第三十一話 霊長類最強の男と牙をむく刺客達
◆シクソン領ハムレー(滞在二日目)・勇者大通り
「手始めに奴らが必死になって隠している『檻』を暴く」
大通りの真ん中で黒い鞄をまさぐりながら、アイズは事もなげに言った。
檻。それは魅了勇者ことクズミチ・ユウタが作り上げた差別と迫害の温床であると同時に、彼が是が非でも隠し通さなければならないハムレーの闇そのものである。
「しかしアイズ、『檻』の場所はお前でも探し当てられないほど巧妙に隠されているのだろう?」
「まぁな。この俺様の超絶調査力を以てしても、ソレがあるっつー事ぐれぇしか分からなかった案件だ。ヤベェのは間違いねぇ」
けどな、とアイズは楽しそうに言葉を続ける。
「裏を返せば『檻』の価値はそれだけデケェって事だ。見つけちまえばほぼ俺達の勝ちといっても良い。機密性は大したもんだが、見つかっちゃマズい事案を一か所にまとめちまう辺り脇が甘ぇ」
「だが見つけられなければ意味は無い」
「その点については俺に考えがある」
そう言ってざまぁプランナーは黒の鞄から、これまた真っ黒なメガフォンを取り出した。
「あのヤリ○ン勇者は魅了頼みのカス野郎だ。そんな低能が大量の女達を一か所に集めて隠蔽なんて小器用な真似出来るはずがねぇ。だから必ずいる筈なんだ。『檻』を作り、そして管理している統括者がなァ」
「その統括者を炙りだすと?」
「あぁ、こいつを使ってなァ」
取り出したメガホンを口に寄せながらアイズは歯列をギラつかせた。
すぅっと一度大きく息を吸い込み、そして溜めこんだ空気を一気に吐き出すような声量で
「死ねやクズミチ・ユウタァアアアアアアアアアアッ!」
思いっきり暴言を吐きだした。
「チート頼りのゴミカス野郎が何気取ってハーレムなんて作ってんだカスッ! 魅了とデカ○ンしか取り柄のないクズオブクズの寄生虫野郎がどの面下げて生きてやがんだボケッ! てめぇみてぇな底辺のウジ虫がいつまでもお天道様の光を浴びれると思うなよこのロイコクロリディウム! 女の脳みそいじって食う飯はそんなにうめぇかアァン?」
聞くに堪えない毒舌正論の悪罵が、花祭り中の勇者大通りに鳴り響く。
手に持った特殊メガホンお陰で、彼の雑言は何倍にも増幅されて道行く人々の耳に浸透していく。
「わざわざ花祭りの為にここを訪れた観光客の皆さんには大変申し訳ないんだけどよォ、この町って滅茶苦茶クソなんだわっ! 女は容姿だけで判断されて酷く歪な格社社会で生きてるし、男なんざ目の死んだ奴隷かクズミチユウタのイカレタフォロワ―しかいねぇ始末。ブスやババアに至っては人権なんて皆無だぜぇ? 良く見てくれ皆さんよォ、この町の女って綺麗どころしかいなくねぇかァっ? おかしいよなァ、不自然だよなァ、気持ち悪いよなァッ!」
ぎゃんぎゃんと喚くアイズの姿はとても奇異に映っただろう。
事実、多くの者は彼の渾身の叫びをイカれた狂人の戯言として受け取っおり、精々が主を馬鹿にされた事に眉をひそめる住民がいる程度である。
しかしその中に奇妙な視線を発する者達がいた。
聞き流すでも、激情に駆られるでもなく、注意深く拝聴した上で冷徹に観察するような人形じみた視線。
(……成程な)
その視線を肌で感じながら、アラガミはアイズの作戦の意図を理解する。
「あー、すっきりした。さて旦那、一体何匹の馬鹿が引っかかると思う?」
一仕事を終えて悠々と煙草を咥えるアイズの横顔は、確信と充足に充実感に満ちたものであったという。
◆シクソン領ハムレー・貧民街
「面白い場所があるんだ。旦那も一辺見ておくといい」
演説を終えたアイズに誘われてアラガミがやって来たのは、貧民街と呼ばれる寂れた区画であった。
「スラムと言やぁド底辺の貧乏人や破滅したゴミ共の掃き溜めっつーのが一般的なイメージだが、ここのはちょいとばかり事情が違う」
紫煙を燻らせながら、眼前に見える貧者達の巣窟について述べるアイズ。
今にも崩れそうな掘っ立て小屋の並ぶ荒涼とした風景に目を留めながら、アラガミはざまぁプランナーの言葉を静聴した。
「今のハムレーにおける貧しさってのは容姿を指す。魅了勇者がおっ勃たねぇと判断したら、そいつは価値なしと判断されてここ送りだ。洗脳のせいでまともな判断なんて到底不可能だからなァ、大した暴動も反発もなく大人しく乞食暮らしだ。ったく、お前はブスだから大貧民とかあっちの世界だったら暴動もんだぜ」
ケケケと笑うアイズの声が森閑とした貧民街に木霊する。
静かな貧民街に響く彼の声は、平時よりも一際大きく聞こえた。
「静かなのが気になるかい旦那」
「いや、大方見当はついている」
静かなのは音が聞こえないから。
音が聞こえないのは音を出す住民がいないから。
住民がいないのはきっと、彼女達が既に――――。
「『檻』の中、だろう」
「あぁ。何故だかは知らないが、連中この町の暗部を徹底的に隠し通そうとしてやがる。まるで知られたらまずい人物が今この町にやって来ているかのような徹底ぶりだ。……なあ、そこんとこどうなんだお前達?」
人のいないスラム街に向けて、いない筈の誰かを挑発するざまぁプランナー。
「尾けてんのはわかってんだよバァカ。檻は隠せても、てめぇらの無能っぷりまでは隠せねェよおだな。ハッ、あんな安い挑発に乗る程度の頭で良く生きて来れたなァ」
無人のスラム街を覆い尽くすようなアイズの哄笑。
そのまま彼は懐からある物を取り出した。
巨大なマズルに小柄な彼が持つには不相応なバレル。
全長は優に六十センチを越え、本来、その種の武器における全長の優に三倍を越えた怪物的威容。
彼の故郷である地球においてでさえ、人の持つべき領域ではないその化物じみたオーダーメイド品を、アイズ・ジャシーヴィルは異世界の空に向けて撃ち放つ。
「生憎だが隠れんぼの趣味はねぇ。出て子ねぇっつーんなら無理やりひん剥くだけだ」
轟く銃声と、身を吹き飛ばすような反動。
けれどアイズはそんな物理的障壁を当然の様に無視して空を撃つ。
小柄な彼が大砲の様な改造拳銃を連射できる矛盾。
どのような手品を使っているのかは分かり兼ねるが、それが断じて普通ではない事を他ならぬ地球出身のアラガミは良く理解していた。
誰もいない空に注がれる鋼鉄の楔。
傍から見ればまるで意味のない威嚇射撃に思えたソレが効力を発揮し始めたのは、六射目の出来事であった。
パリン、パリンと。
世界から何かが割れていく音が耳をつく。
「前に『透明になる勇者』を狩った時、光学迷彩系の魔法やスキルは大体調べ尽くしたからなぁ。大抵の物理透過はこんな感じで解明できる」
巨大な改造銃から放たれるマグナム弾。
規格外の大きさを持つその弾丸は狙い撃つ為の物ではなく、射出する事そのものに意味を見出したものだ。
抗光学迷彩異能用術式弾。呼んで字のごとく光学迷彩用の魔法や異能を打ち消す欺瞞殺しの魔弾が貫き穿つは『秘匿された真実』。
周囲の気配に紛れ込み、テクスチャーの認識を誤魔化し透明化していた彼女達の姿が露わになっていく様を見て、ざまぁプランナーはしてやったりとほくそ笑んだ。
「見てくれ旦那ァ。俺達の為にこれだけのメス共が集まってくれたぜェ」
寂れ古びたスラム街。
そこに立ち寄った彼らを取り囲むように陣取っていたのは武装した美少女達の大軍であった。




