表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それほどチートではなかった勇者の異世界転生譚  作者: 西玉
海底の王国と人魚の姫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/195

87 恩を感じるより、恨みを抱くほうが先だと思いますよ

 俺は放置された。すでに死んでいるか、どうせすぐに死ぬと思われたのだろう。

 死体を片付けようともしない。野犬にでも食わせるのだろう。高い塔から落ちたこの場所は、すでに城の敷地からははみ出した場所だ。


 ピノは無事だろうか。俺からピノを奪い、連れていったのは城の衛兵だ。ピノだと認識して連れていったのだろうから、下手に手出しはするはずがない。

 俺は死にかけている。だが、死にはしないだろう。全身の骨と内臓が駄目になっているが、生きているかぎり回復できるのが俺の仕様だ。


 すでにオウキュウテアテは施してある。回復魔法メディカを使用した。

 すぐに内臓が修復され、骨が綺麗につながる。

 実に不思議だ。

 もう一度メディカを使用する。ほぼ完治した。


 この様子を誰かが見ていたら、俺のことを不死身の化け物だと思っても不思議ではない。

 俺は周囲に誰もいないことを確認してから、体を起こした。

 城に向かって移動する。

 ピノを奪い返さなくてはならない。それに、俺とピノが死ぬことを見越して塔から突き落としたチェルシーとも、話をする必要があるだろう。


 今回のことで予定が延期されなければ、ピノは明後日には王子と結婚式を挙げる。

 それを邪魔するのにはまだ葛藤があるが、黙って見過ごすつもりもなかった。ピノは、俺にもらわれるために追って来たのだ。俺が生きている以上、ピノのことを諦めてはいけないと感じていた。






 俺は死んだことになっているはずだ。王宮に潜り込むようなスキルもない。俺は、一旦城から離れて、城下町に向かった。

 結婚式を止めることはできないだろう。だが、その後に国民にお披露目がされるはずだ。王子の結婚式であれば、盛大に行われるだろう。その後、パレードがあるかもしれない。


 この世界の王族の結婚式というものを知らず、俺はだいたいのイメージで考えた。

 城に戻り、見つかってピノ以外の人間を虐殺してまわるより、国民にお披露目される瞬間に襲撃をかけたほうが、余計な犠牲は少なくて済むだろう。

 俺は城から離れ、街に潜伏した。街では、俺の顔を知っている人間はいない。俺は、この国に来てからずっと城に仕えていた。だから、この国の常識は何もない。


 だが、人間の街があり、人々が生活している。文明水準が極端に違うわけでもなく、どこに行っても大きくは違わないだろう。といっても、この世界に来てから随分たつが、未だに普通に街中を散策する機会には恵まれない。

 だが、自動翻訳機能がまだ有効なおかげで、言葉は普通に通じる。


 金はほぼなかったので、武器屋を見つけて、剣闘士時代に騎士達から巻き上げた鉄の剣を数本買い取ってもらった。

 アイテムボックス内は保存がきくらしく、錆びてもいなかった。

 一本銀貨一枚と買い叩かれたが、剣は拾い物だし、あまり大金が必要なわけではない俺は、鉄の剣を五本買い取ってもらい、銀貨5枚を手に入れた。


 一泊銅貨10枚の宿に泊まり、俺は実に久しぶりに、なんら緊張することなくベッドに横になった。

 実際、一泊銅貨10枚という価値が高いのか低いのか、それすらわからない。俺は、この世界で買い物をしたことがほとんどないのだ。通貨の価値も、元の世界の換算でどれほどのレートになるのかもわからない。俺がこの世界で最初に手にしたのは、青銅貨だった。銅貨とどっちが上なのだろう。

 考えながら、俺は静かに眠りに落ちた。

 記憶にないほどの、安らかな眠りだった。






 目覚めると、俺はざわめきを耳にした。宿屋の薄い壁の向こうから聞こえてくる。ざわめきがあって起きたのか、起きた時にたまたま外で誰かが騒いでいたのかはわからない。

 どれぐらい寝たのかもわからない。外は明るかった。

 宿の部屋から通路に出ても、誰もいない。だが、ざわめきだけが大きく聞こえる。

 人の姿を求めて、俺は移動した。宿を出たところで、ざわめきの正体を知った。

 外に、人垣ができていたのだ。


 人間が壁を作り、同じ方向を見ている。手で庇を作っている者や、手を振っている者がいる。

 何が起きているのか、すぐにわかった。

 白馬に牽かせた、白い馬車がいた。儀仗兵に囲まれている。ゆっくりとした行進だ。パレードだろう。

 馬車に天井はなく、豪華な装丁の荷台に立ち上がっている男がいた。俺は知っていた。遠目だが、間違えはしない。奴隷を酷使していた、この国の王子だ。


 全身が白い衣に包まれている。まるで、結婚式のタキシードだ。いや、結婚式なのか。

 俺は、堂々と馬車の上で民衆の喝采を浴びる王子の隣に、真っ青な顔で震えている、青いドレスのピノを見つけた。

 花嫁、なのだろう。顔色は悪く、まっすぐに立ってすらいない。


 それでも、綺麗な青いドレスを来て、髪にティアラを刺している。小刻みに震えているのが、はるかに遠くにいる俺にもわかる。

 王子の影に隠れていた。人前に出るのが嫌なようだ。それでも、逃げることができないようだ。


 ピノは、俺を追いかけて地上に来た。だが、俺と一緒にいるより、王子と結ばれたほうが幸せになれる。そう考えた時期もあった。だが、それは間違いだったと今ではわかる。あれだけ嫌がっているのだ。王子に慣れて、幸せを感じる前に、ストレスで死んでしまうかもしれない。

 俺は、すぐにピノの元に駆け寄りたかった。だが、王子とピノの乗る馬車までは30メートルもの距離があり、さらに人がすし詰め状態で立ち並んでいる。


 儀仗兵は、それが本職であることはほとんどないだろう。近衛兵の中から選ばれているはずだ。執事見習いだった俺の顔を覚えている者がいるかもしれないし、犯罪者にされてから、顔が知られている可能性もある。


 俺は宿に戻ってベッドのシーツを剥ぎ取ると、頭からかぶって群衆に紛れた。

 見つからないように、小さくなって移動する。

 人混みをかきわけようとしたが、どうにもうまくいかない。目立つことはできない。ピノを奪い返すために、たとえ兵士であっても傷つけたくはない。


 俺がいた場所の前を、馬車が通り過ぎる。

 もっとも近づいた場所でも、5メートルの距離だ。

「コンシン」

 久しぶりに、俺はスキルを発動させた。足に力を込め、跳躍する。

 ホライ・ゾンの血は、魔法だけでなくスキルにも働いていたらしく、俺の体は想像以上に跳ね上がった。


 王子の頭上を越えつつあったところで、足が王子の王冠に引っかかった。

 俺はもんどりうって転がり落ちる。

 王子が仰天して尻餅をついた。

 立ちあがったのは、俺が先だった。


『カロン!』


 ピノが抱きついて来た。俺の首に細い腕を回し、顔を押し付けて来た。さっきまでの青い顔が嘘のように、満面に笑みをたたえていた。


「ピノ、待たせた。何もされなかったか?」

『……うん』


 少しの間があった。俺は不安に感じたが、いまはいい。それより、王子の怒声で周囲の儀仗兵が俺に槍を向けている。ピノを抱いているので、手が出せないのだ。代わりに、すでに俺の背は痛い。たぶん、槍で貫かれている。


「こ、殺せ。逃すな。この……恩知らずが!」


 俺は、王子に助けられたこともある。この国に来た時がそうだ。だが、それから、恩を受けた覚えはない。


「あなたが、俺に罪を着せて殺そうとし、ピノを無理やり花嫁にしたんです。恩を感じるより、恨みを抱くほうが先だと思いますよ。ピノ……つかまれ」

『うん』

「逃げられると思うな。それは、余の花嫁だ。もはや、誰にも手が出せん」


 王子は宣言した。俺は、王子の自信に満ちた言葉に不安を抱きながらも、馬車を蹴りつけてさらに飛んだ。

 赤い筋が宙に描かれたが、どうやら、俺の背中から大量の血が流れ出ていたらしい。兵士に槍で突かれたのだ。スキルの仕様というのも、怪我に気付かない問題があるようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ