えた。
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
でもここまで読んでくださりありがとうございます!
焔律の五章を当てたものの......”寒熱のレイ”は超怪異に惨敗を喫す。
しかしとっておきの隠し玉で何とか逃亡を試みた瞬間......
ラナを殺した”死の超怪異”異次元の力でレイを瞬殺し......
5月29日、18:10更新の次回......舞台は再びFCTへ?ムーノの守った光景とは。
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