((これで本当によかったのか・・・?))
「やいやい! お前か!? 俺の友達のマーティンをいじめた女は!?」
ーーーーー俺が、初めて「アリア・クランガル」に出会ったのは、十と二~三年前くらいの子供の頃
聖騎士団団長の父のもと、戦士として、いずれ団長の地位を受け継ぐために、王城で訓練に励んでいて、そのよしみでこの国の王子のマーティンと仲良くなって友達になって一緒に遊んだりしていたある日のこと。
まるで父にしごかれた後の俺みたいにズタボロの血塗れのマーティンが、召使いに看護されている姿を見て、驚いた。
話によれば、最近父親である国王から婚約者として紹介された女にやられた、というか、初めて会った日からほぼ毎日血が出るまで殴られているらしく、俺は親友の仇討ちのために、今日聖騎士団の詰め所に向かったという話を聞いて、向かった先の訓練所の中央に立っていたそれと思わしき女に怒鳴りつけた。
俺やマーティンより一つ年上のその女は、顔は同年代の女の子でもかなり美しく整っていたが、不機嫌そうにぶすっとした表情で、狂暴な野生動物のような殺意と、凶悪犯のような深い闇を湛えた目を見た俺は、その時は武者震いだと思った身体の震えを感じながら、アリアに対峙した。
「そうだが、それがどうした」
女の子とは思えないような低くドスの効いた声がアリアの口から発せられた。
俺は一騎打ちの前のように勇ましく名乗りを上げた。
「俺は、聖騎士団次期団長、そして、マーティン第一王子の一の家来、ランス!」
「ああ、あのクソ王子の腰巾着の一人か」
「女、お前は? 名を名乗れ!」
「クランガル侯爵家長女、アリア・クランガル。 で、何の用だ。 ガキらしく騎士サマごっこでもしにきたのか?」
「お前は、マーティン王子やその友達たちを一方的に殴りつけたそうだな! 何故だ!? この国の未来を、称え敬い仕えるべき相手を、婚約者のくせに何故反逆みたいなことをする!?」
「アイツとその取り巻きが、平民出身の小間使いのガキを寄って集って袋叩きにしていた。 だからあのクソ王子をぶん殴って、貴族のクソガキ共も全員殺した」
しれっと自身の殺人を話したアリアに、俺は一瞬困惑し動揺した。
周囲に転がる聖騎士団員の身体も、居眠りではなくアリアに討ち斃されたのではと、思ってしまった。
「え・・・殺っ・・・・・・い、いやでも、下に仕える者を叱って正すのは、上に立つ者の務めだろ? 無学なやつが無礼ならそれに怒るのは当たり前だろ?」
「必死に掃除していた所を、貴族のバカ息子どもに汚され、身分をわきまえて行儀よく頭を深く下げたヤツの頭を、棒で殴るのが当たり前だと?
本気でそう思っているなら、お前もアイツも、正真正銘人間のクズだな。 王様も難儀な・・・いや甘っちょろい野郎だな。 あんなゴミクズでも、権力つかってさっさとぶち殺しちまえば禍根も残らないのによぉ」
「おい、俺のことはいい、だが王子や国王様の悪口を言うなら、俺が相手になるぞ」
「なら、何度でも言ってやる。 アイツは暴君の器だ。 お父様や王様の命令があれば、今すぐにでも殺してやりたいね」