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それほどチートではなかった勇者の異世界転生譚  作者: 西玉
悪魔族の娘

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96/195

96 あの国に戻れば、俺は死刑囚だ

身内の不幸があり、更新が遅れました。

ペースは落ちるかもしれませんが、書き溜めた分がありますので、当面続けます。

よろしくお願いします。

 海岸の岩場にできた、海に侵食された洞窟の中で、俺は火を熾し、焚き火で捕まえた魚を焼いた。

 魚から脂が滴り、炙られていい匂いをあげる。

 この世界には月があり、潮の満ち引きがある。満潮時には海に沈む洞窟だが、現在は潮の香りに満ちた、快適な洞穴だ。

 潮の香りを嗅ぐと、どうしてもピノを思い出す。


「いい匂いだニャ」

「もう、食べられそうね」


 すでに半年もの付き合いになったネコのララとカマキリのアリスが、俺のそばにいた。

 やはり、元の世界からゲームを通じて転生したものたちでなければ、パーティーは組めないらしい。俺とララとアリスの3人でパーティーを組み、ずっと俺がピノと一緒にいたため、魔物と戦うことなどはなかったが、それでも比較的大型の獣を狩っていたお陰か、ララとアリスはそれなりにレベルアップしていた。


 現在、アリスは僧侶8レベルであり、ララは途中で転職し、シーフ4レベルとなっていた。

 ララは、俺と組む前は僧侶5レベルだったらしい。アリス同様、小動物しか狩ることができず、経験値が溜まらなかったそうだ。

 ララがシーフになったのは、俺が唯一納めていない職業だったからであり、アリスが僧侶で居続けたのは、アリスの種族的な寿命による。


 カマキリのアリスが、この世界ですでに2年以上生きていることを考えれば、いつ体の限界が来て、死を迎えることになっても不思議はない。アリスは、僧侶の魔法で自分の命を伸ばせるかもしれないと考えていたのだ。


「ネコ舌じゃないんだな」


 俺は、火にかけていた魚をとって、ララの前に置いた。中身がどれほどの知識人であれ、ネコの食事の仕方は同じだ。食事姿、という意味では、両腕を駆使して食事を切り分けるアリスの方が人間に近い。


「ネコが熱いものが食べられないというのは、誤解だニャ」

「そうなのか?」

「知らないわ」

「ネコは警戒心が強いから、自分の体温より高いものは食べないニャ。舌の性能の問題じゃないニャ」

「本当なの?」

「そう聞いたニャ」


 アリスが問いただすと、ララは魚の皮を爪で器用に向きながら答えた。


「誰からだ? 他のネコか?」

「僕は、他のネコの言うことはわからないニャ。ネコには言葉がないから、複雑な内容は話せないニャ」

「……そうか」


 本来言葉を持たないゴブリンやコボルトと会話をしていた俺は、なんなのだろう。もっとも、ネコとは話したことはない。


「じゃあ、生前の知識?」

「まだ死んでいないニャけど……そういうことニャ。テレビで見たニャ」

「……懐かしいわね。あたしたち……死んだら、戻れるのかしら?」

「この世界と同じ時間が流れているなら、元の世界の肉体は、死んでいるかもしれないな」


 俺は言ってから、後悔した。アリスの顔は、小さな逆三角形だ。表情を作れるほど、顔は発達していない。だが、大きく目を開いて俺を睨む、アリスの姿を見たような気がした。


「……酷いことを言うのね。あたしがそれを、考えていないはずがないのに……あたし……そんなに長く生きられないのに……」

「病気かニャ」

「寿命だよ。昆虫の……俺は、ピノを救えなかった。ピノ自身が諦めていたこともあるが……アリスの体は、そもそもアリス自身のものじゃない。別の器に移すことができるかもしれない……それを探しにいこうか? アリスにどれだけ時間が残っているのかわからないが」


 アリスは手にしていた魚の肉を取り落とした。


「それ……いいわね。カロンのために、十分協力したものね。今度は、あたしの役に立ってくれるのね。あたし……せめて哺乳類の体がいいわ」

「でも……カロンには目的があるはずだニャ。それはいいのかニャ?」

「俺の目的……か……」


 俺は、アイテムボックスから土壁を取り出した。丁寧に、怖気を感じるほどの執念をもって描かれた、女の子の肖像画だ。


「……カロン少年の思い人だが、俺は会ったこともない」

「そうなの?」

「違うニャ」


 アリスとララで反応が別れた。ララの反応がわからない。


「違う?」

「カロンの目的は、魔王を倒して世界を平和にすることニャ? 違うのかニャ?」

「ああ……そんなこと言っていた奴がいたな。どこかのエルフにそう言われた気がする。だけど……ララやアリスを見れば、俺たちが、たまたまこの世界に来てしまったのだとはっきりしただろう……魔王がいようがいまいが、この世界の問題だ。異世界人である俺たちが、魔王を倒す理由があるのかな」

「ある、と言ったら、どうします?」


 洞窟の外には海が広がっている。その方向から、突然声が聞こえたので俺は首を向けた。

 見知った顔、時々見ては、しばらく見なくなる顔があった。

 顔の横に生えた耳が、高く天を指している。他種族の顔は見分けにくいらしいが、この男のことは、いつでも見分けられそうな気がした。


「ロマリーニ、盗み聞きか?」

「独り言の邪魔をしましたかね? 自問自答しているより、話し相手がいたほうがいいでしょう?」


 ララの言葉はネコの言葉で、アリスにいたってはどうして話しているのか、全くわからない。他人には、俺がひとりで話しているように見えるのだ。ピノがいた時は、ピノも口を利けないはずだったが、俺がピノを励ますために声をかけていると思われたこともある。現在はそうもいかない。俺は、きっと異常者に見られているのだろう。


「独り言? あたしたちのこと、わかっていないのね」

「この世界の、エルフって奴かニャ?」


 二人はエルフを初めて見たようだ。アリスは人間の街で隠れるように生きていたし、ララにいたっては海賊船から出たこともなかったはずだ。見たことがなくても仕方がない。


「俺たち以外には、聞こえないようだ」

「それとも、誰かと話していましたか?」


 ララとアリスの存在にも気づかない様子で、ロマリーニが近づいて来た。


「俺は、再び衛兵から追われるようなった。もう、俺は勇者失格……魔王を倒す使命を帯びたのは、俺じゃなかった。そうだよな?」

「エルフの森が、聖なる森の国が……焼き討ちされました。どうやら、魔王の逆鱗に触れたようです。思いの外、時間がないかもしれません。それに……想像以上に、勇者の候補は見つかっていません。カロンさん……あなたの必要性は、非常に高まっているのです」


 ロマリーリは、普段から生真面目ではあったが、さらに真剣な口調で話しかけて来た。俺は少し悩む。


「……魔王には勝てない。俺の力は、ホライ・ゾンに引き上げられていても、ホライ・ゾン自身に敵わなかった。なんとか倒したといっても……その力も、すでに失った。強化された状態で、ホライ・ゾンに食い下がることしかできなかったんだ……今の状態で魔王と戦っても、殺されるだけだ」

「カロンさんが言っていた、『もっと強くなる』必要があるのですね」

「ああ……そうだ。それには時間が足りないのなら、他を当たってくれ」


「エルフ王直属の配下から、すぐに戦士を連れてくるように、世界中に散っている同胞にお達しがありました。協力してください。カロンさんだけに戦わせるわけではありません」

「……俺が要求したことは?」


 俺は、魔王討伐をする代わりに、ファニーを見つけてくれとエルフに要求していた。今思えば、代償としては軽すぎる。ファニーを見つけて、さらって来て結婚させてくれと要求してもよかったのだろう。


「この国は、カロンさんが剣闘士をやっていた国とは離れています。国に戻れば、情報は他の同族から得られるはずです」

「あの国に戻れば、俺は死刑囚だ」


「国に戻らなくてもいいはずです。エルフの森は隣接しています。カロンさんがエルフの森に向かってくだされば、私はあの国で情報もらってきます。ファニーさんのことは、エルフ王の承諾を得ています。私がいなくても、捜索しているはずです」

「……そうか。だが、俺にも仲間ができた……」

「戦力の増強はありがたいことです。戦士通しのつながりというものでしょうか」


 エルフは喜んだが、それが誰なのか、理解していなかった。


「パーティーメンバーのアリスとララだ」

「どこにいるのです?」


 俺がララのお尻を押したのにもかかわらず、ロマリーニはとぼけたことを言った。とぼけているつもりはないのだろうが。


「こっちがララで、こっちがアリスだ」

「正気ですか?」


 俺がカマキリを摘み上げたところで、ロマリーニは頓狂な声をあげる。


「ああ。俺は今……アリスと約束したんだ。目的ができた。エルフの森には行けない」

「待ってください。カマキリと約束? 人魚族と交わって、半年を無駄にしたのですよ。あれは……七魔将の1人を確実に殺すためだと考えれば、無駄ではないでしょう。しかし……これ以上の時間はかけられない。エルフの森は滅びようとしているのです。そうなれば、魔王の天下だ」

「魔王が善政を敷くかもしれない」


「魔王が善政を敷いたとしても、それは配下の魔物にとっての善政です。人間がまともに生活できる世界にはなりません」

「エルフの森がなくなっても、生き残ったエルフたちは世界に警鐘を鳴らすだろう」

「それは……当然です……」


「そこからが、本当の勝負かもしれない。世界中に魔王の脅威が伝われば、その中から本物の勇者が出てくるはずだ」

「エルフの森に、滅べというのですか?」

「俺が滅ぼすわけじゃない。ただ……魔王を倒すための布石なんじゃないか?」

「誰の布石なんですか。誰かが、ゲームでもしているのですか?」


 エルフの真面目な顔に、俺はこの世界をゲーム感覚で見ていたことを思い出した。結局、魔王は誰かが倒す。ただそのルートを辿る必要がある。そんな感覚でいた。魔王を誰も倒せず、この世界が魔王に支配される可能性は、考慮しなかった。この世界は、ゲームではない。あり得るのだ。


「……悪かった。確かに……被害を減らす努力はするべきだ」

「ええ。もちろんです。わかってくれましたか」

「だが……俺の仲間の命もかかっている。このアリスは、カマキリの体に魂を閉じ込められ、2年以上が経過している。早く別の体に魂を移さないと、死んでしまう」


「……カマキリに? 何を言っているのです?」

「本当のことだ。俺は、自問していたんじゃない。このカマキリとネコと話していた」

「そんことが? ……いえ……ゴブリンと会話し、意思疎通をしていたカロンさんなら……でも……まさか……」

「アリスを助けるのが優先だ。エルフの森のことは気の毒だと思うが、アリスは、俺と同じ力を持つ仲間だ」

「……たぶん、同じじゃないけどね。あたし、勇者にはなれないもの」


 アリスのつぶやきは、当然エルフには聞こえない。


「……わかりました。しかし、魂の入れ替えは……禁呪です」

「俺を止めようとしても無駄だ……魂を入れ替える方法があるのか?」

「私なら……ご案内できます。禁呪を使用する資格を持つ数少ない人物が、エルフの森にいますので」

「……本当だろうな?」


 ロマリーニは真面目に頷き、俺とアリスとララは、旅の目的を決定した。


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